主人とメイドの本気対決
作者の都合のため、暫く二日に一回ペースでの更新になります。
都合が良ければ、普通に毎日投稿します。
よろしくお願いします
今でも夢に見るー。
『ユリウス様っ‼︎』
そう叫んだ彼女の身体が血を撒き散らしながら、大きな弧を描く。
『……っ‼︎』
大きな声で彼女の名前を呼んでも、彼女は反応しない。
自分の所為でそうなった。
俺が…無駄に才能を持っていたから。
王位継承権なんて持っていたから。
何度も何度もあの日の夢を見るんだ。
俺の代わりに犠牲となった彼女のことを。
大好きだった君が…俺の所為で死んでしまったことが。
辛くて、苦しくて。
だから決めたんだ。
俺は……もう誰も好きな人を作らないって。
俺は……どんな手を使ってでも………。
*****
ユリウスの様子がおかしくなったことは、皆が気づいていた。
仕事をこなす以外は外にさえ出なくて、 自室に篭るようになった。
「………………ユーリ……」
扉をノックしても、返事はない。
困ったように溜息を吐いたラナは今日も食事を持ってユリウスの部屋に訪れていた。
食べてくれないのは分かっていたが、そうすることしか出来なかった。
「ここに、食事を置いておくわ」
ラナは扉の向こうに話し掛けるようにそう言うと、食事を部屋の前に置いた。
ブレインに『好きなのか?』と聞かれてから…確実にユリウスはおかしくなった。
かくいうブレインに非がある訳ではないし…どうしようも出来ない日々が続いている。
「………………はぁ…やってくれましたね…あの人は…」
「ブレインってお兄さんがあんなに頭がキレるのに、本人は馬鹿だよねぇ〜…」
「………………本当に…いい仕事…しない…」
「オレらでもお手上げなんだから…ラナが気にしなくても大丈夫だぞ」
他の幹部の面々は広間に集まってそう言った。
ラナも険しい顔で小さく頷く。
「…………ユーリ……無理しないかな…」
「……………どうでしょうね…あいつは完全に地雷を踏みましたから」
マルクがそう言って遠い目をする。
そして…大きな溜息を吐くと、皆に向き直った。
「昔…ユリウス様が仰ったんです」
『………え?』
皆が漠然と彼を見る。
「好きな人が…自分の所為で死んでしまったと」
「……………好きな人…?」
「そうです。その人がメイドだったという以上は何も語って下さらなかったのですが…もう好きな人は作らないと言ってました」
だから、ユリウスは〝好き〟という言葉にたんな反応をしたのか。
自分が好きになった人が…死んでしまうから。
それも…関わったのが同じメイドだったから。
「………………呆れた…」
『………………え…?』
ラナは険しい顔で、怒ったように拳を握り締める。
「子供じゃないんだから…好きだこうだで他人を巻き込んじゃないわよ……食事を残されるこっちの身にもなれ……」
『……えっと……ラナさん…?』
ラナは無言で歩き出す。
そして…ユリウスの部屋の前に来ると、ガンッと扉を蹴破った。
『んなぁっ⁉︎』
「っ⁉︎」
後から追いついた他の幹部達は愕然とその様子を見守る。
ラナは中に入ると…椅子に座っていたユリウスの胸倉を掴んで、思いっきり窓ガラスに向かって投げ飛ばした。
『投げたぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎』
ユリウスの部屋は住居館の二階だ。つまり…適度な高さである。
しかし…ラナは二階だというのも物ともせず、その後を追って、窓ガラスから飛び出す。
先に投げ飛ばされたユリウスは、建物の側にある林に魔法を使って着地した。
虚ろな瞳で…ラナを見つめる。
そんな視線を向けられたラナは持ち前の身体能力で着々すると、彼に向かって指を差した。
「いつまでも引き篭もってんじゃないわよ、このヘタレ‼︎」
「は……?」
ユリウスが怪訝な顔になる。
ラナはスカートのボタンを外し始める。
「好きだろうが好きじゃなかろうが…どうでもいいわよ。勝手にしない」
「………………」
「でもね…食事もまともに取らないなんて許さないわ。というか、ある意味メイドの私が原因なんでしょっ⁉︎」
「…………………は…?」
ラナはいきなり、意味不明なことを言い出す。
「取り敢えず…好きとか嫌いとか置いといて…私が一緒にいたから、そうなったんでしょ?一緒にいた人が死んだから、もう嫌なんでしょ?」
「………」
ユリウスは顔を歪める。
