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播州へ 伍-京-

 長政の言っていた通り、近江から山城の国までは特に何の問題もなく来ることができた。ここまでかかった日数は3日と割と早く着けたのは途中で段蔵がりょうをおんぶしていたからだ。幸いなことと言えば長政が浅井の名前を使わずに済んだことだろうか、不用意に浅井のお偉いさまがこんなところを歩いていると知られるだけでも帰り道の心配をしなくてはならななくなるからいけない。

「兄ちゃん! あそこに茶屋があるよ!」

 りょうが茶屋を指差して元気よく言ってくる。

 しかし俺としてはなんと返したらいいのかよくわからない。

 りょうが指差している茶屋はそれなりに立派な造りをしている。くーちゃんと会った上野原城の城下にあった茶屋とは比べ物にならないほど立派だ。壁はちゃんと四面あるし屋根もしっかりしている。暖簾 だってなかなか上等な布に達筆な字ではっきりとだんごと書かれている。

 ここまではどう見てもこっちの茶屋の圧勝だが、一つだけ上野原城の茶屋が張り合えるところがある・・・客の数だ。

 意外・・・といえば意外なことにこの都の茶屋にはほとんどお客が入っていない。まさに閑古鳥でもないていそうだ。

 おそらくこの理由は将軍足利義輝とこのころ畿内に一大勢力を築いていた三好長慶の争いが原因だろう。

 先代足利義晴は管領の細川晴元と対立していて、敗れるたびに近江坂本へ逃れていた。

 その後も現将軍である足利義輝は三好長慶と争い近江坂本と朽木への脱出を繰り返していた。

 そのためか京の政治は一向に安定せず、京よりも地方の有力勢力の城下町の方がよっぽど栄えていた。

 しかしそれでも現将軍の足利義輝は有能だった。

 三好と争い何度も近江坂本と朽木へ脱出することにはなったが、確か今年、永禄元年1558年に三好長慶と和睦して京へ帰ってきている。それから義輝は幕府権力と将軍権威の復活を目指し、諸国の戦国大名との修好に尽力している。伊達晴宗と稙宗、里見義尭と北条氏康、また実際には起こらなかったが長尾と武田の第四次川中島合戦などの、大名同士の抗争の調停を頻繁に行い、将軍の威信を知らしめた。

 また懐柔策として偏諱を与える例が多くあった。

 その政治的手腕は、「天下を治むべき器用有」と評された。このような経緯を経て、次第に諸大名から将軍として認められるようになり、織田信長や上杉謙信などは上洛して拝謁、大友宗麟は鉄砲を献上している・・・景虎は拝謁しているのかな?

 まあとにかく足利義輝はすごい人なのだ。残念なのは松永久秀と三好三人衆の三好長逸・三好政康・岩成友通の4人が起こした謀反によって29歳という若さで亡くなってしまったことだ。

「兄ちゃん、お腹すいた」

 りょうがくいくいと俺の着物の裾を引っ張ってくる。好物が食べたいとかそんなことではなく、純粋にお腹がすいているようだ。

「なら、あそこの茶屋で少し休むか」

 俺もお腹がすいて来たので考えてもお腹が膨れるわけでもない思考を切り捨てて茶屋へ向かう。

「待って」

 しかしここで向日葵先生から待ったがかかる。

「中に女がいる」

 言われて中をよく見てみると、そこには可愛らしい町娘と働いているこれも若い娘がいた。

 向日葵に言いたいことはよくわかった、俺があの子たちを嫁にしてしまうのではないかと危惧しているのだろう。

 確かにこれは危ないかもしれない。今まではなぜだか身分の高い子たちばかりと夫婦になっていたが、本当なら普通の町娘とかの方がよっぽど懇意になりやすいはずだ。それこそ俺は設けるつもりはないが伽役なんかを増やそうと考えたら身分の高い女の子よりも、低い町娘の方が相手も玉の輿とかを狙って食いついてくる可能性は高い。

