クズ財閥を消せ
輸送船が無事にコロニーへと到着するのを見送り、ひとまずの解決はした。次は密猟を指揮している財閥を潰す。トップとその一族は確定として、かかわる重役を皆殺しにしていきたい。俺の部屋で作戦会議だ。
「本社は膨大な敷地の中にあるワイルズスタービル。80階建てで警備は厳重。外はバトルフレームが巡回しています。地球の中では戦略的価値がない場所であり、比較的安全と言われる場所です」
「どうせなら一気に殺したい。逃げられるとちまちま潰すだけで時間が無駄に浪費される。一族が集まるイベントはないか?」
「1ヶ月後に長男が財閥総帥に襲名するため、家族が集まります」
「そいつに潜り込んで本社ごと爆破する。敷地ごとぶっ飛ばせるやつがいい」
「では反物質爆弾を用意します。アタッシュケースに入るサイズで、確実に敷地をはみ出す爆破をお届けできますよ」
「んじゃそれで」
冷たいコーラで一息ついて、ゆっくり作戦を練っていく。焦る必要はない。せっかくの大イベントだ、楽しく派手にしたいじゃないか。
「ノイジー、財閥と爆弾の説明をお願いできるかしら?」
「了解、ワイルズスター財閥は、再生可能エネルギー、宇宙開発関連資材力と慈善団体に力を入れています。絶滅危惧種の保護活動や野生動物保護区の設立を積極的に行い、メディア露出も多いですが、当然のように裏で希少動物の横流しを行い、高額で富裕層に売っています。動物愛護団体を隠れ蓑に使い、保護活動の名目で現地調査を行い、密猟ルートを確保しています」
「うえー……動物がかわいそう」
「どれだけの富を得ても、人間の欲望は終わりませんわね」
「確実にルートごと消すぞ」
ノイジーにより証拠データが出てくるが、不正まみれでまともに仕事をしていない。実際に保護している動物はわずかで、ほとんどは売られた後だ。これは絶対に消さないといけないな。
「反物質爆弾について解説します。まず前提として、この技術は博士が片手間でさくっと開発したもので、楽園以外には存在しません。他の勢力が同じものを作ろうとしても、現時点の地球・コロニーの技術では不可能です。本来は膨大な資金と極めて巨大な施設が必要なので」
「どうせ必要ってだけで作れるかは別だろ?」
「正解です。博士と楽園への理解が深まっていますね。いい傾向です」
ホログラムのアタッシュケースが開き、中に収まった黒い球体がゆっくり回転する。装置は俺が見てもどれが何かわからん。外から見ればただの書類ケースにしか見えない。X線を通しても、内部は普通のデータチップと書類にしか認識されないよう、完全に偽装済みだ。
「今回用意したものは、アタッシュケースサイズで半径5kmを完全に吹き飛ばせます。パスワードで簡単起動。そしてタイマー付きの親切設計です。オーナーでも安心して使えますね」
「ねえねえ、博士はなんでこんなもん作ったの?」
「暇潰しのアイデアを流用しただけです。元々は『バルカンの弾として反物質を連射できたら面白くね?』という理由で設備ごと超小型化した技術の応用です。1DKほどのスペースがあれば作れますよ。本人は子どもの学習机くらいのスペースで作れるようにしようとしていましたが、途中で飽きました」
「相当暇だったのね」
おかげで作戦が簡単に済むので感謝しかない。俺がこうして自由に遊べるのも、博士の心と技術ありきだ。深い感謝をしておこう。
でもって当日の朝。俺は記者に変装して正面玄関をくぐった。黒いスーツにカメラマン用のバッグ、首から提げたプレスカードはもちろんノイジー製の完璧な偽物だ。顔も髪も目の色も、完全に別人に変えてある。
「ノイジー、声は拾えてるか?」
「はい。若々しく加工されたオーナーの声は良好。周囲に聞こえるのは、20代前半の男性記者のフレッシュな声です」
エントランスホールは華やかだった。シャンデリアが輝き、招待客が笑顔で談笑している。動物愛護団体のロゴがあちこちに飾られ、まるで善の祭典のようだ。カモフラージュがお得意じゃないの。ちょっと愉快だな。
「善人ぶってやがるな。裏でラプターを金に換えてたくせに」
「表と裏のギャップが激しい企業ほど、こういうイベントに力を入れますね。バレないように必死なのか、まさか罪悪感でもあるのでしょうか」
「いいジョークだ。本人にインタビューでもしてみるかね」
受付でプレスカードを見せると、若い女性スタッフが微笑んだ。
「襲名式はグランドホールで行われます。エレベーターは一般用と関係者用がございますが……」
「関係者用を使わせてもらえると助かるんですが。インタビュー枠が取れているので、早めにセッティングしたいんですよ」
