風魔小太郎 待つ
「・・・」
眠れない。
さっきの昌幸の告白・・・だと思われる発言を聞いてから頭の中で「ひゃほー!」とか騒いでいる俺と「そんなわけない、そんなわけない。相手は昌幸だぞ? からかわれてんだよ。それに前々から苦手だって言ってたじゃないか」とか言っている俺が五月蝿くて眠気が全くやってこない。
それなのに昌幸の方は普通に寝ているのだから腹が立つ。寝顔が可愛いからさらに腹が立つ。その可愛い寝顔に落書きでもしてやろうか? 額に「肉」の文字とほっぺに渦巻あたりを。
・・・くそう、それでも可愛い気がするな、余計に腹が立ってきた。
もうこんなことを考えるのはやめよう、こんなことを考えていても仕方がない、明日もきっと早い、絶対にとらが早起きして早く堺に行こうと騒いでくる。
だから早く寝よう、とはいってもすでに深夜ではあるからこっちに来てからの俺の生活を考えると早くないどころかめちゃくちゃ遅いのだが・・・。
こっちには電気やガスはない。だから当然のことながら夜になったら真っ暗だ。季節によって差はあるが遅くてもだいたい19:00くらいには辺りは真っ暗になっていて俺の目では何も見えないくらいになってくる。
よって俺の就寝はだいたい17:00~19:00くらいになっている。起床は05:00~06:00くらいだから寝ているのは長いときには13時間くらい、短い時でも10時間くらいは寝ている。
でもって今は感覚的にだいたい深夜の01:00~02:00頃だと思われる。
そんでもって何度でも言うが人はすぐに慣れるのだ・・・つまり何が言いたいのかというと・・・。
「明日は起きれんな」
10時間以上寝ることに慣れてしまっているのにこんなに夜更かししたら朝に起きられるわけがない。たぶん朝になったらとらにたたき起こされて、道中では向日葵先生の苛烈でやる気の感じられない目覚まし攻撃を受けることだろう、りょうも何だかんだで騒いだりして大変そうだしな。
「眠れないのですか?」
「ああ」
深夜にもかかわらず普通に会話できているのは相手が誰だかわかっているからだ。
起きているのは小太郎で、起きている理由は火の番だ。
当然のことながら野宿をしているのだからここは屋外、熊なり猪なりと言った野生の動物が現れる可能性は低くない。それにこのご時世山賊や盗賊なんかも出てくるかもしれない、そんなときに備えて誰かが起きていなくてはいけないからこうして今は小太郎が、先ほどまでは昌幸が起きていて火の番と見張りをしてくれていた。
「野宿が原因でしょうか、やはり宿をとって、後で金を稼ぐべきでした」
「いや、野宿は原因じゃない・・・まあ聞かれていたとは思うが、あれが原因だ」
若干の恨みも込めて可愛らしい寝顔で寝ている昌幸を見た。ええい、まだあの可愛い寝顔に腹が立つ。
「私には昌幸よりもそういった感情が分かりません」
小太郎が無表情に告げてくる。
「そうなのか? 確か初めて会った時に俺のことを好ましいとか言ってなかったか?」
言っていたよな? 俺の悲しい妄想じゃないよな?
