ドクターロッドとカイニス
廃コロニーに隠された研究所で、龍について詳しく聞こう。
「もう一度言う。私の名はネオ。謎の龍に惹かれしものだ」
カイニスが銃口を俺に向けたまま、低く威嚇する。
「止まれ! ネオだかなんだか知らんが、動けば撃つ!」
カイニスは若いな。まだ20代だろう。横の科学者は50代くらいか。どちらも俺を睨んだままだ。こちらを冷静に観察している。どちらも油断のない目つきだった。
「ご自由に。こちらに敵対の意思はない。純粋な興味でここにいる」
やはり警戒はするよな。しないやつはアホだし、こればかりはしょうがない。なんとか面白い話を聞きたいところだ。俺は両手を軽く広げて、敵意がないことを示しつつ、会話を続ける。
「お前は連合の追っ手じゃないのか?」
「連合でも同盟でもない。あくまで個人だ。どこの組織でもない」
「そんなやつがどうやってここを突き止めた?」
「逃げ帰った龍を尾行しただけだ」
「ありえん。センサーには何も映っていなかった」
「お前たちの技術で作ったセンサーだろう。欺けるほど技術が高ければ問題ない」
完全に信じていないな。まあ無理もない。こちらの持つ情報を小出しにして引っ掛けてみるか。
「そちらの若者。カイニスと呼ばれていたな?」
「なっ!? どこでそれを!」
「通信を傍受したのか? どうやって?」
「すべて技術力の差だと思っていただこう。さあ話せ。この龍は何だ? なぜコロニーを襲う?」
何も答えてくれない。これほど面白そうなネタなのだ、ちゃんと本人から聞きたいところだが。
「部外者に教えるようなことではない。立ち去れ」
ロッドが冷たく言い放つ。
「ここまで来て帰るわけがないだろう。直接聞かせて欲しい。なぜコロニーを襲う」
「くどい! オレたちの復讐の邪魔をするな!」
カイニスが声を荒げた。
「話せば手助けできるかもしれんぞ。龍のスペックをあげるか、復讐相手のいる場所を探るか、私ならそれができる」
「ありえん!」
『ネオ様ー、端末侵入完了ですよー。画像そっち送りますね』
リリーから通信が来た。基地内部をドローンで探索させていたが、メイン端末にアクセスできたのだろう。ホログラムにより、龍の設計図やロッドの日記が出てくる。
「なるほど、ドクターロッド。かつては地球連合の技術者として、アビスドラグーンの開発にかかわる。だが非人道的な研究実験に反対し、連合と縁を切ろうとする。人質として、パイロットでもあった息子のカイニスを奪われる、と」
「メイン端末にアクセスしたのか!? 隔離してあるはずだぞ!?」
「ちっ、生かして返すわけにはいかない!」
カイニスの撃った弾丸は、ビームバリアで止められる。
「余裕の正体はそれか!」
「お前には驚かされてばかりだな。我々に逃げ道はないか。聞きたければ聞かせてやるさ」
ロッドの顔には諦めの色が濃い。カイニスは困惑しているようだが、とにかく話が聞ければいいや。俺は適当な機材に腰掛けて、話し始めるのを待つ。
「父さん、いいのか?」
「どのみちアクセスを許してしまった。変わらんよ」
ロッドは深く息を吐き、語り始めた。
「そうだ、お前の言うとおりだ。カイニスは人質となり、私の知らぬところで実験に参加させられていた。結果、人体実験の被害者であり適合者になった。私がそれを知ったのは、ドラグーンが完成したあとだった」
「オレと父さんはドラグーンを奪って逃げた。それからはこんな目に合わせた連合に復讐するために動いている」
「連合以外の中立コロニーなんかも襲う理由は?」
「連合に協力していたり、実験を指揮していた連中の隠れ家になっていたからだ」
なるほどな。だいたいのことは理解できた。ついでにドラグーンについて説明してもらった。
