ハロウィン
ちょっと時をさかのぼって過去のお話し。
毎回こういう季節に関わる何かしらはそのままの名前で出していくのでお願いします。
南瓜。南の瓜と書いてかぼちゃと読む。
瓜と言えば先の南瓜でかぼちゃ、西瓜ですいか、冬瓜でとうがんなんていうところは有名だ。他にもウリ科で考えればメロンもこのウリ科に属している。
日ノ本ではこの瓜、古く縄文時代ごろにはもう栽培されていたのだとか。
またこの瓜さん、家紋にもよく使われている。
例えば木瓜紋。これはあの織田信長が使っていたかもんだ。この木瓜紋は、藤紋などと同じ五大紋の一つだ。
家紋で言えば、そのお家によって特徴があれば、織田木瓜のようにそのお家の名前を入れることがある。
瓜を元にした家紋を使っているお家といえば、越前朝倉氏の三つ盛木瓜なんかは結構有名ではないだろうか。
まあそんなわけで瓜はすごいのだ。食べてよし、絵にかいてよし、素晴らしい植物様なわけだ。
「・・・」
だから、俺がこうしてただただぼけーっと南瓜を見つめていても、なんらおかしくはないわけだ。
南瓜は春に種をまいて夏から秋にかけて収穫する。だから今、10月にこうして畑に南瓜があっても、それを俺が道端から座り込んでじっくりと眺めていてもなんらおかしくはないわけだ。
「貴久は南瓜が好き?」
向日葵が俺と同じようにして右隣りに座り込んで南瓜を眺め始めた。
今は越後への帰路の途中、美濃にいる。日の光が真上から降り注いでいる頃、俺たちは少しばかり道のわきで休息をとっている。(場所については後で確認して入れるように!)
「いや、別に特に好きと言うわけではない」
「ならどうしてそんなにじっと見ているんですか?」
とらも、俺の隣に座り込んで南瓜を眺め始めた。
「えーっと、確か、これはヨー・・・えっと、日ノ本からずっとずっと西に野を超え山を越え海を越えて行ったところの方にある国の風習なんだが、毎年このくらいの時期にやるお祭りのことだ。確か目的は秋の収穫を祝うのと、悪霊なんかを追い払うことだったかな?」
でもいつのころからかただお菓子をもらう口実くらいのものになってしまったんだよな~。こうして一つ、また一つと伝統的な催しが消えていくのかと思うと寂しいものだ。
「貴久がどうしてそんなところのお祭りのことを言っているのかは置いておくとして」
おいておくと言うことはそのうち待ってくるのですか? やめてください、その辺に捨てておいてください。
「そのお祭りと南瓜との関係は?」
「・・・そのお祭りではな、南瓜の中をくりぬいて、表面に穴をけて顔を作って飾るんだ」
「それで?」
それで、とか聞かれても困る。
「ええっと・・・たしかその南瓜の飾りのことをジャックランタン、つまり南瓜の灯りと言ってな、要は提灯みたいなものだ」
ランタンって日本語で正確にはどういう意味なのだろうか? いかん、語るには勉強不足かもしれん。
だが、そんなことを考えても今更ハロウィンの詳しい内容を知ることができるわけもなく。
「とにかくお祭りのことを考えてたんだ、まあ俺のいたところでは、名前だけは同じハロウィンと言う名前を使ってはいたが、ただ子どもたちがお菓子をもらう日、みたいな感じになってしまっていたがな」
とにかくお祭り、それだけ言って話を閉めにかかる。
と言うか、あんな企業の販売戦略に引っかかっているようでは、日ノ本のこの先が思いやられてしまう。若者よ、お祭りに騒ぐのはいいことだとは思うが、それが本当にやりたくてやっていることなのかは考えろよ・・・年寄みたいなこと言ってるな、俺もまだ若いのに。
いや待て、さすがにまだ若いとは言うが、こっちで言えば普通に大人だ、こっちでの年寄りとはいくつくらいのことを言うのだろうか?
