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播州へ 参ー発言-

「どうするって言ってあった?」

 浅井長政に小谷城の中に連行されてなんだかかなりよさそうな部屋に案内された。

 そして俺はその部屋で向日葵先生にお叱りを受けています。

 俺は正座していて、その正面に向日葵、昌幸、小太郎が陣取っている。

「ど、どうするも何も・・・俺は何もしていないから・・・」

「つまりは女の子がちやほやしてくれたから一切拒まずにいい思いをしていたと」

「そんな捻くれた解釈をするな!」

 景虎と会った時はついていかなかったら死んでいたし、晴信と会った時は・・・惚れちゃったから仕方がない、くーちゃんの時は本当に俺のせいではない、だって力ずくだったもん!

「でもどうするのですか? どう見ても賢政殿はお兄様に御執心のご様子でしたが?」

 昌幸がいきなり確信をついてくる。

「このまま何もしなければ、いままでの結果から考えてまず間違いなく祝言、悪くても懇意となられるかと」

 そうなったら景虎と向日葵にむごい殺され方をするに違いない。

「でもどうする、何か粗相でもして盛大に嫌われようかとも思ったがやりすぎるとそれこそ日ノ本全土を巻き込んだ大戦になりかねないぞ。そこまでいかなかったとしても俺が死ぬかもしれない」

 真剣に考えてみて初めて分かったが、好かれるのは嫌われるのよりはるかに難しい。それは正しい。しかし嫌われるのは好かれるのよりは簡単だが、嫌われる度合いを調節するのはとんでもなく難しい。

 好かれるのはそもそもが嫌われているから何か粗相をやらかしても下がり幅は少ない、だからよっぽどのことをしなければ殺されたりはしないはずだ。しかし嫌われるのはそうはいかない、好かれているから下がり幅が少ない、ただ回数を重ねればいいのかというとそれは違う、ある一定の基準を超えるとこれまでとは比べ物にならないくらい一気に嫌われる。こっちでそんなことをやらかせば、「無礼者!」とか言われて下手したら死んでしまう。

「浅井にそれほどの力があるとは思えませんが、婿殿がそう仰るなら何か思うところがあるとみて真剣に考えてみましょうか」

 真剣じゃなかったのかよ。

 昌幸はやっと真剣に考え始める気になったのか口の下に人差し指を当てて考え始めた。

「お待たせしました、お兄様! 食事の準備が整ったのでどうぞこちらへ」

 しかしそこに食事の準備を終えたという賢政こと長政がやってきた。早すぎではないだろうか。

 長政は湯を使ったのか体は土や埃などは全くついていない。来ている着物もさっきまでの物と違い随分と上等そうなきれいな着物を着ている。髪もきれいに洗われていてつややかに見える。

 こうしてみると長政も可愛い女の子に見える。

「どうかしましたか? おかしなところでもありましたか?」

 呆然と見つめていた俺の視線からおかしなところがあるのではないかと察した長政が髪や着物を見たり触ったりして確かめだした。

「そんなことはないよ。随分と雰囲気が変わっていたからね、なんとなく見てしまっただけだ。それよりも早く案内してくれないかな、ぜひとも君の用意してくれた美味しい食べ物を食べてみたい」

「は、はい! では付いて来て下さい!」

 長政が上機嫌に踵を返す。俺もそれに続こうとして・・・頭を掴まれた。

「貴久、今何した?」

 後ろから向日葵が随分と低い声で言ってくる。

「え・・・いや・・・その・・・ただ見ていたのをごまかして早く要件を済ませてここを発ち去ろうと・・・」

「なら見ていた理由はなんとなくだけで済ませればいい。君が用意してくれた美味しいものっていうのも必要ない、早く行こうだけでいい」

「それはさすがに失礼じゃ」

「失礼でいい、むしろそれが狙い」

「殺されたくは・・・」

「まだこっちの素性を向こうは知らない、仮に大暴れして人を殺してもどこかの賊がやったってことくらいしかわからない、どう転んでもこんな弱小勢力に刺客を送ること自体まずありえないことだけど」

 ここでちょっとカチンときた。

「おいこらちょっと待て、浅井が弱小勢力と言ったか?」

「貴久が浅井にどんな思い入れをしているのかは知らないけど、今の浅井はどう見ても弱小勢力」

 いやまあ勢力図から見たら確かに弱小だけれども! これはあれだからな、わざとだからな!

