我は将軍である!
「さあ、今日こそは答えてもらうぞ! おぬしの本当の名は何なのだ!」
やっぱり京には来ない方が良かったかもしれない。
俺がこう思っているのは全て目の前の人物が原因である。
「さあさあ答えよ!」
いい加減五月蠅いし面倒くさい・・・そう目の前にいるのは室町幕府の現将軍である足利将軍家第13代征夷大将軍、足利義輝である。
京の町に入った瞬間になぜだかはわからないが将軍様に見つかってしまった。
見つかった瞬間は気づかなかったふりをして素通りしようとしたのだが、獣のように目を光らせた将軍様がえらい速さで追いかけてきたので諦めた。
んでもっていろいろと聞かれるのも嫌だったから先に「どうして俺たちがここにいるとわかったのですか?」と聞いたのだが・・・「そのようなことはどうでもよい! さあ、今日こそは答えてもらうぞ! お主の本当の名は何なのだ!」と、俺の質問など完全に無視されてしまった。
で、今の状況である。
どうやってこの面倒な将軍様を騙して・・・言い方は悪いが、とにかく騙してでも早くこの場から、将軍様から離れたい、将軍様にはもう頭の中だけで理想の将軍様として生きてもらおうと決めているのだ。
「あ、あんなところにとっても可愛らしい犬が」
俺が明後日の方向を見ながら適当なことを言うと・・・。
「どこじゃ!」
可哀想なことに将軍様がものすごくキラキラした笑顔でそちらを見てしまった・・・心のなかだけでももうこの人を将軍様だと思うのはやめよう。
「あ、すみません、見間違いでした」
「そうか・・・」
将軍様が明らかに残念そうな顔で向き直った・・・こうしてみると慣れればそんなに面倒くさくないかもしれない、いじるのが楽しいかも。
「で、名前でしたか?」
「そ、そうじゃ! さあ、はよう申せ!」
りょうととらを合わせた感じで接すればいいのかな?
「ジョン・スミスだ」
「なんと⁉ 異国の者であったか!」
んなわけないだろ、普通に日本人の顔で日本語話してるだろうが。
「というのは冗談で」
「冗談⁉」
そういちいち驚きなさんな。
「俺の名前は彦二郎だ」
たぶんだが、将軍様は本田元宣とも会っていると予想されるので、万が一俺の名前が違うことに気づかれてもよろしくないので元宣に名乗った名前と同じ名前を名乗っておく。
しかし、そんな俺の危惧は悪い方向へ働いてしまった。
「嘘を申すな」
さっきまでのはしゃいだり落ち込んだりしていた様子はなく、将軍としての威厳のようなものをまとった足利義輝がそこにいた。
「我はそれほど阿呆ではないぞ。・・・よほど素性がばれるのが怖いと見える・・・武田か長尾辺りの者か?」
・・・なぜばれた? いやなぜそこまで絞り込めた?
「どうして・・・」
「ふふん! 我は将軍であるぞ!」
あ、さっきまでの威厳がどっかに飛んでった。
危うく洗いざらい白状するところたったが、やはりさっきまでの威厳を保ったまま『我は将軍であるぞ!』と言ってほしかった・・・残念だ。
「な、なぜそこでそんな目をするのだ!」
なぜって・・・そりゃあ、ねえ?
