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賑やかかつのんびりと

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 日がの光が暖かい、何の匂いもしていないような気もするし畳の匂いがするような気もする、そして落ち着く。

 ついに越後まで帰ってきて、景虎ととりあえずいちゃいちゃした後、俺は皆が先に帰ってきていた懐かしの長屋で障子を開け放ち、皆で日向ぼっこをしていた。

 左から順に俺の膝の上に座っているりょう、向日葵、イリス、隣で左腕に抱き付くような形でとら、背中に張り付いているのは段蔵で、右隣に普通に座っているのは半兵衛だ。

「貴久~」

「どうした~、向日葵~」

「・・・寝る」

 わざわざ宣言なんてしなくても、みんなでくっついてこの暖かい日差しを浴びていたら眠ってしまうのも仕方がないと思うから勝手に寝ちゃってもいいよ~、と心の中で言っておく。

「お休みなさい」

 そしてなぜかここでお休みを宣言したのはりょうだ。まあ勝手に寝てくれていいのだからりょうだって勝手にどうぞ寝て下さい、と心の中で言っておく。

「貴久様~」

「ん~」

「おみそ汁とおみそ汁、どっちがいいですか~」

 なんだそのまったく意味のないわけの分からない質問は、と心の中で言っておく。

「じゃあおみそ汁で~」

 そしてここで答えたのは段蔵だ。

 どうやら本当にここに住み着くつもりらしい。賑やかなのは歓迎だが、忍びがこんな風にぽかぽかしていていいのだろうか? と心の中で言っておく。

「・・・にゅ~」

 そしてイリスはいいとか悪いとか関係なくすでに夢に中のようだ。りょうより早いのにはちょっと驚いた、と心の中で言っておく。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 平和だな~。

「あの~・・・」

 しかしこの平和になじめていない人が一人、新入りの竹中半兵衛君だ。

「ここでは、いつもこのような感じなのですか?」

 ん~その顔は呆れているのかな?

「いつもって言うわけじゃ~・・・たぶんない」

「なら、いつもは何をしているのですか?」

「ん~」

 普段何をしているのか、か・・・そう言われると俺は何にもしていないから困る以外にどうしようもない。家事も全部みんながやっちゃうしな。

「俺は何もしてないな、うん」

「はぁ~」

 何やら半兵衛君が呆れている、こっちは呆れられてもどうしようもないからさらに困ってしまう。

「貴久~、こいつ殺して~」

 向日葵がどうでもよさそうに怖いことを言ってきた。俺がそんなことするわけがないと言うのに。

「そんなにしたいなら自分でしたら~」

「ええ!」

 なんか半兵衛が驚いているが結構どうでもいい。

「・・・面倒だからいや」

「あっそう」

「・・・」

 なんか半兵衛が呆れている・・・どうでもいいな~。

「あんたも早くここの生活になじめ。そうしないと持たない」

「この生活にすぐに慣れろと言われましても」

「後ろのはもうずっと家にいたかのようななじみ具合」

「呼びましたか~」

 後ろのと言うのは段蔵のことだ。段蔵はこうして日向ぼっこを始めた瞬間から俺の背中にべた~と張り付いてぽかぽかしている。さっきの会話にも参加したが違和感も全くなかったし、もうまさにこれぞ我が家の一員と言った感じだ。

