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選ばれし名、選びゆく道  作者: 孔雀丸


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14/16

第14話 鬼への誘い

お読みいただき、ありがとうございます。

作者の孔雀丸です。


第七章も、いよいよ後半戦に入りました。


ここまでの流れを、簡単に振り返ります。


平永寺は陥落しました。

冥嶽十一尊が復活し、覇竜十傑と五天王は強化されました。

一方の寿満寺では、慎悟たちが「十二個の珠」と、四百年以上前から残る古文書に辿り着いています。


つまり、敵も味方も「過去」に追いつかれ始めた章です。


そして今回の第14話。


舞台は、占領された平永寺へ戻ります。

中心に立つのは、美里と覇竜十傑の十人です。


最初にお伝えしておくと、今回は戦闘がありません。

派手な必殺技も、刀も、爆発も出てきません。


あるのは、法堂での「許可」と、

十人がそれぞれ街へ散っていく、その午後だけです。


ただ、正直に申し上げます。

個人的には、第七章の中でもかなり怖い回になったと思っています。


読みどころは、一つだけ。


十人の鬼が、それぞれ違う言葉で、それぞれ違う誰かに声をかけます。

そのやり方を、ぜひ一人ずつ見比べてみてください。


「この人は優しそうだな」

「この人は意外と筋を通すな」

「この人だけは、何かが違うぞ」


そう感じていただけたら、狙い通りです。


それでは、第14話「鬼への誘い」をどうぞ。


蝉の声が降る平永寺へ、ご案内いたします。

 平永寺(へいえいじ)は、もう寺ではなかった。

 山門をくぐっても、雲水(うんすい)の読経は聞こえない。 箒の音も、参拝客の足音もない。 かわりに、鱗を持つ影が石畳の上を行き交っている。

 堂宇そのものは残っていた。 屋根瓦も、太い柱も、本堂に安置された仏像も、壊されずにそこにある。 ただ、そこに宿っていたはずの「祈りの空気」だけが、丁寧に抜き取られていた。

 蝉の声だけは変わらない。 遠くの木立から、規則正しい絶叫のような声が降ってくる。 時折、鬼僧たちの錫杖が石畳を打つ音が、その蝉の声に混じる。

 風が吹くたび、境内の木々が揺れる。 その揺れ方さえ、どこか呼吸のように不自然だった。

 法堂。 本来は仏法を説くための場所。 その中央に、金津美里(かなづみり)が座っている。

 人間の姿。 白い肌に、黒髪。 背後には、鞘に収められた国影(くにかげ)の太刀と脇差が、静かに立てかけられている。 周囲には冥嶽(めいがく)十一尊(じゅういっそん)の僧侶たちの気配もあるが、今日、彼らは主役ではない。

 美里は、待っていた。

 やがて、覇竜十傑(はりゅうじゅっけつ)が一人、また一人と法堂へ集まってくる。

 烈王(れつおう)。 霧香(むこう)。 牙蓮(がれん)。 魔盾牙(まじゅんが)。 滄爪(そうそう)。 棘王(きょくおう)。 咬覇(こうは)。 牛竜(ぎゅうりゅう)。 角羅(かくら)。 凍珠(とうじゅ)。

