教えてもらおうか
「じゃありん、さっそく昨晩の行動の理由を教えてもらおうか」
朝、完全に寝不足な向日葵を膝の上で寝かせながらと言う人と真剣な話をしている時にするような格好からはかけ離れた格好でりんと向かい合いながらお話開始である。
話す内容はもちろん、昨晩俺の布団にもぐりこんできた理由である。
「・・・だって・・・買っていただきましたから・・・」
やっぱりそういう解釈をされていたのか。
「りん、こちらの言葉足らずで誤解をさせてしまった上に、あんなことまでさせてしまってからで申し訳ないんだが、その買ってもらったと言うのはりんの勘違いだ」
「え? ですが、実際にこうしてもうお金もいただいてしまいましたし・・・」
そう言いながらりんがお金の入った箱を大事そうに抱える。
このお金は今朝方、景虎の使いが届けてくれた。しかもわざわざ俺たちが起きる前に長屋の前にやってきて、俺たちが起きてくるまで待っていると言うとんでもな行動をしてくれたものだから、俺のわずかなおこずかいから少しばかり握らせておいた。
まあそんなわけで、今りんのかかえている箱の中には三両分の金が入っている。一両は当面の生活費として景虎がわたしてくれた。
「そのお金は、俺から君たちにあげたものだ、返してもらおうとは思っていない」
金で何とかなることで、しかも俺が金を用意できるのならいくらでも用意しよう、だってそれで人の命が助けられるのだから。
「そっそう言うわけにはいきません! たとえこれが加藤様にとっては大したお金ではなかったとしても、これは間違いなく加藤様のお金なのです! だから、このお金は私の体でお返しします!」
「そのお金が俺のものだと言うのなら、どうしようと俺の勝手だろう? なら君たちにあげたっていいじゃないか」
「そういうわけには」
「お姉ちゃん」
りんが反論しようとしたところでおずおずとした感じで声が挟まれた。声の主は、襖から顔を半分だけのぞかせているはな、この時点でなんとなく次に出てきそうな言葉が予想できてしまった。
「やっぱりお姉ちゃん一人だからいけないんだよ、だからここは、私も含めて二人を飼ってもらおうよ!」
今日もはなは絶好調だ。
それにしてもはなはいつもこのことばっかりだな、もしかしてマゾヒストなのだろうか? 嗜虐性思考の持ち主なのだろうか?
「とにかく、頂いたお金は必ずお返しします。私の体で」
りんはまだ諦めていないようだ。さてどうしたものか・・・。
「じゃあ、普通に働いて返せ。こっちはいつ返してもらっても構わないから、自分の体を売るようなことをしてまで、無理して今すぐに返さなくてもいい」
これで納得してもらえなかったらどうしようか。そうなったら「はなを飼うぞ」とか言って脅す方向でいってみようか?
「ですが・・・私・・・その・・・何もできませんし・・・」
「だから体で払おうって?」
「・・・はい」
極端だなー。俺のことを知っていてここに来たのなら、俺がそんな「今すぐ金を返さないと体で払わせるぞ!」とか言い出すようなやつだと・・・思われているにかもしれないな、こいつらから聞いた話だと。
「まあできなくてもいいや、とりあえずはここで働いたらどうだ? やることはほとんどないが、一年で二両を返せるだけの給金を出そう、もちろん、給金を全部ためたらの話だがな」
「待ってください、私たちが頂いたのは三両です、あと一両分足りないではないですか!」
「その一両は俺からじゃなくて景虎からだからな、返したいと言うのなら、年貢を納めるなりなんなりして国に返してくれ」
「・・・分かりました、その一両に関してはそれで納得します」
おいおい、じゃあ残りの二両は納得していないと言うことですか?