こっちの平均寿命はおおよそ五十歳、むこうの平均寿命は八十歳。こっちの五十歳を俺にとって八十歳とすると、80÷50=1.6、つまり1.6倍すればまあこっちでの年みたいなものが分かるだろう。
「・・・二十七歳・・・」
結構おっさん手前だった。
いや、二十七歳は決しておじさんでも何でもないのだが、こっちでは今の考え方でいくと1.6倍の速さで年を取っていくのだから、地元自慢の中年の星、山本昌様の御年まで約十四年、つまりそれはこっちでの平均寿命だから、俺の寿命がおおよあと十四年だと言うことだ。
「短すぎるだろ俺の一生」
十四年後と言ったらまだ三十一歳だ、バリバリお仕事をして老後に備えている時期なのだ、そんなときに人生を終わらせるのは果てしなくもったいない。
でも一つ安心なのは、この時代の平均寿命が低いのは、病気にかかったら直せない、と言うことが大きな理由だ。かすり傷を作っただけでも、そこから膿が溜まって~みたいなことでも余裕で死ぬ。風邪だってまともに薬が手に入らなかったり、その日の糧をその日に稼いでいる人にとっては一日動けなければお終いだ。
最後に明るいことを一つ考えておくと、愛しいお嫁様である北条氏政、くーちゃんの家、北条家は代々結構な長生きだ。有名なところで北条早雲は八十八歳まで生きたとされているしな。
「それで、貴久は今からそのお祭りをしたいと言うことかな?」
背中にべたーっと張り付きながらできないことをしたいのかと聞いてくるくーちゃん。くーちゃんが暖かいです。
「俺が、しかもこんなところで、できるわけがないだろ」
「そんなことないよ、私なんて貴久が居るだけで頭の中はいつでもお祭りだよ」
最近のくーちゃんは向日葵に負けず劣らずやりすぎている気がする。なんか一緒に死のうとか言ったら普通にしてしまいそうだ。
「まあそんな惚気たことを当たり前のように言われても」
照れたりしない。そんな風に返そうと思っていたら。
「こらー!」
なんだか最近よく聞くようになった知らない人の怒鳴り声なり叫び声なりが聞こえてきた。そしておそらくは俺たちに向けて発せられていると言うのが特にいけない。
「俺、右を見たくない」
さっきの声は右から聞こえてきた、だから、さっきの声が俺たちにかけられたものではないと信じて嵐が過ぎるのを待っていたい。
「兄ちゃん、誰かが鍬抱えて走ってくるよ」
「よし、逃げよう」
さすがに鍬とか振り下ろされたら死んでしまう。もしかしなくても誰かに助けられることになるかもだが、無理に嵐をどうにかしようとしなくてもいいのだ、過ぎ去るのを待てば・・・いや、迫ってくるのならこっちからさければいいのだ。
と言うわけで背中にくーちゃんをくっつけたまま立ち上がると、当たり前のように向日葵が右腕にぶら下がって来た。
「そいつがそのままなら私も運んで」
「段蔵、頼んだ」
俺の言葉を聞いて段蔵がりょうと向日葵をその小さな体で両脇に抱えながら走り出した。
「どうしてここで私に声がかからないのでしょうか?」
昌幸がしっかりと俺に並走しながらとても不思議そうな顔で聞いてきた。
「なんとなく昌幸に頼むと変なことが起きそうな気がしたんだ」
「・・・そうですか」
昌幸の顔が暗く光った気がした。
「小太郎、昌幸を止めてくれ!」
「小太郎、面白そうだから止めなくてもいいよ」
困った時の小太郎さんが主の夫ではなく主の命令によって昌幸を止めてくれなかった。
「あーれー」
昌幸が実にわざとらしい声を上げながらとてもわざととは思えない見事な転び方をした。もちろん怪我をしているようには全く見えない。
「あ、足がー」
何か昌幸が後ろで言った。だからとりあえず俺は頭の中でこう再生した。
「私に構わず先に行って!」
たぶんこんな感じのことを言ったのだろう。うん、そうに違いない。
「・・・この旅のおかげで、薄々は思っていましたが、やはり当たり前のように置いていきましたね」
昌幸がとっても予想通りのことを言っている。だから置いて・・・。
「竹中殿、イリスちゃんを連れてお先に行ってください、きっとあなたでは逃げられないと思いますが」
「ええいこん畜生!」
俺は仕方がなく半ちゃんとイリスが鍬にやられないように後ろに戻る。
イリスはてっきり小太郎が抱えているだろうと思っていたのだが、まさか昌幸が抱えているとは。あと半ちゃん、一応武家の子なんだからもう少し走れるようになりなさい。
とまあそんなわけで俺はイリスと半ちゃんよりも後ろに戻って女の子との間に入る。
「くたばれー!」