「ならあっちのぼろい感じの茶屋にしておくか?」

 俺としては別にわざわざ可愛い女の子いる方に言って向日葵たちと問題を起こす気なんてさらさらない。

 だいたい俺だって嫁を増やしたいなんて思ってはいないのだ。

「待って」

 しかし女の子のいない茶屋を選択したが、また向日葵先生から待ったがかかった。

「貴久が選んだ場所は危険。私たちが選ぶ」

 ・・・さいですか。

「まず町の中心は危ない。いくら人が少ないと言っても京、それなりに人はいるし綺麗どころが多い。特に二条屋形周辺は近づくだけでも危険。貴久なら二条屋形に近づいたら間違いなく将軍と会ってしまう、そうしたらもう祝言までは確実」

 どうして二条屋形に近づいただけで将軍様に会えて、しかも会っただけで祝言までが確実なんだ?

「かと言って町の外側も危険。聞けば北条との祝言は貴久が国境周辺まで出てしまったのが原因だと聞く。今回も町の中心から離れすぎると盗賊の女頭あたりを籠絡したりするといけない」

 本当に見境なしだな、俺。

「だから今回は町の中心近くでがらの悪いごろつきが多い場所に行く」

「待て、危険すぎるだろ」

 恐らく町の中心近くのごろつきは傭兵とかの男が多いのだろう。だからそこなら安全だと考えたのだろうが、それでは今度はりょうやとらが危なくなってしまう。

「大丈夫。私と昌幸と小太郎が守るから」

 ・・・そうでした、そのための護衛でした。

「言いたいことは分かった。で、ごろつきの多い場所って言うのはどのあたりなんだ?」

 向日葵が大丈夫だと言うなら本当に大丈夫なのだろう。結局のところ俺にはどうにもできないことなのでこの場は向日葵先生にお任せしよう。

「三好の屋敷の近く」

「おいこら危険すぎるだろう!」

 俺は三好のやったことは戦国の世に生きる人物として当たり前どころか立派のものだと他人事として評価しているが、実際に今目の前の京のありさまを見ていると、なんとなく三好が悪者に見えてしまうのだ。

 将軍が悪者だとは思いたくないのが三好が悪者だと思う理由だったりするのだが・・・これだけで三好を悪者だとするのは三好に悪い気がしてきた。

「それを聞いて安心した。そう思っているなら貴久が三好の人間と懇意になることは無い。そして三好の屋敷の近くなら将軍も近寄らないはず。あとは私たちが近くに侍って町娘を遠ざければ完璧」

 そういう向日葵の顔は何とも嬉しそうだ。きっと、俺の嫁が増えないことが本当に嬉しいのだ。

「それじゃあ、向日葵の言っているところの近くにある茶屋を目指そうか。りょうがおなかがすきすぎて大変だ」

 りょうはさっきからお腹がすいているのか疲れているのか、段蔵にあやされながらなんとか愚図らずに我慢している状態でそう長く持ちそうにはなかった。ていうか段蔵はりょうのお守りしかしていない気がする。

