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銀翼館のメイド奮闘記  作者: 島田莉音
13/29

対決後の話







あの対決騒動の後…一つ分かったことがある。




「…………えっ?」




ラナはユリウスの言葉に呆然とする。

広間で彼の膝に横座りに座らせられ(抜け出さないように拘束され)ながら、彼の顔を見つめた。

「だ〜か〜ら〜…チェルシーとは既に婚約関係じゃないんだって」

「………………」

長テーブルを挟んだ向かい…涙目で震えるチェルシーと密かに爆笑する執事のブレイン。

「……え…じゃあ…なんで花嫁(?)対決……?」

「さぁ?」

「分かんないなら止めてよっ‼︎」

「俺に関係あるか?」

「お前が原因だろうがっ……‼︎」

ラナは頭を抱える。

つまりは…アレだ。〝〟婚約者様は言いがかりで対決に持ち込んだと。

「だってっ……‼︎」

チェルシーはグスグスと鼻を鳴らしながら、呻く。

「ユリウス様はマイペースですからねぇ〜。お嬢がユリウス様に近づく女性を排除してても何も言いませんから」

「排除って物騒ねっ⁉︎」

ブレインの言い草に思わずツッコミを入れる。

彼はニカッと笑った。

「ラナはお嬢以上の女性でしたってことですよ」

「………ラナ〝〟って……」

「…………ラナはやらないぞ?」

呆れ顔なラナに反して、ユリウスは冷たい目線を彼に向ける。

「いや、ユリウス様から奪ったら血の雨になりそうなんでご遠慮願いますや」

ブレインは本気で首を振って、拒否していた。

「それに…自分にはお嬢がいますから」

意味深な笑みを浮かべるブレイン。

そんな顔に何にかを感じ時……。

「なんなのよぉぉぉぉぉおっ〜っ‼︎」

完全に空気になっていたチェルシーが子供のように号泣する。

周りの三人は呆然とそれを見つめた。

「好きだったんだものっ……婚約破棄されてもっ……何も言わないから、ユリウス様の御意志じゃないと思ったんだからっ……両想いだとっ……」

「いや、興味がなかっただけなんだが」

「ヒドイィィィィィィイッ‼︎」

容赦ないユリウスの一言に…今回ばかりは同情した。

「目の前でっ……お姫様抱っこで膝にちょこんを見せつけられてっ……‼︎」

「いや、これ、私の意志じゃないの分かってるよね?腰に回ってる手に気づいてるよね?」

「古い女はポイッなのっ⁉︎もう愛してないのっ⁉︎」

「いや、初めから愛してもいないし…なんの感情も抱いていない」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあんっ⁉︎」

チェルシーはこんなにも情緒不安定な危ない子だったのだろうか?

ラナは目の前の少女を険しい顔で見つめた。

「まぁまぁ…取り敢えず。帰りましょうよ」

ブレインがチェルシーの肩をポンっと叩くと、「よいしょっ」と掛け声を掛ける。

次の瞬間、チェルシーはブレインに荷物担ぎされていた。

「ちょっとブレインっ⁉︎」

「責任持って回収しておきますんで」

「ちょっとぉぉぉおっ⁉︎」

「お騒がせしました〜」

チェルシーの言葉に聞く耳持たず、ブレインは艶やかに微笑み広間を出て行く。

残されたラナとユリウスはその後ろ姿を見つめていた。

「あいつも不器用だなぁ」

「………え?」

ユリウスの苦笑にラナは首を傾げる。




「今はあの二人が婚約者同士なんだよ」




「……………えぇっ⁉︎」

新事実に衝撃を受けるラナ。

ユリウスは至ってマイペースに話し続ける。

「あいつの兄が国王あにきの右腕をやってるんだぞ?高い身分なのは当たり前じゃないか。チェルシーとは婚約してもう結構経つだろうし……」

「……なんでそんな人が執事を……?」

自分の婚約者が執事をしているなんて…よく彼女チェルシーは受け入れている。

「さぁ?あ、でも…チェルシーには自分が婚約者だと言ってないって言ってたな」

「……なんで?」

「さぁ?……執事として自分好みに仕込んだから…とか言ってた気がする」

「……………」

何も聞こえなかったことにしよう。

その方が幸せな気がしてきた。

あの馬鹿そうに見えて、そんなことを考えていたなんて…衝撃的過ぎた。

「あ、ついでに〜ラナもお仕置きしようか」

「はいっ⁉︎」

ニコニコと笑うユリウスにドン引きする。

ラナは怪訝な顔で彼を睨んだ。

「俺に手を出したからなぁ……俺の部屋の窓ガラス、割ってくれたし」

「…………………あ。」

忘れていたが…こちらの騒動の時、ユリウスの部屋の窓ガラスを本人を投げつけて割ったのだった。

「………………煮るなり焼くなり…好きにして…」

ラナは覚悟を決めたように呟く。

ユリウスはにこーっと微笑んだ。

「じゃあ、煮るか」

「……………………え?」


ラナはその言葉に…顔を引きらせるのだった……。









*****





「ラナさんを見ませんでしたか?」




マルクがフリフリエプロンをしながら、廊下を歩いていたエヴァとノヴァに聞く。

「ラナ?おれは知らないけど…」

「……………ユリウス様…と…一緒……」

ノヴァはボソリと呟く。

マルクは「ありがとう」と言って立ち去ろうとする。

「…………今は…行かない方が…いい」

「………え?」

「………野暮…って…もの…」

ノヴァの困ったような笑みに、エヴァは何かを悟る。

そして、賛同するように頷いた。

「止めときなよ〜…マルク」

「何故です?」

「……マルクは…頭は良いけど……野暮だった……」

ノヴァの呆れたような声に、マルクはムッとする。

「すみませんでしたねっ‼︎失礼‼︎」

マルクはその場を去る。


双子は呆れた溜息を漏らすのだった……。










マルクは色んなところを探すが、《銀翼館》の本館、住居館を探しても…ラナとユリウスの姿は見つからなかった。

(………後探してないのは……)