 十人。 すべてが揃ったのは、これが初めてだった。

 寺だった場所に、寺ではない者たちが十人。 それだけで、この光景がすでに一つの答えになっている。

 ――怪物は、ここに巣を作った。 そして今日、その巣から、新しい何かが始まろうとしている。

 ◇

 十人の立ち位置は、それぞれの性格をそのまま映していた。

 烈王は、壁際でも中央でもない位置に立つ。 命令が下れば、誰よりも早く動ける角度。 処刑人が斧を持つ手前の、あの静けさに似ている。

 霧香は、膝の上にタロットカードを一枚だけ乗せている。 今日の招集を、すでに知っていたような顔をしている。

 魔盾牙は、美里の斜め後ろ。 自然に、美里を守れる位置へ入っている。 命令を待つ部下というより、美里を「自分の主」だと定めた者の立ち方だった。

 滄爪は壁に寄りかかり、水筒の水を飲んでいる。 棘王は腕を組み、無言。 凍珠は、わずかに視線を落としたまま、誰とも目を合わせない。

 一方で、空気を軽くしているのは牙蓮だった。

「今度は何やるの?」

 咬覇も同じ温度で笑う。

「また潰すのか、どこかを」

 牛竜が肩を回しながら、

「次はどこだ」

 角羅は無邪気に、

「新しいお仕事? 由加里(ゆかり)にもある?」

 温度の違う十人が、同じ部屋に集められている。 それだけで、この十人が単なる「戦力」ではないことが伝わってくる。

 ◇

 美里は、すぐには話さなかった。

 十人の顔を、順番に見る。 ゆっくりと。

 蝉の声。 法堂の静寂。 ――また誰かを襲えという命令か。 そう思わせるだけの間を置いてから、美里は口を開いた。

「これからは、あなたたちにも許可します」

 一拍。

「人間を、鬼へ勧誘することを」

 沈黙が落ちる。 最初に破ったのは、牙蓮だった。

「マジで?」

 嬉しそうに、身を乗り出す。

「じゃあさ、面白そうなの見つけたら、連れてきていいってこと?」

 角羅も目を輝かせる。

「由加里も? 由加里もお友達、連れてきていいの?」

 牛竜が低く笑う。

「やっと、人選まで任されるってわけか」

 咬覇が肩をすくめる。

「弱えまま腐ってる奴なら、街にいくらでもいるだろ」

 これまで彼らに与えられていたのは、戦う権限だけだった。 今日、初めて与えられたのは――誰かの人生を選び直す権限。

 戦闘とはまったく違う種類の力が、法堂の空気を変えていく。

 ◇

 美里の視線が、角羅の上で止まる。

「由加里も、最初は烈王が見つけた」

 角羅が、隣に立つ烈王を見る。 烈王は何も言わない。 表情も動かさない。

 由加里は、学校にも家庭にも居場所を失っていたところを、烈王に見つけられた。 そのまま美里のもとへ連れてこられた。 それが、始まりだった。

 次に、美里の視線は凍珠へ移る。

「優(ゆう)もそう」

 凍珠の瞳が、わずかに動いた。

 優へ最初に声をかけたのは、牙蓮だった。 家路を避け、福江駅周辺を一人でさまよっていた優。 その背中を見つけたのは、牙蓮だ。

 牙蓮が話しかけ、金津邸(かなづてい)まで連れていった。 そこから先、優自身の口で「もう家へ帰りたくない」と言わせたのは、美里だった。

 過去の詳細は、今ここで長く語られない。 必要なのは、事実だけだった。

「今までは、私が見つけることが多かった」

 美里の声は、淡々としている。

「でも人数が増えれば、私一人で探す必要はない」

 そこで、初めて微笑む。

「あなたたちなら分かるでしょう?」

 一呼吸。

「どんな人間が――こちら側へ来るのか」

 ◇

 美里は、十人を一人ずつ見ていく。

「学校へ馴染めない子。家へ帰りたくない子。努力しても選ばれなかった子。誰かを憎んでいる子。自分には価値がないと思っている子。誰にも理解されないと思っている子」

 言葉の一つひとつが、彼らの過去へ重なっていく。 長い説明はいらない。 教室の隅。 閉じたドアの向こう。 部活のベンチ。 負けた試合。 嘲る声。 誰にも届かなかった沈黙。 そういう断片が、十人それぞれの内側で、一瞬だけ蘇る。

