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3 【黒い手紙】



水城瀬奈(みずきせな)は古い校舎の古びた廊下を歩いていた。廊下の床はブーツで踏むとギシギシと音がなり、今にも穴があいてしまうのではないかと不安を感じた。

(こんなところ、本当に大丈夫なのかしら…?)

不安になりながらも、瀬奈はゆっくりと目的地へと歩を進める。肩に掛けている紅いバットケースが足にあたりトンっと小さく音をたてた。

そうしてしばらく歩いていたが、ある教室のドアの前で足を止めた。ドアに手をかけゆっくりと開く。すると、教室独特の木の臭いが流れ込んできた。そのあまりいい記憶のない臭いに瀬奈は顔をしかめながらも、教室のなかへ足を踏み入れる。教室の中は何ら普通の小中学校や高校と変わりのない風景だった。壁一面分の大きさがある黒板に、黄土色の教卓。板とパイプを組み合わせた机と、その前に置かれた薄汚れた椅子。机と椅子の組み合わせが一定の間隔をあけ、教室中に所狭しと置かれている。その【席】にはもう何人かが着席していた。少しささやき声や話し声が聞こえてくる。

彼ら、彼女らは、皆高校生ぐらいの年齢で、その証拠にそれぞれが通っている高校の制服をきていた。瀬奈も例外ではなく、15歳の女子高生だ。真っ白なワイシャツに、グレーのパーカー、紺のネクタイ、同じく紺のプリーツスカート。靴は、学校指定のものではなく、焦げ茶色の編み上げブーツを履いていた。髪の毛は肩より少し長めのセミロング。髪色は元々色素が薄いせいもあり、薄い茶色だ。光の加減により、金髪の様にも見える。そのため、染めていると勘違いをされ、少々やっかいなことになったことがある。なので、この髪色はあまり好んではいなかった。

瀬奈は教室を見渡し、どこに座ろうか少々悩んだ。こういうものはやはり後ろから座るものだろうか、と考えているうちに、教室の一番前でドアから一番近い席に座っている少年と目が合った。黒いニット帽を被っており、その下からは少し長めの前髪が伸びている。染めているのだろうか、金髪と銀髪の中間の様な髪色だった。前髪の下からは、鋭い瞳が覗いている。ワイシャツのうえに黒いスタジャンを着ていて、いかにもガラが悪そうな風貌だ。

その少年は瀬奈と目が合うとすっと視線をはずし、ニット帽を深く被り直した。

瀬奈はさして気にすることもなく、その少年の後ろに座った。

肩に掛けている紅いバットケースを手の届く範囲に立て掛ける。そうして、しばらく目の前の机に頬杖をついて黒板を眺めていると制服をきている女子高生が隣にすわるのが目に入った。セミロングの髪を赤いリボンで二つに結び、前髪がきれいにそろっている。瞳は丸く、活発そうな雰囲気。いわゆる、いまどきの女子高生だ。彼女は席に着くなり、ふぅと小さく息を履いた。そして視線を感じたのか、瀬奈に向かって話しかけてきた。


「…あなたも、〈あの手紙〉が届いてここに?」


物怖じしない性格なのか、女子高生は気軽に話しかけてきた。


〈あの手紙〉とは今朝、郵便受けに入っていた、黒い封筒に包まれていた手紙のことだろう。

瀬奈は今朝、いつものように起き、習慣になっている、新聞を父親に届けるため郵便受けに向かった。郵便受けの中を覗くと、そこには見慣れぬ黒い封筒がはいっていた。薄気味悪くなり、その封筒をまじまじとみると、瀬奈の家の住所と【水城瀬奈様】としか書かれていなかった。

新聞を父親に届け、自分の部屋に戻り、黒い封筒の封を切る。すると、中からは黒い封筒とは対照的な白い便箋がでてきた。その便箋には、こう書かれていた。



あなたは、【見参者】に選ばれました。直ちに対魔物専門塾に通うことをお勧めします。あなたのお悩みも解決されるはずです。



その下に、この廃校舎の住所と教室の場所が書かれていた。

瀬奈はそうして、この廃校舎にやってきたのだった。

おそらく、この少女のところにも同じ手紙が届いたのだろう。

しかし、あんな胡散臭い手紙を信じ込んだ人間がこんなにいたのには正直、瀬奈も驚いていた。ざっと見ただけで20人程いる。

きっと、あの手紙に書いてあった【対魔物専門塾】という言葉と【悩み】という言葉がこの人数を呼び寄せたのだろう。自分もその言葉に興味を引かれたのだ。【悩み】とは結構やっかいなもので、瀬奈もそのことで日々悩まされていた。おそらく、ここにいる全員、瀬奈と同じ悩みを抱えているに違いない。そう思うと何故だか少しだけ安心感がわいた。


「…ええ。」


瀬奈は女子高生の問いかけに短く応えた。


「何か気味悪いわよねー、あの手紙。」


女子高生は腕を組み、足をぷらぷらさせながら呟く。そして、思い立ったようにこちらに目を向け、口を開く。


「あたしは、藤咲ツグミっていうの。あなたは?」


「…水城瀬奈よ。」


瀬奈が気軽に応えると、ツグミは少しだけ笑顔になった。


「じゃあ、瀬奈って呼ばせてもらうわね。」


瀬奈が頷くと、ツグミは眉を潜め、苦虫を潰した様な顔をして続けた。


「瀬奈も、あの…【化け物】…みたいなのが見えるの…?」


【化け物】が何を指しているのかは容易に想像できた。おそらく、〈あれ〉のことだろう。

少し間をおいてから瀬奈は応えた。


「…ええ。…見えるわ」


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