少し困った顔をしながらも、スタッフはカードリーダーに俺の偽造カードを通した。
「認証完了。専用エレベーターの使用権限、付与されました」
エレベーターに乗り込むと、ガラス張りの壁から外の景色が一望できた。広大な敷地にバトルフレームが何機も巡回しているのが見える。表向きはセキュリティ強化の名目らしいが、こうして例外はあるということだな。エレベーターが静かに上昇していく。途中、何度か他の幹部や記者らしき人物とすれ違ったが、誰も俺を怪しまない。記者のフリが板についてきたのかもしれない。グランドホールまでノンストップで到着。扉が開くと、豪華なロビーが広がっていた。シャンパンタワーや花々が飾られ、すでに何人かの関係者が談笑している。
「どうせあれもクズなんだろう」
「財閥幹部ですね。東南アジアの動物を裏で乱獲する業務についています」
「あほくさ」
財閥お抱えの記者団が増えてきた。偽物だとバレないように、今のうちに仕事をするか。
「現在、最上階のセキュリティカメラはすべてループ映像に切り替え済みです。オーナーの姿は映りません」
「ナイス。じゃあ仕事するぞ」
そっとプライベートエリア行きのエレベーターにカードを通して乗り込む。さて、ここまでくれば問題はないだろう。
「そろそろ認証が二重にかかります」
「はいよ」
姿を財閥御曹司に変える。それだけで滞りなく突破。博士の技術は凄いねえ。そして最上階に到着。吹き抜けの広いプライベートルームがあった。シャンデリアと高級そうなソファーにでっかいテレビ。ありきたりだが金持ちの部屋だな。空調も効いている。ガラスばりの壁から外がよく見えた。
「爆弾は……テレビの裏でいいか。このへんに置いて、1145141919810……っと」
アタッシュケースを開け、パスワード設定して、タイマーはまだ保留にする。
「家族が来るまで暇だな……ちっ、冷蔵庫酒ばっかりだ」
前衛的な家具も見ていてつまらん。ゲーム機すらない。この部屋の何が面白くて住んでいるのだろう。
「長男と次男が接近中です」
テレビの後ろにある柱へと隠れる。どんな会話するのか聞いてみたい。
確か兄がブレックで弟がダミアンだったかな。
「ついにこの日が来た。ようやくだ。ようやくオレがトップに立つ」
ブレックの声は落ち着いているが、どこか興奮を抑えきれない響きがあった。
「今までよりやりやすくなることを期待するよ、兄さん」
「当然だ。財閥の全権を握ったら、すぐにでも次の取引を進める。連合の目をかいくぐって南の禁輸惑星にも手を伸ばす。金は腐るほどあるが、まだ足りん。クリムゾンラプターは1匹で10億は固い商売になるぞ」
ダミアンが低く笑う。悪い声した兄弟だこと。殺すのが楽しみだ。
「兄さんが総帥になれば、オレももっと自由に動けるな。裏のルートは全部俺に任せろ。盛り上げてやる」
兄弟はまだ知らない。緊急コールも自分たちの端末も、エレベーターすらこちらがオンオフできることを。最先端設備の整った最上階は、設備を使えなくしてしまえば脱出不可能な牢獄になる。そんなことを知らないあいつらの両親が到着したのは、乾杯の準備が整ったちょうどその時だった。エレベーターの扉が静かに開き、現れた2人は揃って上等なスーツとドレスを纏い、まるで王族のように優雅に部屋へ入ってくる。男は白髪交じりの髪を丁寧に整え、女は宝石を散りばめたネックレスを輝かせていた。
「父上、母上」
「ようやくこの日が来たわね。あなたが総帥に就任するなんて、感慨深いわ」
「総帥として君臨し続けるには、ワシらは歳を取りすぎた。これからは隠している動物たちでも見ながら、ゆっくり隠居させてもらうよ」
「では少し早いですが、前祝いとしましょう」
4人がシャンパングラスを手に取り、黄金色の液体がグラスの中で揺れた。
「父上、母上。今日からこの財閥は俺たちが動かします」
「オレ兄さんを支える。裏の密猟ルートを掌握し、表向きの営業を兄さんに任せてね。連合も同盟も、もう怖くない。条約で禁止されている惑星からも、どんどん新しい獲物を引っ張ってくるさ」
「頼もしいな」
「たまにはこちらに流してね」
そして4人はグラスを掲げた。シャンデリアの光が、グラスの縁でキラキラと反射する。
「ワイルズスター財閥の未来に、乾杯」
グラスが、澄んだ音を立ててぶつかり合った。
その瞬間、銃声が響く。4つのグラスが、同時に粉々に砕け散る。シャンパンが飛び散り、破片が床に降り注いだ。
俺はゆっくりと柱の影から姿を現した。記者用のスーツのまま、右手に構えたビームピストルを軽く振る。
「悪いな。乾杯の邪魔をした」
全員の視線が一斉に俺に向いた。さて、ゆっくり楽しもうじゃないか。




