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でもやっぱり帰れない

前の第2話を消して、新たに新第2話・新第3話・新第4話を投稿しています。

(この文章は2015年07月27日には削除します)

「でもやっぱり帰れない」

 これはもう神のいたずらか何かだな。だって越後に帰ろうとするまでは旅は超順調だったもん。こんな風に捕まるとかなかったもん!

「竹中半兵衛は何処だ! 早く言え!」

 木でできた柵を挟んで、薄暗い牢屋の中、俺に大声を浴びせているのはあの斎藤龍興らしい。

「どうして俺に聞くんだ?」

「一緒にいたじゃないか! 逃走している間に隠したのであろう! 吐け!」

 昼過ぎのことだった。小太郎の言を聞き、半兵衛を連れてさあ帰ろうとしたところに・・・「待てー!」の声が聞こえたのだ。

 まあ今回は間違いでも何でもなく本当に俺たちのことを狙ってきていたから普通に逃げようとしたのだが、くーちゃんの一行が動けなかったため・・・。

「あとで助けてあげるから、斎藤を下に付けるか潰すためにも一度捕まっておきなよ」

 と言われて仕方なく半兵衛だけを連れて逃走。しばらく走ったのちに小太郎が半兵衛だけを連れて消えた。そして俺は龍興に捕まった。

 今回くらいなら段蔵あたりが何とかしてくれたら何とかなった気がしないでもないのだが・・・。

「どうしても言わぬというのであれば、こちらにはいろいろと用意があるが」

 そう言って龍興が懐から何かを取り出した。小さな木でできた・・・箱かな? それともただの角材かな? 周りには特に何か細工があるようにも見えないが・・・たぶん拷問の道具なのだろう。

「それはどんな道具なんだ?」

「ただの木だ。想像の通り、拷問の道具ではあるがな」

「……それで殴るか潰すか、と言ったところか」

「そうだな、こいつでお前の指を潰す」

 うわー痛そうだなー。

 今頃になって心配になってきたけど、こんな牢屋の中でも助けてもらえるのだろうか? もしかしてこのままここで拷問とかになってしまうと助けが来るまで本当に拷問を受けることになったりしてしまうんじゃないだろうか?

「さあ、最後にもう一度だけ聞いておいてやる。半兵衛の居場所を言うのか、言わないのか」

「聞かれたからもう一度返そう、俺は知らん、と」

「そうか、なら仕方がないな」

 今頃になってもう少し言葉を選ぶべきだったとか後悔し始めたがもう遅い。龍興が立ち上がり・・・そのまま何もしないで牢から離れだした。

「・・・はぁ」

 自分ではひょうひょうとしているような態度をとっていた気がしていたが、どうやらかなり緊張していたようだ。龍興がいなくなった瞬間に、ため息とともに体の力がガクンと抜けていった。

「にしても・・・あいつは男なのか女なのか、よくわからなかったな」

 胸はぺったんこだったし、なんとなく髪型も、長政に似て男っぽかったが、実際長政はあの髪型で女の子だったから髪型と胸の大きさだけで判断はできない。

「普通に女の方ですけど?」

「・・・」

「どうかしましたか、旦那?」

 お前が急に現れて驚いたんだよ! 心の臓がバクバクしていて苦しいくらいなんだよ!

「旦那?」

 でも可愛いから許される。

 座っていても、同じく座っている段蔵は俺より圧倒的に小さい。そしてそこからの首を傾げながらの上目づかい・・・カワユイ。

可愛いは正義ではあるが・・・段蔵なら甘やかすような状況になることもないから大丈夫か?

「大丈夫だ、心配ない」

「なら早く出ましょうか。今頃外で北条殿が鬼の形相でお待ちになっていますよ」

 ・・・どうしてくーちゃんが鬼の形相で待っているのだろうか。

 と言うかあのくーちゃんが鬼の形相って・・・ちょっと想像できない。怒るなら前みたいに静かに怒る感じだと思っていたが・・・その怒った顔も見たいには見たい、しかし本当に怖そうだから見ないで済むに越したことはないか。

「で、出るのはいいが、どうやって出るんだ? さっきの龍興の行動はまだ俺が半兵衛誘拐の犯人だと思っているように見えたんだが?」

「そうなんですよ。先ほど北条殿が斎藤家に無実の旦那が連れて行かれたと訴えたところ、「そんなことはしていない」と返されまして・・・「じゃあいない人は脱獄なんてしないよね?」とか言い初めまして、今に至ります」

