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銀翼館のメイド奮闘記  作者: 島田莉音
11/29

婚約者とメイドの花嫁(?)対決






「そもそもの話…なんで私は花嫁対決(?)なんてする羽目になってるの……?」





ラナはエヴァの部屋を掃除しつつ、今日は休みらしく、邪魔だからとベッドの上に追いやったその部屋の主に問う。

昨日……ユリウスの婚約者フィアンセのチェルシーという子がいきなり花嫁対決(?)というものを申し込んできた。

昨日はチェルシーの勢いが強過ぎてその時は冷静に考えられなかったのだが…ユリウスの婚約者フィアンセというの今考えると……苦い感情ものが胸に広がって、苦しい。

思わず顔が顰めっ面になる程度には。

そんなラナを見て、エヴァは困ったように答えた。

「チェルシー嬢って思い込みが激しいんだよね…ラナに対決を申し込んだのだって、ラナが女性でユリウス様の側にいるからって理由らしいし」

「それ以前に私、チェルシーさんのこと…知りもしないんだけど」

「取り敢えず…おれ達が全員、顔面蒼白になるくらいの個性的な女性だよねー」

「………………」

エヴァは乾いた笑みを浮かべる。ちょっとした憔悴感も溢れていた。

それを見たラナは…なんとなく、何があったのかを悟る。

「まぁ、どちらにせよチェルシー嬢は住居館こっちに来れないし…住居館ここにいる時ぐらい、忘れなよ」

エヴァはそう言うと、バタンとベッドに倒れ込む。

確かに…ただの人間にはあの《地獄回廊》を渡って来ることは出来ないだろうから、住居館ここにいる限り…花嫁対決云々はない。

(というか…もう住居館から出なければ……)

面倒を回避しようと策を巡らせるが、そんなこと出来るはずもなく……。

ラナは本館の客室に泊まるチェルシーのことを考えると頭が痛くなる思いだった。








*****






「もう嫌だ、ボイコットする」





「……………え?」

ユリウスがムスッとしながらそう言ってきたのは…チェルシーが泊まっている本館の客室にカートで昼食を運んでいた時だった。

《地獄回廊》の真ん中で、ユリウスはラナが持つカートの手を離すと…腰に手を回して抱き締めた。

「っ⁉︎」

「もう嫌なんだよ、俺の部屋に帰って寝る」

「ちょっ…だからってなんで抱き締めるのっ……‼︎」

「抱きたかったから」

「ちょっとっ……‼︎」

真っ赤になりながら、彼を見上げると…彼は忌々しそうに顔を歪めていた。

「あの女…一々、仕事の邪魔しやがって……」

あの女というのがチェルシーのことだというのは、直ぐに分かってしまった。

ユリウスをここまで怒らせる人物なのだと…ラナは驚きを隠せない。

「でも…ユーリは《銀翼館ここ》のリーダーでしょ?仕事を抜け出しちゃダメなんじゃ……」

「知るかよ。その仕事を邪魔されてるんだ…もうやってやらねぇ」

「…ユーリ……」

ラナが困った顔で彼を見上げると…ユリウスはムスッとした顔で数秒固まると…ニタリと微笑んだ。

「……じゃあ…メイドが俺の側にいてくれたら、やってやるよ」

「…………………はい?」

「うん、それがいい。ヤル気が出るし…お前が側にいるなら、仕事をやっていい」

名案だと言わんばかりの笑顔でそう言われて…ラナは瞬きを繰り返した。

自分が側にいるだけで仕事をするなんて…なんの意味があるのだろうか?

