彼氏持ちアイドルを炎上させろ
楽園で編集作業を続けてライブ前日。なんとか朝には完成した。しんどかったぜ。動画編集は余裕を持った期間でやろうね。
「あぁ~……やっぱ長時間編集作業はしんどい。これが老いか」
自室のベッドに寝転ぶ。昔はもっと徹夜に近い労働もできたもんだが、アラフォーになるとしんどくなるよね。シオンとリリーのサポートがあったからこそ達成できたと言えよう。
「お疲れ様でした。素晴らしい動画だと思いますわ」
「ふっふっふっふー、あとはライブ会場に流すだけですねぇ」
協力してくれたシオンとリリーも楽しみにしている。自分たちの作ったものがどんな影響を及ぼすか、そのわくわくを味わってもらおう。
「そうだな。俺たちの努力が報われると信じよう」
「でもこれ当日流すんじゃダメなんですか?」
「それじゃPVと間違われそうだろ? 演出じゃなくガチだと理解させないといけない。敵が利することがあってはならないのだ。あと当日に大荒れして欲しい」
「なるほどなるほどー。勉強になりますなぁ」
さらにアイドルの近況を見ていく。ちょうど最近新曲のお渡し会があったらしい。彼氏持ちとも知らず、ファンが貢いでいるのだろう。イベント告知動画を見てみる。アイドルたちがグッズもって宣伝しているな。
『会場限定グッズもいーっぱい!』
『これさえあれば、ファンのみんなといつでも一緒! お迎えしてね!』
「うーわ新作のファンクラブ限定グッズ5万とかしやがる。正気かこれ」
「3種類あるから15万ですよこれ! あくどいやっちゃなー」
「サイン入りはもっと高いみたいです。アクスタも2万。全20種。あまり褒められる経営ではありませんわね」
「買っちまう方もアホだけどな。よしよし、じゃあイベント終わりに目覚めてもらうとしよう。ノイジー、動画投稿。SNSに彼氏とのやりとりとか全部流せ」
「了解。お楽しみください」
あとは数時間ゲームとかして待つ。さてさてSNSの評判はどうかな。
『こマ? PVじゃねえの?』
『AIだろ。事務所が動くぞこれ』
『彼氏持ちのままアイドル、男と同棲、パパ活経験者、なんだこのグループ!? 全員真っ黒じゃねえか!』
などなど、まだ怪しむ声が多いな。だが各種情報と音MADにより、じわじわ話題になっていく。アイドルの『ファンは好きだけど、あなたは愛してる』という合成なしの音声と、結婚までにできる限りファンから搾取して儲けようという事務所との相談はヒットした。実際に金を使っているファンからの動揺の声が増える。
「おぉ、ほくろの検証とか始まりましたよー。歯型とかまで比較画像がでてきました! やりますねえ!」
「ふっふっふ、そこはわざと作らなかった。ユーザーにやらせるからこそ意味が出る部分もあるのだよ」
今回は手に入れた音声のみを使い、ライブでアイドルが歌う曲に乗せた。下手にネットミームや頻繁に使われる音声素材を使うと焦点がぼやける。
『リークしたの誰だよ? なんでMADにしてんの?』
『なんだこれは……たまげたなあ。コロニー代表として恥ずかしくないの?』
「半信半疑。けれど面白そうな話題に飛びついている、というところですわね」
「それでいい。所詮娯楽だ」
みんな大量の証拠を見ているのだろう。やがて確信したやつらが煽り始める。
『グッズ買ったやつどんな気持ち? 15万彼氏に消えたけど』
『どわーw中古アイドルのライブきちーw』
『貞操ガバガバどころかスカスカ』
それでいい。煽ってファンを傷つけつつ、さらなる混沌を生め。事務所はまだだんまりだ。こんなもの短時間で把握などできない。関係者に必死で連絡でも取っているだろう。アイドルはどうなっているか見られないのが残念だ。
「公式動画にも辛辣なコメントが増えてきましたわ」
こういうのって大喜利になったりするよな。やりきれない思いを昇華しているのだろうか。単に面白がっている層も多そうだが。いずれにせよ終わりだ。
「いいかお前ら。貞操観念のゆるいアホの末路がこれだ。恥じらいを忘れるな。みだりに他人に肌を見せるべからず。搾取だけを考えてはいけない。こうならないようにな」
「当然ですわ」
「わたしは清純派ですよー」
これだけネットで広まれば、あとはもう自然と大事になっていく。だがニュースとして報道はされない。アイドル対決には軍が関わっていること、情報源が一切謎であること、その正確さから次は自分たちではないかと恐れていることなどが理由だ。
「あとは当日のおさらいだ。ノイジー」
「会場はドーム型衛星。ファンを入れて順番にライブします。審査員により勝敗が決まる形式です」