 美里は、それを見て言う。

「そういう人間の顔は、あなたたちなら分かる」

 そして、静かに続けた。

「だって――昔のあなたたちと同じだから」

 その瞬間だけ、牙蓮の軽い笑みも、咬覇の余裕も、止まった。

 美里は、彼らを理解している。 本当に。 だからこそ、その傷を、組織を広げるための入口として使っている。

 理解と利用は、美里の中では同じことだった。

 ◇

「ただし」

 美里の声が、また空気を変える。

「誘うことは許す。でも、鬼へ変えるのは私よ」

 牙蓮が眉を上げる。

「え? あたしたちじゃダメなの?」

「ダメ」

 即答だった。

「あなたたちは候補を見つける。話をする。こちらへ連れてくる。それだけ」

 美里は、指を一本立てる。

「でも、最後に鬼へ変えるかどうかを決めるのは――私」

 滄爪が水筒の蓋を閉める。 乾いた音が、法堂に小さく響く。

「つまり、人事権は女王陛下がお持ちになる、と」

「当然でしょう」

「合理的です」

 滄爪の声には、皮肉も反発もなかった。 ただ、正しく理解した者の声だった。

 見つけること。 話すこと。 連れてくること。 ここまでは、十人に渡された。

 だが、誰を鬼として認めるか。 誰へ力を与えるか。 誰を組織へ迎え入れるか。

 その一点だけは、美里の手の中に残されている。

「第三の進路」という道を語る権利は、十人へ配られた。 しかし、その道の入口の鍵は、美里だけが持ち続けている。

 ◇

 午後。

 覇竜十傑は人間の姿へ戻り、平永寺を出た。 全員が一緒には動かない。 それぞれが、異なる方角へ散っていく。

 学校周辺。 駅前。 ゲームセンター。 公園。 河川敷。 繁華街。 運動施設。 住宅地。

 自分自身の過去に似た人間を見つけやすい場所へ、十人がそれぞれ向かう。

 ◇

 繁華街の裏、階段の隅。 制服姿の少女が一人、座り込んでいた。 学校鞄はある。 だが、帰ろうとする気配がない。

 牙蓮が、隣へ腰を下ろす。

「ねえ」

 少女が身を固くする。

「帰らないの?」

「……関係ないでしょ」

 牙蓮は笑って、缶ジュースを差し出す。

「別に先生じゃないし。説教なんかしないって」

 名前は聞かない。 学校名も、住所も聞かない。 ただ、他愛のない話をする。

 しばらくして、牙蓮がぽつりと言う。

「行きたくないなら、行かなきゃいいじゃん」

 善悪の話ではなかった。 ただ、「嫌なら、やらなくていい」という自由を、差し出しただけだった。

 牙蓮自身が、自由を求めて鬼になった人間だ。 だからこそ、その言葉には実感があった。 悪意など、どこにもない。

 悪意のない声だけが、少女の帰り道を静かに塞いでいく。

 ◇

 公園のベンチで、中学生くらいの少女が泣いていた。 成績。 友達。 先生。 親。 何を話しても、角羅は否定しなかった。

「分かるよ。うん。それ、嫌だったよね」

 角羅の共感は、演技ではなかった。

「由加里もね、笑われてたんだよ」

 本当に、分かっている。 だからこそ、危険だった。

 しばらく黙って隣に座ったあと、角羅は言う。

「だったらさ」

 少女が顔を上げる。

「笑われる側、やめちゃえば?」

 それだけだった。 けれど、それだけで十分だった。

 ◇

 運動施設の裏。 上級生に小突かれ、財布を奪われた少年が、拳を握ったまま動けずにいる。 相手が去ったあと、牛竜が近づく。

「ムカつくだろ」

 少年は黙っている。

「でも、お前じゃ勝てねえ」

 牛竜は、そこにあった重い鉄製の設備を、片手で軽々と持ち上げてみせる。 人間の姿のまま。 鬼の力は、露骨には見せない。

「弱えから、舐められる」

 そして、鉄の設備を下ろしながら、

「だったら、強くなりゃいい」

 非常に単純な理屈。 だが、劣等感を抱えたままの少年には、それがすべてに見えた。

 牛竜にとって、実力とは価値そのものだった。 強さこそが、選ばれる資格だった。 その価値観が、そのまま勧誘の言葉になっていた。

 ◇

 不良少年の一人へ、咬覇が近づく。 少年には、殴りたい相手がいた。 咬覇は止めない。

「許せとか言われたか? 忘れろ、とか?」

 少年が頷く。

 咬覇は鼻で笑った。

「そんなもん、勝った奴が言う台詞だ。負けたまま忘れられるわけねえだろ」

 咬覇自身、敗北を受け入れられなかった人間だった。 だから、その言葉には嘘がなかった。

「一回負けたなら、次は噛み砕けばいい」

 怒りを消せとは言わない。 むしろ、育てろと言う。

 ◇

 一人の少女の向かいに、霧香が座る。 説得ではなかった。 未来を語るだけだった。

「このままなら、あなたは学校へ戻る。また同じ教室へ入る。同じ人間に会う。卒業しても、別の場所で同じことを繰り返す」

 少女が顔を上げる。

 霧香は、タロットカードを一枚、静かに置く。

「でも、違う未来もある。鬼になればあなたを評価する人間だけでなく、選ぶ人間もいなくなる」

 一拍置いて、

「今度は――あなたが選べる」

 霧香は、感情で押さない。 未来そのものを、商品のように並べただけだった。

 ◇

 学校にも家庭にも居場所のない少年に、烈王が声をかける。 事情を聞く。 鬼について、最低限だけ説明する。

 少年は俯いたまま、

「……怖い」

 烈王は、それだけ聞くと立ち上がった。

「なら、来なくていい」

 少年の肩が、跳ねる。 顔を上げる。

 烈王は振り返らない。

「覚悟がないなら、来るな」

 強制しない。 説得もしない。 だが、それは優しさではなかった。

 烈王にとって鬼化とは、逃避ではない。 人間だった自分を切り捨てる、決断そのものだった。 中途半端な覚悟の者には、来てほしくない。 それが、烈王という鬼の思想だった。