「ですがやはり、あの二両は今すぐに返したいです」
違いは何なんだ? 景虎からの一両は年貢とかでもいいと言っているのに、俺からの二両は今すぐに返したいとは。
「まあいい、そこまで言うのなら体で返してもらおう」
そんなことを言ったら首を絞められました。
「貴久、よく聞こえなかった、もう一度言ってみて?」
いつの間にか起きていた向日葵が、掴んだ瞬間はものすごい力だったが、それに比べればいくらか緩めた力で俺の首を絞めつつ聞いてくる。
「落ち着け・・・とりあえず、最後まで聞け」
ものすごく不機嫌そうな顔をしながらではあるが、とりあえず向日葵が首から手を離してくれた。
「ただし、昨晩みたいなことは駄目だ。普通に働いて、ゆっくりでいいから普通に返せ」
「それは」
「もう俺はお前を買った」
「・・・はい」
「いいな~」
はな、変なところで変なことを言わないでくれ、向日葵先生がひっそりと太ももをつねってきてしっかり痛いじゃないか。
「だから・・・これはあんまり言いたくないが、命令だ、昨晩みたいな・・・なんだ、男と女のあれこれはなしで、普通に働いて金を返せ。ここで働いていても一年で返せるし、ここ以外でも、健全な仕事ならしてもらって構わないから」
「・・・はい」
「それと、もちろん昨日言った通り、お前たちの方から許しがない限りは、こちらからは触らないし話しかけもしない、だから安心して生活してくれ」
そうはいっても、そもそも俺の方からしたらこれ以上女の子との関係が増えるなどごめんこうむりたいとは一応思っているので、自分から積極的に手を出そうとは思っていないわけだが。
「・・・分かりました」
りんよ、本当にどうしてそんなにも残念そうな顔をしているのだ、俺はその理由が気になってしかがないのだが。
「では、このお金を渡してきます」
「ああ待て、俺・・・と言うかつばきも一緒に行く。そうしないと、何かあった時に何ともできないからな」
間違っても俺一人が付き添ったところで、拳で語る事態に陥ったりしたら、結局のところ俺では何ともできないからな。
そう考えると俺は本当にやることがないな。今回も俺がついて行くよりも普通に段蔵について行くように頼むいだけで、俺はついて行かない方がいい気もするし。
「・・・やっぱり俺がついて行くのはやめておくか」
だからやめておこう、危険には近づかない、それが一番だ。
「え、ご主人様はこないんですか?」
「誰がご主人様だ」
さっき口をはさんだ時からしっかりこの部屋に居座っているはなが聞いてきた。と言うか本当にご主人様で通されるのだろうか? こっちはそんなふうに呼ばれているところを人に見られたくないのだが。
「もう、まだそのことを気にしているんですか? ご主人様はご主人様だからご主人様でいいんです!」
どうして俺がそんな諭されるみたいに言われなければいけないのだろうか? むしろ俺がそんな風に呼ぶなと諭す側なのではないだろうか?
「・・・まあいい」
とは思いつつも、今は金を返しにいかないといけないからまた今度にしておく。きっとこの調子で後回し後回しにしていき、結局ご主人様になってしまうと言うところまで目に見えているが・・・まあ最悪このままでもいいかと納得してしまっているからまあいいか。
「で、どうしてついて来てはくれないんですか?」
「だって俺がついて行っても、特に何もできないしな」
うーん、実際に口にしてしまうと情けなさがより意識されて泣きたくなってくるな、泣かないけど。
「そんなことありません!」
しかしここで力強くそんなことはないと宣言してくれるはな! 何といい子なのだろうか!
「ご主人様には私を抱っこするという立派な」
「黙りなさい」
極力笑顔で、しかしかなり切れぎみ言っておく。
結局のところ俺にできることなどその程度だと言うことなのだろう、この野郎め。
「じゃあ貴久、朝のお散歩に行こう」
そしてここにそんな傷ついている俺の傷をさらにえぐりつつ楽しんでいる感じの憎たらしい女の子が一人。
「・・・朝ご飯食べたらな」
だが朝の日課っぽくなっている朝のお散歩には行く。
このお散歩に行くととりあえずりょうとイリスが元気になる。町の人たちも元気なこの二人に会うのをどことなく楽しみにしている感がある。
例外として半ちゃんだけはこの朝のお散歩がとても嫌いだったりする。理由はなんだかんだと町に出ると視線を集めやすい俺たちと一緒に歩いていると周りの目が気になって仕方がないんだとか。
まあ何をするにしても、とりあえずはとらの美味しい朝ご飯を食べて回復してからだ、そうしないともう持たない、もう俺のライフは零なのだ、「もうやめて! 遊〇!」の言葉をかけてもらう必要があるハ〇君状態なのだ。
「朝餉の支度が出来ましたよー!」
そしてここに大事なお話をしていると伝えておいたはずなのに、そんなことはみそ汁の中にでも溶かし込んで忘れてしまっているのではないかと思えるくらいの遠慮のない大きな声を出しながら部屋に入ってくるとら。
「おう、今行く」
そんなわけで、朝っぱらからガリガリと削られた体力を回復するために朝餉を食べよう。
「・・・確かに、貸していた二両は返していただきました」
そして朝餉を食べ、体力を回復し、みんなと朝のお散歩をしつつ三人のお家に行って昨日のおっさんたちとの再会である。
会った瞬間にりんが持っている箱を見つけ、明らかに残念そうな顔をしたおっさんであったが、ゲームでよく出てきそうな悪徳商人のような顔体をしている割にはあっさりと諦めて切り替えたようだ。
