15 初めて気付いたこの世界の景色
翌日城から発表があった、王と王太子が北のエルベシャ山脈の麓で狩猟会を開催した、そこへワイバーンの群れが飛来し、参加していた宰相他数十名の貴族と護衛についた大勢の騎士が巻き込まれ多数の犠牲者が出たと、王と王太子の死亡が確認され三日後に王と王太子の葬儀を執り行い、十日後にシルヴァノ王子が新王として即位式を行う。宰相は即日グレカーレ・ヴァン・エルナート侯爵が担い王の補佐を行う。
干城は大勢死んだからなぁと他人事のように考え、奈津希は結構無理押しな理由に思えるけど、この世界じゃあんなものでええんかいね?と他人事のように考えてた、二人にとっては心の底からどうでもいい事であった。
ギルドに到着した二人はソフィアに案内され、ギルドマスターの執務室へ通された、部屋にはギルドマスターともう一人短い茶髪の中年男がいて、ギルドマネージャーのアウダーレ・ルドガーだと名乗り、二人は昨日の城での遣り取りの概略と結論を話した。
アウダーレは笑いが止まらないという感じだった。
「やるじゃねぇか、次期王はまだ良く知らんがあの宰相をヘコますとはな」
「あれで良かったのか考え直すと次期王と宰相は関係者ではあっても当事者ではありません、当事者はあの場で私が殺しましたから、私がやった事はただの見苦しい八つ当たりです」
「お前さんの言う事はなるほどそのとおりだ、だがな異世界からこの国に呼び出されると言う理不尽を身に受けたのも事実だ」
「召喚された事への怒りはあります、ですが昨日あの場でどうするべきが正解だったのか、思い直す程分からなくなります」
「人生は後悔の繰り返しだ、過ぎた事を悔やむより昨日の結果をどう活かすか考える方が良いだろう」
「昨日の結果ですか、正直どうでも良くはあります何も期待はしてませんし、気になっているのは、八つ当たりした事ですから」
「はっはっはっ、随分達観した子供とは思えん思考だな」
「こんなナリですが中味は57歳と55歳ですよ?」
「そうだったな、実際特権で腐った爺どもより余程理性的で合理的だ」
「だがな、人はお前さん達の見た目で先ずは判断する、余り心配は要らんと思うが気をつけろよ」
二人は一礼して執務室を退出する。
隣街のラエスタまで運び物の依頼があったのでそれを受け、どんな街なのか見に行こうとなった。
「ソフィアさん、この依頼を受注します」
「はい、こちらですね……ギルドで用意した馬車での荷運びになりますが、馬車を操った事はありますか?」
「馭者はやった事ありませんが、荷馬車三台分程度でしたら収納できます」
「それでしたら収納して頂いて、馬車ではなく馬で走って貰った方が早くなりそうですね」
「馬も乗った事ないですね、今日は身体強化で走って行きます」
「分かりました、荷馬車はギルド横に待機しています、荷物を受け取って出発して下さい、報酬はラエスタ支部でお受け取りできます」
「はい、ラエスタ見物も兼ねて行ってきます」
「そうですね、ラエスタは大きな川、レワード川沿いの街で漁業が盛んな場所でもあります」
「そうなんですね、楽しみです、行ってきます」
「ソフィアさん、行ってくるわ」
荷馬車の荷物を空間収納に移し替え、街門を出てラエスタに向けて走り出す、5km15分前後、陸上のアスリート程のペースで走る、馬よりは遅いが馬車よりは速いそんなペースだった。
緩やかな坂を登り、小山か丘の頂上から眼下に大きな川があり、その川沿いに結構大きな街がある、人口5万人の街ワグネラ伯爵が治める街ラエスタだ、街の中には居城も見え、レワード川の向こうにも街道が見える船で渡るのだろう、川には小さな船が何艘も見えた。
街の前に到着した、概ね1時間くらい、ラエスタまでは20kmくらいというところか、身体強化のお陰でペースも維持できた、街門でギルドカードを見せて街に入り、届け先の商会に荷物を下ろして、ギルドで報酬の3レラを受け取り、それを二人で折半してラエスタ見物に出た、先ずは市場に行く事にした。
「川って言っても色んな魚が取れるんやね」
「タスカ村でご馳走になったヤマメサイズから鮭くらいの大きさもいるね」
奈津希は店の奥に小山になった小魚を見つけた
「すみません、奥の小魚って売り物なん?」
それには店のオバちゃんが応じてくれた
「アレかい?あれは売り物というより畑の肥料にしてるやつだよ」
「あれ、売って貰えますやろか?」
「アレをかい?小さくて食いでのない魚だよ」
「構いません、幾らでしょうか?」
「値を考えた事もないよ、1リギルでいいよ」
「さよですか、この魚なんて名前なんです?」
「はい、毎度、名前はギスタだよ」
「ギスタって言うんですね、ありがとうございます」
「この魚どうするの?佃煮にしようにも醤油ないけど」
「試してみんと分からんけど、煮干しにできんかな?って思ったんよ」
「ああ、煮干し、できたら出汁取りに使えるね」
それからも市場を見て回り魚や野菜、ディア肉などを買っていった、後でインベントリに移し替えれば保存状態の心配は要らない、魚は柵にするか三枚におろすかの仕込みをしてもいい、骨や頭も使いようはある。
食事は屋台広場へ行った、イズナという魚の串焼き、ムール貝似のメルべ貝を白身魚とバターで蒸したレワード蒸しという漁師料理、ディア肉と野菜のスープ、産地だけあって魚介が安くて美味しい。
すっかり満足して街を歩いて回った、そういえばこの世界は下水が整備されているのか、王都もそうだが異臭がしない、馬が多いが馬糞は小まめに回収されている、前世中世ヨーロッパは街の中でも馬糞の臭いがしていたと何かで読んだ気がする。
街の中を見て回って店の商品などから物価は王都と然程変わらないようだ街も整然としていて、活気があり、治安も悪くなさそう、軽く見ただけで分かるわけでもないが、印象としてはそんな感じだった。
街門を出て川を渡る桟橋付近にきた、この街は川沿いに外壁が作られ川に接する一面を水堀として利用している、近くには漁船の係留場所もある、川上側から防波堤のように工事をして係留した船が川の流れに影響されないようになっている。
川向こうへ渡る渡し船の桟橋近くの川沿いにベンチがある公園のような場所が整備されていたので一休みする、川を眺めながら川幅は200mくらいありそうだ、川の向こうには高い山が見える。
「いい街そうだね来て良かった」
「そうじゃね、魚介が多くて安いのは魅力じゃねぇ」
「まぁ、お互い57歳と55歳、歳柄肉よりは魚だよね」
「今は若いやん」
「身体が肉を求めていても、頭と心が魚を求めとるんよ」
「爺臭いガキじゃね」
「チンチクリンはお互い様でやろ?」
「チンチクリンは抜け出しとると思うけど、まぁそうじゃね」
…………
「もう少しこの景色を目に焼き付けてから、帰ろうか」
「じゃあ、帰りはゆっくり走って帰ろか」
活気のある街、緩やかな流れの大きな川、川の向こうに見える山、これまで意識していなかったこの世界の景色は美しく見えた。




