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刀と双銃の交奏曲  作者: 赤城宗一
第四章
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今後の方針

 和人とルイスの打ち合わせがひと段落着いたのは、日が落ちた頃だった。とりあえずの方針が決まったので、和人たちはラムダール城の数ある客室のひとつに案内されていた。


 今頃ルイスは、軍議の真っ最中だろう。いくらルイスがこの国のトップだとはいえ、軍の方針を勝手に決めることはできない。正直、得体の知れないよそ者が、それもたった一人で正門を守るなどという常軌を逸した作戦が、軍議で採用されるとは和人には思えなかったが、ルイスが自信有りげに「通してみせるさ」と言っていたので、まあ何とかするのだろう。


 重要な軍議に、和人のようなよそ者がいては、余計な火種を生みかねない。そのことをルイスもわかっていたようで、軍議に和人は参加せず、客室で鋭気を養って欲しいと言われた。


 和人と木崎は、部屋まで案内してくれた使用人が出て行くと同時に、軽く部屋の中を見回した。不自然にならないよう、部屋の調度品などを眺めるふりをしながら、あちこちに目を走らせる。


 一通り部屋の中を回り終わったあと、木崎がおもむろに懐からメモ帳を取り出し、和人に向けて軽く振ってみせる。和人もそれに頷いた。


『とりあえず、目に見える監視用のものはないみたいだね』


 木崎がメモ帳にそう平仮名で書く。ただの平仮名ではない。独自の方式で五十音を別の文字に対応させた、日本軍の最も簡易な暗号だ。


『まあ、魔法なんてものがある世界だから、安心はできないけどな』


 和人も同じように返す。木崎もそれに頷いた。


『そうだね』

『それで、上手く大国に潜り込んだのはいいけど、元の世界に戻るためのヒントとかはわかってるのか?』

『それなんだけどね……』


 木崎はそこまで書いて、迷ったように首をひねった。その後、おもむろにメモ帳の後ろから二ページを切り取って、重ねて置く。


『これを二つの世界とするよ。上が僕たちのいた世界で、下がこの世界だ』

 唐突な例え話だが、とりあえず和人は頷いた。


 それを見た木崎は、二枚の紙を机と垂直になるようにたてる。そして、和人たちのいた世界側から、二枚の紙を指先で突いた。それほど勢いがなかったため、当然のごとく紙はふにゃりと曲がるだけだ。


 木崎が何をやりたいのかよく分からず、首をかしげている和人に、木崎は「ちょっと持ってて」と言い、和人に紙を上から押さえさせる。そして、紙を両側からペンで突いた。今度はペン先が二枚の紙を貫通する。


『なるほど。両側の世界から力が加わったから、二つの世界が繋がったというわけか』


 和人がそう書くと、木崎は「正解」というように、ピッと人差し指を立てた。


『そのとおり。まあ、仮説だけどね。で、僕たちの世界から加わった力がZだとすると、こちらの世界から加わった力がなんなのか。それが分かれば、僕たちが元の世界に帰るための手がかりになると思うんだ。――と言っても、分かったからといって、その力とZを合わせればいいとは限らない。今度は両側から力を加えるわけではないからね。今は何を言っても、憶測の域をでないよ』


 木崎が長々と書いた文に、和人は「なるほど」と頷いた。


『それで、こちらの世界から伝わった力に関して、なにか目星は付いてるのか?』

『穴があいた場所から考えるに、その力を出した可能性があるのは、セシリア様かフィアーゼさん、それとあのドラゴンだ。まあ、順当に考えるならあのドラゴンの仕業なんだろうけど――』


 そこで木崎は、迷うようにペン先を揺らした。


『――でも、和人くんの話を聞く限り、ドラゴンの最も強い武器は口から吐く火球だったんだろう?それとZがぶつかっても何も起きなかった事を考えると、どうも違う気がするんだよ』


 木崎の、証拠がないゆえに自信なさげな文に、和人も頷いた。


『確かに。もっと、嘘みたいに馬鹿げた力が働いたと思う』


 そもそも和人は、この件に関してはこちらの世界側から働いた力が、違う世界同士を繋げる原因の九割近くを占めているのでは、と考えている。


 確かにZは強力な力を持った規格外の兵器だが、それは拳銃サイズの兵器として見るから規格外なのだ。実際、地球の兵器の中でZ以上の力を持つ兵器は無数にある。Z程度の威力で世界に穴が開くのなら、第三次世界大戦の主戦場となった大西洋沖には無数に穴があいてないとおかしいのだ。


 和人の書いた文に木崎も「そうだね」と頷きつつ、ペンを走らせる。


『それにもう一つ、気になっていることがあるんだ』

『気になっていること?』

『Zの弾丸は、あの穴を通った後、こっちの世界に影響を及ぼしただろう?なのに、僕たちの世界は何も影響を受けなかった』


 確かに、と和人は思う。


 あの時、和人が放ったZの弾丸は、世界を渡ってベルセの翼を撃ち抜いた。だが和人たちの世界には穴があいただけだ。和人が予想しているような強大な力が働いたのなら、それこそZの弾丸を飲み込んで、その力が和人たちの世界に影響を与えるはずだ。


