14 勇者召喚の代償と危うさ
いつもの少し遅めのギルド到着で、ソフィアさんからギルドマスターが呼んでいると言われ執務室に案内された。
「来たか、宰相が君達を呼んでいるらしい、9時の鐘が鳴る頃に迎えの馬車を向かわせると連絡が来た」
「昨日礼儀知らずの騎士を追い返したら、今日はギルドマスターを伝言係りに使った訳ですか」
もう少しマシな奴とは思うたが気に入らんやり方やな
「君達が行きたくないと言うならこちらで対応するが」
「いえ、行きますよ、断っても何度でも呼び出すのが明白ですし、ギルドマスターにそんなお手間を取らせる訳にもまいりません」
「そうか、だが今の宰相は前王のように筋が通らない事を言う人物でもない」
筋が通らんね、その筋がオイ達と同じ価値観とは限らん訳やけど
「分かりました、下の食堂で迎えを待ってます」
干城と奈津希は一礼して執務室を退室し、ギルドの食堂でお茶を飲んで迎えを待つ事にした。
「早速来たわね、昨日の今日で」
「連日の呼び出しって何を焦っとるんやろうね」
「分からんわ、なんかウチらには及びもつかん事なんかもね」
「だよな〜、人の迷惑も考えろって言いたかよ、こっちとしてはどうでもいい迷惑な連中なんだから、もう関わってこんけりゃいいのに」
二人が愚痴っていると、ギルドの前に質素な箱馬車が止まった、どうやら迎えが着いたらしい、二人は馬車に向かった。
干城は馭者に尋ねる
「城の迎えですか?」
「そうだ、お前達が召喚者か?」
「そうですよ」
「では馬車に乗れ、城に向かう」
二人を乗せた馬車は城に向って進み出す、城に着き通された部屋は豪華だが華美ではなく落ち着いた雰囲気の部屋だった、部屋の中には二人の男が居た、一人はあの時城で生き残った貴族で一番偉そうに見えた濃い茶髪で白いモミアゲの意志の強そうな中年の貴族、もう一人は20代前半に見える若い男だ。
「良く来てくれた、人払いはしている、あの時会って以来だな、私は宰相のグレカーレ・ヴァン・エルナートだ」
「私はこのユグリダ王国の次期国王シルヴァノ・ゼノ・ベルギュートだ」
「座ってくれ、今日は君達と話し合う為に来て貰った」
「宰相様、昨日私共に接触した騎士に、人を呼び出すなら、先に相手の都合を確認するのが常識だと伝えたのですが、その報告はございませんでしたか?」
「いや、その報告は受けていない」
「そうですか、では結構です」
先にシルヴァノ殿下が口を開いた
「二人には我が父が大変申し訳ない事をした、今回の事深く謝罪させて欲しい」
シルヴァノ殿下が謝罪を口にしたあと宰相が話始めた
「今日は君達に賠償として私達は何をすれば良いか話をしたい、領地や地位や財産が必要ならそれも用意しよう」
この言葉は干城と奈津希の心を酷く逆撫でた、干城は落ち着いて対処しようと浅く深呼吸した、奈津希は全てを諦めたように表情が抜け落ちた。
「本題の前にひとつ確認させて下さい、私共はなぜこの世界に拐われたのでしょうか?」
その言葉に宰相は苦虫を噛み潰したような顔をして答えた
「小康状態であったカペリノとの戦を再開させ、その戦力として勇者召喚を行った」
「そうですか、分かりました。さて賠償ですか、あの時宰相の貴方はあの場にいらして、覚えていらっしゃますか、私は賠償金などと理由を付けて金を貰えば、後で何を要求されるか分からない、理由を付けて接触するなと言いましたが」
「接触については申し訳なく思う、では爵位や領地ではどうだ?」
「爵位や領地が賠償ですか?そんなものは私共をこの国に縛り付ける鎖にしかならないでしょう?私共にとっては何の価値もありません」
「では何を望む」
「私共が望む賠償は元の世界に戻す事です」
「それは出来ん、送還の魔法はない」
干城も奈津希も戻れない事は分かっていた、全てを諦めていた、それでも言わずにはいられなかった。
