表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/142

播州へ  捌-堺、食べ物、異国の人、異国の言葉-

異国の言葉・・・果たしてネットの翻訳は正しいのかどうか・・・・・・

 目が覚めた、部屋の中はまだ暗い。

 起き上がって外を見てみると東の空がうっすらと明るくなってきている、そろそろ明け六つだ。

 この時代にも時計はあったみたいだが、それを使っていたのは天皇様だけだとかいう話を聞いたことがある。まあ時計と言っても学校の教室を一部屋占領してしまうほどに大きい物だったとか何とか、とにかく一般の人はおろか大名だって手に入れられない、もし手に入れられてもわざわざ大枚はたいてまで使おうとは思えないような代物だったとか。

 それで結局何が言いたいのかと言うと、この時代の時間はだいぶ大雑把だと言うことだ。

 日が昇ったら明け六つ。これは何処でも変わらないが、日が昇ったと言うのがどのような状態を指すのかは様々だ。

 たとえば越後では太陽がしっかりと確認できたら明け六つということになっている。しかし甲斐では地平線の彼方が明るくなってきたら太陽が見えようが見えなかろうが明け六つだったとか。尾張なんかでは太陽が地平線から顔を出してしっかりとした丸が地平線から離れたら明け六つだったとか。

 では堺の明け六つはいつ頃だろうか? まあ何時でも構わない、なぜなら俺はすでに朝の支度はすべて済ませているからだ。

「さあ行きましょう!」

 とらが朝から元気いっぱいだ。

 どうやら楽しみすぎて随分と早く目が覚めてしまったようだ。

 それだけならこちらとしては一向に構わないのだが・・・。

「とら、こんな時間に町に出ても見せは1軒も開いていないのではないか?」

 いくら楽しみだからと言ってもまだ暗い明け六つ前に起こすのはやめてほしい。おかげでとっても眠い。りょうなんて一応支度だけはしたが段蔵の膝の上でまた夢の中へ旅立ってしまっている。

「店は開いていなくてもこの時間なら朝市で漁に出た漁師の方たちから新鮮なお魚を頂けるかもです!」

 そんなもの手にれても調理なんてできないと思うのだが。

「そしてそれをお店にもっていって調理してもらいます!」

 既存の味だけでは飽き足らず未知の味を自ら作り出していきますか。

「それでは港へ行きましょう!」

 とらは元気いっぱいに、昌幸と小太郎と段蔵と向日葵と長政はいたって普通に、俺は半分夢の中、りょうは完全に夢の中という状態で宿を発った。


「お魚です!」

 お魚です、目の前にはたくさんのお魚が並んでいます。

 青い海、白い砂浜、照り付ける太陽・・・なんてものはない。あるのは青と言えば青だが昔の青、つまり緑の海と浜を覆わんとするほどの大量の船、そしてまだ登り切っていない朝日だ。

 やってきたのは堺の港。俺の記憶だとこのころ、戦国時代に一番栄えていた港ではなかっただろうか。他にもこのころだとお隣の兵庫津なんかもかなり栄えていたし、我らが越後の直江津なんかも自慢できるくらいに栄えてはいたのだが、残念ながら鉄砲の流通でさらに勢いを増した堺の港には勝てない。それでも堺や兵庫の港は貿易で栄えた意味が強いから海産物で勝負すれば直江津だって負けていないのだ。

「貴久様はどのお魚が食べたいですか?」

 どの、と言われても困る。俺はそんなにお魚に詳しくはない。わかるのなんでごく一部の限られた有名なお魚くらいだ、鮪とか鰤とか。

「これかな?」

 名前はわからないがとりあえず大きすぎず小さすぎずな串に刺して焼くのにちょうどいいくらいの大きさの魚を選んだ。

「わかりました、では漁師の方々に聞いてきます」

 とらが元気に走っていく、お金を渡していないのだが・・・文字通り譲ってもらう気だろうか?

