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異世界アニメを3万時間観たオタクだけが知ってる最強の生存術  作者: ミハト
シーズン1:出会いと最初の別れ

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第3話:遺跡の奥へ

 青白い炎が、二つ。暗闇の奥で、ゆっくりと近づいてくる。

 やがて、それは姿を現した。骸骨の顔。古びたローブ。骨の手には、禍々しい杖。

 ワイト系か……アニメでよく見た。魔法型の、不死者。

 暗視のおかげで、奴の動きは丸見えだ。周囲には、奥から湧いてきた新手の魔物も数体。……こいつが、この巣の〝主〟か。

 俺は剣を構えた。全身は傷だらけ。それでも、心のどこかに余裕があった。

 超反射がある。魔法でも物理でも、跳ね返せる。

 ――来い。

 ワイトが、杖を振り下ろした。黒い閃光が放たれる。俺は避けなかった。むしろ、待っていた。この一撃を反射すれば、一気に形勢は――

 直撃。

 ……反射は、発動しなかった。

「がっ……!!」

 黒い衝撃が体を貫き、俺は大きく吹き飛んだ。石の壁に叩きつけられ、床に崩れ落ちる。胸から血が滲んでいた。

「……反射が。効かなかった」

 超速再生が発動して傷を塞ごうとする。だが、遅い。痛みが、内側から来る。普通の傷と、明らかに違う。

 超反射は……物理しか、対応していないのか。

 完全に、想定外だった。

 女神にもらった俺の切り札は、魔法の前では――ただの、置物だった。


   ◆ ◆ ◆


 ワイトが、ゆっくりと近づいてくる。勝ちを確信した、余裕のある動き。

 落ち着け。整理する。

 物理攻撃は、超反射で返せる。でも魔法は、反射できない。なら、魔法は一発も食らわないことだ。

 ――魔法型の詠唱には、必ず〝溜め〟がある。アニメの鉄則だ。杖に光が集まる、あれが合図。暗視なら、この暗闇でもそれが見える。

 周囲には、まだゴブリン系と獣系の雑魚が残っている。同時戦闘か。方針はこうだ。弱い攻撃はあえて受けて、反射で倒す。重い一撃だけ剣で受け流す。そして――杖の光を見て、魔法だけは避け続ける。

 ゴブリンが剣を振りかぶって突進してきた。エルフの剣で受け流す。武器操作と剣技(初級)が噛み合い、体勢を崩したゴブリンを返す刀で斬り伏せる。

 同時に、ワイトの杖が光った。来る。地面を転がって回避。黒い魔法が、床を焦がした。

 ……焦げた床を見て、血の気が引いた。

 まずい。アイツの魔法は、遺跡ごと壊す。俺が避けるたびに、壁や装飾に当たったら意味がないじゃないか。

 ――誘導する。装飾から一番遠い、広間の中央へ。

 そこからは、綱渡りの連続だった。

 獣の突進を反射で跳ね返す。ゴブリンの斬撃をあえて浅く受けて、反射で吹き飛ばす。物理は捌ける。捌きながら、一歩ずつ、広間の中央へ移動していく。

 その合間を縫って、ワイトの魔法が肩をかすめた。血が飛ぶ。

「くっ……!」

 超速再生が傷を塞ぐ。だが、魔法ダメージの回復は目に見えて遅い。物理の傷はすぐ塞がるのに、魔法の傷は、じわじわとしか癒えない。

 受けて、流して、返して、避ける。四つの動作を同時に回し続ける。

 視界の隅で、ウィンドウが明滅した。

 ――【超反射(熟練度78%)/超速再生(熟練度74%)】

 熟練度が……すごい勢いで、上がってる。

 当然か。こんなにスキルを酷使したのは、転生してから初めてだ。

 だが、消耗も限界に近かった。ワイトが雑魚の影から放った一発を、避けきれずに足に食らう。転倒。回復が、追いつかない。

 ……でも、死んでない。まだ、動ける。

 立ち上がる。全身、傷だらけ。

 その俺を囲むように、残った雑魚敵が四方から迫ってきた。そして中央では――ワイトが杖を掲げ、巨大な魔法の球体を形成し始めていた。

 挟まれた。全方位からの攻撃を捌きながら、あの巨大魔法も避ける……?