「分かった、付いて来て」

 それとなく目で昌幸と小太郎に確認をとってみるが2人とも問題ないと目で合図してきた・・・ように感じた。


 しばらく歩いていくと、さっきよりはずいぶんと賑やかな場所に出た。

 確かに賑やかで、それに関しては喜ばしいことだとは思うのだが・・・どいつもこいつもまともそうに見えない。

 まずみんな共通して武器を持っている。刀だったり槍だったりと種類はばらばらだったが、何かしら武器を持っていた。

 聞こえてくる言葉は戦場で何人殺したかを自慢しあっているものが多い、要するにつまらない自慢話が多い。

「おう、兄ちゃん」

 向日葵に言われなければこんなところには絶対に来ることは無かったと思う。そしてできるならこんながらの悪そうなやつとは関わりたくなかった。

 とりあえず気がつかなかったふりをして通り過ぎようと試みる。これで「なんだよ、つまんねえ奴だな」とか捨て台詞でも吐いて関わらないでくれれば最高なのだが。

「なんだよ、つまんねえ奴だな」

 やりました、背後で希望通りの捨て台詞を吐きながら遠ざかる足音が聞こえてくる。

 やればできるものですね、相手が単純なやつで助かりました。

 しかしここで安心した俺は次の瞬間には怒っていた。

「あ、おーい、金出すからそこの女置いて行けや。いくらだ?」

 さっきの男の声が高笑いと共に後ろから聞こえてくる。

 今すぐにでも殴り掛かりたい衝動に駆られるが、ここで騒ぎを起こすわけにもいかないと理性が働き何とかこらえる。

「おい、いくらだって聞いてんだよ、そこのしけた面した外道な兄さんよ」

 ・・・恐らく俺のことだろう。あいつは俺のことを女子供を売っている外道なやつと揶揄しているのだ。それは構わない、そんなことは構わないのだ。しかし俺は許せない、俺のことを何と言おうと我慢して見せるが、みんなのことを売り物だと笑ったあの男を許せない。

 しかし反応してはいけない。ここで俺が反応したらみんなに迷惑が・・・。

「おい、そこの腐れ外道」

 だがそんな俺の思いをよそに真っ先に男に向かって言った人が一人、加藤段蔵だった。

 段蔵はその可愛らしい小さな体格にぴったりな可愛らしい声で汚い言葉を発して男の正面に立つ。

 小さな体、短くそろえられた茶色い髪。段蔵はどう見ても戦いなんて似合わない可愛らしい女の子に見える。しかし今段蔵は自分よりも頭一つ分は大きいいかにも悪者と言った格好の男と正面から睨み合い、その見た目からは想像もつかないほどの怒気をみなぎらせていた。

「おうくそ餓鬼、今なんて言った?」

 対する男は段蔵の怒気に気がついていないのか気にならないほどに強靭な精神を持っているのか段蔵に向かって敵意むき出しの返答を返す。

「あんまり喋るな腐れ外道、お前が喋ると空気が汚れる」

「なんだとくそ餓鬼!」

 男が拳を振り上げて勢いよく段蔵に向かって・・・振り下ろすことは無かった。

 段蔵の拳が男の鳩尾にめり込んでいた。

「だから喋るなと言っています」

 声は相変わらず可愛らしい。しかしまとっている雰囲気と今さっき段蔵がとった行動を合わせて考えればそれがどんなに恐ろしく感じられることか。

「が・・・っぁ!」

 地面に倒れた男が苦しそうに腹を抱えて、恐怖をたたえた目で段蔵のことを見ている。

「さあ、もう喋ってもいいですよ。さっき旦那になんていたのかもう一度言ってみて下さい」

 はっきり言って恐ろしい。俺は今日まで段蔵のことをなめていた。景虎が護衛として選んだくらいだから実力があることはわかっていた。しかし初めて会った日も段蔵はりょうと遊んでいるようにしか見えなかった、それはここに来るまでの道中でも変わらなかった。

 しかし今目にも留まらぬ早業で男を沈めた一撃は水が流れるように鮮やかな一撃だった。それほどに洗練された動きだった。

「どうしたんですか? 黙っているともう1回やりますよ?」

 笑顔で発言を促す段蔵は・・・恐ろしかった。

 離れて見ている俺でもこんなに怖いのだ、目の前で倒れているあの男はどんな気持ちなのだろう。

 少なくとも平気ではないことはわかる。倒れながらも段蔵をとらえたままの目は恐怖に彩られている。 やっと動けるくらいに回復したのか、逃げようとして震える手足を必死になって動かしている。

「しゃべらないんですか、ならそんな役立たずな口は要りませんね」

 そう言うと、段蔵はおもむろに荷物の中からありふれた形の小刀を取り出した。

「まてまて、天下の往来で刃傷沙汰など起こすでない」

 段蔵が今まさに男に向かって切りかかろうとしたその時、凛とした声が場に静寂をもたらした。

 声のした方を見やれば、そこにはまさに絶世の美女がいた。

 この時代で考えれば間違いなく飛びぬけて高いと思える身長は160cmを超えているだろう。長く白い髪は景虎と似ているが景虎よりも長くて艶やかだ。着ている着物は上等な布を使っているように見えるが派手ではないしそれが上等だとは思わせない落ち着いた出来だが、着ている主のせいかとても高貴に見させてしまう。