「では、言わせて頂きますが…」
「ある日突然、こんな遅れた文明の、野蛮人の世界に呼び出され、前世の人生で築き上げたものも、生きる世界そのものも奪われた、それが自分が生きるべき世界でもないこの国の、爵位や領地如きで釣り合うと貴方がたは言うんですか?元の世界に戻す以外に何を賠償に要求しろと言うんですか?戻す事ができないのなら、もう何があろうと私共に関わらないで頂きたい」
干城は頭では冷静に務めようとした、だが心が冷静ではいられなかった。
「私達は貴方達と生きた国が違うどころか、世界そのものが違う、常識も価値観も行動原理も違う、貴方達の価値観と自己満足をこちらに押し付けるな!」
「財産が必要なら用意する?だったら今、ここに私達二人が前世で生きた年数、112年分の国家予算を用意しろ!」
「できるか?……できないだろう?そんな不条理」
シルヴァノも宰相グレカーレも、この時漸く自分達の失態に気付いた、交渉が始まる前タテキは彼らの常識に触れた、ナツキは賠償の言葉に表情を失った、希望も期待も興味も、ここになんの用もないというように。
自分達はこの国の貴族の常識で考えたのだと、相手はただの平民ではない、召喚した異世界人、干城が言ったとおり常識も価値観も違うのだ、そして召喚で奪ったものは人生そのもの、そして生きる世界そのものだ。
そして干城が言った前世二人が生きた年数112年分の国家予算、そんな理不尽な要求に応えられる訳がない。お前達は自分達にそれだけの理不尽を押し付けたのだと干城が突きつけている。
天使の様な可愛らしい姿の奈津希は感情を感じさせない表情とヘイゼルの瞳で静かにシルヴァノとグレカーレを見ていた。
シルヴァノもグレカーレもひと言の反論もできなかった、干城の怒りと奈津希の絶望、自分達が考えた賠償など二人には黒パン一つ程の価値もないのだと、この国になんの価値も見出していない相手に、自分達の価値観では交渉のカードなど無いと気付かされた。
「あの時、私は貴方に言った、今後も関わるなら敵対したと見做して殺すと」
「確かに聞いた」
「ではシルヴァノ殿下、賠償は今後この国は私共に一切関わらないという事でいいですね」
「分かった、私が即位したら、貴族と騎士に召喚者には一切関わるなと勅令を出そう」
「ありがとうございます、ひとつ確認させて頂きます、私共にとっては、この国やこの国の貴族や騎士に何の価値も興味もございません」
「ですがもし、貴族や騎士が私共に手を伸ばして来た場合は、持てる全力で反撃させて頂きます、その際の反撃によってその貴族や騎士が命を落とそうとも、この国は私共には一切関わらないという認識でよろしいですね?」
「それとその勅令の写しを頂きとうございます、私共も貴方達を完全に信用したわけではございませんので」
「それも承知した、召喚者に反撃されても国は一切関与しないと併せて勅令を出し、勅令の写しを諸君にも渡そう」
「ありがとうございます、では私共は退席させて頂いてよろしいでしょうか?」
「話し合うべき事は話し合った、今日はわざわざ呼び出しに応えて貰って感謝する」
それまで言葉を発しなかった奈津希が言った
「それでは御前失礼させて頂きます、御機嫌よう」
干城と奈津希は端正な一礼をして退室した
部屋に残ったシルヴァノとグレカーレは薄ら寒いものを感じていた、二人の召喚者に賠償として渡したもの、それは二人に手を出した者への反撃に対する、国として一切の不干渉という実質的には殺人許可だった。
シルヴァノは、この国では今後二度と勇者召喚を行なってはならないと法を制定しようと決めた、召喚した勇者と友誼が結べなければ、それは自らの首に当てられた剣になる、彼らは自分達とは常識も価値観も違うのだから。




