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第八話・後日談:正義のデリバリーサービス

 シルヴィアから王都のジュリアンへと証拠の裏帳簿が送られてから、わずか三日後のことだった。

 王都から派遣された王国直属の査察騎士団が、北の秘湯街へと到着した。指揮を執るのは、言うまでもなくジュリアン本人である。

「事の次第は全て把握しています。バレンティン元・子爵。これより全財産没収、ならびに不正収税と私兵による暴力行為の罪で連行します。後日、爵位剥奪がなされる手筈になっています。」

 豪邸の応接室で縮み上がる子爵夫妻。しかしその場に、ジュリアンより先に入室してきた人物がいた。


「よ、久しぶりね、お父様」

 扉の枠に肩をもたせかけ、腕を組んで立つビビアン。その隣で、ニコニコと微笑むシルヴィア。

「ひっ……! き、貴様ら……!」

「怖い顔しないでよ。今日は折檻しに来たわけじゃないから」

 ビビアンは持ってきた大きな木箱を、ドスンとテーブルに置いた。

「……これは?」

「この街の領民から巻き上げた十年分の不正税収、その総額を計算してみたの。利子込みで」

 シルヴィアが淡々と続ける。

「全額、この街の復興基金として供託していただきます。温泉街の修繕、街道の整備、住民への医療費補助……使い道はもう決まっています。あなたたちが壊したものを、あなたたちのお金で直すんです。素敵でしょう?」

「そ、そんな全財産だと……!」

「あと」

 ビビアンが人差し指を立てた。

「シルヴィアの母……シルフィーヌさんへの、十五年分の慰謝料も忘れずに」

 子爵の顔が蒼白を通り越して、灰色になった。

「払えない、とは言わせないわよ」

 シルヴィアがニコリと笑い、その背後に一瞬だけ、漆黒の魔力が揺れた。それだけで十分だった。子爵は泡を吹きながら書類に署名した。

 豪邸から引きずり出され、みすぼらしい護送馬車に押し込まれる際、子爵は震える声でビビアンに向かって叫んだ。


「き、貴様たちには……お前たちのせいで! 妾の子の分際で……!」

 ビビアンは立ち止まり、振り返った。

 それから、ゆっくりと笑った。

 戦場でも、騎士団の会議室でも、魔獣の群れの前でも見せたことのない、柔らかくて、どこか哀れみすら帯びた、大人の笑顔だった。

「妾の子? そうね。でもその妾の子に、全財産奪われて、爵位剥奪されて、護送馬車に乗せられてる。……で、あんたの自慢の爵位、今どこにあるの?」

ビビアンは一歩だけ近づき、静かに続けた。

「あんたが一生かけて守りたかったものは、全部、今日ここで終わった。私が守りたかったものは、全部ある。……それだけの話よ」

そして一歩下がり、肩越しに振り返って、不敵に笑った。

「……お疲れさん」

 子爵は何も言えなかった。


 ビビアンは背を向け、歩き出した。シルヴィアが小走りで隣に並ぶ。

「お姉ちゃん、かっこよかったわ」

「ふん。……対した事ないわ。あー終わってせいせいした。」

「そうね、ありがとお姉ちゃん。」

「さあ入るわよ温泉! せっかく来たんだから、あと数日追加して、目一杯浸かって整って帰らなきゃ損でしょ!」

 邸から連行される子爵夫妻を横目に、姉妹は肩を並べて北の青い空の下を歩いていった。

 街の住民たちが、総出で二人に向かって静かに頭を下げた。


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