「残念だったから?」
「何が残念だと言うのじゃ!」
「・・・全部?」
「長慶ー! みんなが虐めるのじゃー!」
「はいはい、私も初対面で反対の立場に立ってたら同じようなことしたかもしれないからね~」
将軍様は味方だと思っていた三好長慶にまで裏切られてとうとうその場に崩れ落ちた。
「頑張ってください、将軍様! ここでどーんと言ってやればまだ挽回できますよ!」
「そ、そうか?」
将軍様はもう涙目だ。
「はい! 将軍様はやればできる方です!」
「・・・よし! ではもう一度!」
ちなみにさっきから励ましているのは・・・。
「まあ私の場合なら手遅れですが」
「・・・」
・・・傷口に塩を塗っているのは松永久秀らしい。
松永久秀といえば日本の戦国時代の三大梟雄などと評されている。他にも『下剋上の代名詞』だの『謀反癖のある人物』などと言われている。
まあとにかく簡単にまとめてしまえば『悪いやつ』というのが一般的な評価だ。
しかし俺からしてみれば「下剋上? 謀反? そんなの戦国の世なら当たり前だろ! 戦国の世で一番目指して何が悪い!」とか言いたい感じだ。
「下剋上なんて恩のある主に刃を向ける行為、最低だ!」とか言っているやつはもっと歴史について調べてみなさい。
たとえば有名な話で豊臣秀頼と徳川家康の大坂冬の陣のきっかけになった話を考えてみよう。
この戦のきっかけは『国家安康』と『君臣豊楽』の二つの言葉だとされている。
秀頼がこの二つの言葉をどんな意味を込めて使ったのかはわからないが、家康はこの言葉を「家康の名を引き裂き、豊臣家を讃えるもの」と解釈し戦を始めた。
さあどうだ、戦国の世を統一し日ノ本に200年以上もの平和をもたらした英雄の豊臣家への恩返しがこれだ。
豊臣家の五大老ともあろうものが関ヶ原で石田を破り、大阪の陣で豊臣方を滅亡させた。
さて・・・下剋上ってこの時代でそんなに悪い?
で、次は梟雄ってところか。
まず梟雄って言うのは残忍で強く荒々しいこと、また、その人。悪者などの首領のことなんかを指している。
しかしこの松永久秀、主君・三好長慶の存命中は、目立って謀反を起こしたり専横をしたことは一次史料からは確認できていない。だいたいの松永久秀のイメージは信憑性の薄い軍記物が本だったり、江戸時代以降の創作だったりするとのことだ。
まあそんなわけで別に悪い奴でも何でもない、むしろ優秀ないい人が松永久秀だ・・・が、目の前で涙目の将軍様の傷口に塩を塗っている様子はなかなかに悪人ぽかった。
「・・・ぐす」
え? あれ? え、ええぇぇぇええーーーー! 将軍様泣いてない⁉ いやあれ泣いてるよね⁉ だって頬をキラキラと光る何かが流れてるもん!
「しょ、将軍様! 泣かないでください! えっと、ほら! 名前! 名前教えますから!」
何がどうであれとりあえず目の前で女の子が泣いているのはよろしくないので名前を教えることにした・・・後悔はない・・・こともない。
「・・・ぐす・・・本当か?」
あーくそう、やはり俺はこういう涙目に弱い感じだな、将軍様がやたらと可愛く見える。
「はいはい教えますとも・・・ただ、せめて他の人には聞かれない状態でお願いしたいのですが・・・」
「・・・よし! ならばついて参れ!」
俺の名前が聞けることがそんなに嬉しいのか将軍様はえらく元気になって俺たちを先導してどこかへと向かって歩き出した。
まあだいたいどこへ向かっているのかはわかるのだが。
「さあ! ここなら誰に聞かれる心配など一切しなくて済むぞ!」
予想通りというかなんというか・・・やってきたのは二条城だ。将軍様のお家だ。
いやまあ確かにここなら聞かれて困るような人は当の将軍様以外にはいないだろうけどさ・・・これは監禁みたいなものではなかろうか。
「えーと、話す前に一応聞いておくんだけど・・・どうして俺の名前なんて知りたいんだ?」
前回聞いていなかったのでとりあえず聞いておいた・・・まあなんとなく予想はついてるんだけどな。
「我がなんとなく知りたいからじゃ!」
はいはいわかってましたよー。
「それはまあ・・・自分に素直なことで」
「それが我の唯一の取り柄であるからな!」
唯一って・・・悲しいな。
「それで、我のことなどどうでもよいのだ。お主の名はなんと申すのだ!」
なんだろうなー、俺はこの純真無垢な感じを裏切れない気がする・・・あれ? もしかして俺は将軍様に弱い?
