5.王族の休日
カーベラとの話し合いから数日後。
ルークは頭を悩ませていた。
「う~ん、何から手をつけようかな」
カーベラとの話し合いを経たことでルークは実感した。
己の手札の少なさを。
唯一の武器は魔法が使えること。
だが今はそれは大した武器にはならない。
本気で王位争いを勝ち抜くならば足りないものが多すぎる。
それは……
「資金力、人脈、知名度あとは実績かなぁ」
どれも今すぐに多くを獲得できるわけではない。
時間をかけて積み重ねていくものばかり。
じっと本を読みながら今後のことについて考えていた。
そんなルークの姿を見てミリィが言葉をかける。
「ルーク様、少し休息をとられてはいかがでしょうか。ここ最近、休まれているのを目にしていませんから」
「たしかに、それもそうだね。何か良い休みの過ごし方はないかな?」
ルークの一日の基本的なスケジュールは、王族としての礼儀作法の指導、この国の歴史について学習、基本的な剣術指南などで詰まっている。
休みの時には本を読んで知識を深めるのが常となっている。
だがミリィの言葉により、もしかすると休んでいるように見られていないのでは、とルークは思った。
しかし、ルークには他の過ごし方が思い浮かばない。
そんなルークにミリィは提案をする。
「それでしたら、街に行かれるのはどうでしょうか。何かルーク様のお気に召すものがあるかもしれません」
「街か…」
ルークは未だこの王国の街中を見て回ったことがない。
それどころか、この王宮から出ることが滅多にない。
この国の人たちの暮らしぶりや文化については本で何度も目にしている。
とはいっても所詮は本に書かれたこと。
実際にその目で見ないと気付けないこともあるだろう、と思うルーク。
「よし、これから街に行こう」
そう言ってルークは読んでいた本を閉じた。
その姿を見てミリィとギルバートは準備をする。
前世の頃は外へ出かけるのが好きではなかったルークだが、今は違う。
今のルークを満たしているのは圧倒的な興味。
ただ第十とはいえ王族が堂々と歩いていればパニックになりかねない。
目立たない格好に着替えると、ルークは王宮を出た。
念のため布で頭を含めた全身を覆っている。
王宮を出る前に、ルークはギルバートから護衛兵をつけるべきだと進言されたが、すぐに却下した。
そんなことをすれば、ほぼ間違いなく人目についてしまう。
それでも二人を側につけることは絶対だと言われ、二人ともついてきている。
「へぇ~、こんな感じなんだね」
流石は大国と言われるだけの賑わい。
ルークにとっては目に映るどれもが新鮮なものばかり。
周囲のもの一つ一つに目を向けながら街を歩き進んでいく。
様々な店が並ぶ中で一際大きな建物がルーク目につく。
「あれって…」
「あれはエトワール商会の本店ですね」
エトワール商会。
その名をこの王国で知らない者はいないだろう。
王国一の規模を誇るエトワール商会は、国内だけではなく他国にも店を構える正真正銘の大商会である。
当然、ルークもその名前は知っている。
だがこうして店の前に来たのは初めてだ。
流石に有名な商会の店を前にして立ち去るという選択肢はなかった。
「おぉ」
店の中へと足を踏み入れたルークは、目に映る光景に目を輝かせる。
そこには様々な商品が。
雑貨を中心とした物が取り揃えられ、その中には変わった商品もある。
「これは、魔道具だよね?」
「はい、仰る通りです」
手に取った品を不思議そうに見るルークに、側にいるミリィが優しく答える。
魔道具とは、魔法使いによって作り出される魔法的効果のある道具のこと。
ルークは魔道具を見るのは初めてではない。王宮内にも魔道具はいくつもある。
ただ、ここに置かれている物は王宮にある物とは別物。
他の魔道具も手に取って物珍しそうに見るルーク。
そんなルークに一人の男が近づいてきた。
「どうでしょうか、お客様。何か御目当ての商品などはございましたか?」
声をかけてきたのは店員の一人。
あまりにじっくりと商品を見るルークを見て、何か探しているのかと思ったのだろう。
特に欲しい物があるわけではなかったが、折角来たのだから何か買おうとするルーク。
「それじゃあ、これを買おうかな」
そう言って並べられている魔道具のうちの一つを手に取った。
魔道具の効果は、室内にリラックス効果のある良い匂いを出すというもの。
値段に見合う魔道具かと言われれば疑問が残るが、ルークは満足していた。
その商品ではなく、こんな風に過ごす一日に。
その後は何件かお店を見て回り、ルークの休日はあっという間に終わっていた。
それはまるで嵐の前の静けさと言わんばかりに。