 浅井家現当主の浅井久政は六角氏に服従していて領地を失ったも同然、とは言ったが、実際のところこうして服従したから六角氏という強力な後ろ楯を得て領内の安全を確保できたし、領内の安全が確保できたからこそ内政に力を注ぐことができているのだ。このころ六角氏は内政面において楽市楽座、文書発給の幕府寄りの形から独自な裁定など先進的な政策を行っていた。これらを吸収し、花押も六角氏に似せた形を取って京極氏ら旧勢力からの脱却を目指して政治を領内にて行うことにより浅井氏のその後の戦国大名への基盤を作ることができたのだ。

 と、説明したいところなのだが・・・先ほど見た小谷の情景を見た後では何とも説得力に欠けてしまう。

 どうしよう、どうしたら浅井の素晴らしさを説明できるだろうか・・・。

「あの・・・そういうことはできれば当事者がいないところでしていただけないでしょうか」

「「あ」」

 振り返ると、部屋の入り口に長政がところなさげにたたずんでいた。

「あ、いや・・・あのな賢政・・・」

「いいんです、お兄様。今の浅井に力がないのは事実ですから」

 長政が絞り出すように答える。言葉はなんとか絞り出していたが、その表情は何とも辛そうでとても何も言わずに見ているなんてことはできなかった。

「そんなこと言うんじゃない、お前なら先代の頃の繁栄を取り戻せる、いやそれ以上の繁栄を築くことだってお前にならできるさ」

 目の前にいるこの少女が、俺の知っている史実のように浅井家に繁栄をもたらすかどうかは分からない。でも俺はできると思っている、なんとなくだがこの少女ならできると思えた。

「本当に・・・そうお思いですか?」

 今目の前にいる浅井賢政の目は不安に揺れている。琵琶湖のほとりで会った時のような少年のような輝きは無い。

 一度立ち上がってから膝に手をついて目線を合わせて言う。

「思っているさ、お前ができると信じていれば必ずできる」

 どこかの宗教家みたいな洗脳をしているような気がしているが、本心だから気にしないでおく。

「さあ、美味しいものを食べさせてくれるんだろ? あれこれ難しいことを考えるなら美味しいもの食べてからだ、腹が減っていてはいい考えなんて浮かばないぞ」

 本心を言っているからこそ恥ずかしくなってきたのと、後ろからのどえらい殺気にびびったので早くこの話を切り上げたい。

「は、はい。こちらへどうぞ」

 長政が顔を赤く染めながら先頭に立って廊下を歩き始める。

 俺も今度こそ長政について廊下を歩き始めた。向日葵が不満そうにしながらも俺の着物の裾を掴みながらついきてくれる。昌幸と小太郎は何も言わずについきた。りょうは長旅に着彼が出たのか眠ってしまっているので段蔵がおぶってくれている。


 美味しいもの。近江の美味しいものとはいったい何だろう。鮎と鱒は煮るなり焼くなりで何らかの形で出てくるのではないだろうか。滋賀と言えばあとは何だ・・・下田なすとかあったっけ、あれは江戸時代からだったかな? どちらにしてもなすだけは出てこないでほしいのだが。あとは梨とかあっただろうか、すいかもあった気がするがそもそもこのころに日ノ本で栽培されていたのかはわからないし、たとえあったとしてもそんなに甘くないだろう。

 いったいどんなものが出てくるのか、なすだけは出てきてくれないことを祈りながら、それでもって美味しいものが出てきてくれることも祈りながら長政の後について廊下を歩く。

