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容疑者1 アリス

 部屋はホテル並みにきれいだった。窓からは気持ちの良い風が入ってくるし、クローゼットには寝間着があった。ベットに入ってしまえば気絶したように眠りに落ちた。

 夜中の三時程だろうか黒髪の男は部屋に入ってくるやいなやベットに潜り込んできた。

「なぜ私のベットに入ってきたんだ? びっくりしただろう」

「この家にはこのベットしかない」言い終わるのとほぼ同時に彼はうつ伏せのままピクリともしなくなった。私は住まわせてもらっている側だから文句も言えぬまま床に横たわって寝た。


 翌朝になるとベットの上にいて、クリストファーは横にきて私を揺さぶった。

「今から兄と姉に訪ねに行く」

「わかった。すまないが寝袋でも買ってきてほしい」

「何言ってるんだ君も行くよ。それに寝袋なんていらないじゃないか? 男二人が寝ても問題ないサイズだろう」彼は私のバックを投げてよこした。「着替えはその中に入ってるよな? 下で朝食を用意して待ってるよ」

冴えない頭のまま支度をしてすぐに下へ降りていった。

 食卓にはクリストファーとビリー警部が座っていた。

「やあナイガード君だね、昨日の。覚えてるよ」

おはようございますとだけ挨拶をして私は空いている椅子についた。

「さあどうぞ卵とハムのサンドイッチです。コーヒーもいかがですか?」

「いただくよ」ビリー警部は机の上に散らばった写真を懸命に見比べていた。「こうなると女の方はなんで死んだかわからないよ。外傷なし毒なし、そうなると毒ガスとかかな?」

「遺体の方の手や口元の検査はしたのですか?」

「や、しくったな! そこを急がさなければ」ビリー警部は電話にとびつき急いで連絡をし始めた。

クリストファーはコーヒーを優雅に飲みながら教えてくれた。「昨日夜に少し兄と姉について調べてたんだ。よくできるといった兄の会社は最近不景気だし、姉の方も旦那とうまくはいっていないらしい。まあそれだけで殺人に手を出すとは思えないけどね。ビリー君に車で連れて行ってもらおうよ」

 電話を終わらせたばかりのビリー警部にとびついて私は必死にお願いした。快く乗せて行くと言ってくれたとき正直ほっとした。でかい黒い車にクリストファーと後ろに座り、いくつかの町を過ぎてある一軒家についた。

「姉は確実にいるからね。簡単なほうからいってみよう」クリストファーは家の戸を数回ノックした。

 中から子どもの声がしたと思うとしばらくして疲れた様子の母親が現れた。

「お忙しいところすみません。警察の者です」

「厳密には私が警察です。弟さんのことで話を伺いにきました」

「はい、わかりました。中へお上がりください」

私達は子供のおもちゃが壁際にある居間に入った。

 彼女は目元が赤くなっており、たいそう可愛らしい顔も暗く曇っていた。

「アリスさん、いろいろあって大変でしょうに。お時間ありがとうございます。手紙を送らせていただきましたクリストファー・フォーサイスです」

「あなたがそうでしたか。私とても疲れましたわ犯人が何だの、根も葉もない噂が広がるばかりでして…」

「それはさぞお辛いでしょうね…この問題を解決すべくお話をきかせていただきたいです。さっそくですが事実そのままその日のことを話してくれませんか?」

「もちろんです。あの日は朝からつよい雨がずっと降っていました。でも前々からこの日に、ローズといっしょに買い物に行く予定でしたので歩いて駅まで行きました。子どもも連れて楽しい時間をすごしたんです。私は子どものおもちゃや服を、彼女は本を買いました。せっかくなので引っ越し祝いとして焼き菓子を買ってあげて、とても喜んで食べてくれたんです。

『私の好きなものばかり! 幸せにつつまれた気分よ』

『あなたの好きなものぐらいわかるわ。少しはアルバートにわけてあげなさいよ』

『わかった。こんなにいっぱいでもひとりで食べられる自信はあるけれどね、幸せもわけてあげないとね』ローズはすごくかわいいらしい笑顔で笑ってみせました。

昼食のデザートとして二つ食べてあとはしまいこんだんです。」

「食べたあとに何か少しでも気分が悪そうだと思いましたか?」

「いいえ、まったくそんなことありません。その後いっしょ休憩所にいって子どもたちと遊んだりのんびり楽しくすごしました。ローズが午後には予定があると知っていたので二時になる前に駅へむかったんです。私はしっかり彼女が家の中に入っていく様子を見届けてから家には帰りました」

「ローズさんの予定とは何かご存知で?」

「はい、行く途中に話していて三時にはアルバートと会わなければいけないといっていたんです」

「なるほど、ありがとうございます。この件は必ず解決してまいります。また警察からお部屋の捜索が入るかと思われますが、そこのところご了承くださいませ」

「私の台詞ですぞ。ともかく日が沈む頃にもう一度お訪ねさせていただきます」

 外へ出るとビリー警部はため息をついた。「子どものいる母親が人殺しなんてやるのかね」

「しないとは言い切れないでしょう? さあさあ兄のロディ君の家に行ってみましょうよ」

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