「コロニー同盟のスーパーロボットを殺すための機体、アビスドラグーン。コロニーに取り憑いてエネルギーを吸い尽くすことで、パワーアップとコロニー殲滅を両立させた。操縦には特殊な訓練がいる」
「その力はカイザーネクサスですら圧倒できた。まさかコスモクラフトに負けるとは思わなかったけど」
「あのコスモクラフトはお前のだな?」
「正解だ。正確にはコスモクラフトのハリボテを被せた完全な別物だよ」
ロッドはなぜか確信しているようだった。カイニスは驚いている。頭脳担当はロッドのようだな。
「オレに攻撃しておいて話を聞きに来ただと?」
「基地に逃げ帰って欲しかったからな。通信しても連れてきてくれなかっただろう? これが最適解だ」
「そうやって基地を突き止めて始末しようとしたわけか。やはり敵か」
「違う。純粋に面白そうだから事情を聞きに来たんだ。なぜ伝わらん」
こいつらもそうだが、興味があったので動いているということが伝わらない。そんな変か。
「復讐を止めに来たわけですらないと?」
「別に止めんよ。私は正義のヒーローでも人類の味方でもない。国家でも貴族でも企業でもテロ組織でも軍人でも財閥でも研究機関でもない。完全な個人だ。本当に龍が楽しそうだから来ただけだ」
「個人でここまで動けるはずがない。あの機体、この場所まで来たことも含め、強力な後ろ盾がなければできん」
「そちらも2人で行動してコロニーを潰しているじゃないか」
「……本当に、何もしないのか……追っ手でもなく……」
カイニスは渋い顔で銃をしまった。少し考える時間でも与えてみようか。するとロッドが喋りだす。
「ならば復讐の邪魔だけはしないでいただきたい。我々にはもうそれしかない。ただ復讐のためだけに生きている」
「よかろう。むしろ手伝ってやる」
ノイジーにメッセージを送ろう。龍の設計図から改良点でも出させるかな。だが既に改良計画書は半分完成していますとの返信。素晴らしいAIだ素晴らしい。
「なぜ手伝う。オレたちとは無関係だろ」
「物語でよくあるだろ、復讐はよくないとか。あとは主人公以外が復讐しようとすると達成できずに死ぬ。それを覆してみたい。完璧に復讐させてやろうではないか。格ゲーとかの敵側のエンディングとか、個別シナリオで野望を達成するルートがあるだろ? あれが好きなんだよ。現実でもやってみたい」
なんか俺の口調がおかしい。この喋り方めんどくさくなってきた。適当に崩して喋っちまえ。
「どこまでもふざけた男だ」
「とりあえず首謀者について教えて欲しい。居場所を特定する」
「ドクターミザリア。連合軍の技術将校だ。研究者として表舞台には立たない。数年前から消息不明。手に入れた画像は顔1枚しかない。部下や副官を追っていたが、そちらも消息不明が多い。冷酷で計算高い女だ。引きずり出すのは容易ではないぞ」
「わかった。捜索を開始する。そちらは龍の修理をしておいてくれ。改善案を送った。使うかどうかは自由だ」
ロッドが自分の端末を確認している。その顔がみるみる驚愕に染まる。別に少しエネルギー効率と火力を上げてやるだけだ。過剰なパワーアップはしない。楽園の技術を本格的に与えたりはしないのだ。
「いつからだ? いつからこちらの情報を手に入れていた?」
「さっきだよ。少なくとも今日始めて見た。うちのAIは優秀でね」
「AI!? AIだと!? 私が心血を注いで作り上げたドラグーンを、今日設計図を見たばかりのAIが改良だと!?」
「それくらいできるから、俺は自由に生きている」
2人が完全に硬直した。長話もほどほどにしようか。話を切り上げて立ち上がる。
「また連絡する。勝手に動いて誰かに殺されるなよ? そちらの動向はチェックしているからな」
まだ言葉も出ない2人に背を向けて、格納庫から立ち去る。これでしばらくの目標ができたな。帰って早速、行動開始だ。