「また戦艦がばんばん撃ち合うんですかね?」
「それはない。ファンと審査員を巻き込む。審査員は重鎮だ。だから買収に切り替えたんだろう」
「どこまでも普通に勝負しませんのね」
「やっちまうと癖になるんだろうな。だから付け込めるんだが」
性根の腐り具合に感謝しつつ当日を待つ。そしてライブが始まった。まずはサンライトガーデン側からスタート。明るく爽やかに歌い上げている。ファンも多少の動揺はあれど、スキャンダルの出ていないアイドルには声援を送っている。
「わたしこれ好き。乗りやすくていいですねぇ」
リリーは気に入ったらしく、ゆらゆら揺れている。
「かなり高い技術ですわ。純粋に勝負すれば負けていないと思うのですけれど」
「させてくれないのが敵だからなあ」
そして大盛況のままインフィニットフラワーのライブ終了。問題のコロニー側のアイドルがやってくる。
『さあみんな、盛り上がっていきましょう!』
だがアイドルの声に反応しない。ファンはみんな座り込んだままである。曲が始まってもコールもない。さっきとは大違いだ。
「静かですね……なんだか不気味ですわ」
「ブーイングが起こらないだけ良心的だろ」
「SNSでどう動くかの呼びかけがあったみたいですよー」
連合のアイドルはとてもやりにくそうだ。空気が死んでいる。
『さ、最初の曲、いっきますよー!』
『がんばりまーす! 楽しみましょうねー!』
だーれも反応しない。途中から叫ぶやつ、光害振りまくやつなどが暴れ出し、それはもう惨めったらしい様相を呈している。それでも曲をやりきったのは、流石コロニー代表といったところか。だがこれをどうやって勝たせるつもりだ。このうえ審査に不信感など出れば、それこそ連合のアイドル全体が不利になりそうだが。
『続いては超新星! ステラリンク!!』
まったく知らん5人組が出てきた。そのまま曲が流れ、会場はざわめく。
「こいつらリストになかったよな?」
「前日にチェンジした模様。データ不足ですが、技術は高いようですね。情報収集しておきます」
「今までのアイドルより、なんと言いましょうか、アイドルの風格があると思いますわ。曲も最初はかわいらしく、次は乗りやすく、工夫がされていますわね」
スキャンダルで落ちていた空気を立て直した。会場が沸いている。それだけで実力の高さがわかった。最後に出てきたアイドルよりも、明らかに盛り上がっていたぞ。なんか異常なほど盛り上がっていた。
『1位通過、ステラリンク!!』
サンライトガーデンは2位通過だった。ステラリンクが舞台裏に去っていく。関係者席を見ると、どこかで見た軍服の男がいる。
「あいつ、確か連合のコロニーにいた……」
「サブロウ・ミシマ中佐ですね。端末記録によれば、連合からアイドル選手権の監督を任されています。ステラリンクはアイドルが不祥事を起こした場合に使う、隠し玉だったようです」
ノイジーがデータを出してくれる。あの会場で出会っておいて助かったな。
「なるほど、やり手だな。不祥事を起こしたアイドルを踏み台にし、自分たちのあとに出るアイドルには力の差を見せつける。そうすれば確実に通過できる」
「メンバーの顔から照合した結果、人気ソロアイドルをかき集めたようです。スケジュールを遡ると、半年前から準備していたのでしょう」
「盛り上がりの理由はそれか」
連合アイドルドリームチームみたいなもんらしい。そんな奥の手を用意しておくとは、やるじゃないか。危機管理能力ばっちりかよ。
「結局ライブは成功。サンライトガーデンは2位。連合の思い通りでつまらんな」
ライブは終わり、各陣営が撤収作業に入っている。ロボットバトルもなかったし、なんというか肩透かしだな。もっと労力に見合った展開になってくれ。
「次の予選は……あらら結構後ですねえ。やることなくなっちゃいましたよ」
「つまらん」
「刺激を求めるオーナーに朗報です。連合艦隊が帰還できなくなりました」
「なぬ?」
画面が切り替わり、コロニー崩壊のニュースがやっている。映像では、あの龍がコロニーに取り憑いて放電していた。コスモクラフトの抵抗も虚しく、崩壊して電力を失うコロニー。最後には雷で破壊されていく。
「崩壊したコロニーは2個。どちらも今から連合が帰還するはずの予定地です。大幅に進路を変えるしかなくなりましたね」
「妨害に来ないと思ったら、コロニーを襲っていたのか」
「本当に目的が不明ですわね」
「だが暇潰しにはなるか。連合艦隊を追跡だ」
水も食料も有限な中で、助かるためにどう動くのか見せてもらおう。