どこまで知っていると伺うような視線だ。
そんな視線に答えるようにラナは微笑む。
「なら…面倒だし、証明すれば良いわよね?」
「………………何を…?」
ラナのスカートがふわりと空に舞う。
ロングスカートの下の部分が取れて、ショートスカートに変わっていた。
その右足にはユリウスから貰った特製の武器。
「………私がただで死ぬような人間じゃないって」
次の瞬間、ラナの身体は地を這うようにしてユリウスに急接近していた。
「っ⁉︎」
ユリウスは即座に防御魔法を張り、ラナの正拳突きをガードする。
「……正拳突きって…‼︎」
「一応、偉い人だし……身体を攻撃する時は…武器は使わないであげる。まぁ、魔法は別だけど」
不敵に笑ったラナは武器を取り出すと、ナイフ状の先端がついたロープを勢いよく放つ。
「っっっ‼︎」
ナイフは容赦なくユリウスの防御魔法を打ち砕く。
「行くよ?」
ラナはそのまま上段、中段、下段の回し蹴りを繰り出す。
引き篭もっていた割には動けるらしいユリウスは、それを紙一重で躱す。
ロープが舞い、ラナとユリウスの攻防が続く。
「足元がお留守よっ‼︎」
そんな中、ユリウスの油断を読んだラナがしゃがみ込み、足掛けをして彼の体勢を崩した。
そのまま立ち上がると同時に踵落としを噛まそうとして……。
「ふっ……‼︎」
ユリウスは右腕にだけ、防御魔法を展開してそれを防ぐ。
「…………ふふっ…そうこなくっちゃねっ…‼︎」
互いに距離を取って、牽制し合う。
考えていることは同じだったらしい。
「次で決めようか」
「次で決めるか」
声が重なる。
なんでこんなことになってるのか……という雰囲気ではあるが、取り敢えずいっかとラナは苦笑する。
そして……ユリウスが勢いよく駆け出した。
ラナは身動き一つせず、それを微笑みながら見つめる。
「………っ…‼︎」
「甘いわよ、ユーリ」
「うわっ⁉︎」
ユリウスの足に絡みつくロープに、思いっきりバランスを崩されて…ドタンッ‼︎と前のめりに倒れ込んだ。
訳が分からなそうに瞬きを繰り返すユリウスは、ラナを見上げた。
「実は〜…攻防中に罠を仕掛けてみました」
「……………」
ロープは伸縮自在だ。
だから、木に通して罠を作っていた。
ユリウスの魔法と科学を駆使して作られた武器だから出来たことだ。
「これで、私は簡単に死なないって分かったでしょ?もう、不安になることはないんじゃない?」
ラナは笑いながら、そう言って彼に手を差し出す。
ユリウスは呆然とそれを見つめて…口を開いたら。
「……お前……俺を安心させるために…こんなことしたのか…?」
「まぁ、食事を毎回残された恨みもありますけど?」
「…………………ぷっ…」
ユリウスの顔が楽しそうに歪む。
そして…。
「あははははははははははははっ‼︎」
ユリウスは壊れたように笑い出した。
急に笑い出したものだから、ビックリしてラナは後ずさる。
ユリウスは一頻り笑うと…ラナの手を取って起き上がった。
「あー…もう、最っ強だなぁ〜……〝ラナ〟は」
「……………………え?」
ラナは目を見開く。
今聞いた言葉は……。
「もうお前ならなんでも大丈夫な気がしてきた」
「………何を…言って……?」
「好きであろうがなかろうが……ラナは簡単に死なないんだろ?なら、問題ないな」
「…………ん?」
ユリウスはムギュッとラナを抱き締める。
幾日か振りの抱擁はいつもより強かった。
「ユッ⁉︎えっ⁉︎ええっ⁉︎」
「………ラナはずぅっと…俺の側にいてくれよ?」
先程から聞き間違えじゃない程に繰り返される〝ラナ〟という呼び方。
初めて名前を呼ばれて…心臓がドキドキする反面、何故急に呼ばれるようになったかが分からない。
それに…ユリウスの態度もいつも通りに戻って……。
(いやっ、いつもより激しいっー…⁉︎)
絡みつくような腰への手の回し方……。
耳元に溢れる熱い吐息。
こんなの…ラナの心臓が持ちそうになかった。
「…………えーっと…これは解決でいいのかな…?」
エヴァが二階の窓から、抱きつき合う二人を見ながら呟く。
「………うん…いいと…思う…」
ノヴァも微笑ましそうに小さく頷く。
「あの方達は…何をあんなにイチャイチャとっ……‼︎」
「うわっ…自分のことじゃないのに真っ赤っ‼︎」
真っ赤になりながら目を逸らすマルクとそれを茶化すレオン。
色々な〝しこり〟は残しながらも……結局は力技でなんだかんだと、なんとかなった…対決騒動の幕引きでしたー……。