「これでもう私たちはあなたたちに関わることはないでしょう。あなたたちが再び私たちから金を借りない限りは」
と、それだけ言い残して去っていくおっさんたち。去り際が潔かっただけに地味に格好良く映ってしまうから今度まねしたいとか思ってしまった。
「何かあるんじゃないかと思っていただけに拍子抜けしたな」
「そうですね」
答えたのははなだ。答えはしなかったものの、りんも同じような感じがしていたのだろう、無言で頷いていた。
「貴久たちは知らないのかもしれないから言っておく。あいつはこの辺りでは結構なの知れた男。汚いところにもお金を貸すけど、結構信頼もあって、結構いろんな人が安心して借りられるって言うほどの男」
見た目からは全く想像できないが、向日葵が言っているのだから恐らくそうなのだろう。だがそうなると、どうしてあの男は二両の借金のために三人を求めたのかと言う疑問が湧いては来るが・・・まあそういういい人にだって、やんごとなき理由と言うものがあるのだろう、気にしてもわかるものではない。
「じゃあ帰るか・・・と言いたいところだが」
「何か用事でもあるのですか?」
「いやな、はなもりんも、あと長屋にいる・・・ねねだっけ、あいつも含めて、もうこの家で暮らしていても全く問題ないわけだ。お前たちだって昨日今日来たばかりの長屋よりも、我が家の方がよっぽど安心して暮らせるだろ? だから、お前たちがこっちで暮らしたいのならそうすればいい」
りんが金を返したいとは言ったが、それだって、なにも遊女のようなことをして返せと言うわけではないのだから、家で働くにせよよそで働いて稼ぐにせよ、ここから通えばいいのだ。
「えっと・・・いいんですか?」
「はながここで暮らしたいのならそうすればいい」
どうやらはなの方はこっちの家で暮らしたいみたいだな。恐らくは、はながこう言った以上、りんは駄目とは言わないと思うのだが・・・。
「はながそうしたいのならそうしなさい。私はあっちの長屋で暮らすから」
やっぱり自分は長屋で暮らすと言いましたか。
「どうして? やっぱり加藤様に飼われてるから? もう躾けられちゃったの?」
はな、お前の頭の中を一度しっかりと見せてくれ、そして危なそうなものを排除させてくれ。
ちょっと恐る恐ると言った感じで向日葵の方を見て見ると、意外や意外、向日葵はまったく気にしている感じはなかった。
「大丈夫、昨晩から私は貴久とずっと一緒にいた、貴久があいつを躾ける様な時間はなかったはず」
さいですか、ずっと見ていたからそんなことはしていないと分かっていると。
「べ、別に躾けられたとかじゃなくて、その・・・やっぱり、なんだかんだと言っても、加藤様にはお金を頂いたわけだし、恩もあるし・・・ちゃんとお返ししないといけないと思うのよ」
「なら家から通ってもできるよね?」
「そっそれは・・・だってほら! 家にいたら、もし加藤様が私に急な用事を頼もうと思った時に頼めないし」
そんなことはたぶんないと思うのだが。と言うか住み込みで働こうにも、とらがいるからやることは何もないと言ってもいいのだが。
「・・・もしかしてお姉ちゃん」
「な・・・なに?」
「加藤様のこと好きになっちゃったんじゃ」
「わーわーわー!」
はなが言ってはいけないことを言った、りんが叫んだ、向日葵が俺の首を絞めた。
「ないないない! そんなことあるはずがない! だってこいつは」
そう言って俺のことを指差しながら何か言おうとこっちを見たりん、ところがそこで。
「・・・」
顔を赤くして固まってしまった。俺は顔を蒼くしながら死にかけている。
理由はもちろん向日葵先生が首を絞めているせいだ。
「いつ躾けた」
だが向日葵も殺すつもりはなかったのだろう、そうでなくては困るのだが、とにかく力を弱めて話しかけてきた。
「知らん、俺はりんに何もしていない」
実際何も知らない。俺がりんにしたことと言えば・・・あれ? お金をあげたのはりんと言うよりも三人に対してだから除いておくと、俺はりんに何もしていないのではないか? さらに言うと俺がりんに襲われた以外特に何もしていないしされていなくないか?
「えー! いついつ! お姉ちゃんはいつ加藤様のこと好きになったの! 私はね、加藤様が長尾様と腕を組んで歩いているところを見た時だよ!」
おいはな、今のはもしかしなくても俺のことを好きと言っているよな?
「向日葵、とにかくそのとりあえず俺を痛めつけるのはなんとかしろ! 本当にそのうち死ぬぞ!」
そして当たり前のように俺の首を狙って伸びてくる向日葵の手、できることなら自力で跳ね除けたいところだが、いくら鍛えても向日葵に力で勝つことができなくて困っている俺である。
「えっと・・・私が・・・す、好きになったのは・・・」
話すのかよ!
よくわからないりんの思考に驚きつつも先が聞きたいからとりあえず声には出さないでおく。向日葵の方も聞く気があるようで、とりあえずは大人しく俺の腰に抱き付いている。
俺は播磨国まで行っていたから、りんが俺を見たのは恐らく二月前の旅に出る前の俺のことだろう。
いったい俺の何を見てどうして好きなどと言っているのか、大変気になるからしっかりと聞いてみようではないか。
「えっと・・・わ、私が好きになったのは・・・」
そう言ってなぜかちらりとりょうの方を見るりん。
「えっと・・・その子たちを・・・助けているところを見た時です」
・・・なんだか変な感じだな。会った時から俺はこういう子が好きな変態さんだと思われていたはずなのに、その俺がりょうを長屋に招いたところを見て好きになったとは。