この子には本当に迷いがない。勢い良く振りかぶられた鍬はまた勢いよく、何の躊躇もなく俺に向かって振り下ろされた。
「あぶな!」
危なかった、あまりの怖さに普通に避けてしまったが、もし避けられなかったら、後ろにイリスが張り付いていたりしたらとか考えたら怖いです。
「死ねー! 盗人―!」
「盗んでねーよ!」
どうやらこの子、俺たちのさっきの行動を南瓜を盗もうとしているように見たようだ。
「盗人が盗もうとしましたとか、言うわけねーだろがー!」
そして女の子が振り下ろしていた鍬を今度も勢いよく横薙ぎに振るてくる。
あー痛そうだなー、ちょっと避けられそうにないし、頑張って受け止めよう。
そんな感じのことを考えていたら、向日葵さんが当たり前の様に鍬を止めていました。
「貴久」
「殺しちゃ駄目」
もうこの子の言おうとしていることはだいたいわかる。こういう状況に関しての話だが。
「いやでも貴久、この子は今貴久に間違いなく鍬を当てようとしていたよ? 殺すべきだよ?」
おっとここにもおんなじようなことを言っている恐ろしい人がいた。
やっぱり俺の周りの人は極端な人が多い、暴力的な方に。
「あ、あれ? 鍬が」
女の子が向日葵の掴んでいる鍬を引き戻そうとしているが、向日葵の圧倒的な力に勝てず驚いている。
「あのさ、俺たち本当に盗人とかじゃないから、だからこの子に鍬を離すように言うけど、襲ってこないでね?」
「嘘をつくな! すごく盗みそうな目をしていたじゃないか!」
ぬ、盗みそうな目・・・いったいどんな目なのかはわからないが、とりあえずそんな目に見えていたと言うのはものすごく衝撃的な事件だ。
「「やっぱり殺そう」」
やっぱりこの子たちは危ない、放っておいたらそのうち普通にやっていそうだ。
「こらー!」
そしてまたもや怒鳴り声が。
「げっ!」
なんだか女の子がとっても不味いみたいな顔をしている。
「向日葵、離すなよ」
「はーい」
さっきの盗みそうな目と言う言葉にいたく傷ついていた俺はこの女の子が困りそうなことをしたくなったから、向日葵に鍬を離さないように言う。
「ちょ、ちょっと待て! 話はまた今度だ! い、今は」
「のの! お前はまた人様に御迷惑をかけおって!」
「た、頼むから! 夫うが! 夫うが迫ってくるんだ!」
そしてその時、恐らくはののと言うのであろう女の子が夫うから逃げるために力を込めたその時、向日葵が見事な演技で吹っ飛んだ。電技だと言ってのは、飛んで行った向日葵が思いっきりほくそえんでいたからだ。
「いった――い!」
向日葵が倒れるところも痛がる声もばっちりと演技をする。しかし顔がしっかりとにやついているのはいけないと思うぞ。
「この馬鹿者が!」
「いっっっっったーーーーい!」
夫うの拳骨がののの頭を直撃した。そして見事なごちんと言う音が鳴った気がした。
「本当にすみませんうちの娘が大変なご迷惑を!」
夫うがその娘の頭を鷲掴みにして地面に押し付けた。
「痛い痛い痛い! 夫うは強すぎるって! 頭割れちゃうから!」
「馬鹿者! お前は今さっきこの人たちの頭を割ろうとしていたではないか! ふざけたことをぬかすんじゃない!」
そう叫びながら何度も申し訳ありませんと謝ってくれる夫う。いい加減にしないと娘さんの頭が本当に割れてしまいますよ?
「あ、あの、俺たちはそんなに気にしてないので、もう頭を挙げて下さい」
相手に謝ってもらっていると、だんだんとこっちの方が申し訳なってくる不思議な感覚、これ以上やってもらっても困るだけだし娘さんが可哀想だしだから早く頭を上げてほしい。
「そう言っていただけますか、ありがとうございます。お前も! いい加減に一言くらい謝らんか!」
「だ、だって! この人たち家の畑の南瓜盗すもうと」
「馬鹿者! こんな立派なお侍様たちが家の南瓜をわざわざ盗みになんか来るわけがないだろうが!」
「お、お侍様・・・」
ののがとってもびっくりしている。なんだか顔も青くしている感じがするが、もしかしなくても自分が不味いことをしたとか思っているのだろう。
「えっと、一応俺はお侍様ではないかな。この中でお侍様と言えるのは・・・」
お侍様はと思ってみんなを見て見たのだが・・・。
「どうかなさいましたか?」
「どうかしたの?」
とってもワクワクした顔の昌幸と、きらきらしているくーちゃんがいる。
二人とも、何だかとっても相手を困らせたいみたいな顔をしているような気がするが、そのためには二人とも身分を晒す必要があるんだぞ?
