決戦アビスドラグーンVSブラックアビス
バイオ研究所を破壊して数日後。謎の龍ことアビスドラグーンが、連合の軍事コロニーにつくまで見守る。今のところ戦闘もなく、穏やかに進んでいた。俺たちは自室で飲み食いしながら観戦するだけだ。
「早くつかないかなー」
「オーナー、エゴサンクチュアリの次元転移ゲートを使えばすぐですが」
「却下だ。俺たちの技術は秘匿する」
「了解。観測に戻ります」
とはいえ暇なのは事実。ベッドでごろごろするのをやめて、何か暇潰しがしたい。
「ひーまーでーすー。遊んでくださーい」
「リリー、ごろごろしながらわがまま言わないの」
「なんかゲームしましょうよ。人狼っていうやつ動画で見ました」
「3人でできるもんじゃねえだろ。しかもルール知らんぞ」
なんか全員知らんらしい。成立してないじゃないか。
「最初に狼が誰か食べるらしいです。じゃあハヤテ様を食べちゃうぞー」
リリーがくっついてくる。覆いかぶさってくるのでひっぺがそう。
「で、なんでしたっけ? 誰が狼か投票するとかなんとか」
「私がリリーに投票すればいいのかしら?」
「ハヤテ様は食べられちゃったので、わたしがシオンに投票するんですね!」
「同数の場合どうなるんだ?」
「そもそも2人だけの時点で詰みなのでは?」
ぐっだぐだである。暇だしこんな感じで適当に過ごそうと思ったところ、ロッドから通信が入る。映像にはカイニスもいる。ドラグーンに2人乗りしているようだな。複座とかあったのか。
『そろそろそちらの言っていたコロニーに到着する。ここまでの協力に感謝を』
「気にするな。好きに始めてくれ」
『今でも悪い夢なのかと思うよ。我々が数年かかっても見つからなかったミザリアが、こんなに簡単に見つかるとは』
ロッドは複雑な表情だ。自分たちの努力が実ったというわけじゃないからな。そういやこいつら何年も何してたんだ。
「謎の龍が出たのはここ最近と聞くが?」
『研究所から逃げて、今の拠点に流れ着き、潜伏してドラグーンを改良していたら、いつの間にか月日が経っていた。関連コロニーを襲い、データを抽出していくのにも、もっと長い期間が必要だっただろう』
『そちらのやり方は力技過ぎて少し引いたが、結果的には正しかったわけだな』
カイニスが微笑む。決戦に向けて緊張しているわけではなさそうだ。変なミスしないように祈っておいてやろう。
「半径500kmにビームフィールド展開。敵コロニー、通信不可です。援軍が送られることはありません」
俺はソファーに座り、リリーはお菓子の準備をし、シオンが紅茶をいれ始める。鑑賞の準備万端だ。
「よし、始めてくれ。あのコロニー全域に通信を通してやる」
『聞こえているか、ドクターミザリア! アビスドラグーンの実験により受けた苦しみ、ドクターロッドとその息子カイニスが今晴らす!』
堂々と宣言してコロニーへ接近。すると警備のバトルフレーム隊が気づいた。だがドラグーンへ銃を向ける前に、雷で一掃される。火力と反応速度が上がっているな。改良案は採用されたみたいだ。
『敵襲! あの龍を落とせ!』
バトルフレームは、遠距離タイプの中に少量の近接タイプが混ざっている。特別な機体はいない。まず龍の敵ではないだろう。
『やってみるがいい! 貴様らなんぞに負けるものか!』
「始まりましたわね」
「がんばれー!」
ドラグーンの胴体が20個に別れて飛び回る。雷を放ち、身に纏って突進するだけで、防御できない機体は焼け焦げて爆発していく。
『うわああ!?』
『ちくしょう! やってやるぞ化物め!』
敵のミサイルは直撃することなく、すべて雷で誘爆して消えていく。マシンガンも塗装を剥がすくらいの効果しかない。
『ミザリアの研究に味方する連合など、すべて消えてしまえ!』
『復讐の雷を受けろ! サンダースピンアタック!』
ボディが雷を纏って高速回転し、飛び回る。バトルフレームの胴体をちぎり、腕をもぎ取り、一瞬で丸焦げにしていく。宇宙空間に火花とゴミが増え続けていくが、それよりも敵のおかわりが多い。
『ぐわあああああ!?』
『増援を頼む! 急いでくれ!』
力量差がはっきりしたのだろう。散開してちまちま攻撃しながら援軍を待つ作戦らしい。小賢しい連中だ。
「現時点での敵戦力数150。まだ増えます」
「多スギイ! 減らしましょうよー」
「ノイジー、半分以下まで減らせ」
「了解。ホーミングビーム砲、180門発射」
大量のビームが線となり束となり、箒のように枝分かれして敵のコックピットを貫いていく。どう逃げようが確実に1発1機殺していった。確か運命とか結果に干渉して命中率上げているとかなんとか聞いたな。まあ避けられない。これで一気に半分以下まで減った。30%くらいまで減少した敵は、何が起こったのかわからずに硬直している。
「今のうちに数を減らしちまいな」
『あ、ああ。今のは君たちが?』
