第2話:有能すぎる『魔力ゼロ』の足手まとい
廃村クロウフォードへの道は、焦げた草の匂いが充満していた。
ビビアンが廃村の入り口に到着した時、そこには先客がいた。
暗闇の中に、一人の男が立っていた。赤い作業着ではなく、今夜は黒い外套を羽織っている。短く整えられた黒髪が夜風に揺れ、灰色の瞳は廃村の奥を――巨大な影が蹲る方向を――静かに見据えていた。
レッドだった。
「……なんであんたがここに」
ビビアンが呟くと、レッドは振り返りもせずに答えた。
「灰燼竜の吐息には特性がある。魔力を纏った灰の微粒子が、対象の構造体を内側から崩壊させる。魔力障壁が溶けるのはそのためだ。……だが、魔力を一切持たない素材で作った隔絶膜なら、理論上は通さない」
彼の手には、薄く透明な板状の物体があった。見たことのない素材だ。まるでガラスのようだが、光の屈折の仕方が違う。魔力の気配が全くない。
「それ、は……」
「純粋鉱物結晶の多層積層構造体。魔力ゼロ。俺が今夜だけのために作った、使い捨ての盾だ」
レッドはようやく振り返った。その顔に、いつもの皮肉めいた表情はなかった。ただ静かな、どこか固く閉ざされたような目をしていた。
「お前が行くと思った。だから来た。……盾は持ってやる。戦うのはお前だ」
ビビアンは、一瞬だけ彼の顔を見つめた。それから、大剣の柄を握り直した。
「……ついてきな。足手まといになったら容赦しないわよ」
「俺が足手まといになるとでも思ってるのか」
「思ってる」
「……まぁそうだろうな。」