 美少女ではない、美女という言葉の方が的確だろう。とにかく目の前の女性は美しかった。

「おぬしたち、ついてまいれ」

 女性は返答など聞かずに歩いていく。男や周りの野次馬もすべて放置している。

 俺たちも女性の後を追って歩き出す。

 べつについていかないといけなかったわけではない。ただ何となくそうすることが正しいことだと感じた。そう思わせる雰囲気がその女性にはあった。


 女性についてやってきたのは、何と三好長慶の屋敷だった。

 いやまあそれはおかしいことではない、三好の屋敷の近くをわざわざ選んで行って騒ぎを起こしたのだから三好に怒られるのなら納得できる・・・しかし。

「なんだー驚いちゃったよ、本当に恋をこじらせちゃったのかと思っちゃったよ」

「おぬしは我のことを何だと思っておるのだ」

「なにって、輝ちゃんは輝ちゃんだよ」

 目の前で俺たちを置いて玄関で話しているのは、俺たちを連れてきた女性と三好長慶だ。さっき「長慶を呼んで来い」って言ってたからたぶんそうだ。

 そして輝ちゃんと呼ばれているのは目の前の女性だ。


 女性について歩いていくとだんだんと立派な屋敷が見えてきた。大きいのかもしれないが、平屋なので上から見るか屋敷をぐるりと一回りするかしないと本当に大きいのかはよくわからない。

 女性は屋敷につくとなんの遠慮もなく門をくぐって中に入っていく。

 てことはこの人がこの屋敷の主? とも思ったが、女性の「苦労」の言葉に門番の人たちが「お久しぶりです」とか返していたからたぶん主じゃない、客人だ。

 よく来ているのか門をくぐってからもすたすたと歩き続けている女性は玄関についてやっと足を止めた。

「おい、誰かいないか」

 女性が人を呼ぶと中から若い女性が出てきた。

「これはこれは、ようこそおいでくださいました。本日はどういった御用でしょうか?」

「長慶を呼んでこい」

 な、長慶ってまさか・・・三好長慶のことか?

「かしこまりました」

 奉公人の女性が奥へ下がっていく。

 本当に数えるくらいの時間が経ったところで、どたどたと足音が聞こえてきた。

「輝ちゃ・・・⁉」

 現れたのはまたも若い女性だった。しかし着ている着物の違いで明らかに身分が違うとわかる。

 京は華美な服装は好まれないと思っていたのだがそうでもないようだ。

 決して金ピカなドレスだったり極道の方が着ているような虎とか竜の刺繍がふんだんに施されているわけではないが、金ピカではないが黄色い目立つ着物には色とりどりの花が刺繍されている。この時代の京と考えれば間違いなく華美だと言えるだろう。

「輝ちゃん、その人たちは・・・」

「我が連れてきた」

 輝ちゃんが何でもないことを何でもないふうに答えると、なぜたか長慶さんが息をのむそして真剣な顔で言った。

「輝ちゃん、確かに京じゃまともな出会いなんてないのはわかりきったことだけど・・・だからって、いくら町中で可愛い子を見つけたからって、女の子でもいいだなんて! それは妥協しすぎだよ!」

 とりあえずこれは勘違いだと思う。

「何を言っておる、我はそのような特殊な癖になど目覚めてはおらぬ。それに、例え勘違いするとしてもそこはこの男ではないのか?」

 まあ普通はそうだよな?

