16 ランクEの懐事情
あれから10日今日はシルヴァノ王の即位式の日だった、即位宣言(この国と周辺国は神の代理である教皇の承認ではない)の後に行われた祝賀のパーティでシルヴァノは晴やかな表情をしているが、心中は召喚者に言われた言葉が胸に刺さっていた、和解し友誼を結びたいと思っていた、それが全て自分達の都合と自己満足だと思い知らされた。
新王の誕生にこの国最大の人口13万人の巨大都市、王都ディタルスブレゲは祝賀の雰囲気だった、前王の治世では戦続きだった、その戦費を賄う為に税は上がり続けていた、それを止めたのが当時第二王子のシルヴァノと前宰相のグレカーレだった、戦を終息させ税を戻したところを、王により第二王子は幽閉され、グレカーレは宰相を罷免された、王の評判は堕ちる一方だった、戦に勝つ事で評価を上げる、必勝を期す為に勇者召喚を行なったのだ、王都の民だけでなく、この国の民は若きシルヴァノ王の治世に期待していた。
城へ呼び出された以降も二人は日々の糧を得る為に精力的に働いた、自分達が本来生きる世界ではない、その思いはあっても自殺願望があるわけではない、現実として生きる為には食わなければならない、食う為には働かなければならない、日々得る報酬も多少は貯蓄に回せる、まだ木賃宿暮らしは続いているが目標の半分、銀貨5枚は貯金ができた。
日々の依頼でそれなりに魔物と遭遇し魔法を使い、短剣で斬っていった、武防具も自分でできる程度の手入れはしていたが、元々が安物である為二人は武器と防具を買った鍛冶工房店へメンテナンスに持ち込んだ。
「こんにちは、道具のメンテナンスをお願いします」
「おう、坊主と嬢ちゃん、確かタテキとナツキだったか?」
「はい、そうです」
「そう言えば言ってなかったな、俺はこの店ログナー鍛冶工房店の店主でデルムト・ログナーだ」
「はい、ログナーさんよろしくお願いします」
「ログナーさん、よろしゅうね」
「それでメンテだって、道具を見せてみろ」
二人は腰の短剣をカウンターの上に置き、収納魔法から防具を取り出してカウンターの上に置いた
「二人ともその歳で収納魔法が使えるのか、それで、防具は特に問題ないな、短剣は……」
「二人ともこの短剣でどのくらい魔物を斬った?」
「ゴブリンは40程、フォレストドッグとコボルトは20づつくらいでしょうか?」
「そんなもんくらいやね」
「そうか、手入れもされてるし、それなりに使った跡もある、刃の切れ味は落ちてるが、刃毀れも歪みもない、これなら研ぐくらいでいい」
「ふたりともいい腕してるな、1時間くらい待ってろ、それくらいで終わる」
「では、その間食事に行ってきていいですか?」
「ああ、構わねぇぞ」
「はい、ではお願いします」
二人は店をあとにし、向かいの食堂夜明け亭に来た
「フリーランサー相手の食堂ってどんなメニューだろうね」
「取り敢えずメニュー見てみよ」
メニューには平民の安い定番飯ニスニラより安い6リギルのボアの臓物煮があったので二人ともそれを頼んだ、出てきた料理は黒パンとボアの腸と少しの野菜を煮込んだ濃いソースの味付けのものだった、生臭さもなくちゃんと処理してあるんだと思った。
「結構美味しい、生臭さもない」
「この値段でこの味が出せるんじゃね」
「それに良く煮込んであると思うよ、肉が柔らかい」
「や、これどう考えても原価とトントンじゃろ?」
他に客のいない時間帯、話が聞こえた店主が二人が食べ終わった頃に二人の元にやってくる
お前さん達は他の奴らと着眼点が違うな?
「ご馳走になってます、干城と言います」
「奈津希です、よろしゅう」
「お前さん達が今噂のタテキとナツキか、俺はこの夜明け亭の店主でデコーズ・ナトラクだ」
「それで着眼点が違うとはなんでしょう?」
「お前さん達はランクEなんだろ、ランクEやFの奴らは味や調理法より安くて腹に溜まるものに目が行くのさ、しかも原価だって?そりゃフリーランサーじゃなく商人の視点だ、それをその歳で?なるほど噂になる訳だ」
「あのぅ、噂ってウチらどんなん言われてんですか?」
「礼儀正しく、一度見たら忘れない可愛い子供で、話せば年寄りのようなチグハグさを感じる子ってのがだいたいだな」
「そうなんですね…それより、このメニュー実際儲けはないんじゃないですか?」
「まあな、だがパンは自前で焼いてるし、臓物もギルドの解体課と契約してタダ同然で仕入れているから赤字にはなってないぞ」
「商売としてそれは良いんでしょうか?」
「そうだな、商人や商売人としてはダメだろうな、だが俺は料理人だ、この店を維持して食っていけるくらいの儲けは出してる、あとはこの辺で商売する料理人として、自分の腕でできるフリーランサーへの応援がこれなのさ」
「そう言えば、お向かいのログナーさんも同じような事を言うとらしたね」
「ここら辺で商売してる奴はみんな同じだと思うぞ」
「私達は皆さんに支えられてるんですね」
「そりゃあお互い様だと思うぞ」
料金を支払い、ごちそうさまでしたと二人は店をあとにし、向かいのログナー鍛冶工房店へ向かう、もう暫くかかるようで二人は並んでいる武器を眺めていた。
「二人とも研ぎ終わったぞ」
「ありがとうございます、料金は幾らてすか?」
「あのくらいなら料金は要らんぞ」
「ダメですよ、腕を安売りしては、幾らかでも取って下さい」
「そう言われるとな、じゃあ二つで5リギルだ」
「安くないですか?」
「十分さ、これでエールを一杯飲ませて貰うさ」
「そういう事でしたら、はい、5リギルです」
「ああ、毎度、だがなランクEって言えばもっとカツカツなもんなんだがな」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだろう、ランクEの報酬をパーティで割れば、ランクF並か下手すりゃ以下になる、それで武器のメンテだ防具の修理だなんて出費してたら、いよいよ手元に金は残らない」
「だからランクFはギルドに試されてる、ランクEはフリーランサーとして試されてるとか言われている、そこを乗り越えてランクDになったらやっと生活が安定しだすと言われている」
「お前さん達は本当に例外なんだからな」
「そうなんですね、それは確かに考えてみるとそうかも知れませんね」
「ウチらソロで受けるか、パーティでも二人じゃから実入りは良いかもね、前にソフィアさんもそう言っとったし」
「それだったら、他の奴らより早く昇級もするだろう、達成ポイントは他の奴らより倍かそれ以上の早さで貯まっていくだろうからな、そうなったらお前さん達も気を付けろよ」
「どういう事でしょう?」
「やっかまれるって事さ、直接的な何かをされるわけじゃないだろうがな」
「ああ、そういう事ですか、はい、気をつけます」
「ほいだら、そろそろ帰ろか?」
「そうだね、ログナーさんありがとうございました」
「ログナーさん、ありがとうございました」
二人は店を出て、自分達ってやっぱりチートに恵まれてるんだと思った。




