2.第十王子ルーク・フォン・アルバス
第十王子として生まれたあの日から八年が経過していた。
「ふむ、なるほどね。やはりこの世界の物事の原理は、元いた世界と通ずるところもあれば未知なこともある。逆も然りだけど」
多数の本を机に広げる少年。
彼こそが、元は普通の社会人で今はこの国の第十王子であるルーク・フォン・アルバスその人だ。
少年は生まれて程なくしてから今日に至るまで常に本を読み続けていた。
それは言語の習得と、この世界についての知識の収集のため。
「お疲れ様です、ルーク様」
そう言って飲み物が入ったカップを目の前に置いた。
黒い髪が特徴の彼女はメイドのミリィ。
「ありがとう、ミリィ」
「いえ、私なんかに礼など不要です。私はルーク様のメイドとして当然のことをしているだけですから」
そして、少年の右後ろに立つ男が一人。
「そうですぞ、我々はルーク様の側仕え。ルーク様のため動くことこそ使命なのです」
白髪とちょび髭が特徴の彼は執事のギルバート。
メイドのミリィと執事のギルバート、この二人がルークの世話係兼側仕え。
中身が元は普通の社会人というだけあって、最初はこの環境に慣れなかった。それでも四年も経った今はこの環境に慣れつつある。
ルークにとって信頼のおける二人だが、流石に転生のことは言っていない。
言っても信じられる話ではないからだ。
そのため早くして喋れるようになり常に本を読み続けるその姿に、二人は最初こそ驚いていた。だが、すぐに神童なんだと思うようになり、今こうして当たり前のように沢山の本を読む姿には大して驚くことはない。
カップを片手に本を読み進める。
とても八歳児のすることではないのはルーク自身が一番理解している。
机に並べられた本には、アルバス王国の歴史や文化についての本を中心としたものばかり。
ただ、その中に一冊だけ毛色の違う本がある。
それは魔法についての本。
「やっぱり、魔法についての本は面白いね。何度も読んだけど飽きないや」
「ルーク様には魔法の才能がおありのようですので、いずれやこの王国一の魔法の使い手となるでしょう」
本によれば、魔法が使えるかどうかは本人の資質次第だという。
全く使えない者もいれば、少しだけ扱える者など多種多様である。
ちなみにルークは魔法について知った際、二人に魔法は使えるのかと聞いてみた。
ミリィは全く使えないと答え、ギルバートはほんの少しだけ使えると答えた。
それを聞いた時、ルークは思わず見せてくれと頼んだが、お見せできるようなものではないと断られてしまった。
幸運なことにルークには魔法の才能が備わっていた。
前世の知識や学習能力によって、ルークが魔法を扱えるようになるのに時間はかからなかった。
扱えるようになってからは、本を読む合間にこっそりと誰にも見られないように訓練している。
なぜ八歳なのにそこまで必死になるのか。
当初ルークは新しく生まれたこの世界でのんびり過ごそうとしていた。その時から本は読んでいたが、今ほどではなく趣味程度。
大きく変わったのは、ある出来事。
それは、ルークが五歳の誕生日を迎えた日のこと。
ルークが何気なく歩いていると、頭上から見るからに重そうな鈍器らしきものが。
間一髪のところでギルバートが助けてくれた。
当たっていれば良くて大怪我、最悪死んでいた可能性すらあった。
当時は事故として処理され騒がれることはなかった。
ルークも最初は事故だと思っていた。
王位争いについて知るまでは。
王位争いとは、その言葉が示す通りこの国の王子や王女が次代の王の座を巡る争いのこと。
今この王国にはルークを含めた十人の王子と八人の王女がいる。
一つの座を巡る争いにしては数が多い。
だから、他の候補者を蹴落とそうとするものが多発するという。
それこそ、手段を厭わずに。
無論、白昼堂々と何かをするわけではない。
事故に見せかけるなどの小細工を行っている。
そう、ルークの頭上に偶然、鈍器のようなものが落ちてきたように。
確証があるわけではないが、ルークの中であれは兄姉の仕業だと確信していた。
それを確信した時、すぐにでも王位争いから降りようとした。そうでないと、のんびり過ごすことが出来なくなってしまう。
だが、それは無駄なことだとすぐに悟る。
王族として生まれた以上、王位争いの問題は一生付きまとう。
それならば、とルークは決心した。
王位争いに勝ち抜いて何としてでものんびりとした日々を手に入れると。
それに、仮に王位争いを降りて他の誰かが王になった時、ルーク自身がどうなるのか想像つかない。少なくとも、良い結末になる可能性は低いと言える。
そんなこんななことがあり、ルークは王位争いについてのルールやその歴史について学ぶようなった。
それだけじゃなく、王位争いで使えるであることについても。
全ては王位争いを勝ち抜くために。
そしていずれは……
「僕がこのアルバス王国の王となる」
その瞳が見据えるは遥か先の未来。
それは、齢八歳による揺るぎない決意であった。




