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第3話:灰燼竜vs戦乙女

 灰燼竜は想像よりも巨大だった。

 廃村の広場に蹲るその体躯は、三階建ての建物を軽く超え、うろこの一枚一枚が鈍い灰色に輝いている。眠っているかのように静止していたが、二人が踏み込んだ瞬間、地鳴りのような低音が腹の底に響いた。巨大な頭が持ち上がり、虹彩のない白濁した瞳が二人を捉える。

 次の瞬間、竜の喉が膨らんだ。


「来るッ!」

 ビビアンが叫ぶより先に、レッドが前に踏み出していた。両手で構えた結晶板が、竜の口から放たれた灰色の嵐を正面から受け止める。魔力を持たない鉱物結晶は、腐蝕の吐息に対して完璧に機能した。嵐はレッドの盾の表面で霧散し、二人の背後の廃屋だけが音もなく崩れ落ちていく。


「有効だ。……十分、耐える」

 レッドの声は静かだった。ひどく静かだった。

 ビビアンは一瞬だけレッドの横顔を見た。汗が一筋、こめかみを流れていく。その顔に恐怖はなかった。あるのはただ、どこかひどく遠くを見ているような、深い静けさだった。

(……この人は、なんで怖くないの)

 考えている時間はない。ビビアンは大剣を両手で構え、地を蹴った。


 戦乙女の異名は伊達ではない。ビビアンの突進は音速に迫り、一撃一撃が城壁を砕く威力を持っていた。しかし灰燼竜は頑強で、うろこの一枚も剥がれない。竜は再び吐息を放ち、ビビアンを追い、周囲の廃屋が次々と灰になっていく。

 レッドは盾を構えたまま動き続けた。ビビアンが竜の注意を引きつけている間、レッドは吐息が来る角度を計算して、最小限の動作で位置を変え続ける。無駄な動きが一切なかった。まるで精緻な機械のように。


 ビビアンによる四度目のため息と罵声の後、レッドが叫んだ。

「左顎の下、うろこの切れ目! 三センチほど色が違う場所がある!」

 ビビアンの目が走った。確かに――暗闇の中、指一本分ほどの、僅かに色の異なる部位がある。

「よく見えたわね!」

「なんとなくだ。」

 ビビアンは竜が次の吐息を溜め始めた瞬間を狙った。息を吸う時、首の筋肉が一瞬だけ緩む。大剣を逆手に持ち替え、全体重を乗せて跳躍した。


 大剣が、その一点に突き刺さった。

 廃村全体を揺るがす轟音。灰燼竜が初めて、苦悶の声を上げた。白濁した瞳が激しく揺れ、巨体がぐらりと傾く。ビビアンは剣を引き抜き、着地と同時に二撃、三撃と続けた。

 やがて地鳴りのような音と共に、灰燼竜は廃村の広場に崩れ落ちた。

 静寂が戻った。


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