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第1話:深夜の緊急依頼と、推しの気配

 それは、妹の縁談を巡る騒動が片付いた、数日後の雨上がりの夜明け前のことだった。


 王都の外壁の外、草原と廃村の境界に設けられた非常召集の角笛が、夜更けから鳴り止まなかった。冒険者ギルドに緊急依頼が届いたのは丑三つ時を過ぎたころだ。


 『伝説の魔物・灰燼竜かいじんりゅう、廃村クロウフォードに出現。Sランク討伐令発令。グランデリア王国軍、壊滅状態。自発参加者求む』

 ギルドの掲示板にその羊皮紙が貼られた瞬間から、広間は水を打ったように静まり返った。灰燼竜。その名を聞いて、平静でいられる者などいない。大陸に三頭しか確認されていない上位龍種の一つ。七十年前の最後の目撃記録では、グランデリア王国軍三個師団が出撃して全滅し、当時の英雄たちが束になっても傷一つつけられなかったとされる、文字通りの「生きた厄災」だ。


 ビビアンがギルドに到着したのは、依頼が出てそんなに時間は経ってなかった。

「ヴィンセント。場所と状況を」

 ギルドマスターのヴィンセントは、いつもの飄々とした笑みを消し、険しい顔でビビアンに地図を広げた。

「廃村の中央広場に居座ってる。グランデリア王国軍は近づいた瞬間に全員吹き飛んだ。あの竜の吐息は魔力を含む灰の嵐でな……触れた物は何でも内側から腐蝕して崩れる。魔力障壁すら数秒で溶かすらしい。ビビアン、無理をするな。私は正直、今すぐシルヴィアに――」


「妹は使わない」

 ビビアンは静かに、しかし有無を言わさぬ声で遮った。

「シルヴィアは結婚したばかりよ。あの子に再び、人を消す力を使わせたくない。……私が行く」

 ヴィンセントは深く息をついた。


「……分かった。ただこいつだけは聞いてくれ。実は今夜、レッドがギルドに来て、この依頼書を三十分も睨んでいたぜ。」

 沈思したビビアンの手が止まった。

 レッドは魔導具職人だ。戦いなど関係ないはずの男が、なぜこの依頼書を三十分も睨んでいたのか。


「……なぜレッドがそんなことするの?それとなぜ念押しするようなこと言うの?」

 ヴィンセントは答えなかった。ただ、地図の一点を指でたたきながら言った。


「いい女になれ、ビビアン。……思いを寄せてるあいつと、二人で帰ってきな」

 頬を染めたビビアンは何も答えず、地図を持ってギルドを出た。

それを見たヴィンセントは(やれやれ頬なんか染めやがって・・)なんとも”もどかしい”思いにとらわれていた。


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