「段蔵さんと一緒にされても困ります。段蔵さんはどんなところにでもすぐに順応できるように訓練されているはずなのですから、こう出来て当然なのです」

 ん~、そうかもしれないけどそれはどうでもいいことなんじゃないか? と心の中で言っておく。

 しかしそんな俺の心の中を代弁するように言葉を発するものが一人。

「お前は今、段蔵と段蔵の今までの努力を否定したな」

 はい、向日葵さんです。体には全く力は入っていないが、目だけが結構怖いことになっている。

「そ、そんなことは・・・」

 おお困ってる困ってる、なんとなく悪いことしたかな~くらいには思っているのかもな。

「いいですよ~、別にそんなこと」

 しかし当の段蔵にとってはとるに足らない問題だったようだ。

「私のことを分かってくれるのは旦那だけですから」

 そう言ってさっきまでよりも少しばかり強く抱き付いてくる段蔵、可愛い。

「貴久、どういうこと」

 でやっぱり向日葵先生がお怒りになられました、分かっていたけど。

 と言うか段蔵ももっと言葉を選んでほしい。確かに信じるとかそんなことを言いはしたが、互いのことを分かり合っているとかそんなことまでは言っていない。

「あ~ほら、あれだよ、あれ」

「そんなことでは誤魔化されない、もっと詳しく教えて。何事も流れだけで通せると思ったら大間違い」

 さっきまで流れだけで話してたくせになんだこの子は、どうせ流されるのならとことん流されてほしいものだ、と心の中で言っておく。

「え~っと~・・・播州からの帰りにな、段蔵と話をしたんだよ、いろいろと」

「いろいろとは」

「ん~・・・特に何も話してないよな~だんぞ~」

「ん~・・・そうですね~、旦那が旦那で私が私~って当たり前のこと言っただけですもんね~」

「・・・まあ、いい」

 おお、なんだかんだと言ってはいたがなんだかんだで流れに流されてくれるみたいだ。

 でもまあいいとか言っておきながら顔の向きを正面から左向きに変えて寝ようとしているように見せかけて匂いを嗅いでいるようなんですけど、どういうことですかね? 恥ずかしいからやめてください、と心の中で言っておく。

「はぁ~・・・平和だな~」

 平和、実にいいことだ。

「ぐ~~」

 そしてそこに平和を象徴する鐘の代わりにお腹の音が鳴った。

「あ、今の俺ね」

 犯人は私です。

 もうすっかり一日二食の生活にも慣れたものだが、それでもお腹がすくことは結構頻繁にある。要は普段は我慢しているだけなのだ。

「おお~、私の出番な気がします」

 さっきまで隣でうとうとしていたとらがにょっきりと目を覚ました。にょっきりの意味は俺もいまいちよくわからないが、なんとなくにょきっとした気がしたからそう言っておく。

「あ~でもとらも動くの面倒だろ? 俺は我慢できるから、とらもこのままゆ~くりしててもいいよ」

「そうですか? 私はお料理ならいくらでもしますけど」

「いいよ、確かにとらの手料理を食べられるのは嬉しいけど、今このぬくぬくを手放すのも惜しい」

「そうですか~」

 それだけ言い残してとらが再びうとうととし・・・始めたところで半兵衛が声を上げた。

「み、皆さん気が抜け過ぎではありませんか! どう考えても緩すぎでしょう! それに何ですか、こんな真昼間からお腹がすいただのなんだのと、朝餉もちゃんと食べたでしょうに」

 ん~これは向こうの世界で毎日欠かすことなくしっかりと三食食べていたからこその問題だからな~、これを説明するのは無理だから~・・・まあ適当に呆れられるでも何でもして終わってもらおう。

「・・・貴久、やっぱりとらに何か作ってもらおう」

「ん? 珍しいな、向日葵がそんなこと言うなんて。そんなことを言っていたのはここに着てすぐの頃だけだったのに」

 あの頃の向日葵はたくさん食べていたな~、それも理由は俺に健康的になってからまた告白しに来いと言われたから、今でも顔がにやけてしまう。

「貴久・・・結構痩せてる」

 痩せてる?

「そうかな? 俺自身としては変わった感じは・・・特にないな。稽古と今回の旅でちょっとばかり筋肉がついて体も締ったような気がしないでもないけど」

「いや、これは痩せてる。どっかの誰かと違って片時も離れずに、しかもほかの誰かに一瞬たりとも目をそらしたことさえない私が言っているんだから間違いない」

 おい、とりあえずそのどっかの誰かというのがどこの誰なのか聞こうじゃないか? と心の中で言っておく。たぶん景虎のことだとは思うが。

「貴久があの時の私みたいにガリガリになっても気持ち悪い変体商人よりもブヨブヨになっても私の愛は変わらないけど、死んでもらっては困る。今更気がついたことが悔しいけど、今はとりあえず何か食べて体つきを元に戻そう」

 そ、そんなに痩せてしまっているのだろうか?

