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ただ寝るのも簡単じゃない

 俺が悪かった。すべて俺が悪かった。

 勝手に三人を長屋に入れてごめんなさい。勝手にはなを連れてお散歩に行ってごめんなさい。勝手に借金を肩代わりしようとしてごめんなさい。

 俺が勝手に思い込んで確認しなかった、それがすべてだ。

 いったい俺が何をそんなにも後悔しているのかと言うと・・・。

「加藤様」

 今この状況になるまで。

「この度は、私たちのために、ありがとうございます」

 全く気がつかなかったことだ。

「このご恩に答えるために」

 この子のことに。

「精一杯、ご奉仕させていただきます」

 りんと言う女の子のことに。


 みんなも、割と経験があるのではないかと思う。

 俺の場合は今日、それが訪れた。

「・・・」

 何も特別なことが起こったわけではない、ただ夜中に目が覚めただけだ。

 何かしたいわけではない。喉が乾いたわけでもないし厠に行きたくなったわけでもない、本当にただなんとなく目が覚めてしまっただけだ。

 こっちの夜は暗い。特に部屋の中は目が慣れない限り本当に真っ暗だ。外に出れば月明かりがあるから以外と明るいと言うことを初めて体験したときは感動したものだ。

 その事がわかっているから、意識が覚醒しても目を開けないでおく、開けても何も見えないし、慣れるまで目を開けていたら寝にくくなってしまう。

 そして最近の夜は寒い。旅に出る前は夏、そして帰ってきて今はもう秋だ、寒いのも当たり前だ。

 だからぎゅっとした。

 いつもと同じ、いや、寒いから前よりも気持ちがいいしありがたい。

 この布団の中にある温もりが、今はどんな大金よりも美味しい料理よりもありがたい。

 いつもと同じ、きっとりょうかとらあたりが潜り込んできている。もしかしたら向日葵かイリス、はなかも知れないが、まあそこははなだったときはりんに何かされるかもしれないが、今この瞬間のぬくぬくのためなら甘んじて受け入れようではないか。

 と言うわけで、俺はすでにぎゅっと抱きしめているぬくぬくを足まで使ってさらにしっかりと抱き込む、寝ている間は絶対にこのぬくぬくを離すまいとしっかりと抱きしめた。

「ちゅ」

 何かが触れた、俺の頬に。

 きっとりょうの手か何かだろう、気にすることは・・・いや、それにしてはなんとなく濡れていたような? 手にしては柔らかすぎる様な?。

「・・・」

 なんか震えている気がする。

 腕の中にある小さなぬく・・・小さな? なんか小さくない気がするぞ?

 はて、何かおかしい。

 腕、ついでに足まで使って抱きしめているこのぬくぬく、少々大きい気がする。いつもなら脚なんて、りょうが腕に抱ける位置にいたらほとんど届かない、それなのに、今は手も足もどちらも届いている。

 つまり、この布団の中にあるぬくぬくはりょうや向日葵、とらでもイリスでもないと言うことだ。

 今この長屋に出入りできる人で、このくらい背の高い人。

 真っ先に思い浮かんだのは景虎だ。しかし景虎が誰かに見られる可能性を多分に含んだこの状況で、俺の布団にもぐりこんでくるとは思えない。と言うか、そんなことをするくらいならまずは屋敷に呼び出しているだろう。

 では残った選択肢はと言うと・・・。

「加藤様」


 落ちつか落ち着き落ち着く落ち着く落ち着け落ち着け。

「・・・」

 落ちつか落ち着き落ち着く落ち着く落ち着け落ち着け。

「いやいやいやいやいやいや!」

 無理です無理です無理に決まっています! だってりんは女の子だもん! いや女の子と言うよりも女性って感じがするもん! はっきり言ってりんははなよりも大人っぽいもん! 色っぽいと言うわけではないけど、体が成熟していると言うかなんというか・・・とにかく、体が大人っぽいんだよ!

「加藤様、買っていただいたこの体で、しっかりとご奉仕させていただきます」

 りんが、なんとなく触っている感じからして・・・一糸まとわぬ姿のりんが、濡れた瞳で俺のことを見上げながら抱き付いている!

「待て待て待て! ちょっと待つんだりん!」

 たぶんだけど、りんの発言からして、昼間に俺が金を用意すると聞いて、その金は俺がりんを買うことで借金に当てられるのだと勘違いしているのだろう。

 絶対に勘違いしている、早く教えなくては。

「加藤様」

 りんが俺の着物に手をかけた、と言うか脱がせた。

 着物がはだけて俺の上半身があらわになる。そしてそこにりんが抱き付いてくる。そうなれば当然・・・りんの・・・お胸様が・・・いい形の、恐らく手で触ってみればちょうど手に収まるくらいの、そして当たっている感触からかな~りやーらかくて・・・。

