23 幸せな気分になる料理
「100リギル貯金の目標がいきなり1,000リギルって大金貨1枚の貯金ができちゃったね」
「まぁ、ええやん、これで当分運転資金の心配はなくなったんやから」
紅茶を一口飲み、溜め息ともつかない息を吐く干城
「それは良かとけどさ、なんて言うか、簡単に大金が稼げたのが良うないと思うとさ」
「なんとのく言いたい事は分かるけど、具体的には?」
「うん、つまりね、最初F依頼の収入に不安になって、蓋を開けたら何とかなって、ランクEでは周りと違う稼ぎに、これで良かとか?と考え」
「それでも、日本の労働環境なめんな、ちょっと目配りと気配りすればちゃんと稼げるんだって思ってた」
「色々恵まれたもんはあるけど、心構えとしてはそうじゃね」
「でもさ、今回のこれは流石に桁が凄くてさ、今までの下積みの苦労って何やったんやろう?って思ってしまったんだよ」
「ああ、つまり、宝くじが当たったって感じとは違うわけじゃね、ならいいんやないの?、冊子が要りそうな感じやなくて、寧ろ地に足がついとるし」
「そういうもんかな?」
「そういう話じゃろ?つまり干城はこれまでコツコツ積み上げてきたもんが、たった一回の達成報酬で全て否定されたような気になっとるんやない?」
「そう、なのかな?自分でも良う分からんくて言語化できとらんとさ」
「干城言うとったやん、戦闘の山も谷もないって、つまり楽した結果が寧ろ大金稼ぐ原因になって、その結果が自分がこれまで積み上げたもんを否定しとるんやないか?って思ってるんと違うん?」
「そう、なのかな?さっきも言ったとおり考えが纏ってなくて言語化できてないから」
「干城の話を聞いたウチはそう思もうたで?」
「自分の事は自分以外の方が客観的に見れるし、そうなんだろうな」
「干城は良うも悪うも考え過ぎや、もう少し気楽に構えたってええんやで?」
「そうかな?そうかも」
「そうやって、干城も今日は達成のお祝いでなんかお高い美味しいもの食べてもバチは当たらんやろ、パーッと稼いでパーッて使って、モソモソ働くってパターンは干城とは真逆やからな、美味しいもの食べて今後の話をすればええ」
「そう言えばこの街って安くて美味しいものが沢山あるから高くて美味しいものって知らんな」
「奈津希さんに任しとき、リサーチはしとるから案内したるわ」
「ほぼ一緒に行動してるよね?いつの間に…?」
夜になり訪れた店は立派な店構えだった、確かに見た目の格式は高そうに感じた、いつもの食堂ではなく高級料理店という感じだった。
「なるほどね、服は転生したときの服にしとけっていう訳だ」
「これが手持ちの中では一番生地がええけぇね」
案内された席は二人掛けにしては大きめなテーブルだった。
「いらっしゃいませ、本日はアルガス牛と季節の魚介コースとなっております」
「はい、それでよろしゅうお願いします」
「ワインは如何致しますか?」
「ワインはご遠慮しますわ」
「かしこまりました、それでは暫くお待ちください」
「コース料理なんてあるんだ」
「そうなんよ、聞いた時はへぇ〜って思うたわ」
白パンと水で薄めたワインが置かれ、暫く料理を待つ
「季節の温野菜とペリエ茸のマルグソースです」
蒸した後に焼き目を付けたアスパラにシメジのような茸をバター焼きしたものをかけ、ソースで彩りを付けた料理だった
「ちゃんと皿が温められてる!」
「ソースの味もええけど、アスパラ?はシャキシャキして、シメジもええ歯ごたえしとる」
「美味しいね」
「異世界のメシマズ設定は忘れるわ、安くても美味いもん多いし」
「エリコ貝の貝柱のバター焼きです」
皿には三つの貝柱と紫蘇の葉のような葉が添えてあった
「どんな貝やろうね、とういか、川で取れた貝なんだよね?帆立より貝柱大きゅうない?」
「異世界やからな地球とは常識違うから、アリやろというか、そう思うとこ」
「貝柱の歯応えがいい、硬すぎすサクサクした感じで」
「味もええで、噛むほど味がしよる、バターとの相性もバツグンや」
「ピグネルのスープです」
クルトンはないが見た感じはコーンスープのような感じだった
「カボチャのスープだ」
「カボチャの優しい甘さに、シナモンとは違うけど微かにそれっぽいアクセントがええね、この味作れるやろか?」
皿を残ったスープを付けた白パンも美味しかった
「ルダイグルのレプレーヌソース焼きです」
黒い皮の白身魚が薄いオレンジ色のソースに少し浸っている料理だった
「皮が柔らかい、身と一緒にすんなり切れる」
「多分身は一回蒸して脂を抜いて、片面は焼いて焼き目を付けて、もう片面はこのソースと一緒に焼いとるんじゃないかな、味がよう染みてるで」
「魚の味とも相性良いね」
「やね、すんごい手間かかっとるわ」
「レプネルの盛り合わせです」
一口大に切られ、飾り切りされたフルーツの盛り合わせだった
「口直しかな」
「甘いのや酸っぱいのが絶妙なバランスやね」
「酸っぱい果物、うっ頭が」
「こんな店でそんなヤバいもん出るわけないやろ、安心して味を楽しみや」
「アルガス牛のクリーム煮です」
300gステーキサイズなのだが、確かにクリームっぽいものに浸っている
「一度焼いて煮込んだのかな?肉が凄く柔らかい」
「チーズかなクリームの脂分と味が染みて、肉の味が更に良うなってる感じやろか?」
「良いねこのクリームの味」
「どうやってこの味だしてんかさっぱり分からん」
「残った白パンはこのクリームソースに付けて食べよっと」
「ウチもそうするわ」
「エメルトです」
デザートはショートケーキサイズの長方形のケーキと寒天のようなものだった
「こっちもケーキってあるんだね」
「脂っこい料理のあとに甘すぎない感じが丁度ええわ」
「この寒天っぽいのちょっと酸味があって舌が締められる」
「舌が甘ったるくならんようにしてるんやろね」
食後にゆったりと紅茶を飲んで、会計を済ませて店をあとにする、料金は一人12ネラ、銀貨1枚白銅貨2枚だった。
店のスタッフは、初め愛らしい子供が来店した時は驚いたが、とても落ち着いた雰囲気の二人で、マナー良く食事を進め、騒がしくもなく楽しそうに話し、美味しいと笑顔を見せ、ソースの味を楽しんでいる姿に、ホールのスタッフはホッコリと眺め、シェフは時折様子を見ては満足そうにしていた。
店を出た後
「安くても美味しい料理はあるけど、お高い料理は更に美味しいね、あれが貴族の食事かな?」
「美味しいもやけど食べたあと幸せな気分になるわ」
「そういやさ、宿取ってなかったわ」
「木賃宿暮らしやったからね」
「折角の幸せな気分で木賃宿には行きとうなかねぇ」
「どうするん?」
「そこの建物の間の路地から、バーチャルエリアに行こうか」
「その手があったわ!」
二人はバーチャルエリアの寝室で寝た、幸せそうな寝顔だった。




