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刀と双銃の交奏曲  作者: 赤城宗一
第三章
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反撃開始

(紅い……)


 真正面からの夕日が目に滲む。気絶している間に、随分と時間がたっていたことに、フィアーゼはいまさらのように気づいた。

 軽くあたりを見渡す。そうして、誰も自分に注目していないことを確かめると、フィアーゼは軽く息を吸った。

 そして、戻れない道に踏み出す。


「ミリシア皇国の騎士、マクミリアン・フィアーゼが大将の首、討ち取った!」


 ざわめきは、波紋のように広がった。その辺をぶらついていた男たちはいっせいにフィアーゼの方を振り向く。さらにそこかしこに張られた天幕からいくつもの顔がのぞく。どの顔にも浮かぶのは驚愕。

 当然だ、とフィアーゼは思った。拘束していた捕虜がその拘束を破り、しかも自分たちの隊長の首を持っているのだから。

 時が止まったように、オレス兵たちの動きが止まっている。今のうちになら逃げれそうだな、とフィアーゼは思ったが、足は動かさなかった。和人はオレス兵を全滅させると宣言したのだ。ここは逃げる場面ではないだろう。

 それに何より、フィアーゼ自身がこの場の空気に縫いとめられていた。この緊張は細く張りつめた糸だ。少しのきっかけ、刺激で容易く断ち切れる。

 その危うい緊張感を破ったのは、おそらくその場にいる誰にとっても意外な人物だった。


「――よっと」


 気の抜けるような声とともに、フィアーゼの背後の天幕から和人が出てきたのだ。しかも右手に偉丈夫の首のない死体を引きずって、である。

 和人は無造作に死体を放ると、先ほどとはまた違った意味あいで動きの止まった周りを見渡し、ニヤッと笑った。


「おや、みなさんお揃いで」


 糸が、切れた。


「――やっちまえ!」


 誰が叫んだかは明白ではないが、その叫びが呼び水となった。

 男たちが次々に抜剣する。鎧を脱いで明らかにくつろいでいたことが分かる者もいたが、さすがと言うべきか、誰もが剣を手元に持っているようだ。


「ど、どうするんだ……これ」


 叫ぶ気力もなく、フィアーゼは和人に尋ねる。奇襲するのだろうと思っていたが、これでは正面衝突だ。2対500。一人頭250人。計算するのも馬鹿らしい。

 和人はしかし、こんな状況でもまったく動じない。懐に手を突っ込むと、そこからあるものを引っ張り出す。真っ青な物体。Zだ。


「そ、そんなところに――」


 隠していたのか、と言おうとするフィアーゼの前で、和人はZを構える。

 そして、唐突に、言葉もなく。

 放つ。


「――ッ!!」


 射線上にいた男たちが、言葉もなく倒れる。Zから放たれる光の太さはせいぜい30センチと言ったところなので、人を丸ごとを飲み込むことは当然ない。しかし、もしそうであった場合、まるで人が消滅したように見えただろう。そう思わせるには十分だった。

 光が走り抜けた場所は、一切が消滅していた。

 天幕も武器も鎧も――人体も。

 勇ましい鬨の声とともにこちらに向かっていた男たちの足が、バラバラと止まる。自分たちの常識外の光景に、思わず目が釘付けになったのだろう。

 和人はそんな男たちの集団でも、人の密度の濃い場所めがけて次々とZを放つ。そのたびに、オレス軍は多大な被害を被っていく。


(そ、そうか……)


 フィアーゼは目の前の光景に呆然となると同時に、納得も覚えていた。

 Zは威力こそ強力だが、広範囲に攻撃できるものではない。さらに木崎や和人の話では、撃てる数に限りがあるのだという。

 だから、和人はフィアーゼを使い、敵を集中させることにしたのだろう。多数が少数を攻撃する際、どうしても人の密度は濃くなってしまう。

 さらに言うなら、ここは陣中だ。そこかしこに天幕が張られており、フィアーゼ達のもとに行くためのルートは、いくつかの道に絞られる。あとはそこにZを撃ちこむだけで、自動的に敵の密集地に撃ちこむ形になる。

 しかし、腐っても敵は500人もいるのである。いくらこの作戦が有効だとしても、限界と言うものがある。

 果たして――


「……チッ」


 和人は沈黙したZを腰のホルスターに収めると、今度は腰の刀に手をやった。


「敵は30人近くか……。結構残ったな」

「ど、どうする気だ」


 大体の予想はついていたが、フィアーゼはそう尋ねる。和人の返事は、予想にたがわぬものだった。


「斬り込む」

「無茶だろう!」


 いくら数を大幅に減らしたと言っても、まだこちらの15倍である。無謀もいいとこだ。しかも驚くべきことに、敵はすでに体勢を立て直しつつあった。

 和人は敵を見つめたまま、言った。


「なるべく俺が引き受けるけど、やっぱ全部はさすがに引き付けられないと思う。悪いけど、残った分はフィアにやってほしい」

「いや、無理でしょ!」


 自分の否定の声がほぼ反射的になっているのを自覚しつつも、フィアーゼは言った。


「あんたがあたしのことをどう思っているか知らないけど、そんなの無理でしょ!?あたしはこれでもまだ見習いなの!多対一の戦いなんて経験したことない!」


 口調が素に戻ったのにも構わず、フィアーゼが叫ぶ。だが、和人はそれに対して、ニヤッと笑った。


「お、そっちの口調の方がいいねぇ。これからはそっちで通してくれよ」

「な、何をこんな時に……」

「大丈夫」


 不意に、和人が真面目な顔でそう言った。


「大丈夫、俺はフィアを信頼してるから」

「――え……」

「んじゃ、頼んだわ」


 和人はそう言ってくるりと体をオレス軍の方に向けると、即座に駆けだす。突撃してくる和人に、オレス軍たちが群がるように集まっていく。

 和人を追いかけることがすでに不可能だと悟ったフィアーゼは、せめてもの意地で、その背中に叫んだ。


「あたしはあたしが信じれないっつーの!」


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