「いやいやいやいやいやいいいやいやいやいや!」

 固まってなどいられない、俺は布団を跳ね除けて思いっきり後ずさる。

「あ」

 暗くてよくわからないが、りんがなんだか不安そうな顔をしているような気がする。

「あの・・・お嫌でしたか? 私の都合で、こうして夜中に忍び込むような形にしてしまいましたが、やはり殿方としては、自分から襲うような形が良かったりとか・・・それとも、昼間明るいうちの方が・・・よく見えて良かったのでしょうか」

「待て待て待て! とにかく服を」

「貴久!」

 着ろ、そう言おうとしたところでした、本当です。

 心の中でそう言い訳をしておきつつ、開け放たれた障子の外から差し込む月明かりのおかげで、明るくなったために見えてしまっているりんのあられもない姿から目を逸らす意図も込めて明るい方へ視線をずらしていくと・・・。

「・・・」

 固まってしまって動かない向日葵がいた。

 きっと俺の声なり物音なりを聞いて、何かあったのかと心配してきてくれたのだろう。

 そして来てみればこの状態である。

 具体的に、簡単に今の状況を言い表してみよう。

 布団が一組敷いてある。その上に生まれたままの姿のりんがいる。そしてその近くに着物を脱ぎかけた俺がいる。

 ・・・誰がどう見ても伽一直線の状況なのではないだろうか? くーちゃんの時みたいに状況証拠はばっちりそろっている。

「・・・」

 とりあえず冷静に考えて俺は着物を着なおす。そして押し入れの中から俺のものではあるが着物を適当に取り出してりんに羽織らせる。

「おーい、向日葵、起きろー」

 後が怖いかもしれないが、このままここに放置してその横で寝られるほど俺の心は強くない、気になって寝られるわけがない。

 とりあえず頬を軽くペちペちと叩きながら起きないか試してみたが全く起きる気配がない。

 仕方がないから刺激を与えてみることにした。

「景虎といちゃいちゃするぞー」

「っ!」

 はじかれたように向日葵の腕がのばされ、俺の首を捕らえた。

「なぜに首?」

 べつに絞められているわけではないから普通に聞き返した。

「駄目」

「なにが」

「行っちゃ駄目」

 首を捕らえていた手が解かれて体に回された。

「貴久には、私がいれば十分。どうしても行くと言うのなら、私もついて行く」

 とりあえず向日葵は立ち直ったようだ。

「じゃあ向日葵、立ち直ったところで状況を説明するけど、間違っても誰かを殺したりしないように」

 まずは向日葵を抱きしめておく。こうしておけば、わざわざ俺を振りほどいてまでりんに飛びかかって行ったりはしないだろう。

「この状況はりんがちょっと勘違いをしていただけで」

「つまりそいつが独断で動いて貴久に迷惑をかけた」

 そんなことを言ってはいけません。それほど迷惑なんてしていない。それどころか、今の向日葵への対応の方が手間がかかっていると思う。

「・・・俺がそれをちゃんと確認していなかったのがいけなかった」

「貴久の言葉の意味をしっかりと読み取ることができなかったそいつが全部悪い」

 なら今の言葉からりんは悪くないと言うことも読み取ってくれ。

「とにかく、りんは悪くないから、手を出さないように・・・今日は一緒に寝てあげるから」

「分かった」

 こうなると素直なんだよな~。

「りん」

 ここまで呆けていたのか何なのか、一言も言葉を話さなかったりんに声をかける。

「あ、はい」

「取り合えず、部屋に戻って寝なさい。朝になったら、ちゃんと話そう」

「・・・はい」

 残念がっている、そんな風に感じるような表情で、りんが出て行った。

「じゃあ向日葵も戻って寝なさい」

「は?」

 向日葵が訳が分かりませんと言った感じの顔で見てくる。

「はじゃない、さっきのはお前にりんを襲わせないようについた嘘だ」

「そんなこと言って、私が素直に戻るとでも?」

 戻らないとは思うけど、それでも根気強く言って聞かせることには意味があると思うわけですよ。

「条件、朝早く起きて、りんやはなに見られる前に部屋に戻る事」

「・・・妥協する」

「妥協するじゃない」

 まあ向日葵相手にこれ以上話しても無駄だからいい。

 仕方がないから向日葵を連れて布団に戻る。

「おやす」

「あいつの匂いがする」

 お前は犬か何かか。

「気にするな、俺は気にしない」

「そういうわけにはいかない、これで貴久があいつのことを気にするようになったら大変、ここは私たちの部屋に来るべき」

「・・・まあお前ひとりと一緒に寝るよりは安全か」

「その言い方には引っかかるけど、とにかく移動しよう」

 そんなわけで、今日は五人で寝ることになりました。


「パパ~・・・ぎゅー」

「兄ちゃん・・・ぎゅー」

「うぅ~」

 向日葵たちが普段寝ている部屋に行ってみると、なかなかに悲惨な状態だった。

 まあ悲惨と言ってもとらだけの話なのだが。

 具体的に言うととらがりょうとイリスに絞められています。

 恐らく二人の中では俺に抱き付いている感じなのだろう。俺ならあのくらいならいつものことだし気にしないのだが、どうやらとらにとっては俺が普段抱き付かれている力は強すぎるようだ。