 無理だ。

 ……詰んだ、か。

 その時だった。視界の隅のウィンドウが、目に飛び込んできた。

 ――【超反射(熟練度98%)/超速再生(熟練度97%)】

 熟練度、九十八パーセント。

 ……アニメの法則なら。スキルは、限界まで使い込んだ時に――進化する。

 ワイトの巨大魔法が、解放された。

 俺は、回避をやめた。両足で踏みとどまり、正面を向く。

 どうせ避けきれない。なら――残りの二パーセント、この一撃に賭ける!!

 巨大な黒い塊が、俺に直撃した。

 ――同時に。

 俺の全身が、二色の光に包まれた。一つは超反射の白い光。もう一つは、超速再生の緑の光。

 ――【熟練度100%到達――超反射がLv1からLv2へ、レベルアップ!】

 ――【超反射Lv2:魔法攻撃も反射可能。ただし受けたダメージ・衝撃は自身にも残る】

 ――【熟練度100%到達――超速再生がLv1からLv2へ、レベルアップ!】

 ――【超速再生Lv2:回復速度が大幅に向上。ただし限界はある】

 光が収まった時――巨大な魔法は、ワイトに向かって反射されていた。

「……賭けに、勝った」

 反射された自分の魔法をまともに受けて、ワイトがよろめく。

 俺も、立っていた。傷はある。でも、超速再生Lv2が、みるみるうちに塞いでいく。進化前とは、回復の速さがまるで違う。……ただし、顔は青ざめていたと思う。

 反射できる。でも、衝撃は残る。まだ、楽じゃない。


   ◆ ◆ ◆


 そこからは、反射の応酬だった。

 ワイトが魔法を放つ。俺の体に直撃し――跳ね返る。だが、反射の衝撃で俺自身もふらつく。Lv2になっても、完全な無敵じゃない。受けたダメージと衝撃は、ちゃんと俺にも残る。

 長引いたら、まずい。早く仕留める。

 連続で飛んでくる魔法を、片っ端から反射する。魔法が次々とワイトに跳ね返り、その度に俺の体も揺れる。それでも、ダメージは確実に蓄積していた――向こうに。

 ワイトの体が、崩れ始める。

 膝が震えていた。超速再生Lv2が必死に回復し続けてくれているが、体への負荷が大きい。

 でも、知っている。

 追い詰められた敵は、最後に最大の一発へ賭けてくる――オーガの時と、同じだ。

 それを、待ってた。全部まとめて、返す。

 ワイトが、最後の力を振り絞り、ひときわ巨大な魔法を放った。

 超反射Lv2、全力発動。

 巨大な魔法が、完全に反射される。ワイトは、自分の全力をまともに受けた。

 俺も反射の衝撃で吹き飛んだ。地面を転がる。それでも。

「……立てる」

 立ち上がった俺の視線の先で、ワイトは眩い光の中に崩れ、消えていった。

 静寂。

 ――【撃破! ワイトのスキル「闇属性魔法」を習得!】

 全ての敵が倒れた石室で、俺はその場に膝をついた。全身に散った傷を、超速再生Lv2が見る間に塞いでいく。

「……終わった」

 ――【レベル17に到達!】

 ウィンドウを開くと、スキル一覧が並んでいた。超反射Lv2。超速再生Lv2。スキル吸収。分解、武器操作、硬化、嗅覚強化、筋力増強、剣技(初級)、暗視、毒耐性――そして、闇属性魔法。