「誰にも言わないでくださいよ?」
「足利の名に懸けて誰にも言わぬと約束しよう!」
足利の名も安いなー。
「俺の名前は、加藤貴久だ」
「嘘を申すな!」
えーこれは嘘じゃないのになー。
「先日尾張の織田と本田が会いに来た。世がこのような情勢の時に織田と長尾の代表とも呼べる存在が国本を離れてこの様なところにおるわけがなかろう!」
ほう、織田が将軍様に会いに来ていたのか。
「信じないのは勝手ですけど、織田がここに来ていたことは話してもよかったのですか?」
「口止めされておらぬからな!」
えー、そんな理由ですか。
「じゃあ信じる信じないはどうでもいいのでとりあえず俺がここに来ていたこと全般は内緒でお願いします」
「・・・」
将軍様がじっと俺の目を見始めた、これはもはやお馴染みの「目を見たら分かる!」攻撃だろうか?
「ふむ、本当に加藤貴久のようだな?」
あ、信じてもらえた。
「お主が言うのなら誓った以上は絶対に言わぬが・・・我に会うためでないのなら何故ここまで来たのじゃ?」
「え? 言うと思ってるの?」
「我は将軍であるぞ!」
将軍様が胸を張って堂々と告げる・・・大きめの胸が強調されてこま・・・。
「とー」
「ホンジュラス!」
次はジャマイカ辺りが出てくるのてはないかという感じの叫びをあげたのは向日葵先生のやる気のない掛け声と共に繰り出された強烈な回し蹴りのせいだ。
「今貴久が胸を見て卑猥なことを考えていた気がする」
そんな気がするってだけでこんな強烈な蹴りを繰り出すのはやめて欲しい。
実際に健全な男として全く想像していなかったわけではないから言い返せないのが辛いところだ。
「なんだ、我の胸が気になるのか?」
そう言いながら自分の胸を揉み始める将軍様。
「死ね」
「ホイヘンス!」
違った、数学の定理が出てきた。
「今のは間違いなく考えてた」
向日葵さん、痛いです、そしてその顔は怖いです。
胸のことだからか? 胸に関する話題だからこんなにも怒っておられるのか?
「ふむ・・・触らせるわけにはいかないが、見るくらいならいくらでも構わぬぞ?」
「殺す」
「待て待て待て」
今度は将軍様に攻撃しようとしていた向日葵を羽交い締めにして止めた。
「・・・仕方ない」
何故だかすんなり諦めてくれた・・・理由は深く考えないでおこう。
まあ考えなくても向日葵の隠せていないにやけた顔が全部物語っているのだが。
「でだ、結局お主たちがここまで来た理由は何なのだ?」
「堺を観光するついでだ」
そう言いながら向日葵から手を離しとらを猫を持ち上げる感じで脇の下から手をいれて抱え上げて将軍様に差し出した。
「とら、もう一回堺まで行くか」
「行きます!」
「ほら見てください将軍様、この一点の曇りもないキラキラした目を。嘘ではないと分かるでしょう?」
「ん? 嘘なんですか⁉ 貴久様⁉」
とらが驚愕しているが今は無視。
「その様じゃのう」
将軍様も納得してくださったようだ。
「越後から堺見物に来たついでに通りかかっただけ、か・・・」
しかしながら将軍様はなぜだかとても寂しそうな顔をしてしまう。
首を突っ込むと面倒だとは分かっていても突っ込んでしまう、もうこれは性分とかかな。
嫌だ嫌だと言いながらもこうしてしまうのは本当に何とかしないといつか痛い目に合う。
あーそういえばくーちゃんの時に景虎に物理的に痛い目には合わされたな、もう過去のことといえば過去のことだが忘れないようにしないとな、教訓として。
「どうしたんですか、急にそんな寂しそうな顔をして」
この将軍様は回りくどいことを嫌いそうな感じがしたのでズバリ聞きたいことを聞いて見た。
「なに、京も寂れたものだなと思うてな」
寂しそうな顔で塀を、恐らくはその先に広がっている京の町を見回しているのであろう将軍様。
ここに来るまでに見てきたのはきれいな町並みだ、きれいな街並みがあった。どの家もとてもきれいで、新築のようにきれいな建物もあった・・・そしてそれらを収める視界に人の姿は映ってはいなかった。
つまるところ簡単に言って寂れているのだ、この京の町は。
「なんとかしたいのだがな」
「そのために今頑張っておられるのでしょう、なら良くても悪くても結果が出るまでは弱音なんて吐いていてはいけませんよ」