「これはいつもなのか?」

 いつもならとらのことを考えてもう少し部屋割りとかなんとかを考えるのだが。

「これはいつもは私の役目」

 なるほど、向日葵ならこれにも耐えられるのか、それなら安心だ。

「じゃあ寝よう」

 そう言いながら向日葵はいつの間に敷いたのか、新しくもう一組の布団を引きながらさあこいと言わんばかりに隣をポンポンと叩いている。

「ああ、お休み」

 そう言いながら俺は辛そうにしているとらのために三人の寝ている布団に入る。

 そしてそれを本能か何かで察したのか何なのか、イリスがとらを離して俺の右腕にに抱き付いてきた。もちろんそんなに強く抱き付いているとは感じない。

「・・・仕方がないからとられる前に来た」

 そして向日葵がとられる前にと残った俺の左腕に抱き付いてきた。

「今更思ったんだが、半ちゃんは一人で寝ているんだな」

 突然、向日葵が俺の腕を抱く手に力を込めた。

「あいつのところに行ったら殺す」

 それは俺のことですか? 半ちゃんのことですか? どちらにしてもやめてください。

 俺がなんとなく気になったのは、向こうでは打ち首とか言われて逃げてきたくせに、夜中一人で大丈夫なのだろうかと言うことだ。一応俺たちとは話せるみたいだし、誰かと一緒に寝た方が安心できると思うのだが。

「段蔵がいると思うと安心できるんだって」

 ああ、そういえばあの時は段蔵が半ちゃんを追ってきた斎藤家の手勢を一人で追い返していたっけ。

「じゃあま、安心して寝るとしますか」

「はい、私がお守りしますから、安心してお休みください!」

「・・・」

 だからね、段蔵さんや、いつも言っているでしょうが、突然俺の前に現れると驚くからやめなさいって。

「わかった、わかったから段蔵、とりあえず戻りなさい、もしくは一緒に寝なさい、そんなところに立たれていたら寝られない」

「では遠慮なく」

 段蔵が俺たちの寝ている布団に入って来た。具体的に言うと俺の足元から俺の体を上るような感じで俺のお腹の上で寝ている。

「ここなら、一番旦那に近いですから、一番旦那をお守りしやすいです」

 最近の段蔵はいけない、最初はここの生活になじんでいるだけかとも思っていたが、最近の行動を見ていると、どうにもそれだけではない気がする。たぶん俺に気がある。だって今も俺を守るには絶対にっ必要がないと思われる頬刷りをしていらっしゃるもの。いやまあこれが犬よろしくマーキングだとでも言われたらうまい具合に断れないし、こっちの人ならさっきの向日葵みたいな感じで本当にできてしまいそうだからいけない。

 そしていけないのがこいつである。

「直接の方が気持ちいいでしょ?」

 俺が段蔵の行為を注意しなかったからだろうか、俺が頬刷りをしてほしいと解釈したのであろう向日葵が俺の左腕の袖をまくり上げてそこに頬刷りをしてきた。

 向日葵のやーらかいほっぺがくすぐったいようななんというか、とにかく気持ちがいいです、はい。

「向日葵、正直嬉しいから自主的にやめてくれ」

 正直に言ってこれは嬉しいし。だから自分から振りほどくなんてことはしたくない。

「それにほら、動くとイリスが起きちゃうかもしれないし」

 とりあえず言い訳をしておく。まあどうせ向日葵なら気のすむまでやめないと思うし。

「そんなにしてほしいなら仕方がない」

 いったい俺の言葉をどう解釈したらしてほしいと解釈できるのか、まあ向日葵の頭の中は最近よくわからんからな、独自の思考回路があるのだろう。

「旦那~」

 呼ばれたと思って見てみたら、段蔵の寝言だった。

「こいつ、ひっぱたいてやろうか」

 段蔵よ、その口から垂れていて俺の着物に染みを作っている液体は涎ではあるまいな? そう信じてもいいんだよな? ・・・いや、涎だな。

 一瞬だが本気でぶん殴ってやろうかと言う衝動に駆られたがそんなことはしない。まあ段蔵ならこともなく避けるだろうし、今も俺が怒った瞬間に俺の体に巻き付いていた手がさりげなく腕に近くに移動しているし。

「ちゅ」

 何かが触れた、俺の頬に。

 左側だったからきっと向日葵の手か何かだろう、気にすることは・・・いや、それにしてはなんとなく濡れていたような? それに隣にいるのは向日葵だし・・・。

「お休み」

 結局俺の頬に触れたものの正体は分からなかったが、まあきっとあれだろう。

「お休み」

 向日葵の艶めかしい笑顔にやられててしまった駄目な俺はしばらく眠れそうにないから、道連れを作ることにした。

「ちゅ」

 向日葵のおでこに軽く口づけをした。

「な! ・・・ななな!」

「し、静かに」

 開いている左腕で向日葵を抱きしめつつ俺は寝たふりに移行する。

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿・・・」

何だか隣で馬鹿馬鹿五月蠅いが無視しよう、いい報いだ。

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