「この人だ」
でもなんだかこっちがお侍様だからと言う理由でまとまりつつあるこの話を、今更こっちはえらくもなんともない旅人だよとか言って崩してしまうのもよろしくない。だから。
「とは言っても部屋住まい、そのように堅苦しくしなくてもよい」
小太郎をお侍様として紹介した。
「・・・とりあえず、その肩に置いた手を離してもらおうじゃないか」
なんだか黒い顔をした昌幸とくーちゃんが俺の肩を結構な力でつかんできた。
「あとで、お話があります」
「あとで、お説教ね」
はははー、二人とも、まさかお侍様と紹介されなかったことを怒っているな?
確かにお侍様にとって、さっきのは屈辱かもしれないが、二人ほどの人はそのあたりしっかりと考えられる人だと思っていたのだが。
「・・・あとで、な」
だがまあ、二人の気に障ることを言ったのなら、今回は間違いなく俺が全部悪いから、甘んじて怒られようではないか、あとでな。
「それで、お詫びと言うには恥ずかしい限りではありますが、どうぞ家の南瓜を持って行ってください」
おっと、遠慮したいところだが、今はちょっとジャックランタンを作りたいからもらえるのならぜひともいただきたいところだ。
「では、遠慮なく」
と言うわけで夜になり、宿に泊まって、とらが食事を作りたいと台所を借りている間に、俺も台所で手に入った南瓜を使ってジャックランタンをつくってみています。
「貴久様、私としては南瓜をそんな風に使われるのは嫌なんですけど」
「とらにそう言われると困ってしまうんだが・・・今日のところは中身はちゃんと使っているから許してくれ」
「私はよくても南瓜さんがどう思うかですよ」
そう言いつつもとらは料理している手を止めてはいない。本日の献立は、ひえとか粟をまぜまぜした主食と、南瓜の煮つけ、そして絶対に外れないおみそ汁様である。さすがに具とか味とかが落ちてしまうのは仕方がないが、それでも普通に美味しいのだからとら様様である。
「こんなものかな?」
小刀を使って削っていて南瓜君、なんとかそれっぽくなったと思うが・・・。
「できたんですか。ジャックランタンっていうやつ」
「ああ、こんな感じだ」
「・・・貴久様、さしていいですか」
「とら様がとっても怖い顔をして包丁を構えている。
「・・・ごめんなさい」
出来は悪くない、とらが起こっているのはもちろん、南瓜の使い方だ。やっぱりこの使い方は台所に立つ人にとってはこの使い方がとても気に入らないようだ。
「・・・今回だけですよ」
とっても怒られてしまった。
「・・・じゃあ、俺は先に戻っているよ」
「はい」
止めてもらえなかった、とっても簡素な返事しかもらえなかった・・・とっても怒っているみたいだ。
「馬鹿なのですか?」
昌幸にぐさりと来る一言をもらった。
「いや、その・・・まああっちの伝統みたいな、そんなもので」
「無駄だよね」
くーちゃんも容赦がない。
「兄ちゃん、なんかちょっと顔が怖い感じする。可愛くすればよかったのに」
いや、その、可愛くしては台無しなのだよ。
「とりあえず皆に意見をまとめると、貴久の言っていた祭りは日ノ本には合わない、そういうこと」
「・・・もうしないから安心してくれ」
もう絶対にしない、ハロウィンなんて滅んでしまえばいいのに。
「ところで兄ちゃん」
今さっきの自分の発言のことなど全く気に留めていないりょうがきらきらした目で俺のことを見ている・・・まさか気づいているのだろうか。
「なんだか甘いにおいがする!」
くそ! こいつ、気づいていやがる! しかも匂いで!
