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播州へ 漆ー堺ー

 道中で一泊した、したことと言ったら本当にそれだけ。

 つきました、堺です。

 先ほどからあっちへふらふらこっちへふらふらと、普段とは別人のように俺に迷惑をかけようとするとらの手をしっかりと握っていると開いている左手をすかさず向日葵が握ってくる。両手がふさがっていて最初は拗ねていたりょうだが段蔵が持ち上げて今は俺の肩の上で騒いでいる。

 この程度だったら賑やかなだけ・・・と言えば確かにそうなのだが・・・。

「頼むから降りてくれ、りょう」

「嫌だ! 降りるんだったらどっちかの手空けてから!」

 そう言いながら肩車の状態で抱き付いてくるものだから前が見えなくなる。

「あー前が見えないよー、向日葵~頼むから離してくれ~」

「はぐれたら大変、私としても貴久の言うことは聞きたいけどこれではぐれたら私の背丈では貴久たちを探せるか不安。ごめんなさい」

 そうなのです、俺たちがいるのは堺の町の中。

 現在は朝の買い出しなんてものがこの時代にあるのかどうかは知らないが日が昇って間もない時間帯で、あたりには人があふれている。

 そんな中へ元気に飛び込んで行くとらにどんどんと引っ張られていき、普通に歩くことさえ困難な状態なのに肩車しているりょうがぎゃあぎゃあ騒いで五月蠅いうえに元気にはしゃぐものだからまだ堺の町に入ってから四半時も経っていないかもしれないがもうくたくただ。

「りょう! 茶屋を探せ!」

「兄ちゃん、あそこに美味しそうなお団子が!」

 俺がりょうに茶屋を探すように言うのとりょうが茶屋を見つけたのはほとんど同時だった。

「よくやったりょう!」

 俺は最後の力とまではいわないが、それでも全力で人の波をかき分けながら茶屋を目指した。

「おっと」

「ああすみません」

 強引に人をかき分けて進んでいたらちょっと強めに誰かにぶつかってしまった。

「いや、こっちも不注意だったよ」

「・・・え」

「ん? どうかしたのか?」

 ぶつかった少年を見て俺は思わず固まってしまった。

「おーい?」

 これは偶然なのか、必然なのか。そもそもどうしてここにこいつがいるのか。俺にはどれもわからない、しかし俺にもわかっていることが一つある、それは・・・。

「おーい、どうしたんだ急に固まって?」

「っ! ああ、すまない。気にしないでくれ。ぶつかって悪かったな、君も堺の見物かい?」

「ん? ああそうだ、お前たちもか?」

「そうだ、俺たちの目的は美味いものをたくさん食べることだ、よかったらどこか美味いものを出してくれる店を教えてほしいんだが、どこかよさそうな店はなかったか? 地元の贔屓目なしの意見が聞きたいんだが」

 どうしてこいつがここにいるのか、それを聞き出しておかないといけない。俺はそのために少しばかりこいつと話すことを選ぶ。

「美味い店か、そうだな・・・それならこの通りをまっすぐ行くと赤い暖簾に団子って書いてある茶屋があってな、そこの店が出してくれる南蛮のお菓子が結構うまかったぜ」

「赤い暖簾って・・・結構多いんだが・・・」

 幸運なことにぱっと見ただけでも3軒の赤い暖簾を下げた店を見つけた。

「悪いんだが、もし時間があるようなら店まで連れて行ってもらえないか? もちろんお礼はするよ」

「いや、連れて行くのは構わないけどお礼は要らないぜ。付いてこいよ」

 少年が快活そうな笑顔でそう答えたかと思うと次の瞬間には人ごみの中をすいすいと進んで行ってしまう。

「おい! 早いって!」

 この辺りの周りをよく見ない感じなのは本の中と同じ感じだな。

 俺がぶつかった少年、それは、今は尾張にいるはずの本田元亘だった。


「ここがさっき言っていた茶屋だ」

 元亘に案内されてやってきたのは普通の茶屋だった。京にあった茶屋よりもぼろい感じはするが、それは繁盛しているあかしだと思えばなんとなく味があるとかそんなふうに見えてくる。