「つきました。お口に合うかはわかりませんが、恥ずかしくないものを用意しておりますのでどうぞ心行くまでご堪能ください」

 ここに来るまでに顔の赤みも引き、最初に会った時のような輝くような笑顔で告げてくる長政。

 丁寧に言ってくれるのは嬉しいのだが、今のところ長政の頭の中では、俺たちは長政よりかなり身分が低いことになっているはずだからこんなにも丁寧に言わなくてもいいと思うのだが。

 そんなよけいなことを考えながらも障子が開かれたのでそこから部屋の中へ入り膳の前に座る。

 膳の上には美味しそうな鮎がまるまる一匹、すでにこのお魚一匹で十分に豪華だと言えるが、なんとこの膳の上にはさらに目を引く強力な主役がいる、白米だ。

 こんなに白いご飯を食べるのはいつ以来だろうか、越後のお米はかなり美味しかったがこんなに真っ白ではなかった。

 恐らく最後にこんなに真っ白なお米を食べたのは晴信との祝言の時以来ではないだろうか。

 とまあそのくらい普通じゃ食べられないものが目の前にあるわけです。

「どうしたんだ、こんな真っ白なお米なんて出してきて」

 あまりにも驚いたので長政に直接聞いてみた。

「ちょっと見栄を張りました」

 そこは隠すと頃じゃないのか?

「そんなことよりも、早く食べてください。品数は揃えられませんでしたが、質の良いものを用意させました、おかわりもあるので足りなかったら言ってくださいね」

 ・・・まさかこの真っ白なご飯のおかわりもあったりするのだろうか。

「いただきます」

 まあおかわりがあるかないかは食べ終わってから確かめればいいのだ。まずは目の前の暖かいご飯と焼き魚を堪能しなければ。


「美味しかったなーりょう」

「美味しかったねー兄ちゃん」

 食べ終わって最初に案内された部屋へ戻ろうと廊下を歩きながら、俺は満足そうにお腹をさすりながらりょうに語りかけた。

 美味しかったです、白いご飯と焼き魚。

 しかも白いご飯と焼き魚はおかわりがありました。いっぱいありました。とらが恥ずかしくなって顔を伏せてしまうほどに食べました、俺とりょうは。

「りょうよ、お腹がふくれたな」

「じゃあお昼寝だね!」

 りょうも俺のことをよくわかってきたではないか。

「よし、じゃあ一緒におひ・・・」

「お昼寝じゃない、早く播州まで行く」

 向日葵先生がお怒りのようです。

「しかし向日葵先生や、食べてすぐに動くのは体にあまりよろしくないのですよ」

「そうなのですか?」

 ここで以外にも素早く食いついて来たのは小太郎だった。

 髪に隠れていてはっきりとは見えないが驚いたように目を丸くしているの様に見える。

「ああ、食べた後は体が食べたものを力に変えようと頑張っているからな、力に変えられるまでしばらくはゆっくりとしている方がいい」

 小太郎はそうなのですかと小さくつぶやいて何度か反芻しながら頷いている。

 この時代だとそんなに新発見とでもいうようなことなのだろうか?

「じゃあ一刻経ったら出発」

 向日葵先生が終始不機嫌なままだったので俺は了解の意を示して、1人勝手に城の探検に乗り出した。

 お散歩なら大丈夫だよな? ゆっくりお散歩していればいいんだよな?


 何でだろう、お城を歩いていると何の理由もなくワクワクしてくる。

 それは2000年代ではあまり見られなくなった木造の床や柱が原因なのか、それとも外に広がる景色が原因なのか、はたまた城にいる人たちの緊張感なんかがそうさせてくれるのか・・・。

 さっきからいろいろと歩き回っていたら行く先々で「ここから先は入ってはならぬ」とか「あまりうろちょろするな」とか注意を受けたが、この胸のワクワクは全く収まってはいない。