それに…ラナにだって昼食の給仕という仕事があるのだが…。

「私…チェルシー様のところに昼食を持ってかなきゃ……」

「俺よりチェルシーを優先するのか?」

「だって…仕事だし……」

不機嫌そうな声に、ラナが目を逸らす。

しかし……それが悪かった。






「……………いけない子だなぁ…」






「っ⁉︎」

耳元で囁かれた言葉に、ラナは息を飲む。

顔を背けていたから…彼が何をするのか反応出来なかった。

だから余計に…甘く耳に落とされた声は……魅惑の魔法のように…背筋をゾクッとさせた。

「お前は俺のものだろう…俺の言うこと…聞けよ……」

首筋を撫でながらそう言われて…ラナの思考が停止フリーズする。

ユリウスの言葉はダメだ。

人を駄目にする。

本当に魔法を使ってるのかもしれない…そう思ってしまう程に、骨抜きにされる。

「……ぁ……」

自分の喉から艶めいた声が漏れて、急いで手で覆って口を塞いだ。

「………………ふふっ…甘い声だな……お前の声は依存性がある……」

「………っ…‼︎」

「……甘い…砂糖菓子みたいだ……胸焼けしそう……」

それはユリウスの声の方だ。

そう言いたくても…口を開けない。

声を紡ぐすべさえ奪われてしまったみたいで……。






「すいませんねぇ〜…ちょいっと宜しいでしょうか?」






「「っ⁉︎」」

《地獄回廊》の入り口付近で、一人の青年がニヤニヤと笑いながら立っていた。

ラナはこんなところを見られた恥ずかしさで、真っ赤になる。

「ブレイン」

「こんちは、ユリウス様。うちの馬鹿チェルシーお嬢が迷惑を掛けてすみませんね」

ブレインと呼ばれた彼は、手招きをする。

試練をクリアした者しか通れない通路だ。それは当たり前だろう。

「ユッ…ユーリ………離してっ…」

「えー?」

「早くっ……じゃないとユリウス様って呼ぶっ……‼︎」

やっと離してもらったラナは顔を真っ赤にしながら、カートを押して彼の元に向かう。

彼はにっこりと微笑んだ。

「初めまして。自分はブレイジングの弟のブレインと言います。主に勝手に先走られて、置いてかれたので…着いたのが、さっきで挨拶が遅れました。宜しく」

「………メイドのラナです…」

ブレインは観察するようにラナを上から下まで見つめる。

そんな視線に反応したのは、ユリウスだった。

「………なんだよ」

怪訝な顔でラナを守るように二人の間に入るユリウス。

「いやぁ?今回はお嬢が当たりな気も…」

「は?」

「いや…ユリウス様にお嬢への気持ちがない時点で関係ないか。ユリウス様はこの子が好きなんですか?」

「……………好き…?」

ラナは目を見開く。ユリウスも呆然としていた。

今、彼はなんと言った?

(ユーリが……私を好き………?)

「あ、その顔だと二人とも無自覚的な感じなんですね。あー…だから、今回はそんなにユリウス様がキレてる訳だ」

「……………俺が…キレてる…?」

「お嬢がユリウス様を邪魔しても、今まで無視してたじゃないですか。家具インテリア感覚で」

家具インテリア感覚なんて…かなり酷い扱いのはずだ。

「でも、今回はキレてボイコットまでしてるんでしょ?つまり〜…他の女以外が側にいたからでしょ」

ブレインはケラケラと笑う。

ラナとユリウスはただ、呆然としていた。

「でも…ユリウス様は王弟。この子はメイドさん。身分違いの恋ですぞ?大丈夫ですか?」

「…………えっと…」

ラナは困惑した声を漏らす。

一体、彼は何を言って……。






「この馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎」






「うおっ⁉︎」

そんなブレインの身体が思いっきり後ろに傾く。

首を思いっきり引っ張られたらしい。

その後ろには鬼気迫る顔のエヴァがいた。

「うおっ…エヴァっち?」

「………この空気読めない系が…」

エヴァが耳元でコソコソ囁くと、彼は「マジでっ⁉︎」と驚いた顔をする。

そして…バツが悪そうに顔を顰めると、ラナの手からカートを取った。

「ごめん、今のはナシで」

「「え?」」

「いや…そこまで純粋だとは…」

「いーからとっとと、給仕に行け‼︎執事だろっ⁉︎」

「あ、そうだった……」

エヴァはこれ以上何かを言わせないようにカートを持たせてブレインを追い払った。

そして、二人に振り返るとワザとらしい咳をした。






「あのね…二人のことは二人で考えなきゃいけないと思うんだよね。だから…今の言葉は忘れて…ちゃんと二人で答えを見つけるんだよ?」






エヴァはそう言うと、「んじゃ、これで‼︎」とその場を立ち去る。

「………………」

「………………」

残された二人の間になんとも言えない沈黙が漂う。

〝好き〟…ということは恋愛感情ということだ。

(………好き…?)

ラナは顔を顰める。

この気持ちの正体が…よく分からない…。

「……………好き…な…はずがない…」

「…………え?」

その声は本当にユリウスの声だったのか?

聞いたことのない低い感情のない声に…ラナは振り返る。

「…………っ…⁉︎」

そこにいるユリウスは…何も映さない翳った瞳で…こちらを見据えていた。

「仕事に戻る」

ユリウスはそうとだけ言うと、直ぐに仕事に戻っていった。




ラナはそんな後ろ姿を…困惑した視線で見つめていた。







*****








「花嫁対決三本勝負よっ‼︎」




昼食を終えた頃…カートを片付けに来たラナに向かってチェルシーがそんなことを言う。

しかし、ラナは先程のユリウスの態度に気を取られていて…反応さえしなかった。

そんなラナの態度にチェルシーは癇癪を起こす。

「ちょっと聞いてるのっ⁉︎」

「………え…?」

指摘されて、自分がチェルシーの部屋に来ていることに気づいたラナは呆然と頷いた。

「調子、悪いんですか?」

「……………いえ…」

不安そうなブレインにも生返事で返す。




『……………好き…な…はずがない…』




頭の中でユリウスの言葉が渦を巻く。

チェルシーは反応の薄いラナにイラっとしながら、指を指す。

「一本目‼︎お料理対決‼︎」

「……住居館キッチンに…入れないのに……?」

「はっ……‼︎」

ラナの生返事の答えに、チェルシーは口元を押さえる。

住居館キッチンに入れないなら、対決以前の話だった。

チェルシーは誤魔化すように再び指を指す。

「二本目、お裁縫対決‼︎」

「……………裁縫出来るの…?」

「舐めないでっ‼︎」

ブレインが用意した裁縫セットとほつれた布で裁縫を始める。

ラナはパッパッとほつれを直す。

チェルシーは今だ、縫い終えていなかった。

「〜〜〜〜〜っ‼︎三本目、護身術対決‼︎」

そう叫んだ次の瞬間には、チェルシーは仰向けで寝そべっていた。

「っ⁉︎」

「………これでいいですか…」

ラナは痛みを与えずにチェルシーを転がした。

そのまま一礼すると、カートを手にその場を後にした。

花嫁対決なんて眼中になかった、ラナの心の中にあるのはユリウスのことばかりで。


ユリウスのあの冷たい顔が。


ユリウスの翳った瞳が。


ラナの心の中で……強く残っている。

(………ユーリ………)









ラナは不安を胸に…顔を歪めるー……。



何かが…動き出してしまった気がしたー…。







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