 熟練度が100%で、進化。賭けに勝った、ってことだな。仕組みが分かったのは大きい。次からは、狙って育てられる。

 一覧の末尾、「闇属性魔法」の文字を見つめる。

「攻撃魔法か……。〝攻撃スキルはいりません〟って、女神様に言ったんだけどな」

 試しに手をかざしてみる。黒い光が不安定に揺らめいて――すぐ、消えた。

「……だよな。訓練なしで魔法が撃てるほど、甘くない」

 当分は封印だ。使わずに済むなら、それが一番いい。


   ◆ ◆ ◆


 奥の石室に、古びた光が見えた。

 進んでいくと、石の台座の上に、一冊の古びた魔法書が置かれていた。周囲の壁には、見たことのない文字がびっしりと刻まれている。

 手に取る。ずしりと重い。表紙にも、壁と同じ文字が刻まれていた。

「古代エルフの文字か……俺には読めないが」

 ――【古代エルフの魔法書を発見!】

 中身を確かめたい気持ちは、正直ある。でも、開かない。遺跡で見つけた重要アイテムは、開封せずにまず依頼主へ届ける――これもアニメの鉄則だ。勝手に開けて呪われる奴を、何人も見てきたからな。

 遺跡を出ると、夜が明けていた。朝日が眩しい。

 将軍と兵士たちが、驚いた顔で駆け寄ってくる。

「生きてたか!? 一晩中、待ってたんだぞ!」

「魔物は、全部倒しました。遺跡の奥で、これも見つけました」

 魔法書を掲げて見せると、将軍の目が丸くなった。

「これは……古代エルフの魔法書!? まさか遺跡の奥に、こんなものが残っていたとは……!」


   ◆ ◆ ◆


 城に戻ると、廊下の向こうから、駆けてくる足音が聞こえた。

「俊さん!!」

 ルナだった。傷だらけの俺を見て、目が潤んでいる。

「よかった……本当に、よかった……!」

「ただいま」

 その言葉が、自分でも驚くほど自然に出た。

「それと……遺跡の奥で、古代エルフの魔法書を見つけた。エルフ文字で書かれてる。お前なら読めるかと思ったんだ」

 抱えた魔法書を少しだけ見せる。でも、渡さない。

「ただ、物が物だ。まずは陛下に届ける。――一緒に来てくれ」

「はい!」


   ◆ ◆ ◆


 玉座の間。俺は魔法書をガイウス王に献上した。

 王は魔法書を手に取り、しばらく検分してから、首を振った。

「古代の魔法書……これが何のためのものかは、儂にも分からぬ」

 そして、隣のルナに視線を移す。

「ルナ。お前は古代文字を学んでおったな。見てみよ」

 ルナが魔法書を受け取り、開いた。ページの文字が、光り輝く。

「……なんだろう、この感覚」

 ルナの声が、揺れた。

「体の奥から、何かが目覚めるみたいな……」

 次の瞬間――ルナの手に、淡い光が宿った。

 王も、将軍も、俺も、息を呑んだ。誰も予期していなかった出来事だった。

「こ、これは……!?」

 将軍が、思わず一歩前に出る。

「陛下……まさか、スキルが……!? しかし、姫様のスキルは幼き頃に〝なし〟と鑑定されたはず――後から授かるなど、聞いたこともありませんぞ!」

 王が、玉座から身を乗り出した。その顔に、驚愕が広がっている。

「スキルは、生まれ持つもの。――後から芽生えるなど、建国以来の記録にも、ほとんど無い」

 それから王は、静かに、しかし張り詰めた声で問うた。

「それも、この光……ただの魔法ではない。ルナ。お前が今〝感じている〟ものは、何だ」

 ルナは、自分の手のひらの光を見つめた。戸惑いながらも、その声には確信めいた響きがあった。

「……〝創れる〟気がするんです。この世に、まだ無い魔法を」

 一同が、息を呑む。

 魔法創造……? 俺は内心で唸っていた。スキルが後から発現するだけでも異例なのに、〝魔法そのものを生み出す〟だと。――とんでもないものを、この子は授かった。

「わたくし……何か、できそうな気がします」

 光を宿した手を胸に当てるルナを、玉座の間の全員が、言葉もなく見つめていた。


   ◆ ◆ ◆


 場が落ち着くと、王は改めて討伐の報告を受けた。

