第4話:愛しのコレクションと妹の激怒
「お姉ちゃーん、遊びに来たわよー。ジュリアンが出張でいないから、数日実家に帰らせてもらうわね」
のんびりとした声で店に入ってきたのは、シルヴィアだった。彼女の胸には、数ヶ月前に生まれたばかりの愛らしい赤ん坊が抱かれている。しかし、店の中は薄暗く、いつも明るい姉の姿が見当たらない。
「お姉ちゃん? どこにいるの?」
奥へ進むと、厨房の床が開きっぱなしになっているのを見つけた。シルヴィアが地下室を覗き込むと、そこには、かつて戦場でどんな傷を負おうが、騎士団に囲まれようが、どんな難敵にも笑ってぶっ飛ばしていた姉が、今は「たった一つの壊れたトースターの破片」をかき集めて、目を真っ赤に腫らし、子供のように泣きじゃくり、呆然と座り込んでいる姿だった。
「お姉ちゃん!? どうしたの、何があったの!」
シルヴィアは慌てて階段を下り、姉に駆け寄った。ビビアンはシルヴィアの顔を見ると、さらにポロポロと涙腺が決壊していた。
「シルヴィアぁ・・・レッドに見つかっちゃって、レッドに嫌われちゃった・・ウワァァァン!!」
幼児のように泣きじゃくる姉の事情を聞き終えたシルヴィアは、静かに目を伏せた。赤ん坊はスヤスヤと眠っており、ビビアンの背中を優しく撫でる彼女の表情は、どこまでも穏やかだった。
「・・・・・・そう。レッドさんが、このコレクションを見て、ギルマスをパトロンと勘違いして、お姉ちゃんに暴言を吐いたのね」
「う、うん。私が・・・・・・隠れてコソコソ買ってたのが、悪かったのよ。気持ち悪いって、思われたんだわ・・・顔に傷のある私がお洒落もしないから・・ヒクッえぐっ・・やっぱり不釣り合いだったんだ。」
ビビアンが鼻をすすさらに泣き出す。
「お姉ちゃん」
シルヴィアが、静かに呼びかけた。「ちょっと、そこで待っててね」
そう言うと、シルヴィアは赤ん坊をビビアンの腕に預け、立ち上がった。
「え? シルヴィア、どこに行くの?」
「お姉ちゃんは、自分の化粧水一本買うときも安いもので我慢して、ボロボロの靴を履き潰してまで、あの人の夢を応援してた。・・・世界でたった一人の、一番のファンなのに」
シルヴィアの金髪が、フワリと不自然に舞い上がった。
ふんわかとしたシルヴィアの雰囲気が、凍てつくような凄まじい女の情念へと変貌した。店内の温度が一気に急降下し一部壁面やレッドの魔道具が凍り始め、まるで恐ろしい魔王が降臨したかのような、絶望的なプレッシャーが空間を支配していた。
「それを・・・・踏みにじった?・・それを・・」
シルヴィアの顔から、一切の表情が抜け落ちていた。瞳孔が黒く濁り、かつて十五歳の時に敵国五万人の軍勢を刹那の時間で消滅させ帝国の国土の1/5を更地にした時と全く同じ、無慈悲な殺戮者の顔がそこにあった。
「・・・・・シルヴィア? ちょ、ちょっと、まさか・・・・・シルヴィア!!」
ビビアンが止める間もなく、シルヴィアの姿は、初めて発現した「転移魔法」の光に包まれ、一瞬にして消え去った。




