コロニー対抗アイドル選手権
ババアを倒して数日後の昼。完全なる休暇である。こういうベッドでのんびりしている時間は大切にしていこう。適当にテレビをつけっぱなしにしておく。
「がおー、パンダさんだぞー」
リリーがパンダ耳のフードがついたパジャマを着ている。かわいいのでツッコミはしない。背中にのしかかってきた。
「パンダさんは遊んでくれないと凶暴な野生を開花させるのだ」
「設定が物騒だな」
「あそべー、なでなでしろー。まずパジャマへのかわいいがないぞー」
抱きつきながら揺れるリリー。たまにダル絡みするよな。
「はいはい、かわいいかわいい」
「雑だぞー。パンダは希少種なんだから、ストレスを与えてはいけないのだ。優しく扱うパン。甘えさせてあげるのも義務パン」
「語尾がありきたりすぎるだろ」
「ありきたりは王道の裏返しパンねぇ」
勝手に膝枕の体勢になって寝ている。こいつ自由だなあ。今日は予定もないし、このまま好きにさせてやるか。
「ゲームしましょゲーム。負けたほうが語尾にパンをつけるパン」
「戦わずして負けてんじゃねえか」
「もう、またリリーはハヤテ様に迷惑をかけて……」
シオンが全員分のアイスティーを持ってきてくれた。飲みながら一息つく。
「シオンもやるパン!」
「やりません」
「やーるーの。シオンもパンダさんパジャマ着るのだ」
「よし、3人で勝負といこうじゃないか」
そしてゲーム対決の結果、シオンがパンダパジャマを着ている。
「うぅ……どうしてこんなことに」
「シオンも仲間だパン!」
「こんな私を見ないでください……」
「シオンも語尾にパンをつけるパン!」
リリーの容赦のない追い打ちで赤面しているシオン。かわいい。健康にいいので摂取しておこうね。
「どうしても?」
「どうしても! やってやって!」
「すまんな、リリーに付き合ってやってくれ」
「うぅ……わかりましたパン……」
目をそらして赤くなっているので、リリーと一緒に撫でてやろう。
「よしよーし、シオンも仲間だパン」
「いい子だ。全部リリーが悪いからな」
「全部じゃないもん、半分くらいだし!」
そしてパジャマを取り出すリリー。なぜもう1個あるんだ?
「ふっふっふー、次はハヤテ様ですパン!」
「俺はいいよ。おっさんが着てどうする」
「がんばるパン、リリー」
「わかったパン!」
シオンがやる気だ。いかん、アラフォーが着るもんじゃないぞ。なんとか勝とうとするが、シオンとリリーの連携は見事だった。ゲームに自信がある俺でも負けたぞ。
「……おいこれ大惨事だぞ」
鏡を絶対に見ない方向でいこう。間違いなく似合っていない。
「仲間になるパン!」
「そうですよ、みんな一緒ですパン!」
「俺は、俺は敗北者だパン……」
というわけで3人で楽しく生活しながら、次の目的地を決めよう。
「行きたい場所を決めるパン。もうパンいいだろ。やめやめ」
「えー、じゃあ次はもっと派手で楽しいのがいいです!」
リリーが指さしたテレビには、誰だか知らんアイドルグループが映っていた。なんでもコロニー代表らしい。
「コロニー対抗アイドル選手権! 1コロニー1組まで! コロニーの覇権をかけたアイドル勝負!」
「規模がでけえ。なんだこれ」
アイドルであれば出場可能。ただし1コロニーから1組だけ選出される。参加コロニーは中立の立場のものから地球連合所属、コロニー同盟の直轄から同盟国まで多種多様。再生数や投票、ライブ対決などでナンバーワンを決めるそうだ。結構な額が動いており、優勝すれば様々な面で優遇されるらしい。酸素や水や食料から軍用の機体配備まで、賞品の多さもさることながら、スポンサーも多いらしい。
「これはどういうことだ? 戦争中にしちゃ規模がでかすぎるだろ」
「ノイジー、解説お願い」
「表向きは戦争で疲弊した民衆の心を癒やし、文化を通じて平和を促進することを目的に掲げています。しかし実際は、地球連合軍とコロニー同盟軍などが直接的な武力衝突を避けつつ優位を築くための、代理戦争的なプロパガンダイベントとして機能しています」
「だろうな」
