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第6話:愛しのレッドとタンポポ・オムライス

「あらみんな居なくなっちゃったわね。まあいいか。さあ、お祝いの料理よ!」

 シルヴィアや常連たちが気を利かせ、地下からキッチンに戻った二人っきりの琥珀亭。

ビビアンは涙を拭い、満面の笑みで厨房に立った。

作るのは、二人の門出を祝う特別な一皿。

「アタシの好きな『タンポポ・オムライス』よ!」


 ビビアンはフライパンで、完璧な味付けのチキンライスを炒め、皿の中央にこんもりと山の形に盛り付ける。そして、別のオムレツ専用のフライパンを強火にかけ、多めのバターを溶かした。ボウルでよく溶きほぐした卵液(今回は生クリームも加えてよりリッチに)を一気に流し込む。


 かつて戦場で傷を負い妹と自分の門出のために作ったオムライスは、卵を乗せたクラシックスタイルだった。しかし、今日のオムライスは違う。菜箸で素早くかき混ぜ、フライパンを細かく揺する。外側だけが薄く膜のように固まり、内側は限界までとろとろの半熟状態。その絶妙なタイミングで、卵を丸くオムレツ型にまとめ上げる。これを「ドレスド・オムレツ」と呼ぶ。


「いくわよ、レッド!」

 ビビアンは出来上がったぷるぷるのプレーンオムレツを、チキンライスの山の頂上にそっと乗せた。そして、ナイフを手に取り、オムレツの中央にスッと切れ目を入れる。

 パァッ・・・・・・!

 その瞬間、魔法のようにオムレツが左右に開いた。中に閉じ込められていた半熟の卵が、花が開くようにトロリと崩れ落ち、チキンライスの山を眩しいほどの黄金色で覆い尽くしていく。それはまるで、春の訪れを告げるタンポポの花のような、美しくも力強い一皿だった。

タンポポは”踏まれても力強く咲く花”であり、『真心の愛』という花言葉を持っていてビビアンが大好きな花だった。一度は涙で泥濘んだけど、それでもやっぱり力強く咲き誇った黄金色の花だった。

「うおおっ・・・・・・!」

 レッドが目を輝かせ、ゴクリと喉を鳴らす。


「ほら、一緒に食べましょ」

 ビビアンはスプーンでオムライスをすくい、レッドの口元に運んだ。

「・・・・・・あ、あーん」

 顔を真っ赤にしながら口を開けるレッド。濃厚な卵の甘みと、チキンライスの酸味、そしてバターの香りが口いっぱいに広がる。


「・・・・・・うまい。世界で一番、うまい」

 ボロボロな姿のレッドが泣き笑いのような顔で言うと、ビビアンも嬉しそうに自分の口にオムライスを運んだ。


 こうして、さまざまな障害と勘違いを乗り越え、琥珀亭の下町食堂には、新たな名物「怪力美人女将と偏屈職人の夫婦漫才」が加わった。


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