幕間
出兵の準備も整い、いよいよ明日本城を発つ。
その夜、アールマンは久方ぶりにまともな睡眠を取るべく、早々に寝室へと入った。
「お疲れ様、アール」
「ああ」
寝台の上に座って待ち構えていたユウリから労いの言葉を受け、アールマンはすぐにユウリの隣に寝そべる。
そのまま寝入ろうと蒲団に手をかけると、蒲団を持った手をユウリが掴んで止めた。
「ん、どうした。何かあるのか?」
普段ならば一緒に寝ようと蒲団に潜り込んでくるのに、常らしからぬ行動を訝しんだアールマンが体を起こして訊ねる。
するとユウリは、「ん」と頷いてアールマンの膝の上に腰を掛けた。
「アール、また行くんでしょ?」
「また、と言うほど頻繁に戦地に出向いているつもりはないが……。まあ、そうだな」
「ユウリは怖いよ」
ぎゅっとアールマンの襟を掴み、俯く。
「兄様のこと、ユウリは知らないけど、ハイビスに殺されたことは知ってる。アールも、殺されちゃ、やだよ」
それは口の重いユウリにとっての、精一杯の制止だった。
彼女は二十年前の戦で顔も知らぬ兄を失い、それが切っ掛けで生を受けることとなった。それ故に、ユウリは幼い時分からハイビスという国を意識せざるを得ず、年を経る毎にその意識は恐怖心へと変わっていったのだろう。
実はこの城にいる誰よりも、この少女がハイビスとの戦いに恐れを抱いていたのだ。
「あっちに行っちゃったら、会えなくなる。それはやだよ」
『行かないで』と、ユウリはねだるように頭を擦り付けてくる。
アールマンとしては、この娘の珍しい我が儘に応えてやりたくはあるが、そうするわけにもいかない事情がある。
「お前の言う通り、戦の中で死ぬ可能性はある。だからといって、行かないわけにはいかない」
「……なんで」
「まだ、何も終わっていないからだ」
理解させるつもりのない言葉だったが、それでもユウリは何か感じられたのか、頭を離して潤んだ瞳をアールマンに向けた。
「帰ってくる?」
「多分な」
このような場面でも確約しない辺り、アールマンは卑怯な男と言える。だから、ユウリはもう一歩踏み込める。
「ユウリは、待つよ。アールが帰ってくるのを、待ってる」
「そう……っ」
言葉を紡ぐ最中に、アールマンは唇を塞がれた。見開かれた眼には、目を閉じたユウリの顔が映っている。
一瞬の口付けの後、顔を離したユウリがアールマンの首に腕を回す。
「待ってるから、待っていられる証を頂戴?アールを信じられる、アールを待つユウリを信じられる、証を頂戴」
首筋にも口付けをして、ユウリは体を更に擦り寄せる。
「ユウリは、アールの家族になりたいよ」
涙混じりの告白に、硬直していたアールマンの腕が、ユウリの肩を抱いた。
「ありがとうな、ユウリ」
ここまで想われ、ここまで言わせて、それに応えずして戦地に赴けるものか。
アールマンは密着したユウリの体を強く抱き締め、耳元で囁いた。
「これからお前を抱こう。いいか?」
こくりと、小さく頷く。
アールマンはユウリの体を解放し、改めて肩を抱いて口付けを交わした。




