無知
ぬくぬく・・・ぷにぷに・・・。
なんだかよくわからないが、お布団様の中はとっても暖かくて、ぷにぷにしています。
普通はこのぷにぷにと言うところに何かしらおかしいと感じるところがあるのが普通なのかもしれないが、俺、さらに言うとこの長屋で寝ている時にこの感触があっても何ら不思議に思いはしない。
正確に誰なのかはこの寝ぼけている頭ではわからないが、恐らくはりょうが潜り込んできているのだろう。
「・・・ぎゅ~」
だからこのあったかくてや~らかい何かをぎゅーっと抱きしめた。
すると相手もぎゅーっとさき返してくれた。
だからこの素晴らしい何かと一緒にもうひと眠り・・・。
「こんの~~~人でなしーーーー!」
「ほっけー!」
うむ、久々の悲鳴だったが、相変わらずのわけのわからなさだった。
「あんたって人は・・・あんたって人はーーー!」
「待て待て待て! とりあえず待て!」
「わん!」
原因が分かったので本当に少しだけ待ってください。
「お前か、お前のせいで今俺は蹴られたのか?」
わんという人声と共に俺の布団の中からはなが現れた。間違いなく、りんが怒っているのはこいつが原因だろう。
「わん?」
可愛い・・・が、今は背中の痛みのおかげで惑わされたりはしない。
「察するに犬になり切っていると言うところか?」
「そうですわん!」
可愛い、だがそれが今は俺の神経を逆なでた気がした。
俺はゆっくりと腕を持ち上げて今しがたりんが飛び込んできた障子を指差しながら笑顔で言った。
「出て行け」
しかし、どうにも言い方がとんでもなく悪かったようだ。
「「申し訳ありません!」」
今さっき俺のことを蹴り飛ばしたりんとはながそろって俺の目の前で土下座をした。
「妹が至らないのはすべて私がしつけられなかったからです! だからどうか、罰するのなら私を、私だけを罰してください! 出て行けと言うのなら私が出て行きます! だから、どうか妹はお見逃しください!」
「いえ、悪いのは誰がどう見ても私です! 私はどんな罰も甘んじて受けます! だからどうか、お姉ちゃんと妹だけでもここで暮らすことをお許しください!」
「・・・」
自分の指差した先をゆっくりを見てみた。
指の先には開け放たれた障子・・・の先にあるお外が見えていました。
どうやらこの二人、俺の部屋から出て行けを屋敷から出て行けと勘違いしたようだ。
「あ~・・・二人とも、とりあえず顔をあげなさい」
こんな時だからか、素直に言うことを聞く二人。人間やればできるものだと思ってしまったのは失礼と言うものだろうか。
「さっきのは、何も屋敷を出て行けと言う意味じゃなくてだな、ただ・・・あ~、ごめん、言い方をもっと考えるべきだった」
ここでなんとなく言ってしまっただなんて言うのはさすがに悪い気がしたからとにかく謝っておく。
「あ、あの・・・」
「どうした、りん」
今さっき俺を蹴り飛ばした時のりんからは全く想像のできない弱々しい感じでりんがおずおずと尋ねてきた。
「私たち、ここで暮らしていて・・・いいんですよね」
「ああ、たぶんだけど、俺から追い出すなんてことはないから、ここで暮らせなくなるなんて心配は俺が生きているうちはしなくていい」
お金に関しては今のところ佐渡を当てにしているが、これもそのうち俺たちで何とかできるようにしていきたいところだ。
「ありがとうございます」
にしてもこんなに下手に出ているりんと言うのもなんとなく変な気がするな。
まだ会って一日、りんの人となりなんて全く知らないと言ってもおかしくないと言うのに。
「じゃあま、しっかりと目も覚めたことだし、みんなで朝餉としましょうか」
「つまり、こいつらは朝から貴久にとってうれしくないことをしたと、つまり殺してもいいと」
「どうしてそこまで話をすっ飛ばせる」
今日も今日とてとらの朝餉が美味い。
本日の献立はご飯とみそ汁と言う俺の要望によって絶対に外されることのない二品に南瓜の煮つけ、となっております。
時代がどこまで進んでもどこまで戻ってもご飯とみそ汁さえあれば朝ごはんに困ることなどないと断言できるし実際に困ってなどいない。
「そんなわけで貴久、あいつに毒入りの南瓜を食べさせようと思う」
「それは駄目、たぶん次の案も駄目、そしてその次に来るであろう俺に食べさせようとか言うのも駄目」
「おお、心の中まで分かり合えるのならまさしく相思相愛、今すぐ祝言を」
「やっぱりあんたって」
「はいそこ、変なこと考えないように、そしてりょうは口に詰め込み過ぎないように」
「ふぁーい!」
返事をするのは構わないが口の中に詰め込んだまま喋ってはいけません。
だがこの見た目、なんとなくりすっぽくてかわいい。とらは猫っぽくなってしまったからな、りょうはりすっぽくなってもらおうか?