 それにしても繁盛している。長蛇の列なんてものはできてはいないが、店の中は満員御礼だ。

「じゃ、俺はこれで」

 店に案内して俺の役目は終わったと思ったのか元亘が踵を返したので俺は元宣の腕を掴んで止める。

「なんだ?」

「お礼はするって言っただろ」

「いや、だから俺は・・・」

「団子の1本くらいおごらせてくれよ、それとも何か急ぎの用事でもあるのか?」

 元亘は少し考えるそぶりを見せたが、すぐにまた快活そうな笑顔で答えた。

「それじゃ、遠慮なくごちそうになろうか」

「よしきた。おっちゃん、お団子10本頼む!」

「あいよ! 外になっちまうけどかまわないかい?」

「おうもちろんかまわないぜ、うまそうに食って客呼んでやるよ」

「そりゃいいな、それなら1本おまけしておいてやるよ!」

「あんがとなおっちゃん!」

 元気に注文したら1本おまけしてもらえた。

「なあ、10本は多くないか?」

 元亘が不思議そうに尋ねてきた。

「そんなことないだろ、8人で10本だから多いと言うほどじゃないだろ」

「8人?」

「ここにいますよ」

「うわ!」

 元亘が驚いて振り返るとそこには昌幸と小太郎がいた。ちなみに段蔵はいつの間にやらりょうと話している。

「いつの間に」

「ずっといましたよ、あなたが気がつかなかっただけで」

 昌幸が笑顔で答えると元亘はなんだか納得していないような顔をしていたが・・・。

「あいよ! 団子10本とおまけでもう1本!」

 おっちゃんが団子を持ってきたので考えるのをやめて座って団子を手に取った。

「あれ? 俺って団子じゃなくて南蛮のお菓子が美味しかったって言わなかったっけ?」

「ああ、言ったな。でもお団子も美味しそうだったからな、せっかく進めておいてもらって悪いがこっちにした」

 お品書きにはカステラとか金平糖とかあるけど、あんなもの食べたらその後にお団子とかなんて食べても小麦粉の塊くらいにしか感じないだろうが!

「そうか、まあお礼だっていうんだから遠慮なくいただくか」

 本当に遠慮なく手を伸ばして遠慮なく2本も持って行った。

 俺は別にかまわないのだが、こういうところでとるのは普通1本ではないのだろうか?

「お、団子も美味いな」

 そんでもって3個刺さってるのに1口で2個食べるし、豪快とか大雑把とかいえばいいのだろうか?

「兄ちゃん! 私も2本食べていい?」

 こうやってりょうみたいに一度聞いておくものではないかな~?

「ああ、まだ余ってるからな、食べていいぞ」

 許可をもらったりょうは返事もせずにお団子に食いついた。可愛いな~。

 やってないけど口の中いっぱいにお団子を詰めてリスみたいにならないだろうか? そしたらぎゅっとしよう。

 リスと考えて思い出したが、とらは2本要らないのだろうか? こっちに来て美味しいものを食べるのが目的だと聞いていたが。

「りょうちゃん、私の食べた残りだけど、これいる?」

「食べる!」

 2本目どころか1本目さえも残してりょうにあげていた。

 これはあれだろうか、少しづつたくさん食べる感じだろうか? それだとこんなふうにみんなそろって1本ずつとか食べていたら金が足りなくなってしまう。次からは気を付けよう。

「ところで、君の名前は?」

 身内ばかりで話していて本代を忘れるわけにはいかない、俺はさっそく本田元亘と話し始めた。

「そういえばまだ名乗ってなかったな、俺の名前は本田元亘だ、よろしくな」

「よろしく、俺の名前は彦二郎ひこじろうだ。俺は若狭から来ているが、元亘は何処から来ているんだ?」

 彦二郎と名乗ったのはこの時代の一般的な呼び名だからだ、別にこんな名前がいいとか考え名乗ったわけではない。堺まで来ているんだから加藤久貴でもいいかとも考えたが、本の中の元亘なら、別になんと名乗っても怪しまれることは無いと思ったので彦二郎にしておいた。

「若狭? 若狭ってどのあたりだ?」

 おい、こっちに来てからどのくらい経ってると思っているんだ、仮にも織田信長の夫ならこの程度の地理くらいは把握しておけ。

「こっから北へずっと行ったところにある。3日もあれば着ける距離だ」

「ふーん、随分と遠いんだな。俺は尾張から来てるんだ」

 だったらお前の方が遠いじゃないか! 何だ他人事のように言いやがって!