将軍様がムッとした顔をする、しかし瞬きするほどの一瞬でその表情は消え先程までの寂しそうな顔に戻った。
「言うは易し行うは難しと言うであろう」
「確かに俺には将軍様のような苦労をした経験などありませんが、なんとなく将軍様は常に威張っていればいいと思いますよ」
威張るというのはちょっと意味的に問題がありそうな気はするが、将軍様ならこれでいいとも思う。
「威張る?」
将軍様の顔は寂しそうな顔から一転して怪訝そうな顔になる。
「まあ俺の・・・理想論とでも言いますか願望と言いますか、将軍様には『言うは難し行うは易し』であって欲しいのですよ」
将軍様の言葉には力がある、将軍様がどこかの勢力を討伐したいと思い諸勢力に討伐するように命じて討伐させる。
だがその討伐される勢力は本当に討伐されるようなことをしたのか? 本当にそうならそれで構わないが、そうでなかった時は問題だ。
つまり、将軍様が言うことがすべて成されるほどの強い力を持っている、だから将軍様は安易に言うことはできない、
そんな感じが俺の理想だ。
歴史的に見ても時の権力者が絶対的な力を持っていたほうが世の中平和であったのだ。
まあ実際にこっちに来て生きている身としては将軍様よりも愛しい奥さんたちの応援をしてしまうのだが。
「ほう。確かにそうなるのならばこちらとしてはそれで構わぬが・・・お主はそれで良いのか? どのような立場なのかは知らぬが、一応は長尾と武田の両国主の夫であろう?」
「個人的に、広く世を見ればその方がよいとは思っています、しかし二人の夫としてはそんなことになっていいのやら悪いのやら・・・わからないから困るわけですよ」
将軍様が絶対的な力を持つ、それは逆にいうと将軍様の独裁が始まることを示しているかもしれない、その危険もあるから俺の意見がおいそれと通るわけもない。
「そうであろうな。我もそのようなことをお主に聞いても仕方がないとはわかっておる」
そこで将軍様は一度言葉を区切って、可愛い笑顔で聞いてきた。
「もし我に何かあったら、お主は力を貸してくれるか?」
「俺に将軍様を助けるほどの力があるかはわかりませんが、やりたいこととできることが一致したらあるいは・・・」
景虎たちにとって都合が悪いのならその時点で断ってもよいのだが・・・これは俺の持っている将軍様に対する先入観がそうさせるのか、それともこれが将軍様の力だろうか。
「貴久、具合が悪いならちゃんと言わないと駄目」
何故だか後ろから突然とても失礼な言葉が聞こえてきた。
「そうですよ婿殿、専門ではないのでそこまで詳しいというわけではありませんが、私も医学をたしなんだことがあります。さあ、どこが悪いのですか?」
失礼な人が二人に増えた。
「旦那! 私は医術の心得などありませんが足には自信があります! ここは京です、腕のいい医者だってたくさんいるはずですからそこまで運びますよ!」
失礼な人が三人になった。
なんだ? もしかしてこのみんなの反応は普通の反応なのか?
「俺、何か変なことしたか?」
「貴久が女の頼みを暗に断った」
この前京に来ていた時も将軍様が名前を教えるように言ったのを断っているんだが。というか一応断ってはいない。
「なんだ、貴久は女子に弱いのか?」
「そんなことは・・・」
「今まで本気の私に逆らえたことはない」
そうだったかもしれないけど・・・いやそうだったけど! でも決して女の子に弱いと言うわけでは・・・ないといいな~。
「では試しに・・・」
「貴久に何かしたら殺す」
「こら、向日葵はいい加減にしなさい」
さっきの反応を見る限り俺に構ってほしいだけのように思えるので軽く口で言うだけで何もしないでおく。
「止めないなら本当に手を出す」
「じゃあ俺は一生手を出さない」
向日葵がとてとてと将軍様のもとへ歩いていき、殴る構えを取り、勢いよく腕を伸ばし・・・将軍様の体に触れる寸前で手を止めて、しばらく動きを止めて、またとてとてと俺のもとに戻ってきてぎゅっと抱き付いてきた。
「ごめんなさい」
「いやいや、謝る必要はさすがにないだろ。強いて謝るとしたら俺の方だろう」