「Trick or treat!」
聞こえたのは元気な声。
「パパ! がおー!」
うん、がおーは違うと思うぞ。でも可愛いから許そう。
「よしよし、イリス、分かったから、これを上げるから許してくれ」
そんなことを言いながら俺は、尾張でちゃっかり買っておいた金平糖をイリスにあげる。
いったいイリスがいつハロウィンについて知ったのかはわからない、そもそもイリスがどこの生まれなのかはわからないが、この時代ですでにハロウィンでお菓子をもらう風習を持っていることなど特に気にしない、気にしても仕方がない。
「あ! 私も欲しい!」
りょうが元気に突進してきた。
「イリスに聞きなさい」
「イリス! 教えて!」
「ん?」
可愛い可愛いイリスがおいしそうに金平糖を食べながら可愛らしく首を傾げている。
「おーしーえーてー!」
だが今のイリスは金平糖が最優先なのか、まともにりょうの言葉を理解しようとしていない。
だが金平糖を諦められないりょうはイリスの方を掴んでぶんぶんと振り回し始める。
「イーリースー!」
これは俺にではないが、明らかにイリスに迷惑が掛かっている。
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、今のりょうの行動は、お菓子をくれなきゃ迷惑かけるぞ、と言ったところだろうか。
「はいはい、りょうにもあげるから、こっちに来なさい」
「うん!」
そしてまた強烈な突進をしてきた。
「はい」
お腹に頭から突っ込んできたから頭の上に金平糖を乗っけてあげた。
「おおー! ありがと、兄ちゃん!」
まあ二人にあげたし、向日葵にもあげないといけないだろう。
「ほら、向日葵」
「私はいいらない」
「え?」
まさか受け取ってもらえないとは思えなかった。
「どうしてだ?」
「あとで言う、今は私のことよりも、後ろのことを何とかした方がいい」
「後ろ?」
向日葵がわざわざ後ろを指差しながら忠告してくれたのでとりあえず後ろを振り返ってみると・・・。
「貴久様」
両手に膳を持ったとらが額に青筋を浮かべている。
入って来たその時の笑顔のまま、とってもひきつった笑みで俺の名前を呼んだ。
「お食事の前に、いったい何をしているのですか」
「・・・」
とりあえず体の向きを変えてとらに正対し、しっかりと心を込めて。
「申し訳ありません」
誠心誠意謝りました。
「貴久様とりょうちゃんとイリスちゃん、三人とも今日は夕餉抜きです」
「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません」
ただひたすらに、謝る。心を込めて、許してもらえるまで。
「ごめんなさいとら! だから」
「駄目です」
今のとらはとっても機嫌が悪い。おれがジャックランタンを作っていた時からとにかく機嫌が悪い。
「貴久様、これ以上五月蠅くしたら、明日の朝餉も抜きですからね」
「・・・」
もう何も言えない。ここで夕餉抜きと言うだけでもかなりきついが、これで朝餉まで抜きになったら明日は一歩も動けない。
「りょう、寝よう」
「え! でもとらの」
「寝よう、一緒に」
そう言いながら部屋の隅っこでまるくなって寝始める俺。
そしてしばらくしてすごく名残惜しそうな足音を鳴らしながらとぼとぼとりょうが俺のお腹を枕にするような形で寝始めた。
そしたら場の雰囲気を感じ取ったのか、イリスもとてとてと俺のところまでやってきて寝始めた。
「・・・はぁ~」
そして本気で寝ようとしていたところに聞こえたのが、とらの盛大な溜息である。
「本当に私の作った夕餉が食べたいなら、夕餉も諦めないでほしいものです」
そして足音が近づいてきた。
「ほら、ちゃんと起きて下さい。お料理残したりしたら許しませんよ」
「・・・ごめんなさい」
どうやらもともと食べさせてくれる気はあったようだ。よかった、本当によかった。
「とら、ごめんなさい」
「はいはい、わかればいいですよ」
「ごめさい」
「はいはい、イリスちゃんも」
イリスは今も反省も何もしていない気がする。あとで言い聞かせておかなくては。
「それじゃあ、食べましょう!」
ハロウィン、ケルト人が起源と考えられている祭り。もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事。
秋の収穫を祝ってもいないし、悪霊を追い出す宗教的な意味合いもない、そもそもお祭りもやっていない。
だがまあ、とらと、秋に収穫したものを使ったとらの夕餉には精一杯の感謝をしよう。