「はい、確かに言いました」
よかった、妄想じゃなかったようだ。
「しかしそれはあくまで好みの話であって、加藤殿のことを好いているという意味での発言ではありません」
あ、妄想だった。
「しかし最近、こうして加藤殿と共に旅をしていて分からなくなってきました・・・」
「何が?」
「人を好くとどんな気持ちになるのか、です」
焚火を見ていた小太郎が目が前髪で隠れてしまっている顔をこちらに向けて難しいことを言ってきた。
そんなもの俺にもわからんわ! てかわかる奴なんているのか? とか言ってやりたいが、今そんなことを言って話を中断しても意味はないし小太郎が本当に言いたいこと何なのかわからなくなってしまうから言いはしない。小太郎も話を続けてきた。
「今まで私は人を好いたらとても楽しい気持ち、幸せな気持ちになれるのだと思っていました。しかし今、私の気持ちはとてもそんなものではありません。確かに楽しいとは感じられていますが想像よりもその気持ちは小さく弱いものでした、幸せだと思う気持ちも同じでした」
・・・小太郎は分かっていて言っているのだろうか。
「小太郎・・・えっと・・・」
「はい、今私は恐れながら加藤殿のことを好いていると言っています」
ああ分かってて言っていましたか、勘違いでも何でもなく言っていましたか。
やっぱりただ分かっているだけと言葉ではっきりと好意を伝えられるのとでは違うな。
「で、好いているとは分かっていても、その気持ちが自分の考えていたものと違い過ぎてはっきりしないと?」
「はい」
俺から言わせれば小太郎が好きだと感じているのならそれは確かに好いているのではないのだろうか。
好きという気持ちは好きだと自覚した時、相手に伝えた時、相手にその気持ちが受け入れられた時、そんな節目節目で気持ちは大きくなっていくのではないのだろうか。それこそまさに今この時、小太郎が俺に気持ちを伝えたこの時こそ、楽しいと思う気持ち、幸せだと思う気持ちが大きくなっているのではないかと、俺は思っている。
「たぶんだが、それは北条氏政の家臣としての遠慮とかが邪魔をしているんじゃないのか?」
昌幸はたびたび「お屋形様」という言葉を出して最低限の一線は超えないようにしている。恐らく小太郎の場合も口にしていないだけで似たようなことをしていて、それが自覚できていないからこそ楽しさや幸せなんかをあんまり大きく感じられないのではないだろうか。
「遠慮、ですか?」
「俺に正確なことなんてわからんが、俺から見たところ、小太郎は自分は北条氏政の家臣である、忍びである、っていう気持ちがあってその気持ちが俺のことを好くことが良いことではないと判断しているんじゃないかな?」
小太郎が目を閉じて考え始めた。
小太郎がどんな判断をするのかはわからないが、俺個人としては喜ばしいことに、景虎たちの夫としてはとても心苦しいことに、小太郎は俺のことを好いてくれているのだと思う。一応口では好いていると言ってくれてい入るし。
そして考えること約1分、小太郎がきっぱりと告げた。
「いえ、遠慮などしていませんね」
あら、そうですか?
「多少氏政様の家臣であるということも考えはしますが遠慮するほどではありません。忍びだというのは、そもそも自分は忍びであろうと武士であろうと公家であろうと、やりたいこととやらなければいけないをやっているだけなので関係ありません」
なかなか驚きの事実を告げてくれたな。忍びがどうこうって部分はいいんだがくーちゃんの家臣だっていうところはもう少し意識しような、というかしてくれ。
「そうか、まあ小太郎がそう思うならそうなんだろうな」
だがまあなんだかんだで恋仲なんかにならなくてよかった、いいことだったと思っておこう。
「しかし・・・」
しかし? やめて欲しいな~。
ここでの「しかし」っていうのは逆の意味が来るって言うことなんだからそれはつまり・・・。
「今こうして加藤殿と話していると、幸せだと感じてしまいます」
ほらきた、それはもう小太郎は俺のことを好いているってことでいいんじゃないかな? それだと俺は困るけども。
でもまあそれじゃあ困るからそう言ってわざわざ気づかせるようなことは必要ないどころか不利益だからから言わないけど。
「まあゆっくり考えればいいんじゃないか? 急いで考えることでもないし、それでちゃんとした答えが出るとも思えないしな」
そんでもってこのままいい友達みたいな感じでいたいんだが。
「はい、ではゆっくりと考えさせていただきます。
できますなら、それまで待っていてくださいませんか?」
そんなこと言うのは少なからず俺に好意があるって言ってるんだぞ。
もちろん小太郎だって可愛いし好きと言われて悪い気はしないが、俺が耐えられないので本当にそういう感じの親しい関係の人が増えるのは歓迎できない。
「ああ、別に急かしたりはしないから、納得いくまでよく考えてから話しに来い」
とはいってもこの場で「いや待てん! この場で答えられないのなら知らん!」とも言えないから待つことにする。
それにこのまま越後に帰りつければ、小太郎とはしばらく会わないからその間に考えが変わることが期待できる。
「ありがとうございます」
小太郎が笑顔で一言お礼を言う・・・そんな可愛い顔をされるとこっちが惚れてしまいそうだからやめて欲しい。
「じゃ、俺は寝るからな」
小太郎と話していて昌幸のことが頭から離れたおかげか、やっとこさ眠気が活動を始めてくれたから寝ることにした。
「はい、お休みなさい」
俺が目を閉じるその時まで、小太郎は笑顔のままだった。