 できれば天守閣とか本丸とかの一番高いところまで行ってみたいが、さすがに行かせてはもらえなかった。

 それなりにお城を堪能したところで、そろそろ皆のところに戻ろうとしたところで・・・。

「「あ」」

 長政を見つけました。

 長政はまた城の外で見たときと同じ、服をわざと汚したような恰好をしていた。

「お兄様、今お時間はよろしいですか?」

「今はよろしいが、あんまり時間がかかるようだと困るな」

 今から多少長政につきあっても構わないと思うが、あんまり長引いて待っているであろう皆の機嫌を損ねるのはよろしくない。特に向日葵先生なんかの機嫌を損ねるのは命にかかわりそうなので大変よろしくない。

「そんなに時間はかからないと思いますよ。少しお話ししたいだけですから」

 そういう長政の顔はなんだか暗く寂しげで、とても世間話でもしようとかそんな軽い話をしようとしているようには見えなかった。

 少しお話をするだけなら構わないよな。

「ならいいよ。どこでお話しする?」

 俺はできるだけ軽い感じで場所を変えようと提案する。今から話す内容がとてもここで立ち話できるようなものだとは思えなかったからだ。

「そうですね・・・なら、僕の部屋に行きましょうか」

 長政が俺の返事も聞かずに俺の横を通りすぎて行く。

 仮にも女の子の部屋に行くことに抵抗を覚えながら、このことが知れたら後で向日葵先生が怖いんだろうなとか考えながらも、かまわず俺は長政の後をついていく。

 今、長政が俺に話そうとしていることがどうしても軽い話だとは思えなかったから。


 長政の部屋に着いた。

 立派な壺や掛け軸などの過度な調度品はない・・・ないのだが・・・。

「賢政、この部屋は何だ?」

「えっと・・・忘れてました」

 忘れていたとかそんなことは関係ない気がする。

 長政の部屋はどう見ても戦国大名浅井久政の子でありおいおいその後を継ぐ立場にあるようには思えない荒れ模様である。

 部屋の畳の上には起きてそのままなのであろう寝具、さっき俺たちに食事を振舞った時に着ていた着物、途中で嫌になったのでろう勉学に活用しようとしたと思われる書物が乱雑に放り出されている。

「足の踏み場もないんだが、ここで話をするのか?」

 長政が顔を赤く染めてプルプルと小刻みに震えている。

「こここここここですると言ったのはぼぼ僕です! だからお兄様は気にしないでください! すぐに片付けますから!」

 恥ずかしいからか声を大きく張り上げて勢いよく部屋の中を片付け始めた。

「お待たせしましたお兄様! さあこちらへどうぞ!」

 若干息を弾ませながら長政が俺を部屋に招き入れる。

「賢政よ、これは片付けたとは・・・」

 いいながら肥満体系のお腹のようにポッコリと膨らんでいる襖に手をかける。

「わーやめてください!」

 長政が襖にかかっていた手をはじいて俺と襖の間に体を滑り込ませる。

「また散らかしたらもうお話しする時間が無くなってしまいます!」

 長政が必死になって止めてくる。

「さあ、早くお座りください!」

 長政が力ずくで俺を敷かれた座布団の上まで押していく。

 しぶしぶと言うほどではないが、俺は気になる襖をあきらめて、おとなしく用意された座布団の上に座る。

 長政が同じく座布団に着いたところで俺から話を切り出した。

「で、話したいことっていうのは何なんだ?」

「・・・」

 こうなるよな。

 初対面の俺にいったい何を話そうとしているのかはわからないが、話があると言った時の長政の表情を見ていてなんとなくどうでもいい話じゃないことは想像できていた。

 ここまで深刻そうに考えるとは思わなかったが、言いにくい話をするのではないかという予想はしていた。

 聞き上手というわけではないがここはとにかく答えるだけという形は作っておいたから、じっくりと長政が話し始めるのを待つとしよう。

「お兄様」

 しかし長政は思いのほか早く話し始めた。

「お兄様は僕の正体を知ったとき、「尊敬している」とか「応援している」とか言っていましたよね? 僕は嬉しかったんです。今まであんなふうに言われたことなんてなかったし、僕自身あんなふうに思ってくれている方がいるなんて思っていませんでした。でも、思われる理由に心当たりがないんです。僕が言うのもなんですが、今の浅井家はすでに亮政様のころの面影はなくなり六角の家臣もいいところなんです」

 そこで長政は一度言葉を区切って真剣な目で、すがるような目で、俺に問いかけてきた。

「お兄様はどうして、僕にあんなことを言ってくれたのですか」

 どうして、か。

 俺の知っている史実の浅井長政に心を打たれたからか?

