第6話:灰汁と黄金の鶏のコンソメ(コンソメ・ド・ヴォライユ)
姉妹は、先ほど助けた主人の宿屋に匿ってもらっていた。領民たちは法外な税に苦しみ、温泉街の利益は全て子爵家の懐に入っているという。
「許せません……。お姉ちゃん、やっぱりあの館、更地にしましょう」
暗い顔で恐ろしいことを言うシルヴィア。
「待ちなさい。暴力で解決しても、あの女の性根は直らないわ。それに、街のみんなが安心して暮らせるようにしないと意味がない」
ビビアンは宿の厨房を借りて、料理を作り始めた。怒りや悲しみで心が濁っている時は、料理に集中するのが一番だ。
「シルヴィア。こういう時こそ、『黄金のコンソメ・ド・ヴォライユ(鶏のコンソメ)』よ」
コンソメスープ。それは洋食において最も手間と技術を要する、究極のスープである。鍋の中には、鶏ガラと野菜を煮出した、白く濁ったブイヨン(出汁)が入っている。
「濁ったスープは、今のこの街や、あの貴族たちの腹の中と同じ。これを、美しく澄み切った黄金色に変えていくの」
ビビアンはボウルに、鶏胸肉のミンチ、細かく刻んだ香味野菜、そして卵白を入れてよく練り合わせる。それを、冷ました濁ったブイヨンの鍋に投入し、再び火にかけた。鍋底をこすらないように、木べらでゆっくりとかき混ぜ続ける。
やがて温度が上がってくると、魔法のような現象が起きる。
「見てて。卵白の吸着力による清澄化よ」
熱によって凝固し始めた卵白と肉のタンパク質が、ブイヨンの中に漂うアクや不純物、余分な脂を磁石のように根こそぎ吸着しながら、鍋の表面へと浮き上がっていく。やがて表面には、不純物をたっぷり含んだ分厚い肉の層が形成された。
「この浮き上がってきた汚れ……まさに、街に巣食う悪徳貴族の悪事そのものね。隠そうとしても、熱を加えれば必ずこうやって上に浮かび上がってくるのよ」
ビビアンはラフトの中央に菜箸で小さな穴を開け、そこからスープが静かに対流するよう、ごく弱火を保つ。ボコボコと沸騰させれば、せっかく吸着した汚れが再びスープに散らばってしまうからだ。
数時間後。静かに濾し器を通したスープは、一切の濁りがない、宝石のように透き通った黄金色の液体へと生まれ変わっていた。一口飲めば、鶏の滋味深い旨味と野菜の甘みが、細胞の隅々にまで染み渡る。雑味は一切なく、ただ純粋な美味しさだけが存在していた。
「なんだこれっメチャクチャ旨い」「おいしいです。」
厨房を借りたお礼にコンソメスープを振舞ってあげた宿屋の主人夫婦に泣いて喜ばれた。
「……美味しい。心が、洗われるみたい」
コンソメスープを飲んだシルヴィアの瞳から、怒りの気持ちが落ち着いて消えていった。
「でしょ? スープも街も、汚れは一網打尽にして、澄み切った状態に戻さなきゃね。……よし、作戦開始よ」
ビビアンの顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
【最後にお願いです!】
ここまで読んでいただき、
「お腹が空いた!」「洋食が食べたくなった!」
「二人の両片想いが尊い!」「妹の魔法無双が最高!」
など、少しでも楽しんでいただけましたら、
ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけますと、日々の執筆の何よりの励みになります!
(ブックマークやご感想も、大歓迎でお待ちしております!)
皆様の温かい応援が、琥珀亭の次なる活力となります。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。極上の「ごちそうさま」を!