 ◇

 誰にも理解されなかった、という少年に、魔盾牙が近づく。 話を遮らない。 否定しない。 解決策を急いで出さない。 ただ、聞く。

「分かってもらおうとしなくていい」

 少年が、力なく言う。

「でも、一人になる」

 魔盾牙は首を横に振った。

「一人にはならない。こちらには、同じように捨てられた者がいる」

 自分自身の孤独と、目の前の少年を重ねる。 少年から見れば、初めて自分の苦しみを否定しなかった人間だった。

 ◇

 住宅街の一角。 制服姿のまま、家へ帰ろうとしない子を、凍珠が見つける。

 スマートフォンの着信を見るだけで、体が震える。 家族からのメッセージを、開かずに消す。

 その仕草を、凍珠は見逃さなかった。 かつての自分がそうだったから。

「帰りたい?」

 少女が首を振る。

「じゃあ、帰らなくていい場所があったら?」

 それ以上は言わなかった。 かつて牙蓮からされたように、「別の場所がある」とだけ示す。

 その声には、まだ完全には死んでいない何かが、わずかに混じっていた。

 ◇

 学校を辞めた少年の前に、棘王が立つ。

「お前、暇だろ。来い」

「……どこへ?」

「必要とされる場所だ」

 少年が逃げようとすると、棘王が先回りする。 殴らない。 ただ、体格と無表情だけで圧をかける。

「必要とされたいだろ」

 一言だけ。 それだけで十分だった。

 ◇

 そして、最後の一人。

 滄爪は、一人の少年の前に座っていた。 最初から「鬼」という言葉は使わない。

「学校へ戻る?」

「戻りたくない」

「では、家へ帰る?」

「嫌だ」

「親戚は?」

「無理」

「先生へ相談する?」

「信用できない」

「警察は?」

「大げさにしたくない」

 滄爪は、一度も「戻るな」とは言わない。 「帰るな」とも言わない。 「信用するな」とも言わない。

 すべて、少年自身の口で否定させている。

 滄爪は、ただ選択肢を並べているだけに見える。 だが実際には、少年の口から「できない」「嫌だ」「無理」という言葉を、一つずつ引き出しているだけだった。

 しばらく、沈黙が続く。

「では、このまま?」

 少年が黙り込む。

「戻れない。逃げられない。相談もできない」

 一つずつ、滄爪が確認するように並べる。

「それでも――人間として、生き続ける?」

 少年の顔が、初めて歪んだ。

 そこで、滄爪は静かに言う。

「もう一つだけ、方法がある」

「……何?」

「人間をやめる」

 少年が、息を呑んだ。

 だが滄爪は、すぐには説明しない。

「嫌ならやめればいい。僕は強制しない」

 その言葉は、表面上、もっとも良心的に聞こえる。 だが実際には、少年が人間として生きるための選択肢を、自分自身の口ですべて否定した直後だった。 だからこそ、「人間をやめる」という一つの道だけが、唯一の出口に見えてしまう。