住居館の大浴場。

各自の部屋にも浴室はついているが…〝裸の付き合い〟という名目で作られた、浴場だ。

(……………まさか…)

浴場のスライド式の扉を開ける。

すると…脱衣所に置かれた籠には、二人分の服が置かれていた。

「なっ……⁉︎」

この服がラナのメイド服とユリウスの〝白衣〟という独特な服であるのは一目瞭然だった。

浴室のガラス扉の向こうからは何かやら話し声が聞こえる。

『ちょっと…そんなことしないでよ、ユーリ』

『なんでだ?それじゃあ、一緒に入ってる意味がないだろう?』

『あぁっ…ダメだってばっ……‼︎』

マルクは真っ赤になりながら、ガラス扉に駆け寄る。



「何してるんですか、この破廉恥共がぁぁぁぁあっ‼︎」



その先にあったのは………。






*****





「何してるんですか、この破廉恥共がぁぁぁぁあっ‼︎」





「「………………は?」」

ラナとユリウスは唐突に開いて聞こえた叫び声に振り返る。

大理石で出来た大きな浴室のシャワーの前で…ラナとユリウスは水着姿であるモノを洗っていた。

「……………へ?」

ガラス扉の向こうでは目を丸くするマルクがいた。

「……………何してるの?マルクさん」

「というか…破廉恥共ってなんだよ」

ラナとユリウスは怪訝な声でそう言うと、洗うのを再開する。

その手の先には……。

「がぅ」

洗面器に入った角と翼が生えた赤橙色の生物がいた。

丸い瞳にマスコットのような丸々ボディ。

ぬいぐるみ感が否めない…可愛らしい生物だ。

「……………その生命体はなんですか…」

しかし…そんな生物を初めて見るマルクは引き気味の声で問う。

ユリウスはその生物の頭を撫でながら、真面目に答えた。

「ドラゴンの幼体」

「……………は?」

「魔法で召喚してみました」

「はいっ⁉︎」

ユリウスの言葉にマルクは呆然とする。

その顔からして、信じていないようだった。

「いや…ドラゴンを召喚したは良いけど…悪戯っ子でな。インクを零して洗おうとしたんだが…一人じゃ大変で……ラナに手伝ってもらってたんだ」

「煮るかって言われた時はビックリしたわよ…実際は煮る=お風呂ってことだったけど」

「まぁ…怯えさせるのが目的でそう言ったからな」

二人はせっせとドラゴンを洗う。

マルクはそれを受け入れている二人に頭を抱えた。

「……ユリウス様はともかく…何故、ラナさんも受け入れてるんですか……」

「生きてるドラゴンは初めてだけど…成体のドラゴンの白骨は見たことあるから」

「どういうことですかっ⁉︎」

「そのまんまだけど?」

ラナはどっかの国で見た遺跡の中にあったドラゴンの骨を思い出す。

あんなに凄まじい威圧感を放つ存在に、今は可愛らしいこの子がなると思うと…ドラゴンという生態に感心した。

マルクは混乱したように頭を押さえつつ口を開く。

「…………ノヴァさんが…ラナさんがユリウス様のところだと知っていたのは…」

「水着を頼んだからな、二人分」

「がう」

「……………はははは……」

マルクは「そうですか…」と呟くとフラフラとその場から離れる。

二人は首を傾げながら、最後にドラゴンに頭からお湯を掛けた。

「よし、綺麗‼︎」

「がう〜」

満足そうなドラゴンにユリウスは微笑む。

ラナはその子を見ながら、彼に聞いた。

「この子の名前は?」

「〝サン〟ってつけた」

「サンか〜…よろしくね、サン」

「がぅ‼︎」

サンはパタパタと羽を動かして嬉しそうだ。

「んじゃあ…こっからが、お仕置きってことで」

「…………………え?」

ラナはその言葉にピシリッと固まる。

恐る恐る顔を顰めながら…彼の方を見た。

「……サンを洗うのが…お仕置きじゃ……」

「なんのために大浴場に来たと思ってるんだよ」

目の前で笑う彼は途轍もなく悪い笑顔で。

ラナは冷や汗が止まらなかった。

「まさか……」

「水着を着てるし…まぁ、大丈夫だろ?入浴の手伝い、よろしくな?」

ニタニタと笑うユリウス。

(……………確信犯だ……)

男性慣れしていないラナに取って、男性の入浴の手伝いはこの上ないお仕置きだった。






その後……ラナがどうなったかは……ユリウスとサンだけの、秘密ー……。






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