 和人の様子に木崎は軽く頷いて続ける。


『これは僕の予想なんだけど、こちらの世界に働いた力っていうのは、なにか強力なものが一点に集まっていたんじゃないかな。それがそういうものだったのか、それともなにかの前段階だったのかはわからないけどね』


 木崎の抽象的な見解に、和人が頷く。それを見て、木崎は続けた。


『それで、一点に集まっていたということは、可能性としては一番近くにいた人が怪しいと思うんだけど、和人くんがこちらの世界に来たとき、一番近くにいたのは?』

『セシリア』


 即座に返したあと、和人は続ける。


『セシリアといえば、何か魔法に関して秘密がありそうな感じがするな』

『詳しくお願い』

『いや、木崎さんが魔法の説明を受けてる時にちょっと気になってな』


 それだけで、木崎は和人の言う違和感に思い当たったようだ。「ああ」と思い出すように宙に視線をさまよわせる。


『そういえば、質問してたね。あの時は気にならなかったけど、確かにいま思えば不自然というか、ちょっと引っかかる物言いだね。和人くんから聞かれた時の反応も妙だったし』


 木崎はそこまで書くと考え込むように顎に手を当て、やがてポツリとつぶやいた。


「やっぱり魔法か」


 そのつぶやきに和人は頷きで返す。こちらの世界では一般常識も欠けている和人と木崎だが、やはり最も知識が欠けているのは魔法についてだろう。そしておそらく、和人たちが元の世界に帰るための答えも、そこにあるのだ。


 木崎はしばらく考え込んでいたが、やがて言った。


「やっぱり、魔法の研究が急務だね。まずは図書館かなんかで、知識を得ないといけないけど……」


 筆談ではなく口に出したのは、別にここから先は聞かれても構わないと思ったからだろう。別大陸にも魔法はない設定なのだから。


 和人は木崎の台詞の一部に首をかしげる。


「研究?わざわざ研究するのか?」

「うん、魔法を知るには、僕たちなりの見解をつけておきたいし、そうじゃなくても、やっぱり、僕たちの目的のためには表面的なところだけじゃなくて、深いところまで魔法を知る必要があると思うんだ」

「……ふうん。で、本音は?」

「……やっぱり使ってみたいじゃん?魔法」


 あっさりと内面を吐露した木崎にため息をつき、和人は言った。


「なんでもいいけど、自分の欲望はちゃんと制御してくれよ。正直俺には研究なんてさっぱりだから、魔法に関しては木崎さんに頼るしかないんだから」

「まあ、任せといてよ。趣味半分で仕事してた僕が言っても説得力ないかもしれないけど、目的を見失うようなことはしないつもりだよ。それに、僕はこっちでは和人くんの戦闘力頼りだ。和人くんに愛想を尽かされないように頑張るよ」


 茶化すように言う木崎に、和人は肩をすくめてみせる。木崎は軽く笑ってつづけた。


「まあ、そういうわけでさっそく僕は和人くんに頼っているわけだ。和人くんが今回の戦争でどれほど活躍してくれるかで、僕たちが今後どの程度の発言権を得られるかが決まるからね。よろしく頼むよ」

「ああ、まあ、そっちは任せろ。と言っても、いつ攻めてくるのか、本当に攻めてくるのかすら、分からないけどな」

「まあ、そうだね。だけど、攻めてきてくれた方が、僕らにとってはありがたい話だ。活躍の場はあればあっただけいい」

「まあ、少なくとも今はそうだな」

「ところで和人くん。本当に正門を一人で守るなんて大丈夫なのかい?敵の総数ははっきりと分かっていないそうだけど、それでも数千、下手したら万単位の敵が来るかもしれないのに」

「ああ、大丈夫だ。と言うか、大丈夫じゃなきゃ、あんなに大口叩かない」

「そうかい?なんだか和人くんは、たまに平気な顔ですごい大嘘をつくときがあるからね」

「木崎さんに言われたくないよ。――まあ、今回は本当に大丈夫だ。こっちには強力な助っ人もいるしね」


 木崎は和人の言った『助っ人』という言葉に軽く首を傾げたが、やがてぽんと手を打った。


「ああ、いたね。すっかり忘れてたよ。だとすれば大丈夫か」

「多分な。油断はしないようにする」

「それが良いだろうね」


 木崎はそう言ってうなずくと、机の上の紙を拾い上げて丸める。この話は終わり、という意思表示だろう。和人が立ち上がって、軽く部屋を見渡していると、木崎が丸めた紙をポケットにしまいつつ、反対の手を和人に差し伸べてきた。


「?」


 差し出されたての意味が分からず、軽く首を傾げる和人に、木崎は笑う。


「これからよろしくってことだよ。向こうでも友人同士ではあったけど、こっちでは正真正銘の運命共同体だ。改めて、お互い助け合っていこうじゃないか」

「……まあ、そうだな。よろしく頼むよ、木崎さん」


 和人はそう言って、木崎の手を軽く握り返した。


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