 ちょっと自分の体に触ってみるが、自分では全く痩せたとは思えない。せいぜい締まったと言うくらいのものだ。

「とら、やらないなら私がやっちゃうけど、どうする?」

「私がやります! この長屋の家事は全部私がやります!」

 あ~、俺のぬくぬくがとてとてと走って行ってしまった~。でもとらの料理のためなら仕方がないか。

「貴久、これからは一日三食は食べるように」

 一日三食は元の食生活に戻すだけだし、俺個人としてはもっと食べたいとは常々思っていたからうれしい提案ではあるのだが・・・。

「そんなに痩せちゃったのか? 俺?」

 とりあえず隣の半兵衛を見てみる。

「私があなたに会ってまだ一月も経っていませんよ、そのくらいで痩せたかどうかなど分かりません」

「・・・」

「どうかしましたか?」

「いや、確か半兵衛って人前で話せないんじゃなかったっけ?」

 とっても今更だが、確かそんなことを言っていたような気がするし、実際他の誰かの前では話していないような気がする。

「緊張した時に相手を大根や芋だと思えと言われたことはありませんか? それと同じです」

「いやいやそれができなかったから今こうしてるんだろ?」

 なんかなんでもないことのように言っているが、それができなかったから打ち首を言い渡されるような事態に陥ったのではなかったのか。

「私もよくは分からないのですが、どうにもあなたたちを見ていると他の人よりも緊張しないのです。それに・・・意識しなくてもあなた方は人と言うよりも動物に見えてくるので」

「ふーん。じゃあ俺って」

「猿です」

 即答されちゃった。

 う~ん、猿はなんとなく嫌なようなそうでもないような・・・どうでもいいか。

「さて、それじゃあそろそろとらの後ろで美味しい料理を作っているところを見て、自分も料理をうまくなろう大作戦を・・・今日はいいか」

「たまにはとらも後ろに誰もいない寂しさを味わえばいい。いつも私たちが後ろにいて騒がしくしているのが当たり前だと思わせないようにしないといけない。私たちがいてよかったと思わせるためにも」

 そんなくだらないこと考えてるのか、料理をしているとらには俺たちなんていてもいなくても変わらないか迷惑なだけだろう。

「ところで猿」

「誰が猿だ」

 右手で向日葵の頭を上からぐりぐりした。

「そのくらいなら痛くない。それよりも猿、猿ならいつでも発情期のはず、今すぐ私と」

「黙りなさい」

 こいつはりょうの前で何を言っているのだろうか、りょうが俺のことをそんな目で見るようなことになったら責任を取らせるからな、と心の中で言っておく。

「そんな変なことを言う口はこの口か?」

 とりあえず向日葵の口をぎゅむっと掴んで蛸みたいにする。

「ふぁい」

 そして向日葵はなぜだか嬉しそうだ。やっぱりこれも向日葵的にはいちゃいちゃに入るのだろうか?