「……それって」

 滄爪は、初めて説明する。 鬼のこと。 力のこと。 人間社会から外れるということ。 美里のこと。 第三の進路のこと。

 誇張はしない。 勧めすぎもしない。

「決めるのは、君だ」

 少年は、長く黙っていた。

 そして、少年自身の口から、こう言った。

「……鬼になるには、どうすればいい?」

 そこで初めて、滄爪の口元が薄く動く。

「それを、聞きたかった」

 滄爪は、少年を脅していない。 嘘も、ほとんどついていない。 それでも、最初から望んでいた結論へ、静かに導いていた。

 ――本人が、自分で選んだ。 ――本人が、自由に選べた。

 その二つは、決して同じではない。

 ◇

 夕暮れ。 平永寺、法堂。

 美里のスマートフォンへ、連絡が次々に入る。

「候補を見つけた」 「話を聞いてほしい奴がいる」 「本人が来たがっている」

 まだ、誰も鬼にはなっていない。 覇竜十傑は、美里の命令を守っている。

 だが、重要なのは人数ではなかった。 美里自身が街を歩かなくても、候補者のほうから集まり始めている。 それが、重要だった。

 一人だった勧誘者が、十一人になった。 美里と、覇竜十傑。

 友情。 共感。 力。 復讐。 未来。 覚悟。 理解。 逃避。 必要とされること。 論理。

 十人それぞれが、まったく違う傷を入口として使っていた。

 美里は、画面を見つめたまま、小さく呟く。

「これでいい。私一人が、探す必要なんてない」

 法堂の外。 夕陽が、鬼の占領した寺を赤く染めている。 蝉の声だけは、変わらず続いている。

 福江市の各地で、今日初めて「鬼になるという道がある」と知った少年少女がいる。 まだ噂ではない。 まだ流行でもない。 まだ社会現象でもない。

 しかし、種は蒔かれた。

 これまで「第三の進路」は、金津美里一人の思想だった。 この瞬間から、違う。 それを語る者が、十人増えた。

 ――敵は、怪物を増やしたのではない。 ――「鬼になる」という考えを広める人間を、十人増やしたのだ。

 慎悟たちはまだ、何も知らない。 福江市のどこかで、静かに蒔かれ始めたこの種を。

 この戦いが、怪物との戦争から思想との戦争へ変わったと、彼らが気づく日は――いつ来るのか。

 蝉の声だけが、いつも通りに鳴き続けていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


第14話「鬼への誘い」、いかがでしたでしょうか。


今回は、

「第三の進路が、美里一人の思想から、組織の仕事に変わる瞬間」

を書いた回です。


これまで、鬼になる人間を見つけてくる役目は、ほぼ美里と烈王に集中していました。

それが今回、十人全員に配られたことになります。


ここで一つ、こだわった点があります。


十人の勧誘を、すべて違う「入口」にしたことです。


牙蓮は友情。

角羅は共感。

牛竜は力。

咬覇は復讐。

霧香は未来。

烈王は覚悟。

魔盾牙は理解。

凍珠は逃避。

棘王は「必要とされたい」という願い。


そして、滄爪は論理です。


十人とも、自分が通ってきた道をそのまま使っています。


だから、誰の言葉にも嘘が少ないのです。

悪意のない声ほど、帰り道を静かに塞ぎます。


読み返すと、牙蓮と角羅の場面は、かなり穏やかに見えるかもしれません。

でも、あの穏やかさが、一番厄介だと思っています。


そして、最後の滄爪です。


あの場面で、彼は一度も「鬼になれ」と言っていません。

「戻るな」とも言っていません。


選択肢を並べているだけです。

少年が自分の口で「無理」「嫌だ」と答えていくだけです。


最後に少年が自分から口にした言葉は、

「鬼になるには、どうすればいい?」

でした。


ここで、本章のタイトルを思い出していただければと思います。


「本人が、自分で選んだ」

「本人が、自由に選べた」


この二つは、似ていますが同じではありません。

同じに見えるところが、いちばん恐ろしいところです。


美里の「第三の進路」は、新しい道を増やしているように見えます。

でも実際は、他の道を一本ずつ消した先に、唯一の出口を置いているだけです。


この思想に、慎悟たちはどう答えるのか。

そこが、第七章の核心です。


ちなみに、美里の「人事権は私が持つ」というくだりには、作者も少し笑いました。

滄爪の「合理的です」が、あまりにも彼らしかったので。


さて、次回です。


第15話は、

「最後の夜」

です。


場面は、寿満寺へ戻ります。


特別合宿は、いよいよ最後の夜を迎えます。

そして、翌日は高校野球の決勝戦です。


今回の第14話が「選ばせない側」の物語だったとすれば、

次回は、その静かな「答え」になる回です。


戦いが続いた合宿の、ほんの少しの穏やかな時間。

夕食の席の笑い声。

落ち着かない歩美と、住職の一言。


ただ、穏やかな夜というものは、

どこかで必ず、別の場所の夜とつながっています。


どうぞ、その点も意識しながらお待ちください。


少しでも面白いと思っていただけましたら、

ブックマークや評価、感想をいただけると、とても励みになります。

誤字脱字のご指摘も大歓迎です。


それでは、次回「最後の夜」で、またお会いしましょう。

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