 おおう、くーちゃんなら普通に言いそうだな。

 でも脱獄かー、できれば胸を張って出て行きたいとは思うが・・・さっきの龍興の脅しが結構怖かったからさっさと出よう。

「よし、段蔵、よろしく」

「はい!」

 段蔵さんや、元気に返事をするのはいいことだし可愛いから普段なら歓迎するのだが、忍びが仕事で牢に潜入しているのに大きな声を出すのはいかがなものかと思うぞ。

「はい、早く出て下さい旦那」

 気がついたら牢が開いていた。そして段蔵の手には普通に鍵が握られている。

 ちょっぴり何か格好いいやり方で牢を開けてくれないかな~とか期待してしまっていただけに忍術もへったくれもなく普通に鍵で開けたのは残念だ。

「旦那?」

「はいはい、今出るよ」

 這うようにして俺は小さな牢獄から出た。出られたと思うだけでなんとなく楽になった気がするが、今見つかったら脱獄者として最後には首ちょんぱが確定かなとか考えるとかなり怖かったり。

「さあさあ旦那、早くいきましょう。表にいた人たちは皆寝てもらっていますから」

 お仕事の速いことで。

「えぇ~」

 そして表に出てみれば牢の番をしているのであろう兵と・・・斎藤龍興が転がっていた。

「段蔵、もしかしなくてもさっき俺の牢のカギを開けたのは・・・」

「はい、こいつを転がしたら落ちたので拾っておきました」

 これでは起きた後にすぐ追手がかかるな。急いで逃げよう。

 俺は怖くなったから段蔵を急かしてさっさとその場を立ち去った。


「貴久、斎藤を潰したいんだ、潰してもいい?」

「駄目」

 再び帰路に戻って馬の上。今はりょうが俺と一緒の馬に乗っているから、くーちゃんはぴったりと馬を並走させて隣から話しかけてくる。

 話しかけてくる内容はずっと同じで、「斎藤を叩き潰してもいい?」だ。

 どうやら斎藤義龍に要求を跳ね除けられたのがよっぽど腹に据えかねているようで、今も怒っていることがよくわかるくらいに瞳孔が開いている。

 俺としてもこれで斎藤が北条を舐めているとかなら、それは北条家のこともあるから専門家にお任せするのだが、今回くーちゃんは北条の名を伏せたらしい。理由は美濃を通っている理由の説明が面倒だったからとのこと。まだ同盟に入ると公に発表していないから、その前に甲斐に行くと北条が胡麻を擦っているようにしか見えないからやっちゃいけないそうだ。

「でも貴久に酷いことをしたんだよ? 殺されて当たり前だと思うんだ」

 嘘つけ、自分で捕まっておけとか言ったくせに。本音は自分の要求が通らなかったことが気に食わないのだろう。

「そう考えているのはくーちゃんだけだ」

「今回は私も同意。先の佐々も合わせて二人とも血祭りにあげる」

 向日葵先生が変なところでくーちゃんに同意してしまう。やめてくれ。

 やっぱり俺の周りには暴力的な方に振れた人が多いようだ。言うだけじゃなくて本当にできてしまうからたちが悪い。

「そんなことしたら、二人を縛ってその目の前で」

「できるものならやってみるといいよ。その後のことは知らないからね」

 そう言われるとこっちは本当に何もできなくなってしまうからやめてほしい。こっちは同じ脅しをかけても「やれるものならやってみなさい」とか言われて実際にそうなったらできないからな・・・駄目だな、俺って。

「貴久、どうやら無駄話ばかりしていられないようだよ」

 突然くーちゃんが自分と俺の馬の手綱を引いて馬を止めた。

 くーちゃんの視線の先を見やると、その視線の先には下り藤の旗を翻らせた斎藤家の軍勢、その先頭で斎藤龍興が俺たちを待ち構えていた。

「どういうつもりでしょうか、まさか我々に手を出すとは思えませんが」

「でもま、向こうさんが待ち受けているのは明らかだし、行かないわけにもいかないでしょ」

 そう言うとくーちゃんは一人パカポコと馬を進めて軍勢の前に立ち。

「何か用かな?」

 堂々と話しかけた。

 ま、北条と斎藤はどちらも下剋上から成り上がった戦国大名ではあるが、このころの北条は関東一円を治めている大大名なのに対して、斎藤はまだ美濃一国を治めるのが何とかってところ、さらにはこの前まで弱小だった織田に勝てない程度の小大名だ、力関係は明らかだろう。

「そちらの一行の中に竹中半兵衛がおるであろう、その者の身柄を引き渡してもらいたい」

「どうして私たちと一緒にいると考えたんだい?」

「答える必要はない。さっさと引き渡せ」

 あれ、そういえば。

「こた・・・」

 ちょっと気になったことがあったから小太郎に聞いて見ようと思ったら姿がなかった。さらに周りを見て見れば、いつの間にか昌幸と段蔵の姿もない。

「向日葵」

「何?」

 唯一残っていて答えが返ってきそうな向日葵にお伺いを立てることにした。

「たしかくーちゃんって、俺を牢から出すときに北条の名前を使わなかったんだよな?」

「そう」

「理由は北条が美濃を通る理由を説明するのが面倒くさいから」

「そう」

 それってつまり・・・。

「俺たちって草とかと同じ状況なんじゃないのか? 何も言わずに敵国に入るなんて」

「そう。だからここで北条の名前を使ってもただの侵略行為として斎藤は北条と正当性をもってやり合える」

 かなりやばい状況なんじゃないだろうか?