「そんなわけでとら、お替りお願いします」
「はーい」
そんな感じで、我が家は昨日とは少しばかり変わりながらも、平和な日々を・・・。
過ごしていません。
「何もしていないって何なんですか!」
事の発端は、食事が終わりみんなで日向ぼっこをしようと縁側に行ってみたのだが、さすがに寒くなっている今日この頃、縁側に出た瞬間に寒くなって部屋に引き返し、とりあえず皆で固まってゴロゴロとしていたところを見たりんが言ったのだ。
「何か、何かしていないんですか! 何も汗水たらして働けとか辛いことを日が出てから沈むまでやっていろとかそんなことを言っているわけではないんですよ! 何か・・・何かやっていないんですか!」
こんな感じのことを言われました、そしてまた言われております。
ちなみに言われているのはもちのろんでお仕事のことです。俺が朝餉の終わった瞬間からゴロゴロとしているからお仕事していないのかと聞かれたからしていないと正直に答えたらとっても怒られています。
「していないものはしていない。こういっても説得力はないかもしれないが、やりたくないわけではないからな? できることならやってみたい商売も考えてはいるが、残念ながらそのもとになる物が思い当たるところで尾張にしかなさそうっていう問題があってだな・・・どうにかできないか考えているところだ」
何も絶対に手に入らないとか失敗するとかそんなわけではないと思うが、できれば地元尾張で成功できたらいいなとか失敗する可能性はできるだけ小さくしておきたいとか言う保身みたいなものが働いてしり込みしています。
「なら、さっそくその尾張まで行って元になる物とやらを仕入れてきましょう!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
とりあえず俺と向日葵ととらがそろって可哀想な目を向けた。
「・・・な、何か?」
りんも自分が変なことを言ったかもしれないと感づいたようだ。まあ遅かれ早かれ知ることにはなると思うからさっさと言っておこう。
「りん、尾張ってな・・・とっても遠いんだぞ? そんなほいほい行ってこれるような所じゃないからな? しかも今は下手したら戦でも起こしてしまうのではないかと言うくらい危険な関係になってる国だからな?」
まあ戦なんて起こらないと・・・思うけどな、少なくとも信長にはその意思はないみたいだし。
唯一心配なのはあれが演技であったらと言う話だろうか、俺にはあれが演技だとしたら全く見破れていないからまさに信長の掌の上で踊っている状態だ。
・・・あと一つ、心配と言うかなんというか、戦の起こる可能性としては、俺が尾張で受けたあれこれが景虎たちに伝わると可能性が生まれそうではあるが、晴信は伝わっていたのにそんなことにはならなかったし、景虎はそもそも国境を接していないから、戦をする前に何とかできる・・・と思う。
「・・・そんなに・・・遠いのですか?」
「遠いです」
「・・・あの」
「お姉ちゃん」
何か食い下がろうとしていたりんの言葉を遮ったのはまさかのはなだった。
「これ以上お姉ちゃんが無知を晒すのを、妹は見ていられないよ」
しみじみとした感じで言うはな、これは俺が姉だったら逃げ出すだろうな。
「半ちゃんに教えてもらえ」
一番詳しいだろうからと思って名前を挙げてみたら、当の半ちゃんがものすごい勢いで首を横に振っていた。
「まだこの子たちは駄目そう?」
今度は首を縦に振る半ちゃん、この性格はもうっ少しゆっくりと俺たちと話すことで直していこう。
「まあ、この国から出て行く予定もないなら、なんていう国がどこにあるかなんて覚えなくてもいいんだけどな」
実際俺だってすべての国が正確に何処にあるのかなんてわからない、地図にでも書きこめなんて言われたら絶対にできない。
「・・・」
りんが顔を真っ赤にしながら部屋から出て行った。
「・・・仕事の話をしなくて済むのなら・・・いいか」
りんのことをもう少しいたわってもよかったのだが、ああいう子はそのうち勝手に復活してくるだろうからそこまで気にすることもないだろう。
「あの~」
「どうした?」
ちなみに話している間、りょうととらは膝の上、イリスと向日葵は両隣に座っていた。
「私も一緒にお昼寝してもいいですか?」
「・・・別にいいけど」