「あなたがたは気にしなくていいのですわ」
「こっちはこっちで好きにやるよ。ミザリアだけは殺させてやるから安心しろ」
紅茶飲みながらのんびりやらせてもらうさ。通信にひらひらと手を振り、ソファーに深く座る。カイニスは納得したのか、現状を受け入れて素早く行動し始める。
『感謝する。いくぞ!』
龍の胴体がいくつかコロニーに取り憑いて、エネルギーを吸収し始める。それを引き剥がそうにも、残った胴体の攻撃で敵は撃墜されていく。周辺中域に残骸が多くなってきた。
『よくもやってくれたなロッド』
中年くらいの女の声がした。同時にコロニーから巨大な龍が出てくる。黒い龍だ。アビスドラグーンによく似ているが、さらにでかい。
『やはり研究は続けておったか、ミザリア』
『裏切り者のロッド、カイニス、いまさら出てきて何の用だい? わざわざ殺されに来たのか?』
挑発の混ざった声で語りかけている。ロッドとカイニスは怒りをあらわにして話し始めた。
『黙れ! 元はと言えば、貴様がカイニスを実験に使った裏切り者であろうが!』
『連合の研究に協力するのが務めだろう? 強く改造してやったんだ。ありがたく思いな』
『恨みは忘れていない! ここで決着をつけるぞ!』
カイニスの怒声と同時に、アビスドラグーンの胴体が一気に収束した。20個に分かれていたボディが高速で合体し、巨大な黒い龍の前に堂々と立ちはだかる。
『小癪な。旧型でブラックアビスに勝てるものか!』
ミザリアの操縦する黒い龍が咆哮を上げた。全長はアビスドラグーンより一回り大きく、黒い装甲に赤いラインが脈打っている。ほぼ同じ設計思想で作られた機体だろう。性能差は最新型に分があるかもしれない。両龍が同時に加速した。
『さっさと消えな!』
『サンダーブラスター!』
口から放たれた極太の雷ビームが正面で激突する。青白い光と黒紫色の光がぶつかり合い、衝撃波が宙域を震わせた。お互いに一歩も譲らず、ビームの押し合いが数秒続く。
『なんだって!? 旧型にこれほどのパワーはないはず!』
『改良しておいて正解だったのう』
『ああ、彼らには感謝しかない』
俺たちの与えた改良案は、完璧に実装されていた。おかげて力負けしていないし、スピードで撹乱されることもないようだ。そうでなければつまらん。
『ちっ、いい気になるんじゃないよ!』
ミザリアが舌打ちし、アビスドラグーンを横に翻す。黒い龍も即座に追従し、両者が高速で宙を舞い始めた。胴体を鞭のようにしならせ、尾で薙ぎ払い合う。装甲が削れ、火花が飛び散る。
『こちらは実戦で腕を磨いてきたんだ! 簡単に落とせると思うなよ!』
『甘いよロッド! お前の技術はもう古い! こちらは完全に強化されたパイロットを乗せている。機体とパイロットの性能差で死んでいけ!』
ブラックアビスが胴体を三つに分裂させ、三方向から同時に雷を放つ。
『父さん、合体解除だ。雷撃出力アップ』
『任せろ』
アビスドラグーンも即座に四つに分かれ、雷の網で迎撃した。交差する無数の雷光が、まるで光の檻のように宙域を埋め尽くす。
「互角っぽいですねぇ」
「ミザリアは研究者であってパイロットではないはずですわ。なぜここまで食らいついてこれるのでしょうか?」
「内部に複数のパイロットが繋がれている模様。生体部品としても使っているのでしょう。素人のミザリアでも指示を出せばいいように簡略化されています」
「なるほど、なら技量の差で覆すしかないな」
両者が再び正面から激突した。龍の胴体同士がぶつかり合う。雷が炸裂するたびに、周辺の残骸が蒸発していく。ほぼ同じ性能。同じ技術の延長線上にある。ならば勝負を決めるのは何なのか。そこを見せてくれ。
『フフフフフ、旧型の実験体ごときが、いつまでもつかな』
『お前を倒すまで、オレは生きる! サンダースラッシュ!』
カイニスが叫ぶと、アビスドラグーンの複数の胴体が刃のように変形し、黒龍の側面を切り裂いた。しかし黒龍も即座に反応し、同じように胴体を刃に変えて応酬する。互角の斬撃が交錯し、装甲が互いにはがれ落ちていく。
『チッ……同じ技を返されるだと!?』
『お前の研究に深くかかわっていたからこそ、私にはその進化も想像がつく。自分だけが天才だと思うな!』
『ほざけ!』
ミザリアが舌打ちする。黒龍が急旋回し、尾を鞭のように振り下ろす。アビスドラグーンはそれを胴体で受け止め、そのまま回転しながら黒龍を巻き込み、激しい放電を流し込んだ。
『喰らえ! サンダードレイン!』
『しゃらくさいんだよ!』
コロニーに行うのと同じようにエネルギーを吸収しようとするが、黒龍も同じシステムを搭載しているらしく、互いにエネルギーを奪い合う泥沼の攻防が始まる。どちらも決定打を欠き、ただ激しくぶつかり合い、雷を放ち、離れ、また衝突を繰り返す。ほぼ同じ性能。それが決定打を欠けさせていた。戦闘はまだ続く。