「じゃあ~・・・そういうことは時と場所を考えてほどほどに言うように、度が過ぎたら俺だって怒るし、時と場所を考えないなら本気でお仕置きもするから」

「ふぁーい」

 幸せそうだなーこいつは。俺が暗にまたこうしたいからちゃんと時と場所を考えてなら言っていいよと言ったのがいけないんだけど。

 ちょっと向日葵が幸せそう過ぎてすぐにやめようかなーとか思っていたけどしばらく続けよう、向日葵だってやってほしそうではあるし構わないだろう。

「兄ちゃん」

 おっとりょうがお目覚めのようだ、さっきまでは幸せそうに寝ていたと言うのに「お団子~」と言う寝言だかいびきだかが聞こえてこなかったからちょっと残念だ。

「とらは?」

 どうやら隣のとらがいないことが気になったようだ。

「今台所だと思うよ、俺のために食事を用意してくれるみたいだ」

「おお~!」

 おお~、りょうの両目がきらきらと輝いている。

 食いしん坊め、とか思ってしまいはするが、そもそもこの食事は俺のために用意されるものだから人のことを言えた義理ではない。

「じゃあいつもみたいにとらの後ろに行こー!」

「いこー!」

 りょうの元気な声にいつの間にか起きていたイリスが続いた。意味は分かっていないと思うが。

「よーし、じゃあやっぱり行こっか!」

 言いながら俺はイリスを抱き上げて右肩の上に乗せた。

 イリスが前に礼拝堂で高い高いをした時のようにはしゃいでいる。足をばたつかせるのは地味に危ないからやめてほしい。

「兄ちゃん! 私も!」

「はいは~~~・・・ごめん、もう空いてない」

 俺が反対の左肩にりょうを乗せようと腰を低くしたら、俺がりょうを持ち上げるより早く向日葵が肩に乗っかって来た。

「りょうもたまには我慢すべき」

「うぅ~、まだ背中があるもん!」

 りょうよ、残念ながら今日は開いてないぞ。

 なんかみんな忘れているみたいだが、俺の背中には日向ぼっこを始めた時から今この時までずっと段蔵がべた~っと張り付いている。背中にかすかに感じる冷たさはまさかよだれじゃあるまいな?

「兄ちゃん! 抱っこ!」

 なんだかりょうが駄々っ子みたいになっている。可愛いからこのまましばらく見ていたいとも思うが、これで拗ねられると向日葵と違って簡単に機嫌を取れないから今すぐ何とかしよう。

「そう我まま言わないでくれ、もう両手がふさがっているんだ、こんな状態でりょうを首にぶら下げたりしたら、もしりょうが落ちたりしたときに助けられないだろ? 俺はりょうに怪我して欲しくないんだ」

「うぅ~」

 おっと、諭したつもりだったが帰って頭で理解した分もやもやしているようだ。これは困った。

「りょうちゃん、駄目ですよ、そんな風に困らせたりしては」

 ここで助け船を出してくれたのはまさかの半兵衛だった。なんとなく今回の旅でりょうのお守りは俺がしていない時は段蔵のお仕事みたいになっていたから、俺と段蔵以外がりょうの相手をしているのを見るのは新鮮な感じがする。

「じゃあ半ちゃんが抱っこして!」

「半兵衛、お前半ちゃんって呼ばれてるのか?」

「・・・せっかく会話が成り立つ生き物に出会えたのです、私なりに仲を深めようとした結果です」

「分かった分かった、わかったからそんな風に睨むな半ちゃん」

 半ちゃんが何か言いたそうな顔をしているが、りょうがしてよ~とせがんできたから言い返してはこなかった。

 にしても半ちゃんか、なんとなく可愛い感じがするな。今度からは常時この呼び方をしよう、しばらくの間は絶対に楽しい。

「・・・子猫とは、案外重たいものなのですね」

「誰が子猫だ、合ってる気もするけど。て言うかこれは単に半ちゃんが非力なだけだろ」

 半ちゃんは一応りょうを抱っこできてはいるが、その手はぷるぷると震えてしまっており、いつりょうを落としやしないかとかなり不安だ。

「はいはい、私がやりますよ」

 そしていつの間に起きたのか段蔵がいきなり半ちゃんの前に現れてひょいっと軽々とりょうを攫って行った。

 ・・・背中にいまだに感じられるひんやりねっちょりした感じはよだれじゃあるまいな?

「・・・」

「精進せいよ」

「私は口で勝てればよいのです、例え箸より重い物が持てずとも問題ではないのです」

 いやそれは大問題だろう、と心の中で言っておく。

 そして俺はその後もぶつぶつと小声で何やら呟いている半ちゃんを後ろに、りょうを肩車している段蔵を横に、両肩の上にイリスと向日葵を乗せてとらのいる台所に向かって歩き出した。

 新に三人も人が増えたが、俺たちの長屋はいつも通り。みんなでわいわい賑やかで、ただやりたいことをやるだけののんびりとした時間が流れている。

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