 でもこんなにも女の子をつれている男を夫にしようとして紹介しようとする人もそう勘違いする人もいないとは思うが。

「こんなに大きくておっかない人を輝ちゃんが夫にしちゃいけません!」

 お、おっかない人ですか・・・結構強烈な一撃をもらったな。

「そうか? 我にはむしろ優しそうに見えるのだが?」

 俺が自分を客観的に見たら確かに優しい方だと思う。他人から見てどうなのかは今初めて聞いたが。

「そんなに甘いこと言ってちゃ駄目だって! だいたいこんなに大きい人なんだからきっと白塗りの人たちかそれに似たような人だよ、輝ちゃんが嫌いな人たちだよ!」

 体格はいいが白塗りの人たちとは違う。あんなに身分は高くないしあんな格好はしたくない。行動の縛りも多くて嫌だ。

「まあ我としては白塗りだったとしても、町中で堂々と刃物を取り出すような輩なら面白くてよいかもしれんがな」


 と、そんなやり取りがあった。

 ・・・さて、考えてみようか。三好長慶を堂々と呼び出すことができて輝ちゃんと呼ばれそうな人とは誰か。まず最初に浮かぶのは長慶の家臣から考えて松永久秀、三好長逸、三好政康、岩成友通の4人だ。しかしこの4人が仮にも主である長慶のことを呼び捨てにできるのかと言われるとかなり疑問である。あと輝ちゃんと呼ばれる理由にも心当たりがない。

 親とかなら長慶のことを呼び捨ててもおかしくはないが輝ちゃんはどう見ても目の前の長慶と同い年くらいにしか見えない、雰囲気で頑張っても少し上のお姉さんと言った感じだ。

 では親戚はどうだ? これも怪しい。長慶は史実では長男だったから長慶よりも年上の姉弟はいない。一番年の近い実休じっきゅうは今頃は四国の方で戦に明け暮れているはずだ、確か今はちょうど・・・あれ、北白川の戦いはあったのかな? 景虎からも晴信からも聞いてないから起こっていないのかな? それとも俺には教える必要はないと判断して教えてくれなかったのかな?

 北白川の戦いは1558年、永禄元年に起こった三好長慶と足利義輝の戦いだ。朽木谷に逃れていた足利義輝が六角氏の支援を受けて京へ進軍したところから始まったが、最終的に足利軍を後押ししていた六角氏が宣教の不利を悟って両軍を和睦させることで執着した戦いだ。

 この戦が起こっていなかったらまだ将軍は朽木谷にいると思われる。だから将軍の線は消える。なら目の前の輝ちゃんという女性は実休なのだろうか?

 でも輝ちゃんだ、こっちだとそもそも将軍が朽木谷に言っているのかどうかもわからないから可能性は残るんだよな~。だって輝って義輝の輝だろ? たぶん。

「それで輝ちゃん、そちらの方々は?」

「おお、そいえばまだ名前を聞いていなんだな。名乗れ」

 俺はとっさに小太郎と昌幸を見た。2人は俺の意図を察してくれたのか、先に名前を告げた。

「私の名前はさくら、隣の彼女はきく、後ろにいる子たちは左から順につばき、りょう、とら、向日葵、らんです。そして我らの面倒を見て下さっている久貴ひさたか様です」

 昌幸が流れるようにすらすらと嘘の名前を告げる。昌幸がさくら、小太郎がきく、段蔵がつばきで長政がらんだ。どうしてみんな花なのかは知らないが。

「ほう、面倒を見ているとは、その久貴とやらは何をして稼いでいるのだ?」

「越後の方で青苧座あおそざと一枚かんでおります。今は私ときくもいくらか稼げるようになりましたが、それまでは本当に大変でした」

 え、青苧ですか? 俺あんまり詳しくないけど大丈夫かな?

「ほう、青苧座か。それならこの数の子どもを抱えていても何とかなるのも頷けないこともないな。

 で、越後の商人がこんなところまで何をしに来たのだ?」

「堺まで品を仕入に来たのです。粗悪な品が来ても困るので、こうして定期的に直接仕入れに来ているのです」

「ふむ、まあそうだと思っておこう」

 明らかに嘘だと見抜いているようだったが追求しないでくらるようだ。できればこのまま返してほしいのだが。

「おい、久貴とやら」

 女性が急に俺の名前を呼んだ。

「何か?」

 ちょっと焦ったけどどうということは無い。焦らない、それが大切だ。焦って変なことを口走らないようにしないといけない。

「我名は足利義輝、足利将軍家第13代征夷大将軍である。我の前で嘘偽りを申すことまかりならん。正直に名を申せ」

 女性が、いや征夷大将軍足利義輝が堂々と名乗る。

 これが将軍であると言葉が、体が、雰囲気が語っている。

 さすがに言葉をなくしてしまった。

 可能性として考えていなかったわけではない。しかし、まさか・・・。

「どうした、申せぬか」

 本当に目の前の女性が足利義輝だとは。

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