五話 序章 〜とある女神のはなし〜
これは遠く果てないおとぎ話。
一柱の女神がいた。
女神は海の向こう側からやってきて、海の底から地面を盛り上げて大地を作った。思いつくままに植物を生やし生き物を作った。それは女神にとっての箱庭であったのだろう。
仕上げとばかりに、女神は言葉を理解出来る人間を作った。住処を七つに分け、それぞれにそれなりの数の人間を作って置いた。
箱庭の出来上がりに満足した女神は流石に疲れたと一眠りした。
どのくらい眠っていたのか分からないが、目を覚ました女神が見たのは、七つに分けた住処のうち六つで暮らす、作った覚えのない生き物だった。それらを見て女神は気味が悪いと思った。
女神は怒った。海向こうの神の何某かが女神の箱庭に悪戯をしたのだと。
怒った女神は大地の周りの海を閉じて誰も入れないようにした。
残ったのは自分が作った箱庭と、他所の神に弄られた生き物たち。
優しい女神は、仕方ないと弄られた生き物も自分の箱庭の一員として認めることにした。
しかし、それからの箱庭は女神の思うようにならなかった。
住人たちは見た目が違うと喧嘩をする。お前のものが欲しいと喧嘩をする。喧嘩、喧嘩、喧嘩ばかりするようになった。
最初は女神も仲良くしなさいと叱ったりもしたが、どれだけ言っても喧嘩は無くならない。
そのうち、疲れた女神は彼らの喧嘩を見過ごすようになった。
長い時間が経って、思い通りにならない箱庭に新しい命が生まれた。
その命は女神の作った人間と他の神に弄られた生命との間に生まれた。
女神は喜んだ。
この命は変化だと。喧嘩ばかりの大陸に差した光だと。
しかしその期待は裏切られた。
新しい命は親子共々住処から追い出されてしまったのだ。
新しい命の容姿が気味が悪いと。
女神が仕方ないと許した特異性を、大陸の生き物たちは許さなかったのだ。
追い出された親子は新しい住処を探して彷徨い歩いた。そのうちに母親が病に倒れ、父親も投げられた石から子供を守って命を落とした。
この結果に女神は怒った。そして決めた。遺った命は自分が守り育てると。
女神の庇護を受けた命は良く育った。
大きくなった命は同じような命は他にも必ずいる、彼らを助けたいと女神に願った。
女神はその願いを叶えたかったが、既に大陸に新しい住処を用意出来る場所は存在しなかった。
構わない、許してくれればいい、自分たちで見つけると言う命に、女神は許しを与えた。
そして成長した命は仲間を集め、大陸の隅にあった荒地に住処を作った。
喜んだ女神は自身の『豊穣』の力を彼らに与えた。
荒れた野は肥沃な土地に変わり、彼らの間にも新しく命が生まれるようになった。
しかし、その力を妬んだ人間が彼らを襲い始めた。
女神は自分の創造物の行動に怒り狂い、彼らに罰を与えた。
持っていた優れた能力を無くし、非力になった人間たちは女神に許しを願った。
その哀れな姿に、女神は外敵から身を守れるだけの力を授けた。
それを知って他の種も力を欲しがるようになった。
疲れた女神は自分に残った力をそれぞれに分け与え、眠りについた。
これは昔と語るもおこがましい、既に風化した物語だ。