「尾張ってお前の方が遠いじゃないか」

「ん? そうなのか?」

 そうなんだよ当たり前なんだよ! お前はここに来るのに何日かかったんだよ! そんなことも憶えてないのか!

「・・・まあいい。それで、俺たちよりも遠い尾張からどうして堺なんかに来たんだ?」

 絶対に堺の町を見に来ただけってことはない、何か別の目的が・・・こいつになくても一緒に来ている誰かにはあるはずだ。

「ああ、こっちの商人と繋がりがつけたくてな」

 さらっとそんなことを言うんじゃない! 誰だ、こいつに旅の目的を話しちゃった馬鹿は!

「何で堺の商人と繋がりを持ちたいんだ? お前が商人だとはとても思えないんだが」

「違う違う、俺は・・・えっと・・・部屋住まい? ってやつだ」

 詰まるな考えるな! 何で素性を隠すために用意したのであろう嘘がさらっと出てこない! あんまり話しちゃいけなさそうな旅の目的はさらっと出てきたのにどうして言わなくちゃいけないことがさらっと出てこないんだ!

 こいつは駄目だ、さっきから俺でも馬鹿だと思えるくらいには馬鹿だ。心の中でこいつに突っ込みすぎて疲れてきた。

 俺が言うのもなんだがよく織田信長はこいつと夫婦になんかなれたな、庇護欲でもくすぐられたのか? でも信長に庇護欲なんてものがあるとも思えないしな・・・だとしたらこいつの未来の知恵が目的か? いやないだろ、こいつがこっちでも役に立つ未来の知恵なんて持っているとは思えない。英語とかならまだいけるかもしれないが、こいつなら絶対にフランス語とかポルトガル語しか話せないような人に英語で話しかけて失敗するに違いない。

「部屋住まいね・・・でも尾張の本田なんて聞いたことないな、三河なら聞いたことがあるんだが」

 だがそんなことは表に出さず話を続ける。ついでにいろいろと尾張のことを聞き出せれば御の字だ。

「ああ、それは本田正信か本田忠勝のことじゃないかな?」

「ふ~ん、そうなのか」

 そんなこと言っても普通の農民だったらわからんぞ。

「さて、団子も食い終わったことだし、俺はこれで行くわ」

 元亘がいつの間にか食べ終わっていた団子の串を皿に戻して腰を上げた。

「そうか、それじゃ、今度は尾張に行ってみたいな、その時はよろしく頼むよ」

「おう、いつでも遊びに来てくれ、歓迎するからさ。来た時は清州まで来て俺の名前を出してくれれば会えると思うから」

 後ろ手に手を振りながら元亘が去って行った。

「清州で名前を出せばわかるような部屋住まいね・・・ていうか本名出したら意味なくないか?」

 部屋住まいって言うのは家督を継がない二男とか三男みたいな人たちのことを言う。だからそんな人たちがよく町に出ていてみんなが知っているのはまだわからないでもないが・・・。

「尾張の本田と言えば本田元亘以外にはおりません」

 小太郎が何でもないことのように言ってくる。

「あれは織田信長の夫である本田元亘で間違いないですね」

 昌幸もあれが信長の夫だと断言した。

「本名名乗ってたらお終い」

 向日葵先生も容赦がない。

 要するにみんなだいたい同じことを思っているのだろう・・・本田元亘は頭の弱い子だ。

「貴久殿、私としては本来の仕事をしたいところなのですが」

 小太郎がまた何でもないように言ってくる。

「本来の仕事って何だ? 俺たちの護衛じゃないのか?」

 もしかして俺の知らないところで主であるくーちゃんから何か命を帯びていたのかもしれない。

「はい、確かに今私が受けている命は貴久様の護衛だけですが、主の命無しにもやるべきことはあります」

 主の命がなくてもやる事、小太郎のやる事・・・情報収集かな?

