6 夕焼け空
6 夕焼け空
教室には、隣の高校生と話し合っている者や机の一点を見つめたまま、微動だにしない高校生達がまだ多数残っている。席に着いている者もいれば、立ったまま何やら考えこんでいる者もいる。それだけ見れば何ら変わらないただの教室の風景だった。一つだけ違うことあるとすればそれは、教室に漂う微妙な緊張感。ピンと張り詰めた糸のような緊張でもなければ、使い古されたゴムのようにユルユルでも無い。そう、まさに微妙な緊張感だった。
「瀬奈はこの後、どうするの?」
瀬奈の頭上から突然そんな声が降ってきた。考え事をしていた瀬奈は、その声にはっと我にかえる。見上げるとそこには、藤咲ツグミが通学カバンを手に瀬奈を見下ろしていた。
「…どうするって、何が?」
そう、瀬奈が応えるとツグミは少し怒ったような顔をしながら言う。
「何が?、って決まってるでしょ。帰るのか帰らないのかって聞いてるの。それとも、まだここにいるつもり?」
ツグミにそう言われ、教室を見渡すと、もうすでに教室には生徒の数は少なく、多半数は帰っているようだった。坂本も言う事だけ言ってすぐに教室を出て行ってしまっていた。
「じゃあもう帰ろうかしら。時間も時間だしね。」
左手に付けている腕時計を見れば、もうすでに6時半を示していた。
「そ。なら、そこまで一緒に帰りましょう」
ツグミはにっこりと笑う。瀬奈も頷き、席を立つ。
「…瀬奈は信じる?あの坂本って人が言ってたこと。」
古びた校舎をでるたび瀬奈は、ツグミにいきなりそう問いかけられた。
「…信じるっていうか、信じるしかないでしょう?実際、魔物は存在してるわけなんだから。」
瀬奈がそう言うと、ツグミは少し俯きげに言った。
「それは…そう、なんだけど…なんか、わけわかんなくて。いきなり、魔物だ、魔術師だっていわれても実感湧かないっていうか…。」
「…確かに、とんでもない話だけど、今は信じるしかないわ。…だって、私、今のこの状況を変えたいもの。」
瀬奈はツグミの方を向き、少しだけ不敵に笑ってみせた。
「このまま、あの化け物に殺されるなんて、いや。…あの化け物と戦う術を教えてくれるのなら願ったり叶ったりだわ。」
そうして、瀬奈は前に向き直り微笑をうかべる。
「それにね、私、少しだけワクワクしてるのよ」
「へ?…何で?」
「だって、この化け物が見えちゃう眼のせいで高校でも、家でも、居場所が無かった。…だから、少しだけ、嬉しいのよ、自分だけじゃないんだ、って思ったら。」
瀬奈は、綺麗な夕焼け空を見上げ、眼を細める。
その姿にツグミは、少しだけ見とれてしまった。ツグミは瀬奈のことを、初めて見たときから綺麗だな、と思っていたが、夕日を浴びて微笑をうかべる瀬奈はとても美しいとツグミは思った。女である自分でさえ見惚れてしまうほど。
ツグミは、突然思いっきり息を吸い込んだ。そして、なにか吹っ切れたように顔を上げると、瀬奈に言う。
「そうね!どうせこのままじゃなんにも変わらないものね。…決めた!私、毎日ここに来て魔物と戦う術を身につけるわ!そして、魔物なんかやっつけて、高校生活を思いっきり楽しんでやる…!!」
その声は、夕焼け空に大きく響き渡った。




