幕間
アールマンたちが転移陣の作成に取り掛かった頃、隣国イスカでも動きがあった。
イスカ東部に広がる湿地帯の中央部。そこにある砦に押し込められていた獣人族たちが、脱走を図ったのだ。
「急げ!早くしないと追っ手が来るぞ!」
沼地に足をとられつつも、彼らは必死に南を目指す。ハイビスに戻ればイーヴィスの勢力に捕らわれるかもしれないが、このまま留まっていても似たり寄ったりの境遇であることに変わりはない。
彼らは、イスカに優遇されると思い親殺しを行ったルキに付き従いハイビスを出奔した。しかし、実際には家畜と同等に扱われ、労働に見合う対価もなく、食糧もまるで土を食べさせられているかのような劣悪さだった。
何より許せないのが──何故あの親殺し一人だけが、のうのうと『天上』で暮らしているのか!
多量の水分を含んだ地面に転倒する者を足場にしてまで、彼らはひたすらにイスカを出ることのみに注力していた。
──見苦しい。
前のみを見て駆けていた彼らに、天高くから不可視の鉄槌が降り下ろされる。
多数の獣人が沼に沈められた中、難を逃れた獣人が空を仰ぎ見た。
「で、出た……」
誰が出したのか、恐れおののくような声色の先に滞空するのは、曇り空を背にして地を這う獣共を睥睨する亜麻色の翼人族。
〝鳥の国〟イスカを管理する評議会の長──リフィルド・マーカー。
リフィルドは手にした大槌を片手で軽々と肩に担ぎ、立ち竦む獣人族に声高らかに命令する。
「さっさと砦に戻れば、これ以上危害は加えない。逆らうならば、更なる裁きが降り注ぐと心得よ」
「ふ、ふざけるな!あんなところに戻ったって」
声を荒らげる獣人族に、リフィルドは冷めた視線を向けて担いだ大槌を両手に持ち直して振り上げる。
「天誅」
リフィルドが大槌を降り下ろすと、地上で叫んでいた獣人とその周囲にいた数名が潰れて沼の中に消えた。
「まだ、逆らうのか?」
冷徹な声に見下された獣人たちは脱走を諦め、沈んだ仲間を引き摺り出しながら砦へと引き返していく。
彼らの姿が見えなくなると、リフィルドは鼻を鳴らして翼をはためかせて居住地へと戻っていった。