「なにしてくるんだ?」

 俺の思い込みで判断して大変なことになってもいけないからきちんと話を聞いておく。

「随分と口の軽そうな情報の塊があったので」

 確かにあれは口が軽そうだな。

「行ってらっしゃい」

「では」

 そして気がついたときには小太郎の姿は消えていた。

「では私も行ってもよろしいですかな?」

 昌幸も情報収集だろうか?

「あとで小太郎に聞くのじゃ駄目なのか?」

「これでも一応他家の者ですので。護衛の方は段蔵がいれば問題ないでしょう」

「段蔵はそれで構わないか?」

「構いませんよ」

 一応段蔵にも確認しておかないといけないと思い確認したが、構わないそうだ。

「では」

 それだけ言い残して昌幸も気がつけば消えてしまっていた。だからこういうのは忍びの人だけやっておきなさいって。

「貴久様、それでは次のお店へ向かいましょう!」

 いつの間にやら皿の上の団子を食べ終わっていたとらが次へ行こうと急かしてくる。

「はいはい、そんなに焦らなくても食べ物は逃げないよ」

「食べ物は逃げなくても時間が過ぎていってしまいます!」

 いったいどれだけ食べるつもりなのだろうか、とらのお腹にいったいどれほど入るのか試してみたくなってきた。

「よし、それじゃあ倒れるまで食べまくるか!」

「はい!」

 また勝手に走りだそうとしたとらの腕を掴んで止めて、りょうを段蔵に任せて向日葵の手を反対の手で握って、6人で歩き出した。


「食い過ぎた」

 まだ辺りは明るいが直に橙色に染まり、あかね色、黒色と移り変わっていくのにそんなに時間はかからないと思われるくらいに日が傾いたころ、俺たちは今日何軒目になるかわからない茶屋から代金を払って出てきたところだ。

「ま、まだいけます・・・」

 あれからたくさん食べました。とにかく目についた食べ物をやたらめったら食べまくりました。

 最初はみんな喜んで食べていたのだが、最後の方はりょうは寝てしまって段蔵におんぶしてもらっているし、段蔵と長政は食べるのを拒否、仕方がないので俺がとらが一口食べただけの残りを必死になって食べていた。

 とらはまだいけるとか言っているが、その表情からは明らかに無理をしているのが分かる。

「とら、悪いが俺が限界だ、明日の昼に堺を発とう、そうすればまだ明日の朝なら堺の町を見てまわれるから」

 まあそんなに時間はないから多くを見て回ることはできないが、そういうととらが諦めてくれなさそうだったので仕方がない。

「わ・・・分かりました」

「いい子だ」

 正直言うと俺の方が辛いと思うが、とらが見ていられない程に辛そうだったのでお姫様抱っこしてあげる。

「うう・・・すみません」

「気にするな、やりたくてやってるんだ」

 とらが申し訳なさそうに言ってくるが、俺にとっては肉体的には辛いが精神的には嬉しいのでそんなに気にしなくていい。

「婿殿、宿はこちらです」

 そしていつの間にか戻ってきていた昌幸は宿の準備をして来てくれたようだ。

「早かったな」

「勝手に情報をぺらぺらと喋る輩がいて助かりました。あと織田信長がいたのも運が良かったです。信長が喋らなくても元亘が喋ってくれたおかげで良い情報がたくさん手に入りました」

 小太郎もいつの間にか戻ってきていたようだ。小太郎は忍びだからこんなふうに突然現れても全然かまわない。

「へー、信長もいたのか」

 誰か付いて来ているとは思っていたが信長本人が付いて来ているとは・・・尾張や駿河の守備は大丈夫なんだろうか?

 俺が心配するようなことではないと思うが、この状況でのんきに新婚旅行でもしているなら顔面に1発お見舞いしてやりたいが、かくいう俺も結構な我儘を言って旅をしているからこれで元亘のことを殴るなら俺も殴られないといけないからやらないが。

「そういう話も宿でしましょう」

「そうだな」

 俺たちは昌幸に先導されながら本日の宿に向かった。

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