優しく向日葵の頭をなでてやる。向日葵が幸せそうに笑って抱き付いている腕の力を強めた。
「のう、貴久、気にはなっていたのだが・・・お主とその向日葵という娘はどういう関係なのだ?」
「夫婦」
向日葵が将軍様の方に振り向ききらりと目を光らせながらドヤ顔で言い放つ。
「いやまだ違うから、祝言はまだだから」
「ええ!」
「やはりそうでしたか」
「予想はついていましたが」
「複雑な気分です」
「?」
とらがえらく驚いている、割とバレバレだったと思うのだがとらは気づいていなかったようだ。その証拠に他の三人は気づいていたようだ。りょうは分からなくても何の問題もないのです。
「たたた貴久様! あの、その・・・向日葵ちゃんと・・・えぇ!」
「とら、言いたいことはなんとなくわかるが事実だから受け止めてくれ」
たぶんよく俺が認めたなとか思っているのだろう。大丈夫だ、俺自身いまだにどうしてあの時向日葵にあんなことが言えたのか不思議だ。
「向日葵とやら、お主はどこの家の者なのだ?」
「え? 向日葵ちゃんってもしかして私よりも立場が上の人だったの⁉」
とらが一人驚いているが・・・この話はあまりしたくはないな。
「そうではないのか? 景虎と晴信の夫と夫婦になろうと言うのだ、それなりの身分の者なのではないのか?」
「貴久は身分なんて気にしない人、一応私は妾」
「おい、何勝手に妾に・・・」
「貴久、気持ちは嬉しいけどそれは駄目、貴久のためにならない」
向日葵の目はいたって真剣だ、どうやら本気で俺のためを思ってこうしてくれているようだ。
「だが本気で貴久のことを思っているのならば、妾よりも伽役の方が良かったのではないか?」
将軍様が首を傾げている。今は特に可愛いとかとは感じない、普通に聞いている。
「貴久が伽役は嫌いだって言ってたから」
あーそういえば言ったな、伽役はなんとなく嫌いだって。
こっちで言うところの伽役って言うのがどういう立場なのかは知らないけど、俺の中では体だけの関係、愛人あたりを指す言葉のような気がするからなんとなく嫌いな感じがするんだ。
「夫の好みなら仕方がないか」
本当は仕方がないとか言って片付けていいような話ではないが、できることなら景虎たちとも話し合って何とか認めてもらいたい。
「まあそんなわけでそういうことだ、そろそろ俺たちは帰るよ」
なんか最後の方の話は俺と向日葵の話になってしまっていたが、将軍様の質問にはちゃんと答えたし、笑顔にできたし、もうやることもないし、帰ってもいいだろう。
「うむ、ではまた気が向いたら会いに来い。あとやりたいこととできることが一致した時にな」
「ははは、そうするよ」
と、そこで一つ気になった。
「あの、確か織田と会ったんですね?」
「ああ、五日前にな」
五日となると俺たちと堺で会う前に謁見していたのかな?
「その時には何か話されたのですか?」
普通答えていいようなことではないが・・・。
「適当な世間話をした後にお主に聞いたのと同じことを聞いた」
口止めされていないからなのか話してくれた。
「その時、織田は何と?」
「『将軍様のお力になることは俺にとって最大の喜びです、何でもしますからいつでも呼んでください!』などとほざく男もいたが、信長の方はまだ及第点であった、『出来うる限りを尽くします』と言っておった」
それで×と△なら将軍様の価値観は案外俺と近い気がしてきた、俺もその回答なら元亘の方は論外で信長の方はやりたくなかったらやらないと言っている分△かな、素直にやりたくない時はやらないと言ってくれれば〇だったと思う。
「なるほど、そのように答えたのですか」
「あ奴等に比べてお主の答えは我にとってとても好ましいものであったぞ、お主なら頼ってもよいと思える程度にはな」
「それは光栄です。
それでは、今度こそこれにてお暇させていただきます」
「そうか、では気を付けて帰るのだぞ。あと、我が健在である時であれば困ったことがあったら我を頼ってまいれ」
「将軍様だからですか」
ちょっと冗談交じりに行ってみる、でもおそらくこれで合っていると思う、だって相手は・・・。
「うむ、その通りじゃ! 我は将軍であるからな!」
将軍様は元気にそう答えてくれた。




