検査
帰り道のクリストファーといえば行きの歩きが速かったのを嘘のように普通の速度で歩いていた。そして、ふと思いついたように話しかけてきた。
「ナイガード君は書きかけの手紙についてどう思う?」彼は私の手にデジタルカメラをよこして見せてくれた。内容は「わが愛しのローズへ。君と一緒に」とだけだ。
「横にあったペンでないとしたら指紋をつけたくない犯人の自前で書いたものじゃないかな」
「同意見だね。でも、もしあのペンの他があって書いてそのまま拝借したとしたら?」
「そうだったら私はお手上げだね」
クリストファーは笑いながら頷いた。
「事件とは別だがなぜ君は一人で田舎町に? きれいな自然にでも癒やされにきたみたいな感じじゃないか。それに金は持っている。いっぱいね。稼げる職についていたんじゃないかね?」
「それはそうだが、なぜそうわかった?」
「僕の前じゃその行動力と見た目だけでわかるよ、さあ車へどうぞ」
私はひどく驚かされたが自分の腕時計を思い出して納得した。
運転は相変わらずひどいものだったが音楽はよく聴くと結構いいものだった。
「では、お家につきましたよ坊っちゃん。これからいろいろ面白いところだ。ついでに後ろの黒い箱も持ってきてくれ」
クリストファーは何かでポケットと手をいっぱいにして蛇のように窓から家にあがった。彼が玄関を開けてくれたので私は普通に入って指定された場所へ物をおいた。
「これからが大事なところさ、今に待ってろよナイガード君」走って二階に上がって行き、十キロはありそうな工具箱を持ってきた。
「それはただの工具箱じゃないね?」
「その通り中は実験に使う割れないものさ」
居間の横にある鍵付き扉を開けると地下に続く階段が出てきた。
「これはすごい! 夢があるな」
私とクリストファーは持てる限りの物を持ち階段を降りていった。地下はコンクリートでできておりガレージほどの大きさであったが物が散乱していた。
「中央の机に置きたまえ。床に落ちてる物は素手で触れないほうがいいぞ」
机には焦げたあとやシミが山ほどあったから、ここでよく実験しているのだろう。
「これから毒が出るか出ないかやるんだね?」
彼は頷いて私に手袋をよこした。「君はデジタルカメラの写真を印刷してくれ、それが僕のやり方なんだ」私の右側に立ったクリストファーはよく分からない器具のよく知らない準備をしだした。
二軒分の写真を印刷するのにはかなり時間がかかった。何故か私が触るとインクは出なくなるし紙は出てこないしで苦労した。
全て印刷し終えたときには彼が夕食に誘ってきた。
「昼は何も食べてないだろう? サンドイッチでも食べようよ」
「いいね、でも私の分はちょびっとでいいよ。何しろ食欲が全然わかないからね」
二人で階段を上がって行くとき彼はいった。
「女のローズの方は部屋のものから毒が出なかったらしい」
「なんだって? あの食べ物ぐらいしかないじゃないか」
「そうなんだよな。でも男の方は手巻きたばこの紙から毒が検出されたと、ビリー君はついさっき連絡をよこしたよ。僕の実験結果と同じだね」
私は味を感じない口にサンドイッチを運んだ。クリストファーのよく食べる様子はまるでリスやハムスターのようだった。
「ナイガード君、君はだいぶぐったりしているね」
「そりゃそうだ」
「それを置いて僕についてきなさい」彼はサンドイッチを手に持ったまま二階へ案内してくれた。「あの一番奥のが寝室だよ。服でも着替えてしっかり休んで心も体も癒やしたまえ」




