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番外編 ~少年の興味~

ハイビスでも変わらずに行われるシロの授業。表に出られないラビの代わりに、珍しくアールマンが教鞭を取っていた。

「例えば、だ。この辺りの土を石にしろと言われたらどうする?」

靴の爪先で軽く地面を掘り起こすアールマンに、問われたシロが答える。

「無理だと言う」

「鍵を開けた扉をすぐに閉めるような真似をするな」

呆れたようにシロの回答に罰点をつけ、アールマンは掘り起こした土を手に取った。

「お前が『魔術について教えて欲しい』と言ってきたから、俺自らが教えてやろうというんだぞ?もっと真面目にやれ」

「他の人でもよかったんだけど」

「リィンには現場の仕事があるから時間が取れない。ラビは療養中。ルリは散歩だ」

「その辺の兵士とか」

「人手の限られる現情況では魔術の使える者は東奔西走の忙しさだ。お前の授業に回してやれる暇人はいない」

「……あんた、暇なのか」

応酬の結果導きだしたらしいシロの見解に、「そんなわけないだろう」とアールマンが返す。

「今抱えている案件は一段落ついたからな。中休みというやつだ」

「ふぅん」

「……まあいい」

特に関心の無い様子で相槌を打つシロを半目で睨む。だが、そうしている時間も勿体無いとアールマンは手に持った土を握り締めた。

「分かりやすく言えば、土を石に変える方法が『術式』だ。この場合は『握る』ことだな。俺が土に加えている力が『魔力』。そして」

アールマンが拳を開くと、ぱらぱらと土塊が落ちていく。

「結果として生まれたものが『魔術』だ」

落ちた土塊を見つめ、シロが首を傾げる。

「石にするんじゃなかったのか?」

「ああ。『術式』を作り、『魔力』を加えた結果、今の『魔術』は失敗した。何が悪かったのか、お前に分かるか?」

二つ目の問いに、今度は暫し考える素振りを見せてからシロは口を開いた。

「土に加える力──『魔力』が足りなかったから?」

「それでも正解ではあるが、それだと解決法が無いな。『術者』の『魔力』には限界がある。限界を越える力を扱おうとすれば身を滅ぼす」

「じゃあ、方法──『術式』の方か?」

アールマンの説明を聞いて、シロが改めて答えを口にすると、アールマンは口角を持ち上げて頷いた。

「例えば、だ」

足下から土塊を拾い直し、さらに逆の手で石を拾った。そして土塊を放り投げ、拾った石を掘った穴に置いた。

「これで土は石になった」

「……えー」

納得がいかないと声を上げるシロに対し、アールマンは笑いながらその頭に手を置いた。

「魔術は言ってみれば結果を生み出す術だ。一見、手品や子供騙しにしか思えないような手段でも、成功したならそれが答えになる」

「分かるような、分からないような」

アールマンの手を退けつつ、シロは首を捻る。

「まあ、実際に土を石に変えるような真似は魔術では難しいんだがな」

一人ごちるように言ったアールマンに、シロが顔を上げる。

「そうなのか?」

「ああ。そういう物質の変換は錬成術の区分だ。魔術でも創造に関することが出来ない訳では無いんだがな。規制があって難しいんだよ」

「錬成術ってなに?」

新しい単語にまた首を傾げると、アールマンは一瞬だけ苦い顔をして頭を振った。

「魔力とは別に、薬品や道具を使って効率的に物質に干渉する術のことだ。魔術と違って必要とする知識が膨大な為に術者は少ない」

「へえ」

気になる点はあったものの、自身の疑問には関係ないとシロは適当に相槌を打った。

「何にしろ、魔力が無いと扱いようがないってことは分かった」

「なんだ、魔術を使いたかったのか?」

それは初耳だと、アールマンが目を丸くする。

「使いたい、というのとは違うけど。あったら便利そうだとは思った」

「そうか」

残念そうな様子が見られないということは、本当に興味があっただけなのだろうか。

「さて、他に聞きたいことはあるか?無ければ終わりにするが」

「無い」

「ならいい。また何かあれば聞きに来い。時間があれば教えてやる」

そう言って去っていくアールマンを見送ったあと、シロは穴に置かれた石を拾って思いっきり放り投げた。

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