「本当に……一人で、遺跡の魔物を全て倒したのか。そしてこの魔法書まで取り戻して……一体、何者なのだ。お前は」

「戦いの中で、床や壁を一部傷つけてしまいました。申し訳ありません」

 先に謝っておく。これも社会人の基本だ。

「聞いている。重要な装飾は全て無傷だったともな。魔物の巣のままにしておくより、遥かに良い。気に病むな」

 王は居住まいを正した。

「さて――約束通りだ。褒美として、何でも望みを叶えよう。財か? 宝か? それとも地位か?」

 来た。あの〝何でも〟だ。

「ひとつだけ、お願いがあります」

 俺は、まっすぐに王を見た。

「ルナを、俺と一緒に冒険者にさせてください」

 王の顔から、表情が消えた。

「……それだけは。それだけは、できない」

「……なぜですか」

 王は玉座から立ち上がった。深く、苦しそうな表情で。

「……話さなければ、ならないことがある」

 そして、絞り出すように言った。

「ルナには……姉がいた。第一王女、ラミアだ」

 ルナを見る。ルナは、静かに俯いていた。

 ――あの夕焼けの廊下で、ルナが言いかけて飲み込んだ〝それだけじゃない〟。これのことだったのか。

「ラミアは……魔王軍の、仲間となった」

 王の声は、震えていた。

 玉座の間に、重い沈黙が落ちる。

 ……だから、か。だからこの王は、ルナのことをあんなに心配していたのか。

 魔王軍。女神様の言っていた〝魔王〟。正直、他人事のつもりでいた。ずっと先の話でかまわない、と言われたから。でも――ルナと旅をするなら、いずれ、避けては通れない気がする。

「もう二度と……娘を失いたくない。それだけなのだ」

「……わかりました。でも、ひとつ聞かせてください」

 俺は、ルナに向き直った。

「ルナ。本当に、来たいのか。命を落とす危険もある。贅沢な暮らしも、できない」

 一拍置いて、続ける。

「それでも……やりたいか」

 ルナは、真っ直ぐな目で俺を見た。あの夕焼けの廊下と、同じ目だった。

「やりたいです」

 迷いのない声だった。

「俊さんのそばで……強くなりたい」

 俺は頷いて、王に向き直った。

「国王。俺は、ルナを守ります。遺跡の戦いで、証明できたと思います。俺は、そう簡単には死なない」

 それに、と続ける。

「陛下も、ご覧になったはずです。ルナには、力が目覚めました。城に置いたままでは、あの力は目覚めたまま、制御できずに終わります。外の世界で学び、強くなる方が――結局は、ルナ自身を守ることになる」

 王は、黙って聞いている。

「ラミア様のことは……今の俺には、何もできないかもしれない。でも、いつか、何かできる日が来るかもしれない。そして、ルナだけは――絶対に、守ってみせます」

 長い、長い沈黙があった。

 やがて王は、ゆっくりと顔を上げた。その目は、赤くなっていた。

「……頼んだぞ。俊よ。ルナを……頼む」

「父上……行ってまいります」

 ルナが、涙を浮かべて頭を下げる。王は、優しく微笑んだ。

「元気でな。ルナ。――魔法書は、お前が持っていけ。あれは、お前を選んだのだろう」


   ◆ ◆ ◆


 翌朝。城の外は、抜けるような青空だった。

 俺は小さなリュックを背負い、腰にエルフの剣。隣のルナは旅の服に着替え、魔法書を大切そうに抱えている。

 見送りに出た将軍が、革袋と書状を差し出した。

「約束の路銀と通行証だ。……ルナ様を、頼む」

「ご武運を」と、兵士たちが声を揃える。

 歩き出してすぐ、ルナが俺を見上げた。

「俊さん」

「なに」

「これから、よろしくお願いします」

 少し照れたような笑顔だった。

「……ああ」

 広大な平原を、二人で歩く。遠くに山並み。頭上には、どこまでも青い空。

 転生してから、ずっと一人だった。

 でも今は……隣に、誰かいる。

 笑いながら歩くルナの横顔を見て、俺は思った。

 ――悪くない。

 俊とルナの異世界冒険が、本当に始まる。


(第三話 了)

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