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第4話:愛と極上のクロワッサン

「・・・・・・はぁ、はぁ。まったく、朝からとてつもない運動させられたわ」

 ビビアンが額の汗を拭いながら、オーブンの上にへたり込む。

「ぜぇ、ぜぇ・・・・・・。クソッ、愛情パラメータのリミッターの計算を間違えたか。次は、自爆装置も付けておかないとな」

「自爆させたら意味ないでしょ。このバカ!!」

 ビビアンがレッドの頭をポカッと叩く。

「痛ぇな! せっかくお前のために作ってやったのに!」

「だからって街中でパン撒き散らして暴走されたら世話ないわよ!」


 ビビアンは、オーブンの中からたった一つ残ったクロワッサンを拾い上げ、オーブンの中から出てきたクロワッサンを見て、ビビアンがふき出す。

「……ちょっとレッド。これ、三日月型じゃなくて、微妙にハート型になってるじゃない」

「なっ!? ば、馬鹿な! 俺の完璧な計算が……アームの軌道が愛情パラメータに引っ張られただと!?」

「あははっ! 最高よあんた。匂いも焼き加減も、そしてこの形もね」

そして半分に割ると サクッ、という心地よい音と共に、美しい蜂の巣状の層が顔を覗かせる。

「うーん、完璧ね。あんたの作ってくれたコレ、最高の相棒になるわ」

 ビビアンは半分を自分の口に入れ、もう半分をレッドの口に放り込んだ。

「もごっ! ふん、当たり前だ。俺の発明とお前のレシピが融合したんだからな」

「あはっ! これすっごく美味しい!」


 朝日に照らされた通りで、二人は顔を見合わせて吹き出した。


「ちょっとレッド。あんた、私の料理の負担を減らすためとか言って、こんな手間のかかる機械作ってたら、結局あんたが過労で倒れちゃうじゃないの」

「う、うるさい! 俺はお前の喜ぶ顔が見たいだけだ! お前の一生を、俺の発明で楽にしてやるって決めたんだ!」

 顔をホントに真っ赤にして叫ぶレッドに、ビビアンは呆れたように笑う。

「ふふっ、分かってるわよ。」

 ビビアンはオーブンの上から飛び降りると、そのままの勢いでレッドの首に腕を回し、ギュッと抱きしめた。

「ちょっ、おい! みんな見てるだろ! また骨が折れる!!」

「いいじゃない、夫婦なんだから! さあ、この重たい愛の結晶オーブン、二人で店まで担いで帰るわよ!」


 青く澄み渡った王都の空の下。バターの甘い香りが漂う中、朝食目当てでやってきていたギルマスがそれを見てやれやれといった感じで肩をすくめ、ジェシカはジト目で見つめ「姉さん、朝から胸やけで殺す気ですか」と呟く。

呆れ顔で祝福する下町の人々の笑い声に包まれながら。

 顔に傷のある元・戦乙女の女将と、偏屈な天才魔導具職人の夫は、重たいオーブンを二人で抱え、自分たちの愛する『琥珀亭』へと歩き出した。


 どんなトラブルが起きようとも、美味しいご飯と、互いへの愛と敬意があれば、すべては最高のスパイスに変わる。

 今日も、そしてこれからも、琥珀亭にはドタバタでやかましく、そして誰よりも温かい日常の香りが漂い続けるのだ。


(おしまい)


皆様、いらっしゃいませ。そして、最後までご来店(お読み)いただき、誠にありがとうございました。

 本作『顔に傷のある元・戦乙女ですが、絶品洋食で下町食堂はじめました!』の店主(筆のキュイジニエ)でございます。


この物語は、「とにかく美味しい洋食の描写を書きたい!」という私の個人的な(そして深夜の)食欲からスタートしました。ハンバーグの肉汁、オムライスのとろける卵、カツのサクサク感……文字を追うだけでお腹が鳴るような、そんな「飯テロ」の魔法に皆様もかかっていただけたなら、これ以上の喜びはありません。(深夜に読んでしまい、冷蔵庫を漁ることになってしまった方がいらっしゃいましたら、謹んでお詫び申し上げます。笑)


主人公のビビアンは、顔に大きな傷があり、女らしさとは少し無縁のガサツな元・戦士です。しかし、誰よりも愛情深く、自分の欲(お洒落など)を削ってでも愛する妹や「推し(レッド)」に貢いでしまう、最高にカッコよくて健気な乙女です。

 そして、そんな彼女の周りに集まる面々。姉に手を出せば国ごと更地にする危ない妹・シルヴィアに、素直になれず暴言ばかり吐いてしまう偏屈職人のレッド。

 みんな不器用で、どこか欠けていて、だからこそ温かいご飯を一緒に食べることで、少しずつ結びついていく。そんな彼らのドタバタな朝ドラみたいな日常と恋の行方を、愛着を持って書き上げることができました。

 最終章のオーブン暴走劇は、レッドの愛の重さが物理法則を超えた結果です。あの後、彼らがどんな風にクロワッサンを焼いているのか、想像するだけで私もジェシカ同様、胸焼けしそうになります。


最後になりましたが、彼らの物語を見守ってくださった読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。

今日のご飯が、皆様にとって極上の一皿になりますように!

 またいつか、『琥珀亭』でお会いしましょう。

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