「地球本国は統一された人類文化の象徴として大会を位置づけています。目的はコロニーへの影響力回復。長年の戦争で離反気味のコロニーを、再び地球を中心とした人類共同体へ引き戻したいのでしょう。優勝すれば地球寄りのコロニーに資源を集中させ、忠誠心を高める。兵士の確保と経済の活性化を図る狙いがあります。逆に敗北したコロニーには、地球の文化に追いつけていないと暗にプレッシャーをかけることができます」
ろくでもないな。そこまでアイドルって求心力あるのか? 全人類にどうこうできる存在じゃないと思うがなあ。
「同盟側は各コロニーの独自性と自治の象徴として大会を利用しています。地球依存からの脱却をアピールし、独自のアイドル文化を世界に発信することで、我々は地球の支配など必要ないというメッセージを送る。優勝すれば同盟の結束力の高さを内外に示し、地球連合からの離反を加速さられます。また、中立寄りのコロニーを自陣営に引き込むためのプロパガンダとしても機能しています」
「両陣営とも直接戦争は避けたいが、影響力は譲れないと」
「ハヤテ様も気になりますか?」
「アイドルねえ……女に興味はないんだが」
歌って踊るアイドルと、目の前にいる2人を比べる。明らかにこいつらのほうがクオリティが高い。まったくいい子が生まれてくれたもんだよ。
「まさか出たいのか?」
「興味はありますけど、わたしたちは秘密の存在ですからねぇ。あんまり表に出るのはどうかなって思ったり」
「顔が知られていいことなんてないわよ。ハヤテ様はどう思いますか?」
「お前らを見せびらかすつもりはない。顔を変えてやるのも、無駄な仕事が増えすぎて自由がなくなるからNG。俺たちは自由でいるべきだ」
絶対過密スケジュールだし、多くの人間とかかわることになってしまう。そんなのうざいし耐えられない。窮屈な生活は不要。外野から楽しもう。
「じゃあ推しを決めしょう。いっぱい見て誰を応援するか決めないと!」
「そうだな。適当に流せ」
そして見ていくのだが、コロニー代表と言っても多種多様だ。ちゃんとアイドルしているのもあれば、歌手のグループに近い連中もいる。
「どうせならちゃんとアイドルしてる人がいいですねぇ」
「私には厳密な定義がわかりませんが、笑顔で歌って踊る人、でしょうか」
「まあそんなもんだな。おっさんにはできない重労働だ」
「いっぱいいて決められませんねぇ。プロパガンダ臭が濃いのはきついですし」
「どうせなら勝たせると面白いやつ援護しようぜ。戦争が終結したらつまらんだろ。同盟と連合が深くかかわっている連中はパスだ」
さらに軍事色が強いやつ。金持ちの道楽で作られたやつ。アイドルと言うには年齢が上すぎるやつらなどを除外していく。するといくつかの候補に絞られた。
「ハヤテ様、この子たちどうですか? 楽しそうでアイドルって感じ!」
画面には3人組のアイドルが映っている。女子高生くらいだろうか。個性も出ているし、歌もダンスもレベルが高い。青と白を基調とした服で、歌もアイドルの王道と思える。恋愛系だ。悪くないな。
「第1候補にしましょうよ! わたしの推しにします!」
「プロフィールが出てきました。出身は中立コロニーで、アイドル文化の伝統が長く受け継がれているようです。今回の賞品で自分のコロニーを豊かにしたいと書いてありますわ」
「ノイジー、こいつらのコロニーについて調べられるか?」
「調査完了しています。伝統のあるコロニーというだけあり、少々古くなっているようです。改良や拡張、もしくは新設コロニーに移住する計画かもしれません。それくらいの規模の大会ですね」
「ほう、コロニー丸ごと作れそうとは面白い。興味が出てきたぜ」
どうやってそんな規模の金を動かしているか知らないが、こいつは愉快だ。きっとゼニゲバの金持ちや貴族がスポンサーとしてうようよいるぞ。
「金持ちの算段を潰すのは愉快だ。いいぞ、第1候補とする」
「いえーい! じゃあ早速コロニーに行ってみましょうよ!」
「現地でなければわからないことは多いと思います。私も正直なところ、気になっていますわ」
「いいだろう、ノイジー、こいつらのコロニーに近づけ。次の目的地だ」
「了解。3時間でつきます」
次の目的は決まった。アイドルを真剣に応援したことはないが、未知の領域に踏み込むのもまたよし。この世界を楽しむのだ。
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