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第4話:不器用な過去と、じんわりと温かくなる気持ち

 ビビアンは荒い息のまま、剣を地面に突き立てた。全身が泥と灰に塗れている。肩が、腕が、熱を持ってじんじんと痺れていた。

「……終わった、わね」

 振り返ると、レッドが崩れた廃屋の壁にもたれていた。両手に持っていた結晶板は、最後の吐息を受け止めた際にひびが入り、今は砂のようにさらさらと崩れ始めている。

 ビビアンはレッドに近づいた。その時、初めて気がついた。

 レッドの外套の袖が、右腕の肘から先が、微かに震えていた。戦闘中は全く気配を見せなかったのに。


「……ケガ、してる?」

「四度目のブレスの端が、少し掠めた。大したことじゃない」

「大したことないわけないでしょ。見せな。」

 ビビアンが腕を掴もうとすると、レッドは反射的に身を引いた。それは本能的な動作だった。そのことに、本人も気づいたようだった。


 沈黙が落ちた。

 遠くで夜明けの鳥が鳴いた。廃村の灰が、風に運ばれて空へと昇っていく。

「……レッド」

 ビビアンはゆっくりと、今度は掴まずに、ただ隣に並んで腰を下ろした。

「あんたって、人付き合いダメなやつ?」

 レッドは答えなかった。しばらく黙っていた。

 それから、ぽつりと言った。


「……ここに、昔来たことがある」

 ビビアンは動かなかった。ただ聞いた。

「俺が八歳の時だ。この村は今みたいな廃村じゃなかった。両親がここで魔導具の行商をしていた。俺も連れてきてもらったことがある」

 レッドの声は平板だった。感情を抜いて語るように、訓練されたかのように。

「その帰り道に、伝説の魔物が出た。……灰燼竜じゃない。別の種類だ。両親は俺を荷台の箱に押し込んで、隠した。声を出すなと。それから音を立てるなと・・。・・・・・その後のことは、あまり覚えていない」

 ビビアンは息を止めた。

「馬車が横転した音だけ、覚えている。それから、ずっと静かだった」

 レッドは膝の上に視線を落とした。

「誰かに助けられた。誰だったかも覚えていない。ただ、その後ひとりで生きてきた。道具を作ることだけが、俺にとって確かなものだった。人間と関わると、何かが壊れる。だから、関わらないようにしてきた」

 それきり、レッドは黙った。


 しばらく経ってから、ビビアンは静かに口を開いた。

「……ねぇ、レッド。一つだけ聞いていい?」

 レッドは答えなかった。

「あんた、ギルドに依頼書を見に来たでしょ。……それ、本当に盾作りのためだったの?」

 レッドは答えた。

「……別に。道具の設計の調査に決まってる」

 素っ気ない声だった。傍では廃村の灰が、風に運ばれて上へと昇っていく。

ビビアンは少し待ったが、言葉が続かないことは分かった。


「……嘘」

「……嘘じゃねぇよ」

 レッドは自分で言った後、微かに目を逸らした。それから、ひどく不器用な調子で付け足した。

「……お前が行くと思った。それだけだ」

 ビビアンは何も言わなかった。

 ただ、ビビアンの胸の中で何かが、静かに、じんわりと温かくなった。


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