第3話:愛と焼きたてクロワッサン
「ひゃっはー! 焼きたてデスヨー!」
四本足でガシャガシャと街を爆走する魔導オーブン。恐ろしいことに、暴走しながらも内部の魔導制御されたマジックアームは完璧な動作を続けており、次々と新しい生地を練り、発酵させ、焼き上げていた。そして、焼き上がった黄金色のクロワッサンを、ポンポンと大砲のように街中へ向かって発射し始めたのだ。
「うわっ、なんだあのアレ!?」
「空からパンが降ってきたぞ!」
早朝の市場の準備をしていた下町の人々が、空から降ってきたクロワッサンを見上げて驚く。ゴンザの頭の上に、スポンッと見事なクロワッサンが落ちてきた。
「お? なんかいい匂いが・・・・・・あむっ」
ゴンザが無意識に口に入れた瞬間、彼の目は見開かれた。
「う、うおおっ!? なんだこのサクサク感! 噛んだ瞬間に層がハラハラと崩れて、中から濃厚なバターの甘みがジュワッと溢れ出してきやがる!!」
完璧な「デトランプとトゥルラージュ」によって生み出された八十一層の生地は、外はパリッと香ばしく、中は真綿のようにふんわりと軽い。
「うめぇ! なんだこれ、めちゃくちゃうめぇぞ!!」
空から降ってくる極上のクロワッサンを求め、街の人々がオーブンの後ろを「パンくれー!」と追いかけ始める。
「ちょ、ちょっとあんたたち! 食べないでよ、それうちの商品!!」
その後ろから、エプロン姿のビビアンと、スパナを持ったレッドが血相を変えて追いかけてきた。
「待てこの暴走ポンコツ! 俺の許可なく配給するな!」
「あんたの愛が重すぎるせいで暴走したんでしょ!責任取りなさいよ!」
「うるさい・・もう責任は取ってるぞ!!」
「バカっ!」
街を爆走するオーブンの前に、赤ん坊を抱いたシルヴィアが通りかかる。
「あ、お姉ちゃんとレッドさん。おはようございます。粗大ゴミの投棄ですか?」
「違うわ!! シルヴィア! 止めるの手伝って!!」
「ふふっ、お姉ちゃん夫婦の共同作業ですから、私は手出ししませんよ。がんばって♪」
シルヴィアは飛んできたクロワッサンを絶対防御障壁ではじきながら笑顔で見送る。
「がんばって♪じゃなくてシルヴィアぁ~」
「炎のパン焼きカーニバル~」
喚き散らす暴走オーブン、歓喜する群衆、そして怒り狂う夫婦。奇妙なパレードが、王都の朝焼けの通りを賑やかに駆け抜けていく。
「ええい、こうなったら物理で止めるしかないわね!」
ビビアンは走りながら、背中に背負っていた愛用の大剣に手を伸ばした。
「戦乙女の力、見せてやるわ!」
「どわぁバカやめろ!だいたい、いつ剣背負ったんだ! これ一台に俺の工房の予算の半年分当て込んでいるんだぞ! 壊したらずっとおかず抜きで生活まで吹っ飛ぶぞ!!」
「うっ! そ、それなら!」
ビビアンは大剣から手を離し、猛烈な脚力で地面を蹴った。元・戦乙女の身体能力が爆発し、群衆の頭上を跳躍して、逃げるオーブンの上にズンッ!と直接飛び乗った。
「捕まえたわよ、この暴走ヤロウ!」
ビビアンがオーブンの外装にガッチリと抱きつき、怪力で無理やり動きを止める。そこへ、息を切らしたレッドが追いつき、オーブンの緊急停止ボタン(なぜか底面にある)をスパナで叩き割って押した。
「ピピッ・・アイハ、永久ニ・・・不滅デス・・・」
プシュー、という排気音と共に、オーブンはついに沈黙し、四本足がパタンと折りたたまれた。




