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割とどうでもいい世界で  作者: くまじ
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36 白か黒か

滝から帰ろうとした矢先に、滝壺付近の岩場にショウニ苔とその苔に寄生しているエウロ茸を見つけた、エウロは上級ポーションを作る素材のひとつで、ヌメリはあるが見た目はえのき茸っぽい、根を残せばまた生えてくるので干城と奈津希は見つけた半分程を目処に採取に勤しんだ。


「いきなりこがん素材が見つかるなんて」

「なんや宝くじに当たった気分ってこんな感じなんじゃろうか」

「分からん、オイ宝くじで高額当選した事なかけん」

「ウチもないわ、いうかそういう話?アンタ友達おらんかったんじゃろ?」

「友達?おったよ、10年以上会うてない、携帯に電話番号は登録しとったけど、通話もした事なか友達」

「それって人付き合いは職場の同僚ってだけで、定年したら年賀状もこんヤツじゃん」

「あの、虫歯の治療みたいに、ゴリゴリ抉るの止めて貰えます」

「何チワワみたいにうるうるした目をしとるん?」

取り敢えず採取は終わった。


「じゃあ、気を改めて行こか」

「ほうじゃね」

ゴリゴリ抉られた心の穴は神経を抜かれていたので痛くなかった、取り敢えず二人は軽快に走り出す。


山の麓付近で二人は歩き行商のように、荷を背負った数人の姿が目にはいる。


「何あれ?歩き行商?」

「にしても場所がおかしゅうない?」

「そうよね、ってあれエルマイヤさんじゃない?」

「ほんまじゃね」

……

「エルマイヤさん」

「タテキさんにナツキさんでしたね、先ほど振りです」

「歩き行商のような人を何人か見かけましたが、ここに何があるんですか?」

「………知らない方が良いですよ」

「どういう事ですか?私も2種商人なんですが」

「あなたが?だったら尚の事知らない方が良い、知れば命に関わります、今日見た事は忘れた方が身のためです」


「身のためですか、私達これでも国と正面から喧嘩して生きてますけど?王族や貴族程度では、私達の身を危険には晒せませんよ、それより危険な相手なんですか?」

「はっ?何を言って」

「ただの事実です」

エルマイヤは目の前の子供が冗談を言ってるようにも、ハッタリを言っているようにも見えなかった。


先程も川沿いに上流に走っていると平然と言った、道などない、嘘を言っているようには見えない、自然体なのに底知れなさを感じる子供だった。


「そうなんですか、ではこちらに」

…………

「ここなら人も通らないでしょう」

「随分草の背が高い所ですね」

「さっきの話ですが、あの先には盗賊マーケットがあります」

「盗賊マーケット?」

「そうです、闇商人はここに物資を持ち込む、この周辺の盗賊はここで物資を手に入れる。私達は盗賊と取引する所謂闇商人なんですよ」

「闇商人?なんで盗賊は商人から全てを奪う敵でしょう?」

「タテキさんのような真っ当な商人にとってはそのとおりです、私は真っ当な商人の裏切り者なんですよ」


「どういう事です、エルマイヤさんはあの村で儲けも怪しい商売をしていたじゃないですか」

「タテキさんは闇商人は盗賊相手に高値で物を売り盗品を安値で買い叩いて暴利を貪っていると思っているんですね」


「そうです、違うんですか?」

「そのとおりですよ、殆どの闇商人はタテキさんの想像どおりの、己の利益の為に商人を裏切った屑です」


「ではエルマイヤさんはなぜ」

「私の生まれもあの村のような限界集落でした」

「売り物になる素材はないかと探し回っていて、あの村を見つけました」

「最初は説得しました、村を出て新天地を求めよう、私には出来たと」

干城と奈津希は黙ってエルマイヤの話を聞いた


「ですが駄目でした、私が生まれ育った村は、もうありません」

「村を棄てる事は死ぬ事と同義なんですよ」

「村を棄てて死ぬなら、村と一緒に死のうとするのが限界集落の村人なんです」


それはさっき干城も感じた、隔絶された村の村人は、村の中が世界の全てで、外の世界との唯一の接点はエルマイヤさんだけ。エルマイヤさんの行商という接点で村は命脈を保っている。


「それならなぜ、エルマイヤさんは闇商人をやっているんですか?真っ当な商人では駄目なんですか?」

「なぜ、なぜですか、簡単ですよ、商売を続ける為には儲けを得なければいけない、領主からも商業ギルドからも見棄てられたあの村にまともに商売ができる程の購買力も、他にない特産品があるわけでもない、痩せた土地で育った、痩せた野菜しかない」


「ならどうやって商売を続ける資金を得るか、それが闇商人です、あの村の野菜や街で仕入れた酒や嗜好品や情報を盗賊マーケットで高値で売り捌き、それで得た資金で街で仕入れた生活物資をあの村でも買える安値で売るんですよ」

干城は漸く合点がいった、あの村で儲けにならない商売がなぜ続けられるのか。


干城はそれを知った事で岐路に立たされた、盗賊は見つけたら殲滅すると心に決めた、盗賊に物資が供給される限り盗賊は安穏と生きるだろう、盗賊の商品も盗賊マーケットで売買されるだろう。だが、盗賊マーケットと闇商人の存在で命脈を保っている村も存在する。


大を活かす為に小を切り捨てる、それも選択のひとつだろう。切り捨てる者にとっては小だ、だが切り捨てられる者にとってはそれが全部だ。自分はどうだ?自分達は召喚魔法によって前世の世界から切り離され、全てを失ってここへ連れてこられた、切り捨てられる苦渋も、絶望も、失ったものの大きさも知った。自分はどうするのが正解だ?


ポツリと奈津希が言った

「日本もこの世界も、白か黒かの二元論で割り切れる程単純じゃないって事じゃね」


そのとおりだと思った、じゃあ自分が選択するべきは?


「干城は難しゅう考えすぎじゃ、盗賊はシバく。シバいてシバいて、シバき倒して。マーケットで物を買うもんがおらんようにすればええんじゃ」


それは机上の空論だろう、貧困がある限り盗賊は雨後の筍のように湧いて出る、気持ちの持ち様としては、そう構えておけ、それが奈津希の答えだろう。


「エルマイヤさん、今日の事は忘れる事にします、ですが私達は盗賊を見逃せません、盗賊の商品などという理不尽が許せません」

「自分がこんな考えを持つとは思いませんでした、ですがエルマイヤさんを見て、世の中には必要悪という物が存在するんだと知りました」


「失礼します、エルマイヤさん、村の為にもお身体ご自愛下さい」

干城と奈津希は再びラエスタに向かって走り出す。


「もう直ぐ着くね」

「なんかお腹すいたわぁ」

「街で何か食べよう」


街の食堂[青の水面]に来た。

「なんでこの店選んだん?」

「表のメニューにレワード蒸しってあったけん、密かに食べてみたかったんよね」

「レワード蒸しって漁師料理やったっけ」

「そうそう、メルべ貝と白身魚をバターで味付けして蒸した料理やったっけ?」

「美味しそうじゃね」

イズナの塩焼き、レワード蒸し、黒パンを頼んだ。


「ぶち美味しいわぁ」

「魚介の味は漁師さんがよう知っとるね」


ラエスタは王都から比較的近い、いつか食べ歩きしようと考えるのも楽しかった。

































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