「やった!」
そしてこの中にはなも加わりました。場所は向日葵のさらに隣、べつに俺のことが好きでも何でもないのだからこれが当たり前と言うか、俺にくっつかないのが当たり前である。
「イリスのことは苦手か?」
みんなが寝てしまっているからはなに聞いて見た。たぶん向日葵辺りは寝ていても聞いてそうではあるが。
「苦手ではありませんよ」
「でも、今明らかに隣に座ろうとしてやめたよな」
はなは向日葵の隣に座る前に一度イリスの方に足を向けたが、イリスに気づいたところで向きを変えた、明らかに隣に座りたくないと考えたのだろう。
「苦手と言いますか何と言いますか・・・緊張するんです」
「緊張?」
果たしてこの娘にも緊張するようなことがあるのだろうか? 今さっき必死になっているところは拝めたが、まだ緊張しているところなんて見ていないからぜひ見てみたい。
「イリスの何に緊張するんだ?」
「だってほら・・・みんなと同じですけど、やっぱり言葉が通じないって、緊張しませんか?」
まあ言わんとしていることは分かる。言葉が通じないといざと言う時に意思疎通ができないからな。
「ご主人様はよく異国の子まで住まわせましたよね。私だったら、言葉の通じない異国の子なんて、たとえどんな境遇でも助けられないと思いますけど」
とりあえずご主人様と言う言葉に突っ込むべきか悩んだが、この話をするとまた買うだの飼うだのの話になりそうだから呼び方くらい好きにさせることにした。
「なあ」
でも他にも気になったことがあったからこっちは聞いて見よう。
「なんですか?」
「イリスがどうやって俺たちと意思疎通しているのか、知っているか?」
「え? それは・・・向こうの言葉が分かる賢人様か誰かを雇っているのではないのですか?」
あー、やっぱりそんな感じに思ってたんだ。
「パパ」
そしてちょうどいいところでイリスがお目覚めになられた。
「Papa. Cold.(パパ、寒い)」
「Ok. Then let's bring even something to put on.(そうか、なら何か羽織る物でも持ってこようか)」
「・・・」
はなの目が点になっていた、間違いなく俺がイリスと普通に話せていることに驚いているのだろう。
「はな、悪いんだが、みんなを起こしたくないから何か羽織れるものを持ってきてくれないか?」
「・・・」
そしてはなは動きません、固まったままです。
「はなー」
「あ! えっと、あの・・・加藤様って異国の方だったんですか⁉」
「いや、日ノ本の民だが?」
面白い、今絶対に驚いている、若干すごいとかそんな感じの尊敬的なものも交じっているに違いない。
「・・・いつの間に入れ替わったんですか?」
こいつ、どうやら俺外国の言葉を解することを認めたくないようだ。
「まあ勝手に思っておいてくれ」
どうやら羽織れるものは手に入りそうにないから、イリスのために何かしないといけない。
「ほら、みんな起きて、ちょっとお散歩でもしよう」
「とりあえずそこの女を殺してから」
「どうせ夜中にもぐりこんでくるんだろ、あんまり変わらんだろうが。とりあえず、四人で順番決めておけよ、今日は肩車しかしないから順番な」
「私が一番!」
「違う、私」
「私は最後がいいです」
「・・・」
イリスはまた夢の中のようだ、返事がないからそうなのだろう。
仕方がないからイリスをお姫様抱っこで連れて出る。
「あ! ずるい!」
先に歩き出した俺に気がついたりょうが腰に飛びついてきた。
「にゅ?」
そしてその衝撃でイリスが起きた。
「おはよう、イリス」
「はーよう!」
「Go for a walk now; wash a face if is sleepy.(今からお散歩だ、眠かったら顔洗って来い)」
「はーい!」
どうやってイリスを肩車の順番を決める話し合いに参加させようか、たぶんなるようになるとは思うが・・・放っておくか、たぶん四人で何とかするだろう。
「半ちゃんはどうする、一緒に来るか?」
そしてこのりんやはなたちの前では決して口を開かない困った人はどうしようか。
「(ふるふる)」
だが心配には及ばないようだ、当たり前のことのように首を横に振ってくれたということは、行かないと言うことだろう。
「じゃあ俺は外で待ってるから、順番が決まったら来いよ」