「昨日今日ととらちゃんの行動がずいぶんと違う気がするのですが?」

 とらが離れたところで昌幸が恐らく昨日から思っていたであろう疑問をぶつけてくる。

「とらは料理が好きでな、越後にいたときから堺に来てたくさんの料理を食べてみたかったんだそうだ。夢が叶って嬉しいんだろ」

 とらが満足なら俺はそれでも構わないが、できればここでの経験を今後の俺たちの料理に活かしてくれるとありがたい。

「貴久様、よくわかりませんがたくさん頂けました!」

 目をきらきらさせながら大きな籠を抱えてとらが帰ってきた。

 見てみればとらは平気な顔で籠を抱えているが、その籠には大小様々なお魚が10匹以上入っている。

「これ、どうしたんだ?」

「お魚が欲しいって言ったら皆さんが分けてくださいました!」

 皆さんが優しいのかとらの笑顔が勝ったのか、それとも皆さんがお馬鹿なのか毒とかがあって食べられないようなお魚を渡されたのか、とても気になったが死にさえしなければ食べられなくても大きな問題はない、毒もお店の方が持ち込んだ時点で有る無しくらいは教えてくれるんじゃないだろうか。

「それじゃ、町まで戻りますか」

 俺たちはもどってお魚をどのように料理してもらうかを話ながら、町へ戻った。

 途中でとらが転んだがお魚を1匹も籠からこぼさなかったところに執念のようなものを感じた・・・が、そんなことは関係なく、あまりにも重そうだったので俺が代わりに籠を持ってあげたらとらが拗ねてしまったのは可愛いところだと受け取っておこう。


 この時代の料理はとても手の込んだものもあれば、料理経験ゼロの独身男性だって手軽に作れるようなものもある。

 ではお魚を使った料理について考えてみよう。

 日本人に聞いて一番多い回答はおそらくお刺身ではないだろうか、その次は焼き魚か煮魚だろう、もしかしたらフライかもしれないが。

 とまあお魚を使った料理はだいたいそのくらいではないだろうか。

 では次だ、先に挙げた中で1558年の日ノ本で食べられている料理はどれだ? 答えは焼き魚と煮魚だけだ。まだこの頃の日ノ本では魚を生で食べる習慣はない。ごく一部、瀬戸内海の辺りでは刺身に似た保存食のようなものがあったような気がしたがそれもなんの加工もせずに食べているわけではないのでここでは外しておこう。そして当然ながら揚げるという調理法も伝わってはいない。

 よって俺たちが持ち込んだお魚もめでたく煮魚になって帰ってきました。

 朝早くでまだお客が少ないからとわざわざ煮てくれたのには感謝しなくてはならないだろう。

なんとなく生のお魚を持ち込んでお刺身なんかを期待してしまっていた俺は馬鹿と言われても反論できない。

 そしてさらに馬鹿なことに煮魚が出てきたのを見て料理の種類の少なさから味も同じものだと想像していた。

 そしていい意味で裏切られた。

 この時代魚は焼くのが一般的で一般家庭では煮込むことなんてまずない。それは煮込むとその間鍋を一つ占領してしまったり、盛り付けるのに使うお皿もそれなりに深みのあるものを使わなければいけないが一般家庭には主食を入れる茶碗が一つにおかず用のひらぺったいお皿が多かったこと、味付けに使う調味料が多かったことがある。

 このころ一般的に使われていた調味料と言えば塩と味噌、そしてまだ全国的に出回ってはいないが醤油もある。しかし逆に言うとこのくらいしかない。間違っても高級品の砂糖を一般家庭が魚を煮込むのに使ったりはしない。

 そんなわけで塩辛いくらいの味しか想像していなかった俺だが、一口食べてみたお魚さんはとっても美味しかったです。口に入れた瞬間にほろりとくずれる身の触感、塩辛いだけではないかと思っていた味はまさか砂糖でも使っているのか俺の好きな甘じょっぱい味。まさか砂糖を使っているとは思えないから同じ材料でこれほどまでに違う味を出しているとでもいうのだろうか。

「甘すぎますね」

「これはおかしか何かと間違えているのではないですか?」

 しかし俺にとっては慣れ親しんだ美味しい味でも、とらと昌幸、それに言葉には出していないが他の方々にもあまり好評ではないようだ。

「早く食べて次に行きましょう。時間もあまりありませんし」

 ちょっと面白くなさそうな顔をしたとらが当たり前のように皿を俺の前に滑らせる。

 たぶんたくさん食べるためどうこうではなく単純にこの味が好かないだけだろう。しかし俺はかなり美味しいと感じているので何も言わずに受け取って朝食として美味しくいただかせてもらった。