「でも斎藤はここで北条に手を出しても困るだけ。北条が先に尾張で織田に会っていることを知っていれば、周りに頼りになる勢力がいないことは分かるはず。たとえ尾張に行ったことを知らなくても、甲斐と接している以上貴久がいれば簡単には手出しできない。もし貴久に手を挙げたら周りは本当に敵しかいなくなる。今の斎藤に長尾、武田、浅井、織田の全部にもれなく対応できる力なんてない」

 確かに向日葵の言う通りだが、今言った斎藤の敵の中に浅井と織田がいたのは気のせいではないな。向日葵の中では、俺と長政、信長がもうそんな感じの関係だということだろう。甲斐に入って安全になったら何かされるのだろうか。

「でもここで斎藤がそんなことお構いなしに力に訴えてくる可能性もあるから三人は備えている。私は貴久の護衛」

「せめてりょうととらは守ってあげてくれ」

 頑張って冷静にしているつもりだが、内心では今の状況を理解して怖くてたまらない。

 それでも今俺が変なことをしたらそれこそ血が流れるような事態に発展してしまうかもしれない。だから今は動かない。唯一できることと言えば、力のある人に縋る事だけだ。

「どうしてもだめだというのなら、力で押し通ることになってしまうけど、構わないかい?」

 そしてそんな怯えている俺の耳にくーちゃんの声が届いた。

「やれるものならやってみろ」

 そして龍興にもやり合う意思があるようだ、これは血が流れる可能性がいよいよ高まってきた。

「そうかい、ならそうさせてもらおう」

 それだけ言うと、くーちゃんがすっと左手を挙げた。

「何をする!」

 声が聞こえたのは敵からだった。そしてその声の主は他ならぬ斎藤龍興。

 くーちゃんが左手を挙げた瞬間に、龍興の隣にいた兵が龍興を取り押さえていた。

「さあ、そいつを殺されたくないのなら、道を開けな」

 くーちゃんが余裕の笑みを浮かべて命令している。周りの兵は戸惑いながらも道を開けていく。

「何を馬鹿なことをしている! 貴様らは誰の命令を聞いているのだ! 私のことなど構うな! 竹中半兵衛を何としてでも連れて帰るのだ!」

「ここで国主の跡継ぎを見捨てたりしたら・・・家族は生きていけないだろうね」

 龍興の言葉で一瞬だけ気を取り戻した斎藤勢だったが、その直後にかけられたくーちゃんの言葉によって、今度は完全にやられ、もう何も言わずに道を開けてしまっている。

「馬鹿者ども! 貴様らには分からんのか! 我ら斎藤家に、美濃にとって竹中半兵衛がどれほど必要なのかが!」

「必要?」

 思わず口からつぶやきが漏れてしまった。

 ちょっと待て、斎藤は半兵衛を処刑しようとしているのではなかったのか? それが、「必要」だって?

「さあ、行こうか」

 開けられた持の真ん中を堂々と進みながらくーちゃんが俺たちに声をかけてくる。その声に従ってみんながどんどんと斎藤家の兵の間を進んでいく。

「龍興殿、でしたか?」

 しかし俺はどうしても気になってしまったので、いけないとは思いつつも、馬から降りて龍興に話しかけてしまった。

「斎藤家に竹中殿が必要だとはどういう意味ですか? 竹中殿は打ち首だと聞きましたが」

 必要だというのならどうして打ち首を命じたのか。もしこの龍興の言が本当なら、半兵衛が嘘をついている可能性が出てくる。

 そんな風に俺が一人、半兵衛が俺たちに嘘をついて何か策を仕掛けようとしているのではないかと疑心暗鬼になっていると、激昂した龍興が答えを叫んでくれた。

「そんな馬鹿げたことをしようとしているのは母上だけだ! 竹中半兵衛は将来必ずやこの国の力となる! それだけの力があると、私は見た! だからここで消えてもらうわけにはいかんのだ!」

 どうやらこの斎藤龍興、随分と目が良いようだ。

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