事件現場
数十分かかってやってきた町は都会とは言えないがとても栄えていた。
「さぁ今から散歩だよ」
進めば進むほど町は活気づいてきたが、彼の歩く速さは信じられないぐらい速いし、ついて行くだけでやっとだったので景色を見ている余裕もなかった。私にはこの土地についての知識はまったくないのでおいてかれまいと必死についていったが入り組んだ場所に入ったときは道に迷ったんじゃないかと焦った。いきなり止まったかと思うと家の戸をノックした。
「クリストファー・フォーサイスです」
合言葉のような役割を果たして戸は中から開けられた。
「フォーサイスさん、待っておりましたよ。そのまま残しております」
「それはありがとうございます。こちら新しい助手のナイガード君です」
警官と簡単な挨拶を交わすとクリストファーはずかずかと家に入り込んでいった。二階に進んでいくと奥には戸の開いた部屋があり、中を覗くと部屋の中央に美しく着飾った茶髪の女性が床に横たわっていた。まさか死んでいるとは思わないほど穏やかな顔をして寝転んでいる。
大きな窓のすぐ手前、大きな机の上には手入れの行き届いた美しいアクセサリーと食べ途中の焼き菓子があった。
「ビリー警部、机の上の美味しそうな食べ物から毒は検出されましたか?」
「いえ、まだ検査中です。遺体の結果が出次第すぐ結果を出してご報告させていただきますよ」
遺体をじっくり見たあとクリストファーは部屋の中をぐるりと見渡し、写真を撮ったと思うとすぐに「もう大丈夫です。ありがとうございました」と丁寧に言って一階に降りた。
「やっぱり食べ物の毒かな?」
「そう焦りなさるな、事件は部屋だけで起こるわけじゃないさ」
彼は居間、玄関、キッチンとサラサラと見ていった。と言ってもほとんど物はないので見て通り過ぎるくらいだった。
居間には机すらなく、おいていく棚だけであった。キッチンには小さな冷蔵庫、最低限の刃物や一セットの食器類。玄関は一足の靴と傘のみであった。
「いかにもすぐ引っ越すみたいな家だね」
「そのとおりだ。まったくきれいなものさ」
クリストファーはビリー警部を呼び、何人かの警官を残して外へ出た。
「ビリー警部は何か掴めました?」
「まだ確定していませんが食べ物の毒でしょうね」
「まあまあ恋人の家にも行ってみましょうよ」
パトカーの助手席に座ったクリストファーはずっと歌を口ずさんでいたが、後部座席に乗っていた私は、衝撃と自分の無力さに半分ぐらい溶けていた気がする。
車に揺られること約十分、ようやくついたアルバートの家は物置のような内装ををしていた。
クリストファーは物を避けて慎重に進んで「こんなに物が多いようじゃ計画性にかけているね」とつぶやいた。
やっと部屋まで来たと思うと部屋だけは物が少なく、窓際に椅子に力なくすわっている男がすぐ目に入った。窓は開け放たれ、机の上には手巻きたばこのセットとペン、書き途中の手紙があった。
「この部屋は何も手を付けていないですよね?」
「もちろんですよ」
クリストファーは座り込んで死体をじっくり見たかと思えば、急に立ち上がり机の上を写真に撮った。
「変ですね、このペンは新品のようですよ」
「なに! どうしてそうわかる?」ビリー警部はどしどし突っ込んできた。
「なあに、ボールペンの先に保護する部分がついているじゃありませんか。これでは文字はかけまい。よろしければこの手巻きタバコも見てよろしいですか?」
「もちろんだ」
クリストファーは手袋をしっかりとつけ、慎重に眺めた。
「差し支えなければ灰とタバコの紙を半分ほどいただきたいのですが、よろしいですか?」
「いいとも。だが今度の犯人逮捕は私がするからな」
クリストファーは黙々と袋に詰めだした。
「僕は警察と張り合う気なんて、はなからないですよ。ナイガード君これらをポッケの中にでも入れて持っておいてくれ。ではビリー警部、これで」クリストファーは部屋から出ると恐ろしい速さで沢山の写真をとり始めた。
「満足したよ。さあ帰ろうか」
「ごめんだけど水を少しもらってもいいかな?」
「もちろんさ」彼はペットボトルの水を渡してくれた。まあその水といえばまずかったこと。