「さあ今日はお菓子を中心に攻めますよ!」

 とらは今日も元気に暴走気味です。

 さっきから俺が手を握っていなかったら間違いなく人ごみに向かって走り出し、人ごみにのまれて「助けて~」とか言いながら流されていったに違いない。

「じゃあ目の前のあの店からいくか」

 昌幸と小太郎は黙ってついてくるだけだし、段蔵はまた完全にりょうのお守りをするだけになってしまった。長政はよっぽどのことがないと宿でも話に混ざってはくれない、俺としてはもっと和気あいあいとしていたいのだが。

「それにしても、皆さんが食べているのはなんと言う食べ物でしょう」

 とらがまじまじと見つめているのは異国の方々が食べているおそらくカステラかと思われる食べ物だ。

「あれはカステラだな、鶏卵と小麦粉、砂糖を混ぜてオー・・・釜で焼いたものだ」

 この時代にオーブン何てあるわけないよな。

 それにしても釜でよかっただろうか、なにか少し変わった言い方があったようななかったような・・・引き釜だったかな? あんまり変わらないのかな?

「貴久様はあの食べ物をご存じなのですか?」

 知っているのは不味かっただろうか、一応この時代にはこうやって民草も普通に食べられるようになっているのだから知っていてもおかしくないと思ったのだが・・・なぜだかみんな驚いた顔で俺のことを見ている。長政は何だか尊敬していますみたいな顔をしている、残念ながらこれは長政と同じ大失敗の発言かと思われるが。

「まあな、前に食べたことがある」

 しかしここで隠したり誤魔化したりするのは一番やってはいけないことだ、なにしろ相手には俺ごときの嘘など易々と見破ってしまいそうな人たちが揃っているのだから。だからここはあえて本当のことを言う、いつ食べたのかと言われると辛いが食べたのは間違いないからだいたいの質問には答えられる。詳しく聞かれたらそんなに食べたわけではないと逃げられるしな。

「美味しかったですか?」

 とらが興味津々だと顔で表現している。

「ああ、美味しかったぞ」

 たぶん俺が知っているものよりもパサパサしていたり甘くなかったりだろうが。

「では食べましょう!」

 とらが勢いよく店の中へ突進していく。未知の味はこんなにもとらを変えるのか。

 そんなふうにとらを眺めていたら事件は起こった。

「きゃ!」

 立ち上がった異国の客ととらがぶつかった。

「あ、すみません」

 とらはすぐに謝った・・・が。

「Sun of a bitch!(なにしやがるくそ餓鬼)」

「え?」

 相手には日本語が通じなかったようだ。ついでに何だかたいそう怒っているようだ。「なに」と「餓鬼」はなんとなく聞き取れた、たぶん「何しやがんだくそ餓鬼」とか言われたのだろう。

 ちなみにいっておくと俺の英語の成績はあまり良くない、しかしこれは英語を書けないことが大きな原因で話すだけならなんとかなる。毎回学校のテストでは答えはわかっても書けないことがほとんどだった。

 そんなわけで話せと言われればおそらく目の前の男ともう一人連れの男も含めて話し合いでなんとかできそうではあるが、あんまり英語で話せることを知られたくないので黙っておく。