 仮にそうだとしよう、しかしそれは今目の前にいる浅井賢政のことじゃない。

 ならどうして俺はあんなことを言ったのか・・・。

「期待しているから、かな?」

「期待、ですか?」

 たぶんそうなのだろう、きっとこれは俺の勝手な期待だ。

 俺は俺の知っている史実の浅井長政が好きだ、だから目の前の浅井賢政にもそうなってほしいという勝手な期待をしているのだろう。

 浅井を立て直してほしい。実に自分勝手なうえに矛盾している話だ。

 戦は好きじゃない。人を殺したりなんてしたくない。だがもし目の前の浅井賢政が浅井を立派な戦国大名にまで押し上げるとしたら、野良田の戦いかそれに近い戦が起こるのは間違いないだろう。そしてそこでは目の前の少女が多くの人を殺すことになるのだろう。

「何に、期待してくださっているのですか」

 長政の目は真剣であり、すがるような、そんな目のままだ。

 ここで何と言えばいい。「君が浅井を立て直すことだ」とでもいうつもりか? それも悪い回答ではないに違いない、しかしそれは目の前の少女に多くの人を殺して来いと言っているようなものだ。この時代では何の問題もないだろうし、むしろ喜ばれるかもしれないことだ。

 でも、俺は言いたくない。

「言っては下さいませんか」

 俺の沈黙を黙秘と受け取ったのか、長政が悲しそうに俯きながら言ってくる。

 ・・・悲しませるのはよろしくない。

「元気にしてくれると、君がこの近江の町を元気にしてくれると、俺はそう期待しているんだよ」

 悩んだ末に絞り出した回答だが、嘘ではない。

 実際に史実では浅井長政は浅井家3代の中で最も近江を栄えさせている。そうしてほしいと思っていることは嘘ではない。

「そんなことが、僕にできるでしょうか・・・浅井は、すでに父上の代で終わったも同然なんです、浅井にそんな力はもう残ってはいません。それに、町のことなら六角の方が何か考えて手を打つことでしょう」

「長政は、それでいいのか」

「え?」

 長政が顔をあげた。

「確かに今の浅井の力は弱いのかもしれない、放っておいても六角が何とかするかもしれない、でも君はそれでいいのか? 具体的に何をしろとは言えたものではないが、君は浅井がこのまま周りから弱小勢力だのなんだのと言われていていいのか? この近江の民たちを六角に預けたままでいいのか?」

「そんなわけないでしょう!」

 長政が勢いよく立ち上がって言い放つ!

「僕だって・・・いや僕が一番思っているんだ! 浅井がこのままでいいわけがない! 浅井は僕が強くするんだ、この近江の民たちは僕が守るんだ!」

「・・・なら、頑張りな」

 俺は立ち上がって長政の肩を軽くポンポンと叩く。

「え?」

「君がやりたいとそう思っているなら、きっとできるさ」

「で、でも・・・今の浅井には・・・」

「もっとよくお父様を見てみなさい、きっといろいろなことが見えてくるから」

 俺はすでに後ろを向いて障子に向かって歩き始めている。

「あ、もう一つ! もう一つ聞かせてください!」

 障子を開けようと手をかけたところで長政が俺の着物の袖をつかんできた。

「なんだ?」

 振り返って見えた長政の顔にはさっきまでの表情はない。

「どうしてさっき、お兄様は僕のことを長政と呼んだのですか?」

「・・・」

 やってしまった。

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