 できれば怒るだけ怒ってそれで終わってくれればとらには悪いがそれに越したことはない。

 しかし俺の期待を裏切るようににやりと笑った。

「Bastard, Look at my clothes!(このやろう、お前のせいで服が汚れてしまった!)」

 男が服の汚れている個所を指さしながら大きな声で言ってくる。

 とりあえず怒ってますみたいな顔をしているが、さっき見せたにやついた顔のせいで全く意味がない。

「But I'm a gentleman, so I'll settle it peacefully.(でも俺は紳士だ、だから穏便に済ませてやろう)」

 男が荷物の中から一枚の紙を取り出した。

「Here, write your name.(ここに名前を書け)」

 どうやら何かの契約書のようだ。

 そしてその紙はとらではなく俺に差し出された。どうやら保護者か何かに見られたようだ。

「ココ、Name、ナマエ」

 ずいぶんと酷いが一応日本語で話しかけてきた。紙のサインしてほしいところに指をおきながら言ってきた。

「・・・」

 明らかにまともな内容でないことがわかっていた・・・なのであえて紙を受け取って軽く内容を確認してやってみた。

「・・・」

 相変わらず俺は黙ったまま紙を見て微妙な顔をしていた。

 相手はそれを英語が読めずに困っているように見えたのかさらに言葉を重ねてくる。

「ナマエ、カク、オーケー」

 とか言いながら人差し指と親指でわっかをつくって見せてくる。

「とっとと失せろ」

 なかなかに酷い内容に攻撃的な言葉が出てしまった。まあ伝わってなどいないからどうでもいいのだが。

 しかし俺の態度がとても素直にサインしてくれそうに見えなかったからか、相手さんはいかにも怒ってますみたいな顔をして叫んできた。

「Hey! Thanks to this kid, my clothes is dirty! Can't you see it!?(おい! 俺の服はこのくそ餓鬼がぶつかったせいで汚れたんだぞ! わかってるのか!)」

「Of course.(もちろん)」

「っ!」

 とたんに男が驚いた顔をして俺のことを見た。

「How much the price of the clothes you are wearing?(お前が着ている服はいくらだ?)」

 声音はいたって普通に、しかし相手にもはっきりとわかるように怒気を込めて、流暢な英語を返してやる。

「・・・」

 男が何も答えないので俺は一歩男に積めよって脅しのような言葉を重ねた。

「We have a special Japanese way of taking responsibility by Harakiri whitch mean cut yourself in the stomach.(日ノ本には腹を切ると言う責任の取り方がある)」

 男たちがびくりと震えてとたんに顔を真っ青にする。

「段蔵、ちょっと刃物が欲しいんだが」

「はい」

 段蔵が差し出した俺の手に間をおかずに小刀を載せてきた。

 それを見た男たちは一目散に出口へ向かって駆け出した。

「どうしますか?」

「放っておけ、興味ない」

 男たちが店から出て行ったのを見届けて俺もやっと一息ついた。

「あーなんか疲れたなー、甘いものが食べたい」

 いやー面倒だった。何が楽しくて得意でも好きでもない英語で会話しなくてはいけないのか、できるものならもう二度としたくないが・・・たぶん2Dで考えると間違いなくこの後あいつらのボスみたいなのが何かしに来るんだよな~。

 それでも今日の昼にはいよいよ播州に向けて出発するし、堺にいる間はたくさんの店を転々とする予定だから簡単に見つかることもないだろう。

 ここは3Dで2Dの常識が投影される場所ではないのだと切に願いながら席に着く。しかしみんなはその場で固まったまま俺のことを見ている。唯一の例外は俺にほいと刀を渡した段蔵だけだ。

「どうしたんだ?」

 俺の問いかけでやっとみんなが元に戻った。最初に声を上げたのは長政だった。

「すごいです久兄様! 久兄様は異国の言葉をお話になれるのですね!」

 もう目がきらきらだ、きらっきら光って眩しいくらいだ。

「兄ちゃんすごい! 何言ってるのか全く分からなかったけどなんか格好よかった!」

 りょうのこの評価はやめてほしい。こういう子が英語からわけのわからない造語を作り出していってしまうのだ。

「しかし本当に驚きましたよ?」

「自分も日ノ本の民であれほどすらすらと異国の言葉を話すものなど見たことがありません」

 昌幸のはまだ本当かもしれないが小太郎のはどうだろうか、本当に見たことがないのかもしれないが、探してみれば俺よりすらすらと英語を話す人なんてほいほい出てくると思う。

「そんなことはない、探せば俺よりも上手に話す人なんてそこらじゅうにいるさ。それよりも、さっきのやつが面倒なことをしてくる前に堺を発ちたい、とらには悪いが、あと2,3軒回ったら堺を発つからな」

「は、はい!」

 そして朝食もかねて計4